チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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157 彼のスキルの変質

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ある日の朝、日課の水遣りを終えいつものように二人で朝食を摂る僕たちの前に、ヴェストさんは何通もの手紙をトレイに乗せて現れた。
その場にはちょうど同じタイミングでナッツが朝のデザートにと焼きバナナのハニーティラミスを持って入って来た。

バナナ…、これもまだこの国には産まれていない果実。美味しく栄養も有り手軽に食べれる優れもの。前世の僕が時折総合栄養食代わりに買い置きしていた黄色い果実。

広めたいとは思うのだけど…これもやはり北の地には向かない果物。仕方ない。今度はどこの侯爵領で育ててもらおうかな?

ぐぬぅ…、僕の発案だというのに南ばかりが栄えていくっ…

ええい!ロイヤリティだ、ロイヤリティ!実際コーヒーやココナツなんかの不労所得は既に結構な額となってリッターホルムを支えている。悔しくなんかないねっ!計算通りだ!



「ユーリウス様、6家より手紙が参っております。不測の事態に備えユールの呪いに対する血清を用意しておきたいと。」

「ああもうそんな季節かぁ。」
「ゴクリ、ついにこの日が来ちゃったんだ~。」


ユール…、それはこの国のクリスマスみたいなもの。11月の新月から12月の新月迄1か月かけてお祝いする冬至の祭り。
不死の魔女はそのユールの祝いを利用してユールボックビアの献納に呪いをかけた。

だけど神様は抜け道を用意してくれた。ユーリの猛毒から抽出される血清。それは12家の呪いを打ち破る唯一無二の薬となる…。
毒に毒をぶつけて解毒するように呪いに呪いをぶつけて解呪する…なんて言う不条理なシステムなんだ。

…けどその呪いのトリガーはここで封印されている。とはいえ備えあれば憂いはなしだ。


「ありがとうヴェスト、では用意をしよう。アッシュ私は白金の部屋へ」

「待ってよユーリ、もうここで良いじゃん。一度は見せたんだしもう平気でしょ?」
「だがナッツが…」

「えっ?毒の抽出?見たいっ!ユーリウス様僕も見たいですぅ~!毒素は薬作るとき散々目の前で出したんだからもう同じですって~」


毒の抽出を見られる事はユーリにとって地雷だった。見苦しい姿、そう言ってずっと人目を忍んでた。でも僕はそれが気に入らない。だって僕のユーリに見苦しい姿なんか1ミリだって存在しない!


「…そうだな。君がセクシーと言ってくれたことだしね」
「言いましたとも…」


変なとこで記憶力良いんだから…。
でもほんとにセクシーなんだよね。普段は引っ込んでる毒歯が抽出のときだけチロっと出て、それに容器の淵をひっかけてる姿ときたら真っ赤な舌がこう…


「ニヤニヤして何思い出してんのアッシュ…」


ドキー!…め、目ざといな、ナッツは相変わらず…って、ん?これは…



「ユーリ、毒の色が漆黒から微妙な黒になってる…」

「そうかい?…私にはそうは見えないが…」


嫌がるユーリを制し溜まったその毒を覗き込んだ僕の目には…今までよりも微かに僅かに色を変えた毒があった。
これは…気のせい?

いいや、見間違えるもんか。僕の頭には『イラストレーター必見!カラーチャート早見表』が全部入ってるんだ。#000000から#333333くらいの僅かな差だけど…、間違いない!


「ううん、絶対変わってる!けど漆黒からこれって…、ユーリ!そうだよ!これってもしかして王子の言ってた蜂蜜酒の浄化じゃない?ユーリの毒はきっと蜂蜜酒で少しづつ浄化されてるんだよ!でもなんで?蜂蜜酒ったって王子がなんか…、あ、貯蔵庫の天窓からは月明かりが入る…偶然新月に照らされたのか?あとは…燻すって言ってた。後で教会に確認に行ってみる!」

「確認に行くのは構わないが…そうは思えないのだけどね。そうだろう?毒素は変わらずじゃないか…」

「ユーリ、毒素毒素って言うけど、あれはもう薬の原料になってるんだよ。とっくになくてはならないもの、末子と同じ妙薬になろうとしてる…って、そう…かっ…そうなんだ ‼」


頭をよぎる考えにハッとする。なぜ今まで考えつかなかったんだ僕は…。
WEB小説の記述、あの記憶があるからこそ惑わされていた。
小説とこの世界の大きな違い。それは〝魔法”が〝スキル”に変更されてる事。あそこに書かれていたのはいつだって『毒公爵の魔法』。スキルだなんて言葉は何処にも出てこないじゃないか!

そうだよ!きっとユーリのスキルは毒素のほうだったんだ!それなら〝熟成”のスキルも納得がいく。あれはユーリの持つスキルの派生…。あれらの臭気?溢れ出る気こそがユーリの持つスキル…⁉

呪いの存在が大きすぎて見過ごしていた…。あの腐食の毒素…、いや妙薬の元こそがユーリのスキルだとしたら?
呪われたこの猛毒、毒歯は本来ユーリの中に存在しなかったとしたら…?


「ユーリ、このままその特別な蜂蜜酒を飲み続けたらいつか毒は効果を失うかもしれない。」
「毒が…?まさかそんな…」

「じゃぁ僕が今の濃度を覚えとくよ~。それでしばらくたったらまた見せて。僕の計量は濃度も分かるようになったんだよ~」


ナッツ⁉ いつの間に。
何でもノールさんの実験に付き合わされて疲労困憊になりながらスキルの酷使してる間にスキルアップしたらしい。ナッツがすごいのかノールさんがすごいのか…とにかくうってつけだ。


「でもどちらにせよそれだけで毒を子孫に継がせようとする呪いは消えないと思う…。呪いの基を断たなくちゃ。ねぇユーリ、僕は今さらユーリが僕以外とか…そんなの絶対ヤだよ。」
「そんな訳無いじゃないか。馬鹿な事を…」

「誰かさんのせいで開けなくていい扉を開けちゃったからね。ユーリには僕をこんな身体にした責任を取ってもらわなくちゃ」

「え~、こんな身体ってどんな身体~?ユーリウスさま責任重大~!」
「うるさいナッツ!」


「その責任ならいくらだって取ろう。当然だろう?」

「そうだよ。ユーリにはずっと一緒に居てもらわないと。だから何が何でもここでケリをつける。僕はユーリを独りで残さない。だって独りが淋しいって気持ちなら僕だって多少は分かる…」



その言葉に顔を伏せたのはナッツだった。
ああそうか…、サーダさんに拾われなければナッツは伯爵家の裏口で独り寂しく行き倒れてた…
ナッツにとってのサーダさんはユーリにとっての僕と同じ。

今ここに居る三人は同じ思いを共有している。独りは嫌だ、一人は淋しい…




僕のその記憶は前世のものだけど…。意地っ張りで見栄っ張りな僕は絶対そんなこと口にも態度にも出さなかったけど…。
でもようやくそれを認められるようになってきたのは…今がとても幸せだからだ。

だからこそようやく手に入れたこの世界を僕は誰にも奪わせない。





                                  
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