チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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ある執事の変わりゆく日常

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意味もなく私に近寄り、意味もなく私の前から去って行ったダークブロンドの髪が良く似合う落ち着いた青年。
それがフェルセン家に連なるという、当時代書人として自立をしておられたベルマン様、その人であった。

このリッターホルムが王家の悪意に、人々からの忌避に、そして魔女の脅威にさらされ続けた長い年月。
その中にあって分岐とも言えたのがあの因縁のある家門全てを集めて行われた12家会議。リッターホルムはあれを以てようやく堂々と迎え撃つ道を進み始めたのだ。

その中の一人であられたベルマン様。彼はリッターホルム公爵邸に滞在された2週間の間、毎夜毎夜、私の前に姿を現された。

彼は偶然を装っておられたが、私のスキルは全てを認識する。彼は先廻りをして私がそこを通りがかるのを待っていた。

何が、という事も無い。ほんの一言二言、お決まりの言葉を交わす程度の…。それでも今までの誰とも違うその近づき方に、読めぬはずの彼の心情を知ってみたいと一瞬思わせるような…、あれはそんな不思議な時間だった。

だが私もアッシュ様も彼はコーネイン家に引き抜かれ王都へ同行されたのだと思っていた。それがヴェッティ王の命によるもので彼が後継教育をお受けになられていたとは今この瞬間まで知ることは無かったのだ。
さすが大公領の選りすぐられた使用人達。そして鍛え抜かれた家令殿と執事殿。
私もこう在らねば、と、心の中でそう感嘆の声を上げた。


そのアッシュ様がユーリウス様を問い詰められている。知っていたなら何故言ってくれなかったのかと。
それにユーリウス様はお応えになる。万が一上手くいかなかった場合、彼の将来に差しさわりがあるかも知れない。だから正式なお披露目までは一切の情報を秘匿したのだと。


「僕は口の堅い男だよ。ビジネスパートナーの僕にまで内緒にするなんて…」
「君が彼ベルマンを欲しがっていたと知ったからこそ、君だけには知られないよう細心の注意を払ったのだよ」
「なんで!」

「…君に引き抜かれては事だからだろう…」
「…そ、そんなこと…絶対しなかったとは言い切れない…見抜かれている…」


当時のリッターホルム領…。多くの人材が流入した今と違い、あの頃のリッターホルは常に人材が不足していた。それも領民を指導しまとめる側の人材である。

伯爵領で伯爵家の代書人として様々な契約に携わり、尚且つ当主に代わり領地経営にまで助言をされていたという彼を、あの時のアッシュ様が知って尚、指をくわえて大公領へ見送ったか…おそらくそうはならなかっただろう…。ベルマン様は呪いに関わる12家の縁者であり…、ましてや本来であれば正当な大国家のお血筋ではないのだから。

私もアッシュ様が望めば力になったに違いない。アッシュ様の望みはユーリウス様の最善。そして私はその望みを叶えるためにこに居るのだから。





「こちらの部屋は滞在中自由にお使いください。私は階下に居ることが多いので不自由があればフットマンかボーイに申しつけを。明日からの予定はディナーの際アッシュ様から直接お話がございます。他になにかご質問は?」

「いいや。5年目と全く変わらないのだね、君は」
「あなた様はお代わりになられました。当時も立派な青年ではございましたが今ではどこからどう見ても高貴さを讃えた公爵家の後継者です」

「そうだろうか。いや、そうでなくては困ると言うもの。その為に5年間己を磨いてきたのだからね」
「十全に整っておられます」

「ヴェスト、」
「なんでしょう」

「君は今も夜回りを…?」
「はい」


彼はそれ以上何も言わなかった。






階下へ降りた私を待っていたのは南東のルステンソン家の4男であられるパトリック様。
先ほど盛大に荷物を広げた少々注意力が散漫な方だ。よくよく気を付けて不備が無いよう心得なくては。このリッターホルム公爵邸の名誉を損なわないよう…。すべてはユーリウス様の最善の為に。



「ああ良かったヴェスト様。貴方を探していたのですよ」
「パトリック様、私を探しておられたとは…、いかがなさいましたか」

「アッシュ様に打診されたのです。新しくご用意されるアルパ様の新居。そこで執事の任に就いてはどうだろうかと。」
「あなたが?」
「ええ。アッシュ様いわく僕は目端が利くようですので向いているのではないかと仰られて」
「そうですか」
「それでその…、アルパ様の新居が完成するまでヴェスト様について仕事を学びたいと思いまして…。アッシュ様はオスモ殿を指導者にと仰られたのですが、私はやはり実地で学ぶのがいいのではないかと…」

「私に…ですか?構いませんが…、では明日の夕食後私の部屋へお越しください。」
「い、いいのですか!貴方の自室にお邪魔しても…」
「構いません。それから私に敬称は不要です。どうかヴェスト、と、お呼びください。パトリック様」

「では僕のこともパトリックと、そうお呼びください。…ヴェスト…」



彼はそう言うと屈託のない晴れやかな顔で破顔した。



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