12 / 80
気付かない人
しおりを挟む
真っ先に挨拶へと出向いたのは言わずと知れたおじい様、おばあ様のもと。
「おじいさま、おばあさま、ようこそお越しくださいました。時におじいさま、お加減はいかがですか?」
「うむ。すこぶる良い。心配をかけるな」
「ですが移動は大変でしたでしょう?」
アランブールの領地はここから途中の宿泊もはさみ一週間ほどの距離だ。
おじい様曰く、路面状況の悪い大昔は倍の日数を要したらしい。
「先代、私の父の時代はもっと大変であった。これでも楽になったのだよ」
そうは言っても身につまされるというか…
一週間もの輿移動、体調の良し悪しに関わらず肩は凝るは腰にもくるわ、想像するだけで…
ん?輿?馬車でなく輿?輿とは一体…
ま、そんなことはどうでもいいとして。
「それより今日は僕のためにこのような会を開いていただき感謝いたします」
「うむベルナール、この機会を上手く生かすのだぞ。この日知り合う彼らは生涯に渡ってお前をささえる友となろう」
「…」ニコリ
幼なじみならリオネルで間に合ってるし友ならディディエが居る。さほど遊び相手を欲してはいないと言えばいないが…
この生においての文化や環境は初めて知る世界。孫を見守るつもりで交流をはかるのもまた一興。
「おじいさまの仰る通りです。いろんな方とお話してみますね」
「そうよベルナール。あなたはどうも年齢に比べしっかりしすぎているというか…幼くして母を亡くしたせいかしら…不憫だわ」
「えぇ~、そんなこと無いと思うんですけどぉ~」キュルルン「しっかりしてたらダメですかぁ~」
「もちろんそれは良いことよ。後継者としてこれほど頼もしい事はないわ」
「だがベルナール。子供時代は二度とはやってこないのだ。無邪気に庭を駆けまわるお前を見たくもあるのだよ」
犬かな?
「それよりおじいさま。これが僕の新しい従者、ディーンです。ディーン、御挨拶を」
「はい。アランブール伯爵、お初お目にかかります。ベル様のお役にたてるよう誠心誠意つとめさせていただきますので、どうかお見知りおきを」
「うむ、頼んだぞ」
おじいさまにはパスカルがミレイユの元夫だと言うことは知らせていない。
なのでおじいさまは彼を単に、暴漢に教われ金の玉を失い嘲笑されていた気の毒な王都の職人、としか思っていない。
そもそも伯爵家当主など、下働きと顔を合わすことなどないのが普通だ。連れていったパスカルとも直接会ってはいないだろう。
つまりディディエのこともパスカルの息子とは聞いていても、ミレイユの息子とはご存知ない。
整ったディディエの立ち居振舞いをみて十分満足されたようだ。
「おじいさま、僕もそろそろ領地を見たいです。次の夏にでも遊びに行っていいですか?」
「よしよし来なさい。狩りに連れていってやろう」
狩りかぁ…疲れるなぁ…
「わ、わー嬉しい…」
話を聞いてソワソワするディディエ。そう、領地には父親がいる。
「ディーン、そのときはお供よろしくね」
「は、はい!」
もう少し待ってね。と、言うことで…
「ベル様、向こうにアシル様とミレイユ様がお揃いです」
「ありがとうリオネル、ディーン、さあ行こうか」
噴水わきの一角に二人はいた。
十分でなくとも、ギリ最低限のマナーを覚えたミレイユをアシルは友人とその夫人に紹介し、愉快そうに懇談している。
アシルの投資は僅かだが利益を出しているし、ミレイユはこれで社交界の仲間入りとばかりに有頂天だ。
まさに今がこの世の春とでもいった様子の二人。
けれど奴らはわかっていない。
おばあさまが招待なさった高位貴族の子女及び両親はおじいさまたちの回りを囲み、二人に群がっているのは、あわよくばおこぼれ…と皮算用した、おじいさまに近寄ることも出来ない下位貴族ばかりだ。
そこへ息子の僕、つまり次期伯爵の登場となれば色めき立つのも無理はない。
「お父様」
「ああベルナール、こちらへおいで。おや?後ろにいるのは誰だい?」
「新しい従者のディーンです」
「まあ…」
ミレイユがディディエを見る。伝わる彼の緊張感。
「どちらのご子息かしら?」
前に出たのはリオネル。眉一つ動かさず平然と出任せを言ってのけるリオネルは実に見所がある。
「父の関係筋から申し入れのあったさる商会のご子息ですよ。なかなか魅力的な少年でしょう?」
「そうねリオネル、でもあなたほどではないわ。ホホホ」
ここにきてドンドン上背の伸び始めたリオネルに目をつけるとか…、気持ち悪いんだよ!
「でもそうね…、なんというか、その従者…」
ドキ!
後ろではディディエも同じように息を止めた。
「いいえ、なんでもないわ。気のせいね。ほんのつまらない戯れ言よ」
つまらない戯れ言…、残酷なその一言はむしろディディエをふっきらせたようだ。
「美しいミレイユ夫人、同じくベルナール様にお仕えする身としてなにとぞよしなに」
「あら、可愛らしい挨拶ね」
ばかめ。ミレイユは気付かなかったが、ディディエは「同じく仕える身」つまりお前は所詮メイドだと告げたんだよ!
「もう行きましょうベルナール様」
ほんの十分ほどで退席をうながすリオネルにアシルは不満そうだ。
「まだいいではないか。リオネル、従者ごときが親子の時間を邪魔するのではないよ」
「申し訳ございません。ですがご当主様の意向ですので」
この序列に厳しい貴族社会で当主の意向に逆らえる者など存在しない。アシルは渋々引き下がった。
「やれやれ。終わった終わった。どうだったディディエ」
「…案外平気だった。あそこにいるのは見知らぬ女だ」
「だから言っただろう?私たちがいる限り思慕など募らないと」
「リオネル…。言っとくけど何度言っても兄さんとは呼ばないからな!」
え?リオネル…兄さんって呼ばせようとしてたの?
トクン…
この湧き上がる感情は…なに?
いいや。これはきっと、まるで本当の兄弟のようにじゃれ合う二人が微笑ましいだけだ。そうに違いない。
さて、本日の主たる目的を終え残りの時間。僕はおじいさまの意向にそって子供たちと戯れ続けた。と言うか、戯れを微笑ましく見守り続けた。
テーブルで集めた艶や形の良い石のコレクションをみせびらかしている少年…
ニコニコと一つづつ手に取りそれに相づちを打つ少年…
棒きれを持って騎士ごっこに興じる二人の少年…
トクン…
だめだ。認めよう。
どうも今世に生まれ変わった僕は、対になった少年、という形に一定の感情が揺さぶられるようだ。
「リオネル、この四人には来月の集まりにも招待状を」
「かしこまりました」
「…」ホクホク
ん?え?いや違うよ?
誤解がないよう言っておくが、戦いに余念のなかった二人は将来の騎士候補だし、石を集めていた彼は商売人の、相づちをうっていた彼は鑑定人の素質がある。
上手く導いてあげたいなーって、それだけだよ。
ホントだってば!
「おじいさま、おばあさま、ようこそお越しくださいました。時におじいさま、お加減はいかがですか?」
「うむ。すこぶる良い。心配をかけるな」
「ですが移動は大変でしたでしょう?」
アランブールの領地はここから途中の宿泊もはさみ一週間ほどの距離だ。
おじい様曰く、路面状況の悪い大昔は倍の日数を要したらしい。
「先代、私の父の時代はもっと大変であった。これでも楽になったのだよ」
そうは言っても身につまされるというか…
一週間もの輿移動、体調の良し悪しに関わらず肩は凝るは腰にもくるわ、想像するだけで…
ん?輿?馬車でなく輿?輿とは一体…
ま、そんなことはどうでもいいとして。
「それより今日は僕のためにこのような会を開いていただき感謝いたします」
「うむベルナール、この機会を上手く生かすのだぞ。この日知り合う彼らは生涯に渡ってお前をささえる友となろう」
「…」ニコリ
幼なじみならリオネルで間に合ってるし友ならディディエが居る。さほど遊び相手を欲してはいないと言えばいないが…
この生においての文化や環境は初めて知る世界。孫を見守るつもりで交流をはかるのもまた一興。
「おじいさまの仰る通りです。いろんな方とお話してみますね」
「そうよベルナール。あなたはどうも年齢に比べしっかりしすぎているというか…幼くして母を亡くしたせいかしら…不憫だわ」
「えぇ~、そんなこと無いと思うんですけどぉ~」キュルルン「しっかりしてたらダメですかぁ~」
「もちろんそれは良いことよ。後継者としてこれほど頼もしい事はないわ」
「だがベルナール。子供時代は二度とはやってこないのだ。無邪気に庭を駆けまわるお前を見たくもあるのだよ」
犬かな?
「それよりおじいさま。これが僕の新しい従者、ディーンです。ディーン、御挨拶を」
「はい。アランブール伯爵、お初お目にかかります。ベル様のお役にたてるよう誠心誠意つとめさせていただきますので、どうかお見知りおきを」
「うむ、頼んだぞ」
おじいさまにはパスカルがミレイユの元夫だと言うことは知らせていない。
なのでおじいさまは彼を単に、暴漢に教われ金の玉を失い嘲笑されていた気の毒な王都の職人、としか思っていない。
そもそも伯爵家当主など、下働きと顔を合わすことなどないのが普通だ。連れていったパスカルとも直接会ってはいないだろう。
つまりディディエのこともパスカルの息子とは聞いていても、ミレイユの息子とはご存知ない。
整ったディディエの立ち居振舞いをみて十分満足されたようだ。
「おじいさま、僕もそろそろ領地を見たいです。次の夏にでも遊びに行っていいですか?」
「よしよし来なさい。狩りに連れていってやろう」
狩りかぁ…疲れるなぁ…
「わ、わー嬉しい…」
話を聞いてソワソワするディディエ。そう、領地には父親がいる。
「ディーン、そのときはお供よろしくね」
「は、はい!」
もう少し待ってね。と、言うことで…
「ベル様、向こうにアシル様とミレイユ様がお揃いです」
「ありがとうリオネル、ディーン、さあ行こうか」
噴水わきの一角に二人はいた。
十分でなくとも、ギリ最低限のマナーを覚えたミレイユをアシルは友人とその夫人に紹介し、愉快そうに懇談している。
アシルの投資は僅かだが利益を出しているし、ミレイユはこれで社交界の仲間入りとばかりに有頂天だ。
まさに今がこの世の春とでもいった様子の二人。
けれど奴らはわかっていない。
おばあさまが招待なさった高位貴族の子女及び両親はおじいさまたちの回りを囲み、二人に群がっているのは、あわよくばおこぼれ…と皮算用した、おじいさまに近寄ることも出来ない下位貴族ばかりだ。
そこへ息子の僕、つまり次期伯爵の登場となれば色めき立つのも無理はない。
「お父様」
「ああベルナール、こちらへおいで。おや?後ろにいるのは誰だい?」
「新しい従者のディーンです」
「まあ…」
ミレイユがディディエを見る。伝わる彼の緊張感。
「どちらのご子息かしら?」
前に出たのはリオネル。眉一つ動かさず平然と出任せを言ってのけるリオネルは実に見所がある。
「父の関係筋から申し入れのあったさる商会のご子息ですよ。なかなか魅力的な少年でしょう?」
「そうねリオネル、でもあなたほどではないわ。ホホホ」
ここにきてドンドン上背の伸び始めたリオネルに目をつけるとか…、気持ち悪いんだよ!
「でもそうね…、なんというか、その従者…」
ドキ!
後ろではディディエも同じように息を止めた。
「いいえ、なんでもないわ。気のせいね。ほんのつまらない戯れ言よ」
つまらない戯れ言…、残酷なその一言はむしろディディエをふっきらせたようだ。
「美しいミレイユ夫人、同じくベルナール様にお仕えする身としてなにとぞよしなに」
「あら、可愛らしい挨拶ね」
ばかめ。ミレイユは気付かなかったが、ディディエは「同じく仕える身」つまりお前は所詮メイドだと告げたんだよ!
「もう行きましょうベルナール様」
ほんの十分ほどで退席をうながすリオネルにアシルは不満そうだ。
「まだいいではないか。リオネル、従者ごときが親子の時間を邪魔するのではないよ」
「申し訳ございません。ですがご当主様の意向ですので」
この序列に厳しい貴族社会で当主の意向に逆らえる者など存在しない。アシルは渋々引き下がった。
「やれやれ。終わった終わった。どうだったディディエ」
「…案外平気だった。あそこにいるのは見知らぬ女だ」
「だから言っただろう?私たちがいる限り思慕など募らないと」
「リオネル…。言っとくけど何度言っても兄さんとは呼ばないからな!」
え?リオネル…兄さんって呼ばせようとしてたの?
トクン…
この湧き上がる感情は…なに?
いいや。これはきっと、まるで本当の兄弟のようにじゃれ合う二人が微笑ましいだけだ。そうに違いない。
さて、本日の主たる目的を終え残りの時間。僕はおじいさまの意向にそって子供たちと戯れ続けた。と言うか、戯れを微笑ましく見守り続けた。
テーブルで集めた艶や形の良い石のコレクションをみせびらかしている少年…
ニコニコと一つづつ手に取りそれに相づちを打つ少年…
棒きれを持って騎士ごっこに興じる二人の少年…
トクン…
だめだ。認めよう。
どうも今世に生まれ変わった僕は、対になった少年、という形に一定の感情が揺さぶられるようだ。
「リオネル、この四人には来月の集まりにも招待状を」
「かしこまりました」
「…」ホクホク
ん?え?いや違うよ?
誤解がないよう言っておくが、戦いに余念のなかった二人は将来の騎士候補だし、石を集めていた彼は商売人の、相づちをうっていた彼は鑑定人の素質がある。
上手く導いてあげたいなーって、それだけだよ。
ホントだってば!
747
あなたにおすすめの小説
不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しい私の話
あんど もあ
ファンタジー
王太子が真実の愛とか言って婚約破棄を宣言。廃太子と決まりました。おかげで妹の私に王太子になれと言われたのですが、不器量で可愛げが無くて僻みっぽくて小賢しくて政略結婚の役にも立たないと言われていた私がですか?
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜
あめとおと
恋愛
王太子から「魔法が何も起こらない役立たず」と断罪され、婚約破棄された伯爵令嬢リリア。
追放された彼女の能力は――
魔法の“意味”を読み解き、術式そのものを理解する力《魔力翻訳》。
辺境の魔導研究所でその才能を見出された彼女は、
三百年解読不能だった古代魔法を次々と再生させていく。
一方、彼女を失った王都では魔法事故が連鎖。
国家結界すら崩壊寸前に――。
「戻ってきてほしい」
そう告げられても、もう遅い。
私を必要としてくれる場所は、
すでに別にあるのだから。
これは、役立たずと呼ばれた令嬢が
本当の居場所と理解者を見つける物語。
【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました
あまぞらりゅう
恋愛
婚約者の王太子を、いつも待ち続けてきたシャルロッテ侯爵令嬢。
だがある日、彼女は知ってしまう。彼には本命の恋人がいて、自分のことを都合よく放置していただけなのだと。
彼女が待つのをやめた瞬間、追ってきたのは隣国の皇太子だった。
※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています
★小説家になろう2026/1/29日間総合8位異世界恋愛7位
★他サイト様にも投稿しています!
『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~
スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」
聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。
実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。
森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。
「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」
捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる