チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
120 / 277
連載

147 彼は備える

しおりを挟む
頼りになるヴェストさんとは残念ながらここでお別れだ。彼には一旦下山してもらい、警備を引き連れ御者の身柄を確保してもらうのだ。
あの延々と続く転落跡。これだけの距離だ。とても無事とは考えられない。けど状況が分からない以上、逃げ出す前に身柄を押さえておく必要がある。


「僕らは大丈夫。ロビンは本当に賢い。ケモノ道の分岐らしき場所ごとに残されたこのSOSがきっとロビンのところまで案内してくれる。僕は草木を避けられるから歩くのにも支障はない。大きな獣が来たら蔓で上に逃げる。それに最悪何かあればアレクシさんのスキルがあるから心配しないで!ってユーリにも言っといて!」

「わかりました。ではそのように」
「あ、ちょっと待って!『種子創造』 ヴェストさん、下に降りるときこれ使って」


長く伸ばした一本の太い蔓。これが滑落跡を辿る際の補助ロープ代わりになればと…。二次災害はごめんだからね…。





------------------------------------


ガサガサッ

ほんの一瞬だったが確かに茂みが動いた…。獣がいる…
そして足元には獣の糞。大きさからして小動物ではない。

この場所からは左右に細いケモノ道が分かれている…右は今しがた何かが動いた草丈の浅い道。左は草丈が高く歩くのが少々困難な道。出来ることなら右へ行きたいものだが…

アッシュさんの教え。その中には野生動物の生活痕から生息分布を見極めるというものもあった。
足跡、食事の痕、そしてそれから…糞による種別の見分け方も。

これは猪の糞?ならばあの茂みに隠れていたものは猪だろうか。


「猪…、それぐらいなら行ってもよさそうな気もするが…」


『いい?イノシシは本来臆病だ。こちらが刺激しない限りは襲ってくることは少ない。もし遭遇したら追い払おうとしないで興奮させないよう静かに離れるのが得策。何もしなきゃ襲ってこないのに調子に乗って立ち向かおうなんて…愚かの極み!』


愚かの極み…、アッシュさんの言うとおりだ、自分の力を過信してはいけない。大人しく左の道へ進もう。それにしても見つけたのが猪で幸いだった。これがもし熊だったらと思うと…身が震える…


『熊に出会っちゃったら一巻の終わりだ。だからそもそも出会わないように予防する。カウベルとかあるといいんだけど…』
『カウベル…なんですかそれは?』
『熊を避けるための鈴だよ。未確認生物がここに居ますよ~って熊に教えるの。え?教えちゃ危ないって?チッチッチッ、クマはすごく警戒心が強いんだ。冬眠明けでもなきゃわざわざ物音のするほうには来ない。この鈴の音で警戒させて、向こうから避けてもらうんだよ』


「カウベル…、そうだ!たしかあれに!」


リッターホルムの領都で兄さんが買ってくれた木彫りの飾り。たしかそのまま内ポケットに押し入れて…


「あった。やっぱり鈴がついてた。これでこの鈴の音が熊避けになる。なんたる幸運。まるで兄さんが守って下さっているようだ。」


私は温かな希望を胸にそのまま左の道をさらに上へと進んでいった。







------------------------------------






「あった!アッシュ君こっちだ!ここにも石がある」
「こっちには獣の糞がある…、小さな塊の繋がった糞、イノシシか。これを見つけたからそっちに進んだんだ」


さすがショーグレン家の二男。観察力は子爵譲り、そして記憶力が良いのはノールさんと同じ。


「アッシュ君、さっきから何かの実が落ちている」
「それはこの白い実だよ。白スグリって言うの。ロビンに話したんだ。赤と違って白スグリは珍しいうえに傷みが早いから山で見つけたら食べとけって。…ちなみに僕は食べたことない」

「はは、じゃぁほら。どれ私も一つ…僅かな酸味と…甘い…」
「白は甘いんだよ。赤はそのままじゃ食べられない」


甘酸っぱい白スグリ。この酸っぱさは豊富なビタミンC、疲労回復に効果的だ。そしてそこに含まれる食物繊維は空腹を抑えてくれる。この実がロビンの疲れを癒し空腹を少しでも満たしてくれたのなら感謝しないと…。


「ちょっと待って。『サルナシ』」

「何をしたんだい?おや、この実は?」

「ベビーキゥイっていう果物だよ。甘くて食べやすい。食べながら行こう。あのね、ここから上に向かって広範囲に生やしておいたからきっとロビンにも届くはずだよ。」
「そうか…、さすがだな」



そんな風にしてところどころ残されたモールス信号と通過した痕跡がロビンの無事を伝え続ける。そしてその事実にアレクシさんは少しだけ元気になる。だけどそれは僕も同じだ。

焦燥は疲労度を割り増しさせる。余計な心配はひとつでも少ないほうがいい。


「そうだアレクシさん、ユーリに手紙を送ろう!内ポケットにパッって」
「そうか!そんな使い方が…、私は思いつきもしなかったよ。そうしてやればノールも安心するだろう。それでどうやって書く?」


しまった。ここにはインクも羽ペンも、ましてやポケットをいくらまさぐったってボールペンもシャープペンも出て来ない。


「う~んと、あ、『種子創造 ハスカップ』」


この紫の果汁をインク代わりにしてハンカチに書けば…。僕ってばナイスアイデア。
けど…、数ある色付きの木の実の中から濃い紫を選んでしまったのに他意はない。無いったら無い。無いってば!




------------------------------------


カサ…

胸に感じる違和感…、これは…、アッシュのハンカチ。いつの間に…。

アレクシの転移か?

これほど長く共に居たのにアレクシのスキルを目にするのは初めての事だ。
アンダースの言いつけを守りアレクシはそのスキルを隠し続けた。そしてスキルの存在を唯一知る私はアレクシと心の距離を取り続けた。
それゆえにそのスキルを使う機会は一度として無かったのだ。だが彼は自らそのスキルを解き放った…。

これがアレクシのスキルである〝転移” それにしてもこんな使い方をするとは…

不思議な感慨に包まれながらそのハンカチを開いてみれば、そこに記されていたのはアッシュからの経過報告。
彼の気持ちを伝える一枚のハンカチ…。その文字は濃紫に彩られ…、ああこんな時でさえ彼は私を想っている…。

ならば私は…





「ノール、少しいいか」
「ユーリウス様…」


幾分顔色の良くなったノールは焦燥の中ショーグレン子爵への手紙を書きあぐねている。
考えがまとまらないのだろう。無理も無い事だが。


「ロビンが御者から逃げている事はもう聞いたな。アッシュとアレクシはそれを追いかけ、ヴェストは先ほど御者の身柄を確保に行った」

「ですが逃げ出したと言っても山中に独り…、あの子は大丈夫でしょうか?あの子はまだ成人にも達していないのです…」

「ノール、今しがたアッシュからこれが送られてきた。アレクシのスキルによるものゆえ公にはできないが君には伝えておこう。ロビンにはアッシュが偶然にも山の知恵を授けていた。危険な道を避け木の実で腹を満たしていると書いてある」
「本当ですか⁉ そ、そのハンカチを見せて頂いても?」


その文字を何度も何度も繰り返し目で追うノール。その目尻に光る涙は先ほどまでのものとは違うのだろう。


「アッシュが知恵を授けた以上、発見されるのも時間の問題。そう信じて我々はここでその為の備えをするべきだ。違うだろうか、ノール」

「い、いいえ。違いません!仰る通りです。すみませんいつまでもこんな…。でももう大丈夫です。私は何をすれば…」

「アレクシがスキルを開放したように私も己のスキルをもう恐れない。始祖の末子がそうだったようにものは使いようだ。そうとも、アッシュはいつだってそう示してくれていた…」

「ユーリウス様、では…」

「どんな事態にも対処出来るよう出来る限りの血清を用意しておきたい。アッシュの軟膏は覚えているな?ノール、手伝って欲しい」



末子はクルポックルの意思を継いで呪われた身でありながら毒から薬を精製し救済に尽力した。
ならば私も。

アッシュの行動を何一つ無駄にせぬよう、私は私の出来る事で尽力するのだ。





しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 校正も自力です(笑)

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色
BL
「ぼく、あくやくれいそくだ」弟の誕生と同時に前世を思い出した七海は、悪役令息キルナ=フェルライトに転生していた。闇と水という典型的な悪役属性な上、肝心の魔力はほぼゼロに近い。雑魚キャラで死亡フラグ立ちまくりの中、なぜか第一王子に溺愛され!?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。