チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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ある後継者の回想 ②

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「やぁヴェスト。今少し良いだろうか」

「ブラマン様…。何か不都合がございましたか?」
「いいや。この屋敷は隅々まで全てにおいて行き届いている。君の差配だろうか?実に素晴らしい」

「ユーリウス様に最善の環境を。それが私の使命ですので。ところでご用件は何でしょうか」

「この領を散策して歩くのに良い場所はないかと思ってね。」
「それでしたら私でなくアッシュ様かユーリウス様の従者、アレクシに聞かれるがいいでしょう。私は敷地の外へはあまり出ないので」

「おや?それは何故だい?君にだって休息の時間や休暇は与えられているだろう?それともこの屋敷はそれほど過酷な労働環境なのかい?」

「いいえ。私の一存でそうしています。私はこの屋敷の者以外とは…、意思の疎通が少々難しいので。」
「出来たら君に案内を頼みたかったのだが…空いた時間でいいんだ」

「たとえ時間があっても出来かねます。失礼します」


麗しの君はにべもなく行ってしまった。つれないね。彼を誘ったのに大した意味は無い。どうせ案内を頼むなら彼と少し話してみたい、そう思っただけのこと。

だが気になる言い回しだ。意思の疎通…?どういう意味だ?
その疑問はその日のうちにリッターホルム教区の司祭様によりあっさりと語られることになるのだが…。




その会話を交わした午後、敷地外に出ないと言ったはずの彼が馬車に乗って出かけようとしているではないか。
ではあれは私へのけん制だったのか?
何を警戒されたのか…、それとも私が平民だから?少しばかり釈然としない感情を隠しながら馬車に乗り込もうとする彼に声をかける。


「やあヴェスト。これからどこまでお出かけだい?私の案内を断っておきながらひどい人だ」
「これは遊びでなく仕事です。教会で打ち合わせがありますので。領都に出られるのでしたらお乗せしますがいかがなさいますか」

「いいのかい?…ではお願いするよ」


驚いた。敬遠されている…という訳でもないのか。

「向かう方角が同じならばこれが最善です」

彼はこともなげにそう言った。





そんな彼との馬車での会話、これはなかなかに手ごわい…。
私の話に笑う事も無ければわざと差し入れた嫌な言い回しに怒ることもせず、ただ淡々と返事を返すだけ。

相手にさえされていないのだな…

少しばかりの落胆と共に馬車は教会へ到着した。そしてその教会では、取りつく暇もないとはまさにこの事。彼は私に一礼すると、あの口ぶり…彼の父親だろうか?老齢の司祭を伴い奥へと姿を消した。


「まったく…。もう少し微笑んでくれてもいいと思うのだけどね。私はそれほどおかしな男ではないと思うのだが…」

「どうされましたか?何かお困りならお伺いしますが…」


声をかけてきたのはこの教区の司祭だ。先ほどの司祭の息子なのだとか。そして驚くことに、この方とあの氷の麗人は兄弟なのだという…。実に意外だ。何と言っていいものか…。


「そうでしたか。あなた様は公爵家の大切なお客様なのですね。それは大変に失礼いたしました。ですがヴェストに他意は無いのです。不快に思わず流してやっては下さいませんか?」

「…それは彼の言う「意思の疎通が難しい」という事に関わるのですね?」


そこで語られたのは彼の特性。スキルの恩恵と引き換えに彼は他者の感情を察することが困難なのだという…。ああだから…

己が嫌われたわけではない…、その事実が安堵を誘ったのは何故だったのか…。








打ち合わせが終わると彼はやはり一礼して帰っていった。あわよくばと思い待っていたのだけどね。
せっかくなので少し老齢の司祭と言葉を交わす。でなければ彼を待っていたのが丸わかりじゃないか…。


「では司祭様は大公領に教区をお持ちなのですね。今回は儀式のために?」
「ええ。公爵様直々のご指名を受けましてね。光栄なことでございます。それであなた様はどういった縁の…?」


公爵家の信を預かる司祭に不審がられるわけにもいくまい。私は微細まで説明をした。これで納得されるかどうか…、だがこれだけの縁でこの招待を受けたのはまぎれもない事実なのだ。


「ほうほう。あなた様はフェルセン侯爵家の血筋でございましたか。」
「司祭様はご存じなのですか?はるか昔に断絶した家門なのですが…」

「勿論存じておりますよ。我が家は代々大公領に教区を持っておりますので。父も、祖父も、曽祖父も。」
「…大公領とフェルセン家になんの関係が…?」

「あなた様はご存じないのですか?断絶したフェルセン家の残された一人娘。その嫁ぎ先は皆が関りを避け続けた大公家だったのです。」

「えっ?そんな話は誰からも聞いたことはありませんよ?本当ですか?」
「本当ですとも。私は教区に残されている先代先々代、そして先々々代の書き留めたお式の覚書をすべて目にしておりますから。」

「ですが…、まさか本当に?それなら何故誰も語り継がないのです?名誉なことでしょうに」

「このリッターホルムと縁続きになることを良しとしない家門は多かったのですよ。それは当時も同じでしょう。それゆえ大公家も公爵家も常に婚姻相手を探すのに苦労をしておられました。だからこそ大公家は断絶家の娘を嫁に引き受けましたし、ユーリウス様のご母堂、カルロッタ様も地方のあまり裕福で無い伯爵子息を婿に迎えられました」

「だから離縁と同時にその名を噤んだのか…」


実に驚くべき事実ではあった。あったが…、だからといって今現在私の家族が大公家と縁を持つ訳でもない。
それはすぐに忘れてしまうような出来事だったのだ…


後日、偶然にも私の身元を調べに訪れた大公閣下、もといヴェッティ王が司祭よりその旨を聞き及び、命を受けたコーネイン侯爵から自領へと誘われた時にはさすがの私も仰天するしか無かったと言っておこう。








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