チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する

kozzy

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ある執事の変わりゆく日常 ②

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「では一日の動きはおよそこういった感じでよろしいのですね」

「アルパ様には従者としてカイが新しいお屋敷へと参ります。ですのであなた様の仕事はフットマンやメイドなどを如才なく動かすことが中心になるでしょう。必要な場所に必要な人員を配置し屋敷の最善を整える。遣り甲斐のある職務です」

「ふふ。貴方のようになれるでしょうか?」
「私のようになる必要はないかと存じます。あなたはあなたの思い描く執事となられるがいいでしょう。パトリック」

「貴方を目指してはいけませんか?」

「私を目指しては使用人から慕われませんから」
「何故そのような…。昨日からみていましたがあなたは使用人の皆からとても頼られているではありませんか。」


信を得られている…、とは認識している。彼らは常に最善を尽くす私に心から敬意を払い頼りにしてくれている。だが彼らが困ったとき、悩みがある時、駆け込むのはいつでもアレクシ様のもとだ。

若い頃であれば思い悩んだであろうそれ…今ならそれを「適材適所」と、理解できるようになっている。私にそう思わせてくれたのはアッシュ様だ。
アッシュ様はこのままの私を必要とされている。であれば、この欠けた自身を嘆く理由など一つとしてないのだ。


「私は人の心に疎いので…。でも構いません。ここには私を乱すものは何もない」
「何も無いですか?あなたはこんなにも感情豊かなのに?」


リッターホルムへ訪れた二人の滞在客。その一人であるルステンソン家のパトリック様はアッシュ様が仰るよう、お若くとも実に目端の利くお方である。

だがそれは私の『認識』とは似て非なるもの。

彼は人の感情にとても敏い。その場の雰囲気をいち早く察し、先んじて対処へと当たられる。
良い執事になるのではないか、そう思う。

彼はすぐ上の兄ヴィーゴに似ている。
医学校を卒業し、今は父の教会に付属した治療院で医師として従事している兄ヴィーゴ。彼から頻繁に届けられる手紙には、治療に訪れた村民から治療以外の相談ばかりされていると書かれていた。それは兄が村民の心に寄り添っていればこそなのだろう。

その兄に似た彼が言うのだ。「あなたはこんなにも感情豊かなのに」、と。
彼はそのスキル『洞察』により、私自身にも気付かない私の感情が見えるとでも言うのだろうか…。


「戸惑わせてしまいましたか?すみません。ですがこのスキルはなにも心が見えると言う訳ではないのですよ。私がそう思った、というだけのスキルです。御心配には及びません」


ほらこうやって。

だがそうであれば尚のこと彼はアルパ様の良い助けになるだろう。アルパ様もまた無意識に感情を抑制されるお方。
彼の様な心の機微に敏い執事があの方の側に付き従ってこそ、アッシュ様の言う「適材適所」は生かされるのだ…。









夜も更け家人の寝静まった廊下を見回る私の前には…ああまただ。昨夜に続き、今夜もまたこうして彼は待つ…。
アッシュ様が丹精込めて作られた庭。それを一望できるこの大きな窓辺に身体を預けて。私がそこを通りかかるのを静かに待つ…。


「やあ、今夜は星が見えないね。実に残念だ」
「そうですか…」

「おや?私はそう思わない、星の無い闇夜も素晴らしい、そう言いたげだね」
「何も言ってはおりませんしそんなことは思ってもおりません」

「いいやそうだとも。君はね、同意を示す時にはそうですね、とそう言うんだ。そうでないときはそうですか、どちらでもないときは曖昧に頷くだけ。5年前から少しも変わらない。」

「それは私が成長していないと、そういう事でしょうか」
「そんなことは思わないさ。君は確かに変化している。職務への最善、それがより感情的になっているじゃないか」

「感情的…ですか?おかしなことを…」

「昨日の晩餐時にも思ったのだよ。5年前、君の采配は完璧だった。6家の重鎮方の様子を見ながら実に素晴らしいタイミングで食事は取り分けられ話の邪魔にならないようにそれらはさりげなく片付けられた。だが昨夜は少しだけ感じが違ったね。」

「何も違いません。何のことででしょうか」

「違ったとも。何故私の給仕を副執事に任せたんだい?君がもし最善を尽くすのであれば侯爵家4男の彼より大公家の嫡子である私を給仕すべきだろう?筆頭執事である君こそが」

「…彼は執事としてこれからアルパ様にお仕えする方です。客人待遇は昨夜まで。だからこそです。誠意を尽くしてはいけませんか?」
「いいだろう。そういう事にしてあげるよ。今のところはね」


含みのある彼の物言い…。いったい彼は私の何を知っていると言うのだろうか。
思えば5年前のあの頃もそうだった。寸でのところで不遜にならぬ程度の、だが自信に満ち常に余裕を見せる隙の無い態度。ユーリウス様ともまた違う、不躾に私を暴こうとするその視線。
彼は何故私に近づくのだろう…。ああ駄目だ…、やはり私には分からない…。



投げ込まれる小石が二つ。そこに描かれる小さな波紋。
それらは否応なしに私を巻き込み広がっていく…





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