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183 彼のくれた夜顔
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早朝から動き出した馬車は昼過ぎついに侯爵領の領都に到着した。
この領を抜けたら王都、とはいってもその前に大きな森を抜けなきゃならない。
これは…そのまま進んだら真っ暗な森を抜けてさらに王都の中心部に着くのは丑三つ時になっちゃうな。ってことは今休まなきゃ森に入る手前でまた野宿か。車中2泊目…それは辛い…身体はもう限界だ。さっきから断末魔の悲鳴を上げている…
ドンドン!
「ねぇ!どうせ僕は逃げられない。ここで宿とって休憩しよう。宿代も食事も僕が出す。明日の朝も昼も大して変わらないって。奥様とやらが朝までに来いって言ったの?違うよね。奥様は多分こう言ったんじゃない?最短最速で連れてこいって。でもこうも言われなかった?怪我ひとつ無く、無事に連れてこいって」
「へぇ…」
「コーディーさん。安宿で構わないから見つけたら停まって!もう限界!倒れる!死ぬ!」
「わ、分かりました。明日の昼には着けるんですね?」
「着くよ。ねぇコーディーさん。」
コクリ
こうして取った安宿はコーディーさんとあっちの御者、それから庭師の3人で一部屋、そして僕一人部屋の二部屋だ。
使いの庭師はユーリの威嚇が相当効いたらしい。目を離さないよう言われているだろうに…同じ部屋で、とはもう言わなかった。
ドサッ!
オフトゥン……疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ…… オフトゥン…zzz…
コンコン
その扉がノックされたのは辺りがもうすっかり暗くなった頃だった。
半日くらい寝てたのか…。昨日もその前も、ここんとこ安眠とは程遠かったし当然だな。
「夕食はどうしますんで?」
「僕はいい。食事でもお酒でも好きにやってよ。ケチ臭いことは言わないからパ~っと、」
嬉しそうな背中を見送った僕は、サーダさん特製クラブサンドを手に取ろうとしてふと思い出した。
「そういえばマフィンは早く食べろって言ってたな。やば、忘れてた。チーズって足速いんだっけ」
5つ入ってたチーズマフィン昨日2つ食べたから残りは3つ。
ナッツときたらここのところずぅっと僕の好きなおやつばかり作ってくれて…、おかげで少しだけお腹がぷにっとしたのはここだけの秘密だ。
そうして口いっぱいにナッツの友情を頬張ったその時、
ガリ
口の中に感じる異物…。なんだこれ?
「こっ、これ…ヨルガオ…。ナッツのヨルガオだ…」
いつも僕を困らせてばかりのやんちゃなナッツ。
だけどほらやっぱり。機転が利くのはいつでもナッツ。
そのときマフィンにまみれたヨルガオから聞きたくて仕方なかったセクシーボイスが聞こえてきた!
ー…ナッ…よくや…た…ア…シュ…だめか…。ア…、聞こえるか?アッシュ、ヨルガオを手に取…んだ、アッシュー
「ユーリ ⁉」
「アッシュ!君なのか?良かった、ようやく繋がった。あいつらはどこだ。コーディーはどうしている。今は大丈夫なのか」
「大丈夫。今は三人とも食事に行ってるから。特に向こうの二人は酒盛りしてるだろうから当分心配ない」
「そうか良かった…。いいかい、王宮に動きがあった。大公は無事だ。心配は無い。」
「それホント?」
「ああ、今しがた殿下から連絡があった。大公がスーシェフに狙われた。だがそれは私の毒ではなく茶色い木の実だ。だがスーシェフが捕まったのを見て加勢しようとした者、逃げ出そうとした者が居たらしい。全員を捕らえたうえで、それを理由に身の回りの使用人を全て信頼のおける大公邸の者に入れ替えることができた。」
「こっちと連携取れてるってバレてない?」
「大丈夫だ。駆け付けたコーネイン侯爵が実に自然な流れでそう采配したそうだ。もちろん騎士や近衛などは別だがこれで火急の心配は無くなったー
「アデリーナがユーリの毒に固執する限り、給仕に携わらない騎士や近衛は確率的には除外される。まぁ絶対って言う訳じゃないけど、不自然な動きをすれば厨房の人間よりは分かり易い。とりあえず十分だよ。でもなんでこんなタイミングで?」
「殿下が言うには態度の悪いスーシェフに暇を出そうとしたらしい。それで自棄になったんだろう。恐らくアデリーナの指示ではない。スーシェフの独断だ」
「やった棚ぼた!アデリーナこれを知ったら怒り心頭だろうな」
「アッシュ、一度戻ってはどうだ。時間の猶予も出来た。一度態勢を整えて…」
「言ったでしょ。あの毒がある限りキリが無いって。こっちもちょっと考えてることがあって…分かったら連絡する。って、…あー…こっちからは出来ないか。次の連絡で教えるから定期的に連絡して。いい?話し出す前に一回鳥とか猫とか、鳴き声で合図してね。話せないときはゴホンって言うから。」
「分かった。そうしよう。くれぐれも気を付けて」
そうか、大公の周りには大公邸の人たちが…。良かった、ホンの少し胸のつかえが取れた…。
なんにしてもこの部屋に入るなりシーツの海にダイブしちゃったからな…何も出来てないや…。
タピオ兄さんの手紙の続きもそろそろ真剣に考えなくちゃ。
昨夜は身体は痛いわ、獣の声は怖いわ…で悶々とし過ぎて途中で頭がパンクしたけど良く寝てなんだかスッキリした。
やっぱり思考には睡眠って大事。著名な脳神経科学者も著書『睡眠と記憶のサイエンス』で唱えていた。人は眠ることによって情報を整理し、脳のデフラグを行うのだと。
今ここにあるタピオ兄さんの手紙に含まれた情報の精査と整理、取捨選択と定着を行うのだ!
ユーリの声聞いて元気も出たことだし、さぁ!思考再開だ!
とにかく兄さんの意図ははっきりしている。マァの村に来いって言ってるんだ。だからこの下の部分はその方法のはず。兄さんは肉体系のスキル持ちだけど脳筋じゃない。どうにかして村に来い!なんて、ガバガバの作戦たてたりしない。
前半はかなりはっきりしている。僕を餌にアデリーナをマァの村に追い込むって意味だ。
…って言うか、なんで兄さんがアデリーナのこと知ってんの?
もしかしてアレクシさんに聞いた…?え、うっそ…。アレクシさんは養父によってきっちり仕込まれた公爵家の上級使用人。見ざる聞かざる言わざるがアレクシさんの基本形だ。じゃぁ誰から?
…まぁいいや、続き続き…。
けどその続きがよく分からない…
一環しているようでいてそうでないような…
泉…泳ぐ…泉に飛び込め…、湖…、練習、花輪を流す小川、あの形…
それに二度も母さんを悲しませちゃいけないって?
僕は一度として母さんを悲しませたりした事なんかなかったはず。危険な真似して母さんに心配かけてたのはいつだって兄さんだった。それだってあの母さんは大らかに笑い飛ばしてたのに…
一体これは…
ああ…全てが謎だらけだ…
悩んでたって夜は明ける。新しい朝が来た…。希望の朝だ…。どうしようか…結局昨夜は手紙の謎を解明することは出来なかった…
あの手紙の真意はどこだ。どこかにあるはずなんだ。この手紙の中に糸口が。
ーピピ…ピピピ…ー
「どこかで鳥が鳴いてますね。ふわぁぁぁ、いい空気だ。」
「ゴホン!」
残念、タイミング悪いな。寄りによってこのタイミングか…。
人のおごりだと思って散々飲み食いしてた庭師は昨日とうって変わって上機嫌だ。お酒がまだ抜けて無いんじゃないの?早朝すぎて。
「じゃぁ出発しますよ」
この領を抜けたら王都、とはいってもその前に大きな森を抜けなきゃならない。
これは…そのまま進んだら真っ暗な森を抜けてさらに王都の中心部に着くのは丑三つ時になっちゃうな。ってことは今休まなきゃ森に入る手前でまた野宿か。車中2泊目…それは辛い…身体はもう限界だ。さっきから断末魔の悲鳴を上げている…
ドンドン!
「ねぇ!どうせ僕は逃げられない。ここで宿とって休憩しよう。宿代も食事も僕が出す。明日の朝も昼も大して変わらないって。奥様とやらが朝までに来いって言ったの?違うよね。奥様は多分こう言ったんじゃない?最短最速で連れてこいって。でもこうも言われなかった?怪我ひとつ無く、無事に連れてこいって」
「へぇ…」
「コーディーさん。安宿で構わないから見つけたら停まって!もう限界!倒れる!死ぬ!」
「わ、分かりました。明日の昼には着けるんですね?」
「着くよ。ねぇコーディーさん。」
コクリ
こうして取った安宿はコーディーさんとあっちの御者、それから庭師の3人で一部屋、そして僕一人部屋の二部屋だ。
使いの庭師はユーリの威嚇が相当効いたらしい。目を離さないよう言われているだろうに…同じ部屋で、とはもう言わなかった。
ドサッ!
オフトゥン……疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ…… オフトゥン…zzz…
コンコン
その扉がノックされたのは辺りがもうすっかり暗くなった頃だった。
半日くらい寝てたのか…。昨日もその前も、ここんとこ安眠とは程遠かったし当然だな。
「夕食はどうしますんで?」
「僕はいい。食事でもお酒でも好きにやってよ。ケチ臭いことは言わないからパ~っと、」
嬉しそうな背中を見送った僕は、サーダさん特製クラブサンドを手に取ろうとしてふと思い出した。
「そういえばマフィンは早く食べろって言ってたな。やば、忘れてた。チーズって足速いんだっけ」
5つ入ってたチーズマフィン昨日2つ食べたから残りは3つ。
ナッツときたらここのところずぅっと僕の好きなおやつばかり作ってくれて…、おかげで少しだけお腹がぷにっとしたのはここだけの秘密だ。
そうして口いっぱいにナッツの友情を頬張ったその時、
ガリ
口の中に感じる異物…。なんだこれ?
「こっ、これ…ヨルガオ…。ナッツのヨルガオだ…」
いつも僕を困らせてばかりのやんちゃなナッツ。
だけどほらやっぱり。機転が利くのはいつでもナッツ。
そのときマフィンにまみれたヨルガオから聞きたくて仕方なかったセクシーボイスが聞こえてきた!
ー…ナッ…よくや…た…ア…シュ…だめか…。ア…、聞こえるか?アッシュ、ヨルガオを手に取…んだ、アッシュー
「ユーリ ⁉」
「アッシュ!君なのか?良かった、ようやく繋がった。あいつらはどこだ。コーディーはどうしている。今は大丈夫なのか」
「大丈夫。今は三人とも食事に行ってるから。特に向こうの二人は酒盛りしてるだろうから当分心配ない」
「そうか良かった…。いいかい、王宮に動きがあった。大公は無事だ。心配は無い。」
「それホント?」
「ああ、今しがた殿下から連絡があった。大公がスーシェフに狙われた。だがそれは私の毒ではなく茶色い木の実だ。だがスーシェフが捕まったのを見て加勢しようとした者、逃げ出そうとした者が居たらしい。全員を捕らえたうえで、それを理由に身の回りの使用人を全て信頼のおける大公邸の者に入れ替えることができた。」
「こっちと連携取れてるってバレてない?」
「大丈夫だ。駆け付けたコーネイン侯爵が実に自然な流れでそう采配したそうだ。もちろん騎士や近衛などは別だがこれで火急の心配は無くなったー
「アデリーナがユーリの毒に固執する限り、給仕に携わらない騎士や近衛は確率的には除外される。まぁ絶対って言う訳じゃないけど、不自然な動きをすれば厨房の人間よりは分かり易い。とりあえず十分だよ。でもなんでこんなタイミングで?」
「殿下が言うには態度の悪いスーシェフに暇を出そうとしたらしい。それで自棄になったんだろう。恐らくアデリーナの指示ではない。スーシェフの独断だ」
「やった棚ぼた!アデリーナこれを知ったら怒り心頭だろうな」
「アッシュ、一度戻ってはどうだ。時間の猶予も出来た。一度態勢を整えて…」
「言ったでしょ。あの毒がある限りキリが無いって。こっちもちょっと考えてることがあって…分かったら連絡する。って、…あー…こっちからは出来ないか。次の連絡で教えるから定期的に連絡して。いい?話し出す前に一回鳥とか猫とか、鳴き声で合図してね。話せないときはゴホンって言うから。」
「分かった。そうしよう。くれぐれも気を付けて」
そうか、大公の周りには大公邸の人たちが…。良かった、ホンの少し胸のつかえが取れた…。
なんにしてもこの部屋に入るなりシーツの海にダイブしちゃったからな…何も出来てないや…。
タピオ兄さんの手紙の続きもそろそろ真剣に考えなくちゃ。
昨夜は身体は痛いわ、獣の声は怖いわ…で悶々とし過ぎて途中で頭がパンクしたけど良く寝てなんだかスッキリした。
やっぱり思考には睡眠って大事。著名な脳神経科学者も著書『睡眠と記憶のサイエンス』で唱えていた。人は眠ることによって情報を整理し、脳のデフラグを行うのだと。
今ここにあるタピオ兄さんの手紙に含まれた情報の精査と整理、取捨選択と定着を行うのだ!
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もしかしてアレクシさんに聞いた…?え、うっそ…。アレクシさんは養父によってきっちり仕込まれた公爵家の上級使用人。見ざる聞かざる言わざるがアレクシさんの基本形だ。じゃぁ誰から?
…まぁいいや、続き続き…。
けどその続きがよく分からない…
一環しているようでいてそうでないような…
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それに二度も母さんを悲しませちゃいけないって?
僕は一度として母さんを悲しませたりした事なんかなかったはず。危険な真似して母さんに心配かけてたのはいつだって兄さんだった。それだってあの母さんは大らかに笑い飛ばしてたのに…
一体これは…
ああ…全てが謎だらけだ…
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あの手紙の真意はどこだ。どこかにあるはずなんだ。この手紙の中に糸口が。
ーピピ…ピピピ…ー
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「ゴホン!」
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