チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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182 王都での喧騒

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ゾクゾク…

その騎士と目が合うたびに寒気がするのは何故だろうか。とても嫌な感覚だ。こいつがアッシュの言っていた刺客なのか?



アッシュからの依頼を受け私はあれから慎重に周りを警戒している。
ヴェッティを狙うというペルクリット伯の妖艶な後妻。あの女から漂う気配はいつも私を震え上がらせた。
ならば同じ系統の気配を警戒すれば良かろう。そう思いながら今日も私はヴェッティの後ろを付いて行く。アッシュに任されたからには手は抜けぬ。

なにしろあやつにもようやく私の真価が分かったらしい。この私を心から信頼し頼りにしている、そうまで言うのだからな。くくっ、可愛い所もあるではないか。

ヴェッティについて歩く私にイルマリとアンテロは涙を流さんばかりに喜んでいる。「また一段と殿下が成長なされた」そのように申しておったな…。
奴らは私を侮っておる…。バカめ、私はやれば出来る男なのだ。そうだ。あのアッシュが「ケネスはやればできる子だから」そう言ったのだぞ。

それにしてもヘンリックはまたシグリットのところか…。
あいつは誰の側近なのだ!

一度言い聞かせてやらねばならぬな。姫にはもう心に決めた男がおると。



しかしこの男…、なんて憎々し気な目で私を見るのだ…。それで隠しているつもりか!見え見えではないか!
身上にもおかしなところは見当たらなかったというに。勤務態度もすこぶる真面目だと言う評判なのだが、いやしかし…



「おいっ!こんなところに食材をおいたのは誰だ!とっとと片付けろ!」ドカッ

ゾワッ…

うわっ!なんだ?ああ、この声はスーシェフか。粗暴な奴め…。

長引いた元老院会議をようやく終え、お次は貴族たちの陳情を聞くため普段使わぬ裏道を通り謁見の間へと急ぐヴェッティと私。全くこの宮殿は広すぎるのだ。


「チッ!どいつもこいつも…。ここに居るのは道理のわからぬ馬鹿ばかりか!」


このスーシェフはそれなりに腕が良いと思っていたのだが…う~む、昨年あのサーダというシェフとナッツをこの王宮に招き入れてからどうにも態度がぞんざいである。ここのところ腕前も落ちておる…。


「この私をあんな平民と競わせるなど…見ていろ、今に思い知らせてやる!」


あれで気分を害したのか⁉

…全く下らんな。
多くのシェフを並べて腕を競わせるなど父王もやっていたことではないか。勝てばよし。そうでないならより研鑽を摘み腕を磨けばいいと言うのに。


『不貞腐れて自暴自棄とか言語道断!』

ん?どこからかアッシュの声が聞こえた気がするが気のせいか…、ともかく、不貞腐れて手を抜くなど言語道断ではないか!

変え時か…


「スーシェフ、貴様はこの私に二心があるようだな。」

「で、殿下!いつからそこに。その、今のは…」

「気に入らぬなら去るが良い。慢心した今のお前にこの美食な私を満足はさせられぬ。代わりになる者はいくらでも居よう。違うか?」

「誤解でございます殿下…。ただ私は神聖な王宮の厨房に平民のシェフを立ち入らせた事がどうしても許せないのでご座います。」

「許せぬと?お前も出自は平民であろう」

「ですが私は先王により、その腕前に敬意を払うと〝准男爵位”を賜っております。」

「ふん、それがどうした。張りぼての位に何の価値があるというのだ」
「なっ!なんと!先王を馬鹿になさるか!いくら殿下でも許せませぬぞ!」

「許せなければどうする。私に手向かうつもりか」

「まあ待てケネスよ。スーシェフも落ち着くのだ。そうまで言うなら今宵の夕餉で決めれば良かろう。スーシェフよ。暇を出されたくなければ己の職務には真摯に取り組むが良い。そうでないなら王子の言うとおりだ。黙ってここを立ち去るが良い」



ヴェッティが仲裁に入るがシェフの太々しい態度は全く変わらぬ。
ヴェッティ、この公正な王すらここ最近のスーシェフには思うところがあったと言うのに。

そうして出された献立は見た目の華美さはあれど、実に代わり映えの無い魚料理に肉料理。そしてそれらは汁物から焼き物まで、ダイニングの長いテーブルに所狭しと並べられた。

これでも私がリッターホルムから貰いうけたスパイス類で味のバリエーションは随分増えたのだ。それらを用いても所詮ここまでなのだな。
コソコソと王都の歓楽街に出かける暇があるならサーダのように様々な工夫を何故考えぬ!馬鹿者め!


どうであろうかとヴェッティを確認すれば…何だ…?様子がおかしい…

「ヴェッティどうした…、まさか…!スーシェフ‼ 何を入れた!」

ダッ!

「シェフ!何処に行くつもりだ!『拘束!』」

「お止めください殿下!シェフに何を!」

ゾクリ…

「そこの給仕、お前もしや…」
「で、殿下?私は何も…」

ゾクゾク…

「よせ!近寄るな!ええい、拘束だ『拘束!』、誰か!医師だ!医師を呼べ!それからこの給仕も捕らえておけ!ヴェッティ!大丈夫か!」
「ぐっ…」


まさか本当にこんなことがっ…お…、おお…、事前に聞いていて良かったではないか…

マズイ!ヴェッティの顔色がっ!

おおお、落ち着け、落ち着くのだ!あ、ああ、アッシュの言葉を思い出せ!毒を盛られた時の初期対応…ま、ま、まずは口の中のものを掻き出すんだ!それからみみみみ、

「水だ!水をもて!」

「殿下!お水でございます!」

ザワリ

「シグリットの侍女か…、待て!毒見をして見せよ…」
「そ、それはっ…」

「飲めぬと申すか!『制約』を用いてもいいのだぞ!」
「ひっ!そ、それだけは!ど、どうか、どうかご容赦を!その…わたくしは…」


どいつもこいつも…、いやそうか、この侍女は父の愛人でもあったな。逆恨みか…。


「誰か、こいつも連れていけ…」



「お兄様、わたくしのお水でございます…」
「うむ…残念なことだが気を強く持てシグリット」


かえって冷静になれたな…そうだ。水を飲ませたら下を向かせて吐かせねば、下を?ううっ!重いなっ!年寄りの癖になんて体格だ!



「殿下、私めが!」


ここ、こいつはあの騎士ではないかっ!いや…、だが嫌な感じはせぬ…。大丈夫であろう。今は一刻を争う。


「いいか!背後から腕を回して上腹部を両の拳で突き上げるんだ。いや、そうじゃない!もっと手前上方だ!そうだ!」

ぐっ!ぐっ!ぐっ!

「げほっ!ごぼっ!」

「おお出たか!これは…、この茶色の粒は一体何だ!馬鹿者!片付けるでない!証拠は保存!これは鉄則であろうが!」


証拠を処分しようとしたなど…ノールにばれたら叱られるではないかっ!

その証拠物を皿に掬うと私はそれを部屋へ持ち帰ることにした。
例の騎士はヴェッティを抱き上げ王の私室へと運び入れる。そして駆け付けた医師によりすぐさま手当は施された。


「いやはや…殿下の処置が適切だったおかげで大事には至りませんでしたぞ。お手柄ですな。」

「あ…いや…、うん?そうか?…そうであろう!すごいであろう!」

「その…、殿下…」


神妙な顔の大柄な騎士…。非常事態ゆえうっかり任せてしまったが…こいつは刺客ではなかったのか…。


「実は俺の、いえ、私の妹は殿下に弄ばれ捨てられた一人なのです。殿下は覚えてなどいないでしょうが…」

「なっ!何をこんな時に!何を言いだすのだ!」

「私は妹の代わりに何時か殿下に一矢報いてやろうと…、そう考え王宮の騎士団に志願しました。」

「なんだとっ!」

「前王の退位後、ここ最近の殿下はお立場に目覚められまるで別人のようです…ですが皆が変わった変わったと言っても私は信じておりませんでした…。すぐに化けの皮など剥がれると…」

「そ、そうか…」

「しかし私が間違っていました。人は変われる。それをこの目で見たのです!素晴らしい行動でした。誰よりも早く異変に気付き、機敏に立ち上がると無駄のない動きで躊躇うことなく王の口から物を掻き出された…。吐しゃ物でさえその手で掬い…今もこうして、臭う事さえ厭わずお持ちになられた…」

「確かに臭いな…」

「ああ!妹の見る目は決して間違ってはいなかった!殿下!是非私の妹を側室に差し上げましょう!そして私は殿下に固い忠誠を誓います!」


こいつめ…、いつのまにかさらりと妹を私に差し出しよったな。恐ろしい奴だ…
だがあの悪寒の意味は分かった。そうか…妹の…



…危ないところであった…






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