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226 彼と楽しむ船遊び
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アルパ君が何かお仕事を…、とモジモジするので考えていたところ、なんと!ノールさんが手を挙げた。
「アレクシは甘いからね。アッシュ君も彼にはすぐほだされるし…。僕が引き受けるよ。別に殊更厳しくしようとは思わないよ?でも僕が彼に世の中の道徳とか倫理とか、それに大人の義務と責任、そう言ったものをきちんと教える。魔女の足跡を消す為に必要なのはそういう事でそれが出来るのは僕だと思うから」
「はい、お願いします…」
「面目ない…」
そうして彼はノールさんのもとでカレッジの諸雑用をすることになった。
ノールさんの側に居れば他の事でも安心だ。鬼学長で知られるノールさんは容姿に釣られるバカ者どものいい虫除けになるだろうし、母親の事で中傷しようとする輩もそうそう近寄ってはこないだろう。
そもそも、僕のカレッジにそんな低俗な輩は必要ない!
「イジメを見つけたら問答無用で即停学って通達しておかなくちゃ…」
そんなふうにかれこれひと月くらいたった頃だろうか。王都でヘンリックさんとシグリット姫の婚約が発表され、その婚約披露舞踏会が開催されることになったのは…。
そこで僕とユーリも例年に比べ少し早めに王都入りをし、逆に少し早くリッターホルムへ戻ることにした。だってだって…
兄さんがスキーをしにやって来るんだから!
その兄さんは真冬だというのに翼竜で来るらしい…。マジで…?仕方なく僕は分厚い綿入れとウールのコートを送っておいた。
しょうがないなぁ…、でも乗って見たかったんだって。
ああどうしよう…、すごくカッコイイスキーウエァー用意しなくちゃ。それから板にブーツに…、ああ忙しい!
兄さんへのプレゼントを考えてる僕の横では、ユーリとアレクシさんがシグリット姫にとんでもないプレゼントを用意していた…。
なんと新たに切り開いた高級別荘用地に予定していた姫の別荘、これを婚約祝いにプレゼントするんだとか。
す、スケールが違う…。婚約でこれなら結婚祝いはどうなるんだろう…。
「婚姻の暁には王都の伯爵邸、つまり元の公爵邸を贈るつもりでいるが?」
「いや要らないって…、あれ訳アリ物件じゃん…」
いくら豪華な屋敷でも、あんな縁起でもない物件を偽物とはいえ新婚夫婦に贈るつもりとは、ユーリ…本気だろうか?
いやいや…、単に処分に困って押し付けようとしてるよね?
僕はそれを全力で止めたうえ、あの屋敷をいっそのことホーンテッドハウス、つまりお化け屋敷にして有料一般公開にしてはどうかと提案しておいた。
王都屈指のアミューズメントになるんではなかろうか。なにしろ既に一部完成しているし、僕の置き土産、ターザンロープを使えば空を飛ぶ幽霊なんかも再現出来そうだ。なんなら腐食部分をもう少し増やしてもいい。ユーリのスキルで。
若干引き気味のアレクシさんと違って、ユーリは意外にも「殿下が喜びそうだ」と言った…。へ~殿下がねぇ…ニヤニヤ…
「じゃぁ王都に行ってる間、ノールさん、アルパ君をよろしくね」
「僕は世話ならロビンで慣れてるんだよ。心配しないで。そのロビンも少しは手伝ってくれるだろうから」
そう、実は今ロビン君は、このリッターホルムでお役人となるため領都で仕事をしているのだ。
ロビン君にはこのリッターホルムでお勤めする道と、ユーリの口利きで王城の下っ端官吏になる道、その二つの選択肢があった。
結果ロビン君の希望通りリッターホルムで就職したんだけどそこに至るまでにはどうしても王都に追いやりたいユーリと可愛い弟を手元に置きたいノールさんによる丁々発止のやり取りがあったのだ…。
決め手は「役人が足りない!」っていう僕とアレクシさん、数少ない現役人の皆さんまで加えたシュプレヒコール。それにユーリが屈する形でロビン君の青田買いが決まった…。恐るべしロビン君の豪運スキル。
でも彼はとても優秀な期待の新人で、何気にヘンリックさんも狙っていたんだからね!先に唾つけたもん勝ちなんだから!
ショーグレン夫人は最後まで渋ってたけど、
「働き次第で新しく切り開いた北西の一部をショーグレン子爵領とすることも考えてる」
っていう僕がポロッと口にした言葉で、領地貴族を夢見ていた夫人は敢え無く陥落した。ちなみにこの発言は無許可だ。だが多分大丈夫だ。大丈夫…だいじょ…だい…、ええいとにかく!
「帰りは王子も一緒だよ!そのつもりでよろしくねー!」
一年ぶりの王都、そこには久しぶりの祝典、シグリット姫と若き貴公子の婚約に沸き立つ王都民の姿があった。
目抜き通りの店屋は祝いに乗じて記念品を売りに出し、屋台の食べ物屋は祝いと称してエール半額の大盤振る舞い!
「ユーリ!ほら一緒に乗ったゴンドラだよ!もうミルウィ橋の修繕終わったんだ。…ねぇねぇ」
「ふふ、いいとも。明日でもいいかい?」
「わーい!ノールさんの言ってた羊の丸焼きも食べたいなー、えっとそれからさっき見えたクロッケー!あれって僕がサーダさんに教えたコロッケだよね?なんでここに?」
「以前サーダとナッツが二人きりで王都に来たことがあったろう?」
「ああ!僕がシーズニングのプロモーション頼んだ時の…」
「随分色々食べ歩き、時に料理を披露したと言っていた。だからでは?」
なんかちょっと感動…。聖王国の王都で屋台コロッケが食べられるなんて…。
ゴンドラと言えば計画が中断していた南北を隔てる大河、ミットン河を東へ西へ往復させる予定の遊覧船事業、あれもそろそろ始動させないとな…
そうして案内された大公の待つ謁見の間。そこに王城を襲った騒乱の跡は既に微塵もない。
…以前僕のやらかした半壊といい、今回の襲撃といい、修繕しすぎて既に新築だよ。
そんなどうでもいい感想を思い浮かべてる僕と違ってユーリは大公の顔を見つめ感慨に震えている…
「大叔父上…」
「よく来た二人とも。さあユーリウスこちらに来るのだ」
抱き合って涙を流すユーリと大公の姿に思わず目尻を濡らした僕の横では、ケネスとシグリット姫も同じように貰い泣きをしていた…
………えっ⁉
思わずケネスを二度見してしまったのは無理もないよね…?
翌週に行われた婚約披露舞踏会、久しぶりの祝宴は抑圧された何かが弾けたかのように盛大だった。そのお祝い気分は王都の目抜き通りにも波及して、そこでは夜通し飲めや歌えやの大騒ぎ。
僕はちょっとばかりユーリをそそのかすと、こっそり夜会を抜け出し変装して街に出ることにした。目を白黒させるユーリがこれまた可愛くて…、だって夜会なんかちっとも楽しくない。お祝いのお祭りならこっちが王道だよね。
ああ…、都会のハロウィンやカウントダウンってこんな感じだったのかな…。また一つ夢が叶った…。
ユーリと手を取り好き勝手に楽しむ屋台飯やお酒もどき…。それから月明かりの下で楽しむ真夜中のゴンドラ…。船頭の口ずさむ歌も一役買って、それはもう幻想的でロマンチックで…二人のムードは最高潮。
大公の寄こした迎えに連行されるまで、僕とユーリはその夜を心いくまで堪能し続けた…。
そして翌日、二人そろってコーネイン侯爵にものすっっごく叱られたけど、それを見て隠れて笑うケネスにはぁん?って思ったけど、この思い出には代えられない。
大公と元王妃がダンスしたって聞いて、一目見たかった事だけが唯一の後悔だったりする。
「アレクシは甘いからね。アッシュ君も彼にはすぐほだされるし…。僕が引き受けるよ。別に殊更厳しくしようとは思わないよ?でも僕が彼に世の中の道徳とか倫理とか、それに大人の義務と責任、そう言ったものをきちんと教える。魔女の足跡を消す為に必要なのはそういう事でそれが出来るのは僕だと思うから」
「はい、お願いします…」
「面目ない…」
そうして彼はノールさんのもとでカレッジの諸雑用をすることになった。
ノールさんの側に居れば他の事でも安心だ。鬼学長で知られるノールさんは容姿に釣られるバカ者どものいい虫除けになるだろうし、母親の事で中傷しようとする輩もそうそう近寄ってはこないだろう。
そもそも、僕のカレッジにそんな低俗な輩は必要ない!
「イジメを見つけたら問答無用で即停学って通達しておかなくちゃ…」
そんなふうにかれこれひと月くらいたった頃だろうか。王都でヘンリックさんとシグリット姫の婚約が発表され、その婚約披露舞踏会が開催されることになったのは…。
そこで僕とユーリも例年に比べ少し早めに王都入りをし、逆に少し早くリッターホルムへ戻ることにした。だってだって…
兄さんがスキーをしにやって来るんだから!
その兄さんは真冬だというのに翼竜で来るらしい…。マジで…?仕方なく僕は分厚い綿入れとウールのコートを送っておいた。
しょうがないなぁ…、でも乗って見たかったんだって。
ああどうしよう…、すごくカッコイイスキーウエァー用意しなくちゃ。それから板にブーツに…、ああ忙しい!
兄さんへのプレゼントを考えてる僕の横では、ユーリとアレクシさんがシグリット姫にとんでもないプレゼントを用意していた…。
なんと新たに切り開いた高級別荘用地に予定していた姫の別荘、これを婚約祝いにプレゼントするんだとか。
す、スケールが違う…。婚約でこれなら結婚祝いはどうなるんだろう…。
「婚姻の暁には王都の伯爵邸、つまり元の公爵邸を贈るつもりでいるが?」
「いや要らないって…、あれ訳アリ物件じゃん…」
いくら豪華な屋敷でも、あんな縁起でもない物件を偽物とはいえ新婚夫婦に贈るつもりとは、ユーリ…本気だろうか?
いやいや…、単に処分に困って押し付けようとしてるよね?
僕はそれを全力で止めたうえ、あの屋敷をいっそのことホーンテッドハウス、つまりお化け屋敷にして有料一般公開にしてはどうかと提案しておいた。
王都屈指のアミューズメントになるんではなかろうか。なにしろ既に一部完成しているし、僕の置き土産、ターザンロープを使えば空を飛ぶ幽霊なんかも再現出来そうだ。なんなら腐食部分をもう少し増やしてもいい。ユーリのスキルで。
若干引き気味のアレクシさんと違って、ユーリは意外にも「殿下が喜びそうだ」と言った…。へ~殿下がねぇ…ニヤニヤ…
「じゃぁ王都に行ってる間、ノールさん、アルパ君をよろしくね」
「僕は世話ならロビンで慣れてるんだよ。心配しないで。そのロビンも少しは手伝ってくれるだろうから」
そう、実は今ロビン君は、このリッターホルムでお役人となるため領都で仕事をしているのだ。
ロビン君にはこのリッターホルムでお勤めする道と、ユーリの口利きで王城の下っ端官吏になる道、その二つの選択肢があった。
結果ロビン君の希望通りリッターホルムで就職したんだけどそこに至るまでにはどうしても王都に追いやりたいユーリと可愛い弟を手元に置きたいノールさんによる丁々発止のやり取りがあったのだ…。
決め手は「役人が足りない!」っていう僕とアレクシさん、数少ない現役人の皆さんまで加えたシュプレヒコール。それにユーリが屈する形でロビン君の青田買いが決まった…。恐るべしロビン君の豪運スキル。
でも彼はとても優秀な期待の新人で、何気にヘンリックさんも狙っていたんだからね!先に唾つけたもん勝ちなんだから!
ショーグレン夫人は最後まで渋ってたけど、
「働き次第で新しく切り開いた北西の一部をショーグレン子爵領とすることも考えてる」
っていう僕がポロッと口にした言葉で、領地貴族を夢見ていた夫人は敢え無く陥落した。ちなみにこの発言は無許可だ。だが多分大丈夫だ。大丈夫…だいじょ…だい…、ええいとにかく!
「帰りは王子も一緒だよ!そのつもりでよろしくねー!」
一年ぶりの王都、そこには久しぶりの祝典、シグリット姫と若き貴公子の婚約に沸き立つ王都民の姿があった。
目抜き通りの店屋は祝いに乗じて記念品を売りに出し、屋台の食べ物屋は祝いと称してエール半額の大盤振る舞い!
「ユーリ!ほら一緒に乗ったゴンドラだよ!もうミルウィ橋の修繕終わったんだ。…ねぇねぇ」
「ふふ、いいとも。明日でもいいかい?」
「わーい!ノールさんの言ってた羊の丸焼きも食べたいなー、えっとそれからさっき見えたクロッケー!あれって僕がサーダさんに教えたコロッケだよね?なんでここに?」
「以前サーダとナッツが二人きりで王都に来たことがあったろう?」
「ああ!僕がシーズニングのプロモーション頼んだ時の…」
「随分色々食べ歩き、時に料理を披露したと言っていた。だからでは?」
なんかちょっと感動…。聖王国の王都で屋台コロッケが食べられるなんて…。
ゴンドラと言えば計画が中断していた南北を隔てる大河、ミットン河を東へ西へ往復させる予定の遊覧船事業、あれもそろそろ始動させないとな…
そうして案内された大公の待つ謁見の間。そこに王城を襲った騒乱の跡は既に微塵もない。
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そんなどうでもいい感想を思い浮かべてる僕と違ってユーリは大公の顔を見つめ感慨に震えている…
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抱き合って涙を流すユーリと大公の姿に思わず目尻を濡らした僕の横では、ケネスとシグリット姫も同じように貰い泣きをしていた…
………えっ⁉
思わずケネスを二度見してしまったのは無理もないよね…?
翌週に行われた婚約披露舞踏会、久しぶりの祝宴は抑圧された何かが弾けたかのように盛大だった。そのお祝い気分は王都の目抜き通りにも波及して、そこでは夜通し飲めや歌えやの大騒ぎ。
僕はちょっとばかりユーリをそそのかすと、こっそり夜会を抜け出し変装して街に出ることにした。目を白黒させるユーリがこれまた可愛くて…、だって夜会なんかちっとも楽しくない。お祝いのお祭りならこっちが王道だよね。
ああ…、都会のハロウィンやカウントダウンってこんな感じだったのかな…。また一つ夢が叶った…。
ユーリと手を取り好き勝手に楽しむ屋台飯やお酒もどき…。それから月明かりの下で楽しむ真夜中のゴンドラ…。船頭の口ずさむ歌も一役買って、それはもう幻想的でロマンチックで…二人のムードは最高潮。
大公の寄こした迎えに連行されるまで、僕とユーリはその夜を心いくまで堪能し続けた…。
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