チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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180 彼と交わした聖約

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あれから散々どうするべきか考えた。そして思い出せる限りの役立ちそうな描写を書き出していく。有効かそうじゃないかは後で考えれば良い。


WEB小説には時々差し込まれる補足的なストーリーがいくつかある。
アデリーナに教えた地滑りのネタもその一つだ。


〝南の地で起きた暴風雨という自然の驚異はいくつかの領地を壊滅させた。
その中でも最も悲惨なのは南東の端にあるもっとも小さな伯爵領。
その景観を風光明媚と大層気にいった何代目かの領主は山の麓に屋敷をかまえ、秋には狩猟を楽しんだ。
だが大雨による地滑りは土石流となって領主の屋敷をなぎ倒した。そしてその土砂に埋もれるように、当主と嫡男が抱き合ったままの姿で発見されたと言う…”

無慈悲にもそんな描写があったのだ。


南東の端の一番小さな伯爵領。そんなのペルクリット伯領しかない。
何故なら大公が以前言っていたからだ。前ペルクリット伯は財政難でなんども領地を切り売りし今では男爵領よりも小さな領だって。

うっすらと聞こえてきた噂では、思った通り、やっぱりペルクリット領で土砂災害があったらしい。
間接的に領民の助けになったのならいいんだけど…どうだろうか…。


そして書き出したいくつかのエピソード。

ひとつは勇者の仲間ハーフリングがが何度も使っていた王城までをショートカットするための小さな抜け道。

その抜け道とは王都中から王城までもをつなぐ…いわゆる下水道だ。
何度も言うが、水回りだけは現代風で本当に助かった…。

大人には通るのがけっこう困難な臭くて暗くて狭い道。僕は大人で人間だけど…、走れるかもしれない…不本意ながら…。

それからあれだ。勇者が持ってた勝利の剣。
ケネスは言った。旅に出る勇者には王家の宝物庫から剣を渡したと。

「呆れるほどなまくらな剣を持っていたからな。あれではネズミも切れぬ」

プータローは現代っ子のチャラ男だからネズミも切らないと思うけどね。

とにかく、プータローが持ってないならあの剣はまだあそこにあるはずだ。
そしてその場所は…、当然僕には分かっている。

そして最大の可能性として…、貴族学院の教授の部屋ですり替えた勇者の書。
あれはエスターのスキルで表紙を変えて今もこの屋敷の書庫内に眠っている。
反転スキルを伝えるための勇者の書。別名、夏休みの観察日誌。

反転、転送、転移、共通項は転!ワンチャンあるか?



「アレクシさんにはこの本を託す。なんとかしてものにして。」

「アッシュそれは…」
「アッシュくん、これは一体…」

「これはね、全ての術を無効にする反転スキルを会得するための本だよ。僕の考えが正しければ、アデリーナを倒す鍵はこのスキルだ」

「アッシュ、ならば何故君がそれを会得しない。アデリーナが敵と見なしているのは君ではないか」

「ダメなんだ。これは本来勇者にしか発現しないスキルで…、僕も全部読んでみたけどダメだった」

「だからって何故私が?」

「家令の言葉を忘れたの?アレクシさんこそが切り札だ!切り札に切り札を重ねたら…、スッゴい切り札になると思わない?」


その事はユーリやみんなの慰めになったみたいだ。
ただ一人、今この微妙な雰囲気の公爵邸にあって唯一冷静なエスターを除いて…。


「君は時々頭のネジが緩むよね。、ね…。僕はむしろ……、だがいいさ。僕は君にある種の確信を抱いているんだ。君を信じるよ。たとえ何があろうともね」

「確信…?なんの確信だって?でもまぁいいや。信じてくれるならそれでいい。それにもう一つ手札がある。」

「手札だって?」

「今回の件でアデリーナがアルパ君を大事に思ってる事だけはハッキリした。付け込むならそこだ。それからこれ。」

「それはなんだい?」

「採れたてフレッシュなユーリの毒だよ。」
「わぁ~、ホントにフレッシュ~」

「ナッツ、君ね…。こんな時に不謹慎だよ!」
「まぁまぁノールさん、それよりエスター見てよ、大分薄まってると思わない?#33333が#55555になってきた。もう黒とは言えないよね」

「確かに…これは黒ではなく灰色だ。効果も薄まっているのかい?」

「ノールさんいわく瞬殺では無くなってるって…」
「今まで瞬殺だったのか…、とんでもない代物だな」

「だからね、もし奪えなくても隙を見て毒だけは取り換える。持ち歩いてはいない、どこかで保管してるはず。ユーリの毒はあの白銀の小瓶でしか耐えられないしあの瓶の蓋はそれほど頑丈じゃない。最悪それだけは絶対成功させる。アデリーナが僕を殺すつもりなら必ずユーリの毒を使う。ならこの灰色の毒で致命傷さえ回避出来れば…」

「アッシュ!」
「ユーリ、僕には黄金のリンゴがある」


この言葉は揺れるユーリの背中を押した。ようやくユーリは僕の王都行を不承不承うなずいたのだ。


ユーリ…、あのリンゴはね、苦痛を取り除くだけなんだよ……







約束よりも2週ほど遅れてアデリーナの使いは僕を迎えにやってきた。明日の昼まで、それが僕に残されたリミットだ。


コンコン

「アッシュ様、ユーリウス様と共に教会へ参りますのでご用意ください。」

「え?教会?ヴェストさんそれって…」
「お早く」

「ああ、ハイハイ」


馬車にはすでにきょとんとしたユーリが乗り込んでいた。え?何その顔?かっ!可愛い!
夫夫となった今でもこうして日々新しい発見がある。これをリアルタイムで拝めないのは本当に辛い…


「アッシュ、私はまだ全てに納得したわけじゃない。だが大叔父は…」
「分かってる。ユーリの大切な肉親だもんね」

「私は君の言葉に甘えたんだ。賢者であろうがなかろうが君には強い力を感じる、それに…」
「それに?」

「絶対無事に帰って来るといった、約束すると。君は私との約束は絶対に破らない」


そうか…、ユーリが僕の予想に反して思ったよりも冷静だったのは僕への信頼あってこそか…

なら絶対元気に帰って来なくっちゃね!





そんな神妙な僕たちを乗せて、馬車は共同区横の教会へと到着した。


「教会に来たけど…、ユーリも聞いてないの?」
「さあ、なんだろうね。だがヴェストがすることは常に私の最善だ。そうだろう?」


ユーリの言う通りだ。ユーリに関する事で言ったら、ヴェストさん程信じられる人物はいない。


「お二人には今からここで聖約の誓いをしていただきます」

「聖約の誓い?」
「ヴェスト、私たちは誓いなら既に…」

「聖なるスキルは教区外の者に対して十全では無いのです。スヴェン兄さんは神の思し召しによりこのリッターホルムの司祭となりました。そしてこの1か月禊をして聖のスキルを最大まで高めておいでです。もう一度重ねておかれるのが最善です」

「それは分かったけど何で…?」

「聖約とは互いを決して離れ離れにはしない、死んでも離れることを許さない究極の誓いです。」

「つまりどっちかが死んだらもう一人も死ぬ…一蓮托生の誓いってことでしょ」

「そうです。ですがユーリウス様には呪いを子孫に受け継がせるための呪いがあります。」
「そうか!子を生していない私は肉体の終わりまで簡単に死ぬことは無い。つまり聖約を交わしているアッシュも簡単には死なないと言うことだな!」

「その通りです」

「アッシュ…」
「ユーリ…」




そして交わされる厳かな誓い。今度ばかりはさすがの僕も居眠りなんかしなかった。
あの時は(寝てて)分からなかった…。このスキルはどこまでも清浄でどこまでも荘厳で…そしてどこまでも優しい…。
大神殿は南の賢者、クルポックルを始祖とする神殿。
それならこの教えスキルはクルポックルの想いから出来ているんだな…。



「ヴェストさんありがとう。このひと月で一番勇気付けられた!ああ…ホッとした。ユーリ大好きっ!」

「…だが何を保証するものでも無いのだ。私はアデリーナと違い人より長命なだけで不死ではない。この呪いと聖約がどれほど君を護れるか…、無理はしないで欲しい。」


優しく僕を抱きしめるユーリ。ほんとは怖がってたのバレちゃったかな…。でも保証なんか無くったって良いんだ。こうして生存確率が上がるだけでも。それに…



ユーリが小説のユーリと違っている。その事実がなによりの切り札なんだよ!








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