166 / 277
連載
184 アデリーナの怒り
しおりを挟む
「なんて馬鹿者なのあの脳足らずな王宮のシェフは!わたくしが合図を出すまで動くなと言ったでは無いの!ああ!だから嫌なのよ、低能な駒は…。直情的で…なんの想像力も持ち合わせが無い!おかげでせっかくの手足がもがれてしまったわ!シェフも…侍女も捕まり、用意した駒は即刻全て大公家の使用人に差し替えられた…!報告に来たスカラリーメイドまでもが怯えて逃げてしまった…何という事…あの馬鹿者一人のせいでっ!」
王宮を抜け出したスカラリーメイドからの報告はわたくしを心底苛立たせた。
あの頭の悪そうな王宮のシェフ。歓楽街で管を巻くあの男に子飼いの娼婦を差し向ければ、不満ばかりの馬鹿者はあっさりわたくしの手足となった。
だがわたくしの信用を与えるには時間も品も足りぬ。だからこそ事は慎重に進めるつもりでいたというのに…役立たずめが。
王家には里の指導者である母の強力な呪いがかけられている。そのうえ王と王太子のスキル〝洗脳”と〝制約”があってはマテアスの持つ〝巧詐”のスキルであっても適うまい。だからこそ王城に関しては捨て置いたのだ。今までは…。
その計画に狂いが生じたのはあの子供、〝種子再生”を持つ賢者により聖王を退けられたからに他ならない。
あれほどの逸材を失ったのはどれ程の痛手だったか…。
おかげで王城には満足のいく駒が足りないのだ!それでも事を急いだのはやはりそれも賢者の存在を確信したから。
だが急拵えでは所詮この程度か…。
「賢者め!どこまでわたくしの前に立ちはだかれば気が済むの!!」
ガシャーン!
慌てて部屋へと飛び込んでくるのはわたくしがまだ田舎子爵の養女だったころから従ってくれるクレメル夫人。
男爵家の未亡人だった彼女はわたくしの意を汲み決して裏切らない本当に従順な手足の一つ。
彼女のすばらしい教育により、この屋敷の使用人はユーリウスとその周辺に対し見事なまでの悪感情を育んでくれた。
「ど、どうかなさいましたか奥様?」
「ああ、クレメル夫人、なんでもないのよ。少し虫に驚いて水差しを割ってしまったの。片付けて下さる?」
「ええもちろんすぐに。…奥様?領地からとんぼ返りで少しお疲れでいらっしゃるのですわ。いくら旦那様と坊ちゃまがご無事だったとは言え新しい屋敷の手配など大変でございましたでしょう?旦那様はあの通り頼りになるとは言い難いお方ですし…」
「まぁ、旦那様のことをそのような…。クレメル夫人?旦那様はその考えの足りない無邪気なところが魅力なのよ。わたくしが居なければ生きていけない、それで良いのよ」
「そうですか…?それにしてももっとゆっくりなされば良かったものを…、ではせめて少しおやすみなさいませ。直ぐに鎮静の香を焚いて差上げますわ」
「そうね。もう休むとしましょう。明日からはお客様が滞在ですもの。忙しくなるわ」
「お客様などと…あれは平民で…、それに男ではありませんか!奥様は本当に気の良い…。」
やはり腐っても貴族。クレメル夫人、そしてマテアス、ビルギッタはよく出来た駒だこと。どこまでも階級意識が強く独善的で、そして偏向的だわ。それに比べて…
…これ以上いっても詮無い事ね。いいわ。どうせもう事は動き始めた。
北と南を隔てる大河。あの橋桁に住む行商の娘は昨夕あの橋を公爵家の馬車が渡って行ったとロバの背に乗りながら嬉しそうに教えてくれた。
その娘は知っている。
公爵家の馬車が橋を渡るたび、ここに来てそれを教えるだけで伯爵夫人は手彫りのかんざしを普通よりも高く買ってくれるのだと。
あの子供に王城での今夜の出来事を知るすべはない。例えヴェッティ王が早馬をリッターホルムに向けたところで、ユーリウスから賢者への伝言はもう間に合いはしない。予定通り明日の朝、あの子供はここへ来る。
賢者さえ手に入れてしまえば些末な事だわ。ヴェッティ…、あれはあれで使い道はあれど…所詮本命ではないのだ。
わたくしは賢者を盾にここで待つだけでいいのだ。拠り所を失い暗き深淵にユーリウスが手を掛けるその時を…
王宮を抜け出したスカラリーメイドからの報告はわたくしを心底苛立たせた。
あの頭の悪そうな王宮のシェフ。歓楽街で管を巻くあの男に子飼いの娼婦を差し向ければ、不満ばかりの馬鹿者はあっさりわたくしの手足となった。
だがわたくしの信用を与えるには時間も品も足りぬ。だからこそ事は慎重に進めるつもりでいたというのに…役立たずめが。
王家には里の指導者である母の強力な呪いがかけられている。そのうえ王と王太子のスキル〝洗脳”と〝制約”があってはマテアスの持つ〝巧詐”のスキルであっても適うまい。だからこそ王城に関しては捨て置いたのだ。今までは…。
その計画に狂いが生じたのはあの子供、〝種子再生”を持つ賢者により聖王を退けられたからに他ならない。
あれほどの逸材を失ったのはどれ程の痛手だったか…。
おかげで王城には満足のいく駒が足りないのだ!それでも事を急いだのはやはりそれも賢者の存在を確信したから。
だが急拵えでは所詮この程度か…。
「賢者め!どこまでわたくしの前に立ちはだかれば気が済むの!!」
ガシャーン!
慌てて部屋へと飛び込んでくるのはわたくしがまだ田舎子爵の養女だったころから従ってくれるクレメル夫人。
男爵家の未亡人だった彼女はわたくしの意を汲み決して裏切らない本当に従順な手足の一つ。
彼女のすばらしい教育により、この屋敷の使用人はユーリウスとその周辺に対し見事なまでの悪感情を育んでくれた。
「ど、どうかなさいましたか奥様?」
「ああ、クレメル夫人、なんでもないのよ。少し虫に驚いて水差しを割ってしまったの。片付けて下さる?」
「ええもちろんすぐに。…奥様?領地からとんぼ返りで少しお疲れでいらっしゃるのですわ。いくら旦那様と坊ちゃまがご無事だったとは言え新しい屋敷の手配など大変でございましたでしょう?旦那様はあの通り頼りになるとは言い難いお方ですし…」
「まぁ、旦那様のことをそのような…。クレメル夫人?旦那様はその考えの足りない無邪気なところが魅力なのよ。わたくしが居なければ生きていけない、それで良いのよ」
「そうですか…?それにしてももっとゆっくりなされば良かったものを…、ではせめて少しおやすみなさいませ。直ぐに鎮静の香を焚いて差上げますわ」
「そうね。もう休むとしましょう。明日からはお客様が滞在ですもの。忙しくなるわ」
「お客様などと…あれは平民で…、それに男ではありませんか!奥様は本当に気の良い…。」
やはり腐っても貴族。クレメル夫人、そしてマテアス、ビルギッタはよく出来た駒だこと。どこまでも階級意識が強く独善的で、そして偏向的だわ。それに比べて…
…これ以上いっても詮無い事ね。いいわ。どうせもう事は動き始めた。
北と南を隔てる大河。あの橋桁に住む行商の娘は昨夕あの橋を公爵家の馬車が渡って行ったとロバの背に乗りながら嬉しそうに教えてくれた。
その娘は知っている。
公爵家の馬車が橋を渡るたび、ここに来てそれを教えるだけで伯爵夫人は手彫りのかんざしを普通よりも高く買ってくれるのだと。
あの子供に王城での今夜の出来事を知るすべはない。例えヴェッティ王が早馬をリッターホルムに向けたところで、ユーリウスから賢者への伝言はもう間に合いはしない。予定通り明日の朝、あの子供はここへ来る。
賢者さえ手に入れてしまえば些末な事だわ。ヴェッティ…、あれはあれで使い道はあれど…所詮本命ではないのだ。
わたくしは賢者を盾にここで待つだけでいいのだ。拠り所を失い暗き深淵にユーリウスが手を掛けるその時を…
386
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました
綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜
【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】
*真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息
「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」
婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。
(……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!)
悪役令息、ダリル・コッドは知っている。
この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。
ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。
最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。
そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。
そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。
(もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!)
学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。
そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……――
元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
校正も自力です(笑)
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます
日色
BL
「ぼく、あくやくれいそくだ」弟の誕生と同時に前世を思い出した七海は、悪役令息キルナ=フェルライトに転生していた。闇と水という典型的な悪役属性な上、肝心の魔力はほぼゼロに近い。雑魚キャラで死亡フラグ立ちまくりの中、なぜか第一王子に溺愛され!?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました!
心よりお礼申し上げます。
ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。
よければお時間のある時にお楽しみくださいませ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。