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202 彼と鋼の頭脳
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「まさかオーケソン家他、権威主義の貴族たちが徒党を組んで王に反旗を翻すなんて…前王の裏切りに議会が揺れるこんな時に!」
「違うねノール、こんな時だからさ」
「…伯爵夫人はオーケソン家に匿われていたよね?それならこれも夫人の差し金かも知れない…」
「僕はそう思わないね。そうだろう?魔女は全ての負の要素をユーリくんに負わせたいんだ。これは便乗した暴走だ、恐らくね」
「エスターの言う通りだ…。で、でもどちらにせよ王都は大混乱だよね?ああ…ロビン…母上…。父上もここに居るっていうのに、よりによって…」
「ノール、心配なら二人をリッターホルムに呼び寄せてはどうだ。この地は先んじて見せかけの崩壊を起こすことでむしろどこよりも安全になると言えるだろう。雪解けを待って迎えを出そう。」
「雪解けを待ってはいられません!ユーリウス様、しばらくこの地を離れても構いませんか?私は家族を迎えに行こうと思います。そして出来る事なら王宮の様子も一目確認したいと…、そう考えています。」
ユーリウス様は雪中の移動を心配しながら、それでも最後には僕の気持ちを汲んでくださった。
この地の守りはマァから戻ったイングウェイ、そしてビョルン率いる従士もいる。
頭脳ならヴェストもエスターも、今は教授と北の賢者が宿るスヴァルト様もいる。
ましてや雪深い今、僕が居なくとも大きな穴にはならないはず。
リッターホルムの非常時にこれがどれほど無責任かは重々承知だ。だけど…、今はユーリウス様の御厚意に甘えさせて頂こう…。
分かっている。これがただの藉口だと。でもそうじゃないと僕は…
「…ヘンリック…」
その無事な姿を見るまで、…きっと何も考えられない…。
あの豪雪のなかリッターホルムの森を抜けるのはどれ程大変だったか。
使役馬を用いた馬ソリとやらは決して心地良いとは言えず、ましてや屋根のないそれは随分身体を凍えさせた。
「よく父上は翼竜などで来られたものだ…。うぅ寒い…」
それでもなんとかあの大河、南北を隔てるミットン河を超えればそこは南の地。冬であれば温暖とは言えないまでも雪の積もらぬその道は一両日ほどで王都へ入れるだろう。
それにしても…、前王の治世下にあっては抑圧されていたこの国が今ではこれほど篤実に治められているというのに、権威に取りつかれた者はいつも愚かだ…。
はやる心のまま駆けつけてきた僕の目に飛び込んできたのは…、なんてことだろう…。初めて見る荒んだ王都の姿。
無理やり奪われた露天の品々…追い回される女子供…、そして理不尽に暴力を受ける男たち…。それが下町の現状だった…。
平民を見下す貴族家の家臣はやはり庶民を軽んじるのだ。そこではひどく粗野で横暴な振る舞いが当たり前のようにまかり通っていた…。
もちろん警らの騎士たちはそれを制する。が、それがまた火種となって新たな争いの始まりとなる…。
「母上!ロビン!ご無事ですか!」
「兄さん、来て下さったのですね。私たちは大丈夫です。ヘンリック様がすぐに騎士を寄越してくださいましたから。ですが王都の騒乱はひどくなるばかり。貴族街ではヴェッティ王派とオーケソン侯爵率いる前王派が火花を散らしております。これから一体どうすればいいのか…。若輩なこの身が口惜しい!」
「ロビンいいかい。母上を伴いリッターホルムへ向かうんだ。あの地はどこよりも安全な地。分かるだろう?僕たちはヴェッティ派の中心。ここに居ては何があるか…。リッターホルムなら安心だよ。何しろあそこは守られているからね、小さな守護者に。」
「アッシュさんですね!ええ勿論そうですとも!」
「さあ、身の回りの物を詰めたら馬車に乗るんだ。」
ヘンリックが寄こしてくれたコーネイン家の護衛騎士はミットン河の橋げたまで送ってくれると言ってくださった。申し訳ないが厚意に甘えることにしよう。僕には残念なことに剣の腕など微塵もないのだ…。
そして母上の準備が整うのを待つ間、なんとか王城へ入れないかと巡回の騎士に様子をうかがうも良い返事を貰うことはなかなか出来ないでいた…。
「通常であればショーグレン家のノール様には王城の門はいつでも開いております。ですが今は非常時、あそこですら安全とは言い難く…、むしろこれより争いの中心となるかもしれないのです。近づき召されるな!」
「で、ではコーネイン家のヘンリック様は…」
「王と殿下を守っておいでです!彼は殿下の側近。彼は彼の務めを果たしておられる。あなた様はあなた様の務めを果たされよ。家族を守って一刻も早くこの王都を出るのです。あなた様は現王派の第一人者。目をつけられては厄介だ。」
「そ、…そう、ですね… 」
落ち着かない心を抱えたまま馬車は一日半かけて南の端へ到着した。この大河を超えればそこは北の地リッターホルム…ああだけど僕は…
「さぁロビン、その馬ゾリに荷物を移して。母上、ここから北の森を越えるまでは快適とは言えせんがご勘弁ください。そうだ!リッターホルムは冷えます。この綿入れを…」
「ありがとうノール。ですが多少の不便は覚悟の上です。心配はいりません。人前で狼狽えるなど貴族としてあるまじき姿。ロビンも分かっていますね。毅然となさい。」
「はい、母上」
「……、母上、ロビン、やはり私はもう少しだけこの王都に残ります。どうか先にお行き下さい」
「何を言うのですノール!王都の争いは今から激化するのですよ!」
「リッターホルムの森を抜けたら関所には父上が迎えに来ているはずです。私は…どうしてもまだ帰れない!」
「兄さん!どうか危険な真似はお止めください!兄さんに何かあってはユーリウス様にもアッシュさんにも顔向けできません!」
「ロビン、お前はショーグレン家の嫡男だ。森を抜けるまで母上をしっかりお守りするのだよ。さあ行くんだ!」
「兄さん!どうかご一緒に、兄さん!」
「君はコーディーの2番目の息子さんだったね。どうか僕の家族をよろしく頼むよ」
「いいんですか…?」
「…っ…行って‼」
心配そうにいつまでも後ろを振り返る母上とロビン。我が身の危険は承知の上、その顔から眼をそむけてでも、どうしてもこのまま帰る気にはなれなかった…
僕が心配だったのは、一目無事な姿を見たかったのは…
「いいのですかノール様。」
「ええ。どうか僕をあなたの主人のもとへ、ヘンリックのところへお連れ下さい」
「違うねノール、こんな時だからさ」
「…伯爵夫人はオーケソン家に匿われていたよね?それならこれも夫人の差し金かも知れない…」
「僕はそう思わないね。そうだろう?魔女は全ての負の要素をユーリくんに負わせたいんだ。これは便乗した暴走だ、恐らくね」
「エスターの言う通りだ…。で、でもどちらにせよ王都は大混乱だよね?ああ…ロビン…母上…。父上もここに居るっていうのに、よりによって…」
「ノール、心配なら二人をリッターホルムに呼び寄せてはどうだ。この地は先んじて見せかけの崩壊を起こすことでむしろどこよりも安全になると言えるだろう。雪解けを待って迎えを出そう。」
「雪解けを待ってはいられません!ユーリウス様、しばらくこの地を離れても構いませんか?私は家族を迎えに行こうと思います。そして出来る事なら王宮の様子も一目確認したいと…、そう考えています。」
ユーリウス様は雪中の移動を心配しながら、それでも最後には僕の気持ちを汲んでくださった。
この地の守りはマァから戻ったイングウェイ、そしてビョルン率いる従士もいる。
頭脳ならヴェストもエスターも、今は教授と北の賢者が宿るスヴァルト様もいる。
ましてや雪深い今、僕が居なくとも大きな穴にはならないはず。
リッターホルムの非常時にこれがどれほど無責任かは重々承知だ。だけど…、今はユーリウス様の御厚意に甘えさせて頂こう…。
分かっている。これがただの藉口だと。でもそうじゃないと僕は…
「…ヘンリック…」
その無事な姿を見るまで、…きっと何も考えられない…。
あの豪雪のなかリッターホルムの森を抜けるのはどれ程大変だったか。
使役馬を用いた馬ソリとやらは決して心地良いとは言えず、ましてや屋根のないそれは随分身体を凍えさせた。
「よく父上は翼竜などで来られたものだ…。うぅ寒い…」
それでもなんとかあの大河、南北を隔てるミットン河を超えればそこは南の地。冬であれば温暖とは言えないまでも雪の積もらぬその道は一両日ほどで王都へ入れるだろう。
それにしても…、前王の治世下にあっては抑圧されていたこの国が今ではこれほど篤実に治められているというのに、権威に取りつかれた者はいつも愚かだ…。
はやる心のまま駆けつけてきた僕の目に飛び込んできたのは…、なんてことだろう…。初めて見る荒んだ王都の姿。
無理やり奪われた露天の品々…追い回される女子供…、そして理不尽に暴力を受ける男たち…。それが下町の現状だった…。
平民を見下す貴族家の家臣はやはり庶民を軽んじるのだ。そこではひどく粗野で横暴な振る舞いが当たり前のようにまかり通っていた…。
もちろん警らの騎士たちはそれを制する。が、それがまた火種となって新たな争いの始まりとなる…。
「母上!ロビン!ご無事ですか!」
「兄さん、来て下さったのですね。私たちは大丈夫です。ヘンリック様がすぐに騎士を寄越してくださいましたから。ですが王都の騒乱はひどくなるばかり。貴族街ではヴェッティ王派とオーケソン侯爵率いる前王派が火花を散らしております。これから一体どうすればいいのか…。若輩なこの身が口惜しい!」
「ロビンいいかい。母上を伴いリッターホルムへ向かうんだ。あの地はどこよりも安全な地。分かるだろう?僕たちはヴェッティ派の中心。ここに居ては何があるか…。リッターホルムなら安心だよ。何しろあそこは守られているからね、小さな守護者に。」
「アッシュさんですね!ええ勿論そうですとも!」
「さあ、身の回りの物を詰めたら馬車に乗るんだ。」
ヘンリックが寄こしてくれたコーネイン家の護衛騎士はミットン河の橋げたまで送ってくれると言ってくださった。申し訳ないが厚意に甘えることにしよう。僕には残念なことに剣の腕など微塵もないのだ…。
そして母上の準備が整うのを待つ間、なんとか王城へ入れないかと巡回の騎士に様子をうかがうも良い返事を貰うことはなかなか出来ないでいた…。
「通常であればショーグレン家のノール様には王城の門はいつでも開いております。ですが今は非常時、あそこですら安全とは言い難く…、むしろこれより争いの中心となるかもしれないのです。近づき召されるな!」
「で、ではコーネイン家のヘンリック様は…」
「王と殿下を守っておいでです!彼は殿下の側近。彼は彼の務めを果たしておられる。あなた様はあなた様の務めを果たされよ。家族を守って一刻も早くこの王都を出るのです。あなた様は現王派の第一人者。目をつけられては厄介だ。」
「そ、…そう、ですね… 」
落ち着かない心を抱えたまま馬車は一日半かけて南の端へ到着した。この大河を超えればそこは北の地リッターホルム…ああだけど僕は…
「さぁロビン、その馬ゾリに荷物を移して。母上、ここから北の森を越えるまでは快適とは言えせんがご勘弁ください。そうだ!リッターホルムは冷えます。この綿入れを…」
「ありがとうノール。ですが多少の不便は覚悟の上です。心配はいりません。人前で狼狽えるなど貴族としてあるまじき姿。ロビンも分かっていますね。毅然となさい。」
「はい、母上」
「……、母上、ロビン、やはり私はもう少しだけこの王都に残ります。どうか先にお行き下さい」
「何を言うのですノール!王都の争いは今から激化するのですよ!」
「リッターホルムの森を抜けたら関所には父上が迎えに来ているはずです。私は…どうしてもまだ帰れない!」
「兄さん!どうか危険な真似はお止めください!兄さんに何かあってはユーリウス様にもアッシュさんにも顔向けできません!」
「ロビン、お前はショーグレン家の嫡男だ。森を抜けるまで母上をしっかりお守りするのだよ。さあ行くんだ!」
「兄さん!どうかご一緒に、兄さん!」
「君はコーディーの2番目の息子さんだったね。どうか僕の家族をよろしく頼むよ」
「いいんですか…?」
「…っ…行って‼」
心配そうにいつまでも後ろを振り返る母上とロビン。我が身の危険は承知の上、その顔から眼をそむけてでも、どうしてもこのまま帰る気にはなれなかった…
僕が心配だったのは、一目無事な姿を見たかったのは…
「いいのですかノール様。」
「ええ。どうか僕をあなたの主人のもとへ、ヘンリックのところへお連れ下さい」
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