チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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156 彼と近づく冬至

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運命とは分からぬものだ。この私が王などと大層な事だ。私など呪縛から運よく逃れただけの自恥知らずでしか無いと言うのに…。
それもこれもみな、アッシュがリッターホルムの地を踏んだことから始まったのだ。
小さな身体に似合わぬ大きな器を持つ子供。全てはユーリの為に、その一心だけでついには前王を退陣に追い込んでしまいおった。

「あれは!あの者は人ではない!神だ!神の化身だ!あの方の怒りで地は震え空は陰り宮殿は亀裂が入り崩れ落ちた!なんという…。それだけではないのだ。知の神ミーミルの化身は誰も知り得ぬ過去を知り未来を予言してみせたのだ。わ、わしのスキルが何一つ通用せぬとは只人ではない…。よいかヴェッティよ。あの方を怒らすでない、この城を、この国を護りたくば決して怒らすでないぞ!」

あの日、半壊した宮殿表で呆気にとられた私に向かい前王はただただ身を震わせた。

説明を求める私にアッシュは言った。「大したことはしてない、草木で建物を覆っただけ」だと。
あれは分かっておらぬのだ。この広大な城を覆い地を震わすほどの草木を一瞬で生み出す事、それ自体がどれほど常軌を逸した事か。ましてや過去や未来を知る理由になっておらぬではないか。

だがあれの真価はその頭の中にこそある。内包するスキルや知恵、それらを自在に操る事こそがスキルに勝る力なのだ。

筆頭侯爵家のコーネインからアッシュのこれまでの経緯を聞き及びすべての点がつながった。
古代より王家、それに近しい高位貴族にまとわりつくこの忌まわしき呪い。それらを全て消し去ることがアッシュの望み。恐らくはそれすらもユーリウスの為に。

ならば私も力を尽くさねばならん。ユーリウス、カルロッタ、そして…若くして逝った私の大切な弟ジョナスの無念を晴らす為にも…。




「これはこれは新王陛下。私をお呼びになるとはいかがなされた」

「うむ、ブッケよ。リッターホルムで起こった事件は把握しておるな」

「それはもちろん。息子からも公爵家の従者、いや家令殿からも手紙をいただきましたゆえ。身辺に気を付けるようにと…」

「よいかブッケ、じきにユールボックビアの季節となる。さすれば彼の者に呪いの不在を気付かれよう…」

「気付かれますかな?どの家で誰が寝込んだなどとそうも噂になるものでしょうか」

「社交界を侮ってはならぬ。ましてや相手はどこにどのように目や口を持っておるのか分からぬのだ。なればブッケよ。呪物の権威である其方に申す。聖神殿と連携を取り王都に居をなす魔女の動きに注視してくれぬか」

「聖神殿と…ふむ、それもまた一興か。承知しました王よ」
「頼んだぞブッケ」








「領主様だ!領主様とアッシュ様がお見えになったぞー!」


今日はユーリの17歳の誕生日。なんと今年の誕生日は公共区域の広場を使って領民みんなに御馳走を振舞うのだ。
こんなことが出来るのも、もうとっくにユーリが怖がられていないから…長かった…ジーン…

ここに至った理由は色々ある。

ケインさんエルゼさん夫妻のロビー活動だったり地道な僕のご近所りょうと付き合いだったり、それから言いたくないが王子の応援演説だったり、でも一番の理由は…しょうもないけど…ユーリが僕にデレデレだからだ。

手を繋ぎたがったり腰に手を回して引き寄せたり、隙あらばすぐにキスしたり…人前ではよせってあれほど言ってるのに…

「人前だからするんじゃないか!」

なんて大声で領民に聞こえるように言ったりして…そのたびにみんなから気まずそうに微笑まれて…おかげで領主の威厳は風前の灯火だ。

それにしてもあれから一年か。懐かしいなぁ…。なんだか遠い昔みたいだ…。今ではすっかり奥様業も板について、こうして領民のみんなからアッシュ様アッシュ様と…


「アッシュ様!甜菜の問い合わせがドンドンくるんでさぁ、収穫量足りませんぜ。これどうすりゃいいんで?」

「体に良いとか美容に良いとかちょっと付加価値つけすぎたかなぁ?いいやそんなこと無い!少し足りないくらいがいいんだよ。」

「アッシュ様、今年は今だかってないくらい豊作なんですよ。何しろ作物がぜんぶ信じられないくらい強くてねぇ」

「あの苗は何度も掛け合わせたハイパー改良型だからね。データは?頼んだ通りデータ取っといてくれた?」


ええと…、甜菜の収穫に関してはアレクシさんにお願いして、それから病気に強い作物のデータはエスターにまとめてもらって…。あれ?お祭りのはずなのに忙しいな…。


「大人気だねアッシュ君」
「公爵夫人と言うよりまるで畑の指導員だが…」

「私のアッシュに馴れ馴れしい。誰の許可を得てアッシュの名を呼んでいるんだ!一言いわねば気が済まない!」
「やめてねユーリ。そんなことされたらせっかくここまで回復した評判が水の泡だ。」

「…その、ユーリウス様、これは内助の功というものです。夫たるもの鷹揚に構えるものですよ。アッシュ君の気持ちを踏みにじりたいのですか?」

「…内助の功では仕方ない。だがアッシュ、ほどほどに」
「一応覚えとく」





そんなこんなで楽しい時間を過ごしてたけど、領主様がいつまでも居座るとみんな羽目外しにくいからね。
わりと早めに屋敷に引き上げ、僕らはいつものサロンで内輪だけのバースディパーティーを絶賛開催中!

その内輪にちゃっかり王子が居るのは違和感しかないが…


「あれ?ユーリまた蜂蜜酒なの?すっかりお気に入りだよね、それ。」
「地道な努力は大切だからね」


努力…なんのことだろう?


「あああれか。ユーリウス、お前蜂蜜酒で浄化を試みているのか」


浄化?ちょっと気になるキーワード…


「殿下…、それはどういった意味でしょうか?」

「ノールが私にものを訊ねるとは…良い気分だな。教えて欲しいか?ならもっと可愛くお願いして見ろ。それともこのサルミアッキを口にするか?」
「なっ!」

スパンッ!

「いいから早く!くっだらないこと言って無いで!」
「お前…、王太子の頭をなんだと…なんだその蛇腹は!」

「ハリセンだよ!で?蜂蜜酒がなんだって?」


王子から語られたのは思いがけない蜂蜜酒の不思議。
夏至の頃摘まれたハーブを調合した蜂蜜酒、それを新月に照らし更に燻したものには浄化の力が備わると言う…。


「それは本当なのか?私の聞いていた話とは違うようだが」

「本当かどうかなど知らぬな。そう言われているというだけだ。ならばユーリウス、お前は何を聞いたのだ?」


うぉ!初めて見る二人の姿…。耳元でコソコソ話だと…?仲が改善したならなによりだけど…何話してんの…?


「ああ、あれか。古代ではそう言われていたようだな。お前も好き者だな…、いや待て…ユーリウス少し寄越せ」
「やめろ!何をする!」
「ケチケチするな!良いから寄越せと言っている!」
「これはリッターホルムで作った蜂蜜酒だ!あなたには関係ない!」


僕たっての希望でリッターホルムの教会裏手では領内の未亡人たちにより養蜂が行われている。これもある種の福祉活動。働き口は必要だしね。
そこで今では蜂蜜酒を自家醸造してるんだけど…、なにこれ?醜い争いが勃発してしまった。


「ちょっと!何揉めてんの!蜂蜜酒が古代なんて言われてたって!?」





精力って…精力増強って…、なにその効果⁉
待てよ?あの蜂蜜酒を欲しいって言ったのは僕で…あわわわわ…それじゃぁまるで…



とんでもない流れ弾だよ!!!




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