チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
122 / 277
連載

149 彼の尻込み

しおりを挟む
「さっきハイペリオンで川の位置は確認した、だから最短最速ウォータースライダー!って言いたいとこだけど川の上流は岩が多く川幅も狭いし流れも急だ。下手したら全滅する。」

「アッシュ君、それはちょっと…」

「分かってる、僕も死にたくない。ましてやロビンを危険には晒せない。次善策としてアッシュ道で行く。ここまで全部開いてきたからこれもある意味一本道だ!」

「道が出来たと言っても下山にはある程度の時間がかかるだろう?ロビンはもつのか?ぐったりしてきたんだ、時間が無い…」

「…だから力技だ。アレクシさん、その布でロビンを抱え込むようにくるんで。」



今では僕のなにより頼りになる相棒、それが蔓性植物。もう僕は蔓なしで生きていける気がしない…
だが今からその相棒にはもっと壮大な仕事をしてもらわねば!


「スーハー、最後の大仕事だ。よし!がんばるかっ『種子創造!』」


延々と続くアッシュ道の両サイドに一定間隔で生やしていく白樺。白樺なのに意味はない。ただ視界に入ったからだ。
そしてその木と木を繋ぐようにひたすら伸ばしていく蔓。その蔓はつなのように太くしっかりと編み込まれている。その木と蔓の中央からぶら下がる今度はあみのように編まれたカゴ。…カゴ?袋?


「す、すごいな…、このカゴ…まさか…」
「そのまさかだよ」


出来上がったのは…尋常じゃない長さの………ジップラインだ!


「ぐぬぬ…フリーフォールの次はこれか…、あ”ー…、腹は据わった!行くよアレクシさん!ロビンをお願い!」
「ああ、任せてくれ!」

「ふー…、せーのっ!」






その後の事はちょっと記憶が曖昧だな…。僕は絶叫系マシンが苦手なんだ。富〇急なんてとんでもない。
バンジーもラフティングも、パラグライダーですら一生しないと決めていた。その僕がジップラインをするなんてね。
アッシュ道をとんでもない速度で駆け抜けていくジップラインで僕の精神は崩壊寸前。

その僕とロビンを抱きかかえたアレクシさんの二人は、多分最後の連絡から2時間もしないうちに麓へと到着した。らしい…。
通信の後すぐ麓に待機してくれていたユーリ。
いきなり出現した白樺に驚いたのもつかの間、余りに速い僕たちの下山とその方法に全員口を閉じるのも忘れて驚愕した。らしい…。

そしてそこから後のことだけどね、

蛇や蜂、それから中毒性のある山野草を警戒したユーリはノールさんと協力していろんな血清を精製していた。らしい…。
アレクシさんがバイパーの毒だと特定していたことで、屋敷に運び入れられたロビンには蛇毒に効く血清が迷わず投与されなんとか事なきを得た。らしい…。
それを見て安堵から倒れ込んだのはノールさんで、結果兄弟は仲良く横並びで寝込むことになったらしいとも。

全てがなのは到着から先、曖昧どころか僕は全ての記憶が無いからだ。

最大級スキルを連発した事に加えジップラインの恐怖で僕の気力は限界に達していた。地面を踏んだ瞬間、そのまま顔面からイッタらしい…ふかふかの草のおかげでケガは免れたけど…顔が痛い…。

後で聞いた話だと、アレクシさんはナッツの時に見た蛇の噛み傷、その症状を覚えていたんだとか。だから一目で断言したのか…。ジップラインで血の気が引いて真っ白な顔をしたまま彼はギリなんとか保った正気でそう叫んだらしい。ノールさん良かったね…。

…いいや、全然良くないねっ。一日に2つの絶叫系アトラクション…。僕がこんな目にあったあれもこれも全部、アレクシさんがスキルアップをサボったから…

考えてたら腹がたってきた。特訓だ、特訓!なにが普通だ!アレクシさんだけそのままでいていい訳無いじゃないかーっ!


こうしてリッターホルムの長い長い一日は僕の心の叫びとガス欠を最後にようやく終わりの時を迎えた…。







そして今僕はベッドの上、もうお昼だと言うのにユーリは起きるのを許してはくれない。

戻ってから一昼夜、お風呂にすら入れずドロドロの身体でまさに泥のように眠り続けた僕。と思ったのに…


「目が覚めた?顔は大丈夫かい?アッシュ、きみ前のめりに倒れ込んだんだよ」

「顔?顔…おでこが痛い…鼻…は大丈夫…だと?おかしいな…あれ?身体がきれいだ…」
「何をどうしても起きないから私が浴室まで連れて行ったんだ。それもやはり覚えてないか。全身洗ってあげたんだよ」

「…悪さしてないよね…」
「悪さって?とても丁寧に洗ってあげたのに…心外だ」

「丁寧…」
「綺麗な身体の方が心地よく眠れるだろう?ほら、とても良い匂いだ」

「それもそうだよね。疑ってごめん。それよりもう起きていい?色々聞きたいことがあるんだけど」
「駄目だ。あれ程心配かけたんだ。医者に見せるまではまでこうしているんだ。いいね」


別に僕は怪我人でも病人でもないのに。でも今もなお心配そうにのぞき込む顔。仕方ないか…
だからってこれ以上非生産的な時間を過ごすのは性に合わない。


「でも報告くらいは聞かせてよ。御者はどうなった?」
「…それは今じゃ無いと駄目かい?」

「今だよ。じゃなきゃこうしてても気が休まらない」

「そうか…。…残念ながら重要な証人を一人失った。」

「…予想はしてた。気の毒にね。彼の家族は?」
「つい先ほど侯爵家から早馬が来たよ。奥方は何も知らず侯爵家で平常通りだ。入れ違いで夫の訃報が届く頃だろう。そして娘は3か月ほど前からある子爵家へ侍女として奉公に上がっている。アッシュ、あの御者は5年前、…ビルギッタ嬢からの紹介状をもってコーネイン侯爵家へと来ていたんだ」

「ビルギッタお嬢様…アデリーナのお友達…5年前だって?そんな頃から仕込んでたのか?用意周到だな…」

「私のせいだ…。私がこうしてここに居るから…。毒など無くとも私の存在はそのものが厄災となるのか…ならば私さえ居なければ誰も危険には晒されないのか?ああっ!なのに私の身は滅びない!」

「バカ言わないでよっ!誰のせいって魔女のせいだよ!他に誰のせいだって言うの!」
「だが私が居なければ起きなかった事だ!」

「ユーリだけじゃない!アデリーナは12家の貴族を特に憎んでる!御者の仕込みはそのための保険だ!たまたま今回その駒をユーリに使ったってだけだ!」


ああ…、こうなることを恐れていたんだ。ユーリの片足はいつだって深淵に爪先を濡らしている…。だからこそ本当はユーリに何一つ知らせたくなんかなかった。だけどすべてを知りたいと言ったのはユーリ自身だ。
自分自身の発した言葉。男なら自分の言葉には責任を持たなければならない。それも僕を形作る祖母からの大切な教えの一つ!



「こっち見て!ユーリは自分で戦うって決めたんでしょう?なら負けないで!僕は負けるケンカをする気はさらさらないんだ!」




しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。