チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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225 彼の迎える秋晴れ

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去年の秋はとある夫人からご招待を受けたおかげで、ユーリの誕生日でさえしんみり…そんな秋だったけど、今年は秋晴れの空と同じく晴れ晴れと過ごす予定だ。

そんな時やってきたのはこの国の王太子、最近噂の蔓薔薇の貴公子、ケネス王太子殿下その人である。


「最近噂とはどういう意味なのだ」
「えー、社交界で噂らしいよ。こんなに立派になって…って。」

「言っておくが私は元々庶民からの好感度はすこぶる高いのだぞ」
「それは見た目と愛想の良さだよね。遊び歩くのがプラスに働くとは…。まぁいいや。それで今日は何、あっ」


今日は前王の…


「気など遣って貰わずとも結構だ。もう整理はついておる。これでも私は王族なのだ。身内を、そして忠臣を失うこともあろうと常に心構えは出来ておる。この様な形とは思っておらなんだがな」


そうか…、王公教育ってそういうことも含まれるんだな。まぁ反乱とか下剋上とかいろいろあるし…。ならせめてケネスの気晴らしにでも付き合うか…


「ねぇユーリ、王子と一緒に栗拾いに行ってもいい?」
「そうだな…行くといい。さすがに今日ばかりは私も同情を惜しまない。どんな悪党でも親は親だ…。この手紙の山を片付けたら私も行こう」

「じゃぁ先に行ってるね」


どんな悪党でも親は親…か…。

ケネスもユーリも親には恵まれていないんだよねぇ…。ケネスはまだ母親がまともな分マシだけど。
うん?そう言えばここには史上最大、両親に恵まれて無い人物が居るな…。





「コーディーさん、山に行く前、少し教会寄ってくれる?」

「なんだ、教会に寄るのか」

「教会にはアデリーナの一人息子が居るんだよ。誘っていい?」
「アレクシが引き取ったとかいうあれか。ふむ…、別に構わんが…何だ、どうした?」

「王子と一緒。気晴らしに。何しろ前王の暴走まで伯爵夫人が唆したって言う人が居るからね。事実だけど。とにかく今日は堪えるんじゃないかと思って」

「前王派はこれ幸いと全て夫人に擦り付けておったからな。オーケソンなどあれだけのことをしておきながら息子に爵位を譲り渡して家だけは守りよった…。もっとも領地は半分以下に減らされたがな。当分大きな顔は出来ぬだろう。」

「ビルギッタ嬢は?」

「母親と共に領地でくすぶっておるわ。ふむ…、ビルギッタは魔女の友人であったな。しかしアレクシは何を考えておる。あれをここに連れてくるとは酔狂な」

「人間そうそう変われないんだからいっそ極めたらいいよ。仏のアレクシ、うん、悪くない」

「仏…遺体の事か?」
「違う!」





くだらない話をしている間に馬車は教会裏手へと入って行く。ここはスヴェンさんが住まう司祭館。他には修道士さんが住む小さな建物と反対側には修道女さんが住む建物、そして真ん中には蜜蝋や蜂蜜酒を作る作業場兼の倉庫がある。
そんな教会でアルパ君は司祭館の2階に住んでいるのだ。


「スヴェンさん、アルパ君部屋だよね?上がるよー」


その部屋の扉を開けると、そこには先客アレクシさんがモコモコの衣類に埋もれていた。


「あれ?来てたんだ」
「ああ。彼は北の冬は初めてだからね。暖かいものを用意したんだ。君は?」

「今から王子と栗拾いに行こうと思ってアルパ君も誘いに来たんだよ。」
「アルパを?」

「王子の行楽ならお付きしか居ないから却って人目を気にしなくてちょうどいいかと思って。毎日ここじゃ退屈でしょ。アレクシさんも行こうよ。白トリュフと黒トリュフの人工栽培、進捗見せたげる」

「あの高級食材か…。ではお供しよう」








「おぉう!弾けた!弾けたぞアッシュ!」
「ケネス気を付けて!あーほらほら、火傷しちゃうって!」


思いのほかケネスが楽しそうで良かったなー、なんて思ったのもつかの間。ユーリが到着したあたりからどんどん雲行きは怪しくなり…秋晴れのはずがここだけ積乱雲が発生している…


「アッシュ、殿下には従者が居る…君が構う必要無いだろう」
「そ、そうだけど僕がやった方が早いから…」


小石を熱してその中で焼いた栗は、遠赤外線効果でそれはもう美味しそう。その殻を剥くのに不慣れな従者じゃまどろっこしくって、でもそのたび誰かさんの横やりがチクチクと…痛っ!


「はいケネス。焼きたてホクホク。石焼きだから甘いよ」
「うむ、すまぬ」
「アッシュ!また殿下をケネスなどと!」
「ご、ごめ」

「私は一向に構わんぞ」
「私が構う!アッシュこっちに来るんだ!」
「はいはい、ほらユーリにも、アーンして」

「どうだ殿下。アッシュがこうして口まで運ぶのは私だけだ」
「あのね…」

「…別に羨ましくもない…。ユーリウスお前…そんなのが嬉しいのか?」
「何だと!本物の愛を知らないあなたには言われたくない!」
「…全くお前は栗イガのようにトゲトゲしい奴だ。そのうちアッシュに愛想をつかされても知らぬからな!」
「アッシュは栗を好物だと言った!余計なお世話だ!」

「ちょっとちょっと!くだらない言い争いはやめ、」

「ほほう?ではどちらが多く栗を集められるか勝負するか?」
「望むところだ!!!」



呆れ果てて避難した先には黙々とキノコを摘むアルパ君とアレクシさんが居た。この二人…逃げたな…

こちら側はのどかな世界だ…。そうそう、秋の行楽ってこういうものだよね。
でもそうこうするうち心が解れたのか、アルパ君はぽつりぽつりと今まで誰にも言わなかった胸の内を明かし始めたのだ。

どれだけ悪党でも自分にとっては優しい両親で、でも本当はいつも怖かったって。だからこそ余計に何も知りたくなかったのだって、だけどきちんと知るべきだった、それをしなかった自分はきっと同罪で、せめてもの贖罪に修道士となるべきなのか…そんなことを。


「アルパ、お前が心から修道士になることを望むのならば止はしない。だが罪の意識でそれを選ぶというのなら私は反対だ。心に楔を打ってはいけない。それはいつかヒビとなる…」


アレクシさんが言うと説得力があるな。その時、僕の背後からアルパ君に話しかけたのは意外な人物。


「いいかアルパ。贖罪をと思うのならば世の為人の為お前はお前に出来ることをすればよい。だがそれはお前が幸せになってはならぬと言うことではないのだ。私は父が苦しめた聖王国の民に愉快な毎日を返したいと思っておる。だがそのためにも、誰が何を言おうとまず私が愉快であるつもりだ。何の楽しみも無く暮らす人間が人に楽しさを与えられるとは思わぬからな」


いつの間にか僕の後ろに立ってたのはケネスとユーリ。そのケネスからこんな真面目な言葉を聞くなんて…。
ケネスの娯楽への情熱…、それがなんだか分かった気がする。


「それにしてもお前たちは同じグレージュの髪色で、そうしていると本物の兄弟のようではないか。アレクシも私ほどでは無いがなかなかであるからな」

「そりゃ、公爵家の従者だったアレクシさんが不細工なわけないじゃん。まぁ王子と方向性は違うけどね。それでどっちが勝ったの?」

「ふっ!私だ!私に決まっておる!あ奴は虫食いのイガばかりを拾っておってな、」
「ひ、開いていないイガの方が新鮮かと思ったのだ!」

「ユ、ユーリ!あっ!あっちにポルチーニが!」
「で、殿下!向こうにジロールと呼ばれる大変珍しいキノコがございました!」




混ぜるな危険!その標語が頭をよぎったその時に、クスリ…と小さな笑い声が聞こえた気がした。
その声に振り返って見たアルパ君の表情はさっきまでよりもなんだか、少し晴れやかな、そんな気がした…







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