チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

文字の大きさ
168 / 277
連載

186 彼の不本意な滞在 ②

しおりを挟む
次の連絡で湖の場所は解るはずだ。今僕が考えるべきこと…、それはこの家のどこかにあるユーリの毒と、兄さんからの手紙の謎、その両方を発見する事。

ユーリの毒に関して、僕は離れじゃないかと予想している。
アデリーナにとって使用人が誰も近寄らない離れは最も都合いいんじゃないかって。
そして僕には『元窃盗犯が教える隠して良い場所、悪い場所』がある。

いくらアデリーナが2000年生きた魔女だとしてもだ。その思考パターンまでもが奇想天外と言う訳では無いだろう。
ならば必ずこのハックは生かせるはず。どこだろうが探し出して見せる。必ずね。


それから手紙。
兄さんが脈絡なくいきなりぶっこんで来た王城の向こうにある湖。それこそが大きなポイントな気がする。何故ならこのキーワード、〝そこにジュリアは咲いているか?”

ジュリアの花。それは母さんの誕生日に僕がプレゼントした前世のバラ。
良い香りねって母さんが喜んでくれたキャメルカラーの品種改良されたバラ。その名を知っているのは僕と兄さん、それから母さんしかない。…父さんは花の名前なんか憶えないから。

だけど兄さんだってユーリがバラを嫌忌していることは知っている。
マァの村の公爵家の別荘。あそこの敷地からはカルロッタさんが亡くなった後バラというバラが全て引き抜かれた。別荘の管理人へのヴェストさんからの適切な指示によって。
そしてその事実は告知など無くても村中が共有している。狭い村。あそこはそういう土地だ。

その名前をわざわざ書き記したのは何故だ。その理由は明確だ。

ジュリア…、ジュリアス…、ユリウス…、これらは全てユーリウスを指す。そう!これは符合だ!
僕と兄さんにしかわからない符合。

きっとその湖にこそ何かの秘密がある!









「何の用だユーリウス。全く…、お前からこうも頻繁に連絡が来ると調子が狂う。それでアッシュは無事か」

「アッシュは無事です。こちらこそあなたからアッシュを気遣う言葉を聞くと複雑な感情になる」


な、何だと⁉
いや、こいつとの過去を思えば当たり前であるか。私だって殊勝なこいつなど気持ちが悪いと思っておるしな。


「それでなんだ。今日は何の用だ。昨夜の件ならすでに対処済みだ。コーネインが素早く使用人を取り換え、ああそうだ、ヘンリックの提案でヴェッティの近衛は例の6家から騎士を選抜する事になった。」

「彼らは昨年のロビンの一件で家人の調査は一人残らず済ませている。恐らく以前から機会をうかがっていたのだろう。」

「まったくあの親子はやり手であるな」

「優秀な家臣に恵まれることもある意味才能では?彼らが居たことは殿下にとって目下の幸いと言えましょう。」

「んん?そ…、まあいいそれで?」

「アッシュが王家の湖の位置を知りたがっている。」


王家の湖?なんだそれは。この王城の中に湖など…、だがアッシュが知りたがっているのなら何か重要な事なのだろうが…湖とな…?


「ああ、もしかしてあれか!王城の南側にある領境の森、そう言えばあそこには泉があったな。それの事か?」


この王城は王都の南に位置している。その裏側にあるのが古き家門、ユングリング侯爵家との領境となる鎮魂の森だ。
鎮魂…、過去のいきさつを正しく理解した今ならその名前にどのような意味が込められているのか分るというものだ。
あの森は静寂に包まれどこか厳かで、妹姫のシグリットも、そして王妃であられた母上もあの森を散策されるのをとても好んでおられた。
その為あの森は前王により人の出入りがとても厳しく制限されておるのだ。

通行できるのは王家と侯爵家以上の家門。それ以外の者はコーネイン領かケーニマルク領を経由せねば往来はできぬのである。

確かあそこには泉があった。母が、そしてシグリットが心を癒した小さな泉が…。


「泉…?湖ではないのか。」

「泉だ。だが他に水辺は無い。恐らくそこのことであろう。あそこは入り組んだ場所にあるゆえしばし待て。シグリットに目印成るものが無いか確認してこよう。2時間後にもう一度連絡を寄越せ。それまでにまとめておくとしよう」


鎮魂の森にある泉…。確かあそこは、例のあの、召喚された異世界人、旅立つ勇者に禊を勧めた場所ではなかったか…。旅の無事を願うなら身を浸して行けと…。なのにあの軽薄な勇者は「美女もいないの何が楽しくて水浴びなんか」などと言ってそのまま旅立っていったのだ。


………

実に同感だと思ったものだ。









ちゅー、ちゅー

ユーリだ!じゃ、その前に…


「ねずみか…、へぇ、扉の前以外にもネズミっているんだな。」ドカッ!

バタバタバタ…


「これで良し、これでしばらく大丈夫」
「あ、ああ。だが君が話すのは最低限でいい。私が話そう」






あの後僕は部屋から一歩も出なかった。そして昼食も夕食も、ワゴンで運ばれるそれらを僕はそれはもう丁重にお断りした。僕にはサーダさんのクラブサンドがまだまだ残っているから問題ない。
そして明日も明後日も、僕はここから出る予定はない。って、そもそも僕を出す気は無いだろうけど…。

軟禁…。ワゴンで食事って…、まぁ顔突き合わしてご飯なんか頼まれたって食べたくないけど。消化に悪そうだ。

だって…見張りのメイドがティーセットを持ってきた際、そのティーセットには悪意の象徴かのように色んなゴミが浮いていたのだ。

それで僕が泣き寝入りすると思ったら大間違いだ。むしろチャンスだと思ったね。
僕はそのティーカップに懇切丁寧にお茶を淹れ、メイドに

「お仕事ご苦労様。公爵夫人がお茶を淹れて差上げよう。全部飲み干すまで見てるから」

と言い放ってやった。

メイドは泣きながら部屋を出て行った。涙目になるならケンカ売らなきゃいいのに、未熟者め。農村のおばちゃんにもまれた僕がそれくらいでメソメソするとでも?農家の子舐めんな!

そもそも僕は引きこもりには定評のある男だ。(前世で)
人間関係を疎かにしただけでなく、僕は食に関してもかなり偏っていた。(死因になるくらい)

同じものを食べ続けるのに一切の抵抗は無い!なんなら水とプロテインバーさえあれば1~2週間くらい全然平気だ!

ナッツの持たせてくれたこのクッキー。

これは昨年のロビンの事件の後、僕が携帯食としてナッツに研究してもらった大豆の粉から作った兵糧丸ならぬ兵糧クッキーだ。もちろん味にはナッツのこだわりが垣間見える。

これさえあれば当分もちそうだし、余り長引かせず片を付けるつもりだ。時間をかけたところで良い結果は産まないだろうし、何より僕には兄さんの秘策がある。…多分。

そんな状況下で聞くユーリの声は、吊り橋効果だろうか…?より一層セクシーに聞こえる…。





「殿下が言うには君の言う王家の湖とは王城の向こう、〝鎮魂の森”にある泉のことだろうと。」


湖じゃなかったのか…。兄さんが間違えた?いや、きっとわざとだ。関連性に気付かれないために…。


「その森は王妃、そしてシグリット姫が保養に使われる泉で前王により往来の制限が発令された。王家、そして侯爵家しか立ち入りは許されていない。そしてその令は未だ有効だ」


ふむふむ。前王はこんなところにまで強権を発揮していたのか。


「その中でも泉は容易に足を踏み入れられぬよう整備された道は無いのだと言う。ただこの時期であれば木蓮の花芽を目印に進むのだと。アッシュ、君分るかい?」


分るかい…わかるかい…分かる…、もちろん分かるとも!

僕はあらゆる植物図鑑を脳内に持つ男。ましてや木蓮などと言ったメジャーな木、わからいでか!
モクレン、それは磁石の樹と呼ばれるハイカーにとって覚えておいて損はないお役立ち植物。

その花芽は常に先を北に向ける事から〝コンパスプラント”と呼ばれている…。なるほど北ね。


僕は小さく一つリップ音を立て、それに気づいたユーリのリップ音もしっかりと聞き届けその日の通話は終了した。



うん、悪くないな。こういうのも…。






しおりを挟む
感想 392

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまいネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙にはAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。 校正も自力です(笑)

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色
BL
「ぼく、あくやくれいそくだ」弟の誕生と同時に前世を思い出した七海は、悪役令息キルナ=フェルライトに転生していた。闇と水という典型的な悪役属性な上、肝心の魔力はほぼゼロに近い。雑魚キャラで死亡フラグ立ちまくりの中、なぜか第一王子に溺愛され!?

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。 本作は皆様の暖かな支援のおかげで第13回BL大賞にて学園BL賞を受賞いたしました! 心よりお礼申し上げます。 ただ今、感謝の番外編を少しずつ更新中です。 よければお時間のある時にお楽しみくださいませ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。