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ある侯爵令息が眼にしたもの
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双子の姉が北のリッターホルムへ出向いて行ったのはかれこれ半年ほど前のこと。
公爵邸に迎えられた異母兄弟のアルパ様。彼の婚姻を整えるためにリッターホルム公爵は年頃のあう令嬢方を一堂に集められた。
とは言え振るいにかけられ残ったのは元老院に籍を置く高位貴族家のご令嬢方。
コーネイン侯爵家のヘンリック様が姫殿下を娶り王家との繋がりを強固にしたとして、せめてリッターホルム領との繋がりを、とどの家門も躍起になられたのだ。
それにしても公爵閣下は大した度量のお方だ。
あの世紀の大謀反人アデリーナと生母に仇為したペルクリット伯爵の遺児であるアルパ様を公爵家に迎え入れられるとは…。
そのアルパ様のお相手を探している…。当時その噂に社交界は色めき立った。
何故ならリッターホルムは現在、第二の王都と呼ばれるほど目を見張る発展を遂げており、この聖王国の未来はリッターホルムが背負っていると言っても過言ではない様相だからだ。
王太子殿下や降嫁されたシグリット姫殿下でさえ足繁く保養に通われるのだから相当なものだ。
なのに公爵夫妻は同性婚。後継は望むべくもない。
この聖王国にとってスキルの継承とは重大な意味をもつ。継承を望む家門であれば当然後継者には血縁を求める。現に公爵家には古より、直系血族男子以外を後継にしてはならない、という王家からの厳命がある。
アルパ様は異母兄弟ゆえ本来ならばその筋ではない。だが先の凶行によるアルパ様の深手において、アルパ様のお身体にはユーリウス様の血が直接加えられたのだとか。
そんな理由からアルパ様はれっきとしたお血筋として敬われていると聞いている。つまり…公爵家の後継はアルパ様のお子が継がれる可能性が非常に高いという事だ。
当然父上も姉に指令を出した。アルパ様のお心を射止めてくるように、と。
だが父は分かっていない。
姉マーゴットの男性の好みはアルパ様のように庇護欲をそそられる方でなく、怜悧にして神秘的、それでいて凛とした佇まいの男性なのだ。
そしてマーゴットは決して、何があろうと、絶対に、頑として!自分の意思は曲げたりしない。いい加減分かってもよさそうなものなのに…、全く…。
案の定マーゴットはアルパ様の心は射止められず、そもそも射止めようとしたかも怪しいものなのだが、リッターホルムから戻った彼女の話す事と言ったら、社交界で噂の『公爵邸に居る氷の執事』その話ばかりだった。
彼がどれほど佳麗であり、また、眉一つ動かさないその所作も含めどれほど気品に溢れているか、その話を聞くたびとても興味がわいて…、革新的な領への関心とも相まって僕の心はリッターホルムでいっぱいだった。
だが南東に位置するこのルステンソンとリッターホルムはあまりに遠すぎる。
なかなか機会も得られないまま時間ばかりが過ぎていく…そんな中、ついにその待ち望んだ好機に恵まれたのだ。
二つ返事で快く私を受け入れて下さった公爵夫人アッシュ様。なんと判断のお早いことだ…。
彼は一部の人々が知の神ミーミルと呼ぶほど叡智に溢れ、そして…なんとも人の好いお方だ。
姉や兄たちの暴挙を、「まぁいいや」の一言で許してしまわれるとは…何という器だろうか。悪意の渦中にあった公爵閣下が何故あの当時彼を選んだのか、その全てが分かった気がした。
王都からの道中はブラマン様が同伴された。大公領の後継となられた彼はとても理知的な大人で大変ためになる話をいくつもお聞かせいただいた。
狭い世界、ルステンソン領と貴族学院しか知らなかった僕にとって、その長い旅路は何もかもが新鮮であり、それらも含め僕は益々リッターホルムでの生活に期待を膨らませた。
そしてようやく到着したリッターホルムは僕の想像をはるかに超える素晴らしさだ!
王都以上ではないかと思われるほど発展した領都。その反対にどこまでも肥沃に広大に広がる農地。領全体を包み込む針葉樹林と高くともゆるやかに、そしてどこまでも連なる峰の数々。南の辺境に広がる険しい山脈とはまた違う…、その少し冷たい空気がまた心地良い。
この地に入ってから僕は一言も言葉を発せないでいた。感嘆のため息しか出ない…。だけどそんな僕をその日一番動揺させたのは…、マーゴットの目をくぎ付けにした噂の麗人、
『公爵邸に居る氷の執事』
まさにその人だった…。
目を奪われるとはまさにこの事。すっかり狼狽えた僕の手から滑り落ちたトランク。そこから投げ出された衣類や小物。こんな麗しい人の前で僕はなんて見苦しい…。
荷物を拾い上げようとしたその人の手が僕の手につ…と触れる。たったそれだけで僕はまるで雷にでも打たれたように、全身が痺れ正常ではなくなってしまったのだ…。
「はぁぁぁぁ…」
「何?どうしたの?」
「アッシュ様。あの、青い髪のあの方…」
「…敢えて聞くけどヴェストさんがどうしたの?」
「美しい方ですね…」
「さすが双子。」
「公爵邸で執事に従事されるという事は…、彼は結婚はされないのですね」
「だったら何かな?」
「いえ別に…」
「パトリックさんは良い男だけどヴェストさんはハードルが高いんじゃないかな?」
「何故ですか?僕が年下だからですか?男だからとか言わないですよね?ここはリッターホルムなのに」
「リッターホルムを一体何だと…、ま、まぁいいや。そんなことより、考えたんだけどパトリックさん、アルパ君の新居で執事を目指すってのはどう?ちょうど探してたんだ。」
「執事ですか?私が?」
「その目端の利き方は執事に向いてるよ。人当たりが良いからアルパ君ともうまくやれそうだし。どうかな?」
「やれるでしょうか…?でもやってみたいと思います。もともと私は家庭を持つ気はありませんし」
「へ?そうなの?」
「あの兄弟に囲まれて生活してご覧なさい。一人で静かに生活したいと心からそう考えますよ。誰でもね」
アッシュ様は遠い目をして深く深く頷かれた…。
公爵邸に迎えられた異母兄弟のアルパ様。彼の婚姻を整えるためにリッターホルム公爵は年頃のあう令嬢方を一堂に集められた。
とは言え振るいにかけられ残ったのは元老院に籍を置く高位貴族家のご令嬢方。
コーネイン侯爵家のヘンリック様が姫殿下を娶り王家との繋がりを強固にしたとして、せめてリッターホルム領との繋がりを、とどの家門も躍起になられたのだ。
それにしても公爵閣下は大した度量のお方だ。
あの世紀の大謀反人アデリーナと生母に仇為したペルクリット伯爵の遺児であるアルパ様を公爵家に迎え入れられるとは…。
そのアルパ様のお相手を探している…。当時その噂に社交界は色めき立った。
何故ならリッターホルムは現在、第二の王都と呼ばれるほど目を見張る発展を遂げており、この聖王国の未来はリッターホルムが背負っていると言っても過言ではない様相だからだ。
王太子殿下や降嫁されたシグリット姫殿下でさえ足繁く保養に通われるのだから相当なものだ。
なのに公爵夫妻は同性婚。後継は望むべくもない。
この聖王国にとってスキルの継承とは重大な意味をもつ。継承を望む家門であれば当然後継者には血縁を求める。現に公爵家には古より、直系血族男子以外を後継にしてはならない、という王家からの厳命がある。
アルパ様は異母兄弟ゆえ本来ならばその筋ではない。だが先の凶行によるアルパ様の深手において、アルパ様のお身体にはユーリウス様の血が直接加えられたのだとか。
そんな理由からアルパ様はれっきとしたお血筋として敬われていると聞いている。つまり…公爵家の後継はアルパ様のお子が継がれる可能性が非常に高いという事だ。
当然父上も姉に指令を出した。アルパ様のお心を射止めてくるように、と。
だが父は分かっていない。
姉マーゴットの男性の好みはアルパ様のように庇護欲をそそられる方でなく、怜悧にして神秘的、それでいて凛とした佇まいの男性なのだ。
そしてマーゴットは決して、何があろうと、絶対に、頑として!自分の意思は曲げたりしない。いい加減分かってもよさそうなものなのに…、全く…。
案の定マーゴットはアルパ様の心は射止められず、そもそも射止めようとしたかも怪しいものなのだが、リッターホルムから戻った彼女の話す事と言ったら、社交界で噂の『公爵邸に居る氷の執事』その話ばかりだった。
彼がどれほど佳麗であり、また、眉一つ動かさないその所作も含めどれほど気品に溢れているか、その話を聞くたびとても興味がわいて…、革新的な領への関心とも相まって僕の心はリッターホルムでいっぱいだった。
だが南東に位置するこのルステンソンとリッターホルムはあまりに遠すぎる。
なかなか機会も得られないまま時間ばかりが過ぎていく…そんな中、ついにその待ち望んだ好機に恵まれたのだ。
二つ返事で快く私を受け入れて下さった公爵夫人アッシュ様。なんと判断のお早いことだ…。
彼は一部の人々が知の神ミーミルと呼ぶほど叡智に溢れ、そして…なんとも人の好いお方だ。
姉や兄たちの暴挙を、「まぁいいや」の一言で許してしまわれるとは…何という器だろうか。悪意の渦中にあった公爵閣下が何故あの当時彼を選んだのか、その全てが分かった気がした。
王都からの道中はブラマン様が同伴された。大公領の後継となられた彼はとても理知的な大人で大変ためになる話をいくつもお聞かせいただいた。
狭い世界、ルステンソン領と貴族学院しか知らなかった僕にとって、その長い旅路は何もかもが新鮮であり、それらも含め僕は益々リッターホルムでの生活に期待を膨らませた。
そしてようやく到着したリッターホルムは僕の想像をはるかに超える素晴らしさだ!
王都以上ではないかと思われるほど発展した領都。その反対にどこまでも肥沃に広大に広がる農地。領全体を包み込む針葉樹林と高くともゆるやかに、そしてどこまでも連なる峰の数々。南の辺境に広がる険しい山脈とはまた違う…、その少し冷たい空気がまた心地良い。
この地に入ってから僕は一言も言葉を発せないでいた。感嘆のため息しか出ない…。だけどそんな僕をその日一番動揺させたのは…、マーゴットの目をくぎ付けにした噂の麗人、
『公爵邸に居る氷の執事』
まさにその人だった…。
目を奪われるとはまさにこの事。すっかり狼狽えた僕の手から滑り落ちたトランク。そこから投げ出された衣類や小物。こんな麗しい人の前で僕はなんて見苦しい…。
荷物を拾い上げようとしたその人の手が僕の手につ…と触れる。たったそれだけで僕はまるで雷にでも打たれたように、全身が痺れ正常ではなくなってしまったのだ…。
「はぁぁぁぁ…」
「何?どうしたの?」
「アッシュ様。あの、青い髪のあの方…」
「…敢えて聞くけどヴェストさんがどうしたの?」
「美しい方ですね…」
「さすが双子。」
「公爵邸で執事に従事されるという事は…、彼は結婚はされないのですね」
「だったら何かな?」
「いえ別に…」
「パトリックさんは良い男だけどヴェストさんはハードルが高いんじゃないかな?」
「何故ですか?僕が年下だからですか?男だからとか言わないですよね?ここはリッターホルムなのに」
「リッターホルムを一体何だと…、ま、まぁいいや。そんなことより、考えたんだけどパトリックさん、アルパ君の新居で執事を目指すってのはどう?ちょうど探してたんだ。」
「執事ですか?私が?」
「その目端の利き方は執事に向いてるよ。人当たりが良いからアルパ君ともうまくやれそうだし。どうかな?」
「やれるでしょうか…?でもやってみたいと思います。もともと私は家庭を持つ気はありませんし」
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