チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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150 彼の新たなる決意

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何も言わずに俯くユーリ。今さら尻込み?そんなのってないよっ!

「勝てないケンカなら初めからしない。売られたケンカを買うからには必ず勝つ!そのための準備も思考も僕は惜しまない!そりゃ時には思わぬイレギュラーもあるよ。だからこそ何度もトライアンドエラーを繰り返して、考えて考えて最善を尽くすんでしょ!ユーリ!こんな事で挫けたりしないで!」

「己の存在が災いとなる!…私はそれが何より辛い。だってそうだろう?母は…、母は私を産んだために壊れていった!」

「違うユーリ!あれはアデリーナが…」

「私を深淵に堕とすため…そうだったね?、そうだ、ロビンを攫ったのも同じ…。それならばやはり私が壊したも同然だ!」

「ユーリ…」


ああ…、ユーリの心は今もまだ囚われている…。もうとっくに吹っ切った、そう思ってたのに…。
そんなに簡単じゃない…、簡単に忘れたり出来ない…、そうだよ、絶望に毒素を吐くほどユーリは彼女の愛を欲しがっていた…!

それでも…それでもだよっ!


「どうにもならないことにいくら凹んだって明日は来る…。ならユーリがするべきなのはそれをどう生かすか考えることであって自戒することじゃない。見るべき方向を間違えないで!」

「…違うんだ、私は…」

「それが出来ないなら今まで通りノータッチでいればいい!目を瞑って関わらないで!僕が全部片付ける!」

「アッシュ…」


ユーリの気持ちなら痛いほどわかる…。WEB小説にあった毒公爵の感情描写、それは何時だって苦痛と苦悩に満ちていた。
だけど小説なんか無くたってずぅっと隣で見てきた僕には分る。分かるんだ…だけど!

それを乗り越えた向こうにしかユーリにとっての平穏はない…、ないんだよユーリ!分かって!


「足並みの揃わない中で戦えるほど簡単な相手じゃないんだアデリーナは!2000年生きた魔女、それがアデリーナの正体だ!だから僕はユーリの為ならどんな不条理にだって耐えて見せる!御者が亡くなった事だってホントは平気じゃない…。だけどそれを気にしてたら戦えない!それだけの覚悟が僕にはある!」


目は口ほどにものを言う…、僕の目は今ユーリに問いかけている。「ユーリにその覚悟は無いの?」って。
長い沈黙…。でもそれはきっと彼の心に届くと信じてる…。





「…私の覚悟が足りなかった…」

「それって…」

「先ほどの言葉は聞かなかったことにして欲しい。情けないだろう?だが立ち向かうのは始めてなんだ。無力な私は長い間閉じこもる事しか出来なかったから…。ああ…私は馬鹿だな。あの窓は君が割ってくれたのに…」

「ユーリ…」

「すまない、もう二度と心の隙はつけさせない!一度決心したんだ、違えたりしない。君だけを苦境に立たせて一人平穏を享受するなど…、それでは始祖の末子と同じじゃないか!」


末子とクルポックル…!

志を重ねて救済に励んだ二人。長の寵愛を受け南に残った末子と長の信頼を受け北に出向いた賢者。運命はそこで二人を別った…。

そういえば前もそんなこと…。ユーリはその二人に僕たちを重ねているのか…


「…こうして折るのだな人の心を…。アッシュ、今本当に分かったよ。自分の戦う相手がどういうものか」


ユーリ…、頑張れユーリ…、僕が付いてる、いつだって僕が側についてるから!


「おじけづかないでユーリ。こんなことは多分これからもある…。でもね、その為に僕が側に居るんだ。そうだ!不安な時はコソっと言って。特別に…慰めてあげる。その代わり士気が下がるからみんなにはナイショだよ。」
「アッシュ…君は…」


そう言って笑ったユーリはもう俯いたりはしなかった。










しかし危ないところだった…。敵の狙いがユーリの闇落ちである以上きっと何度だってユーリは凹む。これでしばらくはもつだろうか。毎回これじゃぁむしろ僕の神経こそがもたない…

だからこそ口をついて出てしまった…、これも言ってみれば事前策の一つ。取れる手は手あたり次第打っておくべき。何であれ。

僕はどんな時も油断なんかしない!深淵は何時だって手ぐすね引いて待っている…



コンコン…

「アッシュ君は?」

ノールさんの登場にユーリはあわてて部屋を出て行った。多分あれだな、気恥ずかしいんだ…僕の前でヘタレたから。ぷぷ、かわいいなぁ…。


「ようやく起きたんだね。アッシュ君…ロビンを見つけてくれて本当にありがとう。」

「どういたしまして。それでロビンは?」
「昨日は一日寝ていたけど…今日は何も無かったかのように朝には普通に起きて食事もたくさん食べて、それで…、今はナッツと観測所の露天風呂に入ってるよ。」

「さすがユーリの抗毒素軟膏はすごい効き目だ。ところで、あの…、御者の事は…?」

「あの子は強いんだ。隠さず話した。「そうですか、悪は栄えずですね」だって。」
「へ、へぇ~」


事も無げに、恐ろしい…、若者って強い…。違うな、ロビンが強いのか…。
けど元気にしてるなら何よりだ。あんなことを心の傷にはして欲しくない。でも、ノールさんの言う「あの子のほうが嫡男に向いてる」の意味は分かった。強いよ…、いやほんとうに…。

その後ノールさんからロビンのスキル〝強運”の存在を聞き、御者の滑落、布の存在、大型獣との未遭遇、雨雲の皆無、それらの理由を理解した…。地味にスゴイ…


「ある意味最強のスキル…、それにしても…なんでナッツとお風呂?」
「ナッツがユーリウス様に頼んでくれたんだよ。大変な思いをしたんだから身体を休めてあげたいって。あの露天は薬効があるみたいだし…。そうしたらちゃっかり自分も護衛とか言ってついてっちゃって。」

「あー、…さては味を占めたな。じゃぁ僕も入ろうかな。ユーリが身体はキレイにしてくれたらしけど記憶にないし…ちゃんと癒されたい。ノールさんもどう?」

「そんな。日中から入浴だなんて…、自堕落だよ!」
「自堕落って大袈裟だなぁ。たまにはいいじゃん。兄弟のスキンシップってことで。行こうよ。ちょっとだけ。めったにない機会なんだしあんな事の後だよ?」

「そう…だね。じゃぁ…少しだけだよ?」


昼風呂くらいで自堕落って言われた日には古代ローマ人全員自堕落じゃないか。固いんだから…。


「おや?二人してどこへ?」
「エスター。何してんの?というか事件の間なにしてたのさ」

「ユーリ君に言われてボーイから聞き取りしてたのさ。おかげでふもとのほうだけだがね、山中の様子がわかってきたよ。〝リッターホルム山岳図”が編纂できそうだ。後で見せよう、見たいだろ?でどこに行くって?」

「露天風呂。エスターも行く?気持ちいいよ。大自然とお風呂」
「へぇ、少し興味があるな。肩も凝ったことだし…じゃぁご相伴にあずかろうか」


ちょっと珍しいメンバーでの露天風呂。なんか楽しくなってきたな。大勢でワイワイ温泉…、初めてだ。
ちょっと浮ついた気分で服を脱ごうとした時、僕の手を慌てて止めたのはノールさんだ。


「え…待って!アッシュ君脱いじゃ駄目!」
「な、なに?何すんの、脱がなきゃお風呂入れないじゃん」

「あ~あ~、アッシュ、きみ今日は入浴諦めるんだね。じゃなきゃユーリ君と二人で入るかだ」
「なんで?なになに?…あっ!」


そして見せられた鏡の中には身体中につけられたキ、キ、キスマークの嵐…。ユーリ!いつの間に…。
多分あれだ。身体を洗ってくれてた時に…。っていうか、見られた!二人に見られ…あああああ…

僕は羞恥にまみれながら速足でその露天風呂を後にした。



せっかくのみんなとのお風呂を台無しにした己の油断を心底反省しながら…





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