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3 コワイ人はこんな人

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あれからグレアムさんは毎日来る。と言うかもともと毎日来ていたのに、僕が拾われたあの時だけ、丁度お仕事で王都に行っていて二か月ほど屋敷を留守にしてたのだとか。



人嫌いのグレアムさんはお屋敷に使用人を置かない。でもそれで困らないのにはちゃんとした理由がある。

この世界の魔法はすごくいっぱいお金を納めてシンデンで特別なセンレイを受けないと使えるようにならないらしい。
でもお金持ちは自分のケンイ?を示すためにいっぱいお金を納めてでもセンレイを受けるんだって。

なんとグレアムさんもレイさんも、メルビンさんまで魔法が使える。火を出したり掃除をしたり。

魔法のおかげでグレアムさんは掃除も洗濯も、何ならお風呂だって必要ない。自分で出来ないのはご飯だけ。だからレイさんのご飯を食べに毎日来る。「一番のお得意様だよ」ってマシューさんは笑ってた。




「グレアムさんは何のお仕事してるの?」
「…お前に話して分かるとも思えんが…私は他国の密書を読み解く仕事をしている。」


言ったな?こう見えて僕はママと一緒に外国映画のミッションインなんとかだって観てたんだから!


「分かるよ。じゃあグレアムさんはスパイなの?」
「難しい言葉をよく知っていたな…。いや、私は暗号を読み解くだけだ。そういう魔法を持っている」

「こいつはな、その魔法を手に入れる為に途方もない努力をしたんだ」
「へー」

「もしかしてルーイは教養を得られる環境に居たのかもしれんな。読み書きにも不自由はないようだし…」


えへん。僕の居た前の世界ではみんながガッコウに通ったんだよ。僕行ってないけど。


この世界の平民で読み書きが出来る人はあんまりいない。
僕は転移のチートでなぜか言葉が前の世界の言葉になっている。僕はソウタと一緒にキョウカショ見たりユウタと一緒に絵本を読んでもらったりしてたから文字もちゃんと分かるんだよ。

僕がカシコイことに気付いたグレアムさんは、「暇つぶしだ」とか言いながらいろんな話をしてくれる。
お家のこともその一つ。

コウシャク家を出ていくつもりだったグレアムさんは将来のためにすごく努力して、せっかくこの『カイドク』の魔法を手に入れたのに…、みんなが遊んでる間もいっぱいいっぱい頑張ったグレアムさんは貴族のフルマイとかをしなかったからってお友だちが離れていったんだって…。

それにグレアムさんの手に入れた魔法がキシになれる強い魔法じゃなく文字の魔法だったからシャコウカイでハズレ呼ばわりされたんだって…。ひどくない?

でもその甲斐あってグレアムさんはお城のお仕事をして、スゴクたくさんのオキュウキンをもらって、ユウユウジテキな暮らしをしているのだとか。僕知ってるよ。これがホントの独身貴族。




ある日僕がグレアムさんのテーブルに座って殻付きのクルミに苦戦してたら、隣のテーブルに座った牛獣人のおじさんと都のソウバシ?って言う人の話が聞こえてきた。
それを聞いてたグレアムさんの顔はいつもの倍くらい怖い顔になっちゃって…。あわわわわ…


「おいそこの牛。その話に乗るのはやめておけ。戯言だ」

「え?いやあ、儲かるって言うもんでね…」

「おいおい兄さん、余計な口をはさむのはやめてもらおうか」
「…私は村の外れに住むレンフィールド男爵。私の前でそんなくだらない与太話を始めたのが運の尽きだ。文句があるか」

「貴族…。ちっ!いえいえ、では私はこれでお暇を」

「あっ、お、お代…!あ、ああ…行っちゃった…」

「…ハァ…、レイモンド、代金は私につけろ。ルーイを叱らないでやってくれ」
「叱りはしないが…」

「それからそこの牛。〝無知は罪”という言葉を知ってるか。お前が牛なのと無知なのは関係ない。痛い目を見たくなければ余計な色気を出さないか、…少しは学ぶのだな」

「…ご忠告どうも…」バーーーン!!!


と、扉が壊れるかと思った…。


「おいグレアム。昔から何度も言ってるがもう少し他の言い方は出来ないのか。だからお前は誤解されるんだ」
「優しく言おうが厳しく言おうが中身は同じだ」

「でも僕はこのままでいいと思う」
「ルーイ…?」


パパがテレビを観ながら叱った時ソウタはゲームをやめなかった。ママが笑いながら叱った時ユウタはその顔を見てもっといたずらをした。
だけどソウタがユウタにゲームを投げつけた時、パパもママも真剣な顔と大きな声で叱って…、ごめんなさいって謝ったあと、ソウタは二度とゲームを投げなくなった。


「ホントに大事な時はキビシク言わないと伝わらないんだよ。だからあれでいいの。グレアムさんは知らん顔だって出来たのにそうしなかったよ。グレアムさんは優しいね」


あれ…?何この空気?


「じ、じゃあお皿下げちゃうね。グレアムさんありがとう。また明日」
「ルーイ!」

「ひゃっ!」カチャン!


グレアムさんの大きな声にも慣れたつもりでいたんだけど…やっぱりびっくりしちゃう。僕は気の小さなハムだから…。


「あ、ああすまない。その…、夜の食事はいつもどうしてるんだ?」

「え…?あの、マシューさんとレイさんが毎日帰りにマカナイを持たせてくれるの。」
「ルーイはほっとくとずっとトウモロコシを齧ってるからな…」

「そうか…。ならばレイモンド、ルーイの夕食は以後必要ない。彼は私が食事に連れ出す」


えええっ!いきなりの提案に僕はアタフタして言葉も出ない。


「お前何言って…」

「ルーイにも気晴らしは必要だ」

「あ、あのっ!僕平気。そんなの…」
「構わん。」
「じゃぁ…クルミとかで」
「馬鹿を言え!この私がそのような食事…笑いものになる!」

「ルーイ、こいつは一人の使用人も持たない偏屈者だ。それに遊びもしない。金なら余ってるさ。気にするな」


気にするよ!だってグレアムさんの言い方じゃこれから毎晩ってことでしょ?


「人嫌いのお前にしては珍しいこともあるもんだな。ルーイ、悪いが付き合ってやってくれ」

「良いなら良いけど…」



グレアムさんが何の気まぐれを起したのか、その理由は分からない。
だけどよく考えたら朝晩エサを用意してもらって、おまけに何かにつけおやつを与えられていた前の世界と一緒じゃないかと思い始めて…、僕はそのご厚意にどっぷり甘えることにした。




🐹🐹




人嫌いのお前にしては珍しい。

レイモンドに言われるまでも無く自分でもそう思う。
ルーイの何が気に入ったという訳ではない。彼は年齢の割に見た目も中身も幼いごく普通の子供だ。

強いて言うなら恐らくはただの平民であろう彼の、思いがけず教養のある部分であったり、数少ない友人でさえ聞き流す私の仕事語りを嬉しそうに、また熱心に聞き入る姿だとかを気に入っていると言えばそうなのだろう。

常に誰をも怒らせた不遜な私の物言いや態度をものともせず彼は私を肯定してみせた。未だかつてなかったその反応にまんざらでも無く思うのは当然ではないか。


いずれにしてもだ。

こんな気まぐれもたまには悪くない。その時の私はまだその程度の軽い気持であったのだ。







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