僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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育ちゆく絆

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ディディエが僕の元へ来てからあっという間に一年がたつ。

来週アランブール王都邸で行われるガーデンパーティ。これは僕に歳の近い友達をつくるため、アシルに代わって領地のおばあさまが企画してくださったものだ。当然当日はお二人ともいらっしゃる。

おじいさまにはセドリックからディディエの父親であるパスカルの事情は説明済みだ。つまりディディエの裏素性もご存知ってね。

ようやく読み書きにも不自由なくなり、お茶の種類も香りであてられるまでになったディディエ。
そこで僕はこの機会に彼を従者デビューさせるつもりでいる。

「それはともかく友達ねぇ…」

元服も近いリオネルや同じ志を持つディディエはともかく、無邪気な少年少女と今更何を話せば?
まあ小さい子は孫のようで可愛いともいえるが…

…って…
ん?げ、元服?僕は何を口走った?

ま、それはいいとして。

「別にいらないのにな。二人がいれば僕は満足だよ」
「おや?では私とディディエ、どちらがベル様をより満足させられているでしょうか」
「うーん、盾になりそうなのがリオネル、矢になりそうなのがディディエ。どっちも大事だよ」
「盾…ですか」
「盾の名は知恵って言うんだよ。今はセドリックがその場所にいるけど彼はあくまで財務の盾だからね。社交の場には連れ歩けない」

善良で頭は良いがどこか野暮ったく流行に疎い、というか関心のないセドリック。社交をおろそかにするこの手のタイプは信頼されても敬意は払われない。悲しいかな、それが社交界なんだよね…
そこへいくと、早々に従者として召し上げたリオネルは相当磨かれている。
新しくあつらえた趣味の良い服。オルガ夫人の手による整髪。知的さが隠れない彼はどこから見ても涼やかな貴公子だ。あと五年もすればそこらじゅうの令嬢からモテモテだろう。

「ではせいぜいあなたの言う財を溜め込むとしましょう。父に負ける気はありませんよ」
「期待してるよ」

パチン

不敵に笑うリオネル。彼はどうも母オルガ夫人似のようだ。

「それにしてもここまで色んな紆余曲折があったなぁ…」シミジミ…
「ええまったく。手のかかる少年です、ディディエは」

まさかディディエの躾に一年かかるとはね。庶民舐めてたわ。

「あまりのお行儀の悪さにあの品の良いオルガ夫人がマジギレしたのには驚いたよ」
「研究用アルコールを水と間違え飲んでしまった時には父が真っ青になっていましたね」
「大先生の被検体にされて身体が紅白の水玉になった時も焦ったよねー」

あ、あれは大先生のやらかしだった。

「ところでその本人の具合はどう?」

パチン

「祖父の見立てでは知恵熱だそうです。緊張でもしたのでしょうか、意外と情けない」
「まあまあ。五年以上会ってない母親だよ?無理ないって。心中複雑だろうし」

パチン

「ところで先ほどから何をなさっているのです?」
「ヘチマの収穫」
「ヘチマですか?」
「知らない?これ最近この国に入ってきた植物なんだって。園丁が珍しがって仕入れてきたんだよ」

珍しいもの、最新のものを手に入れるのは貴族の嗜みである。

「その実をどうされるのです?」
「ローズマリーの蒸留酒から思いついたんだけどセドリックに頼んでこれからヘチマ水を抽出して化粧水として売ってもらおうかと思って」

女性相手の商売は儲かると相場は決まっている。かと言って貴族が商売をするのは憚られる。あくまで僕は出資者となるのが望ましい。そして儲かればセドリックと折半してウハウハ…

「何故その実から化粧水が採れるとお思いなのですか?」
「え」

はて…、そう言われれば何故だろう?でも何故か知ってたというか…

「勘かな」
「そうですか。まあ父のことです。ぬかりなく祖父と臨床を行うでしょうが」

後にセドリックはこれで一躍時の人となるのだが、それはまた別のお話。

「さ、ディディエの様子を見に行こうか」


やってきたのは離れに用意されたディディエの部屋。
従者とは主人の側近くに部屋を持つものだが、その役目はリオネルが担うため、彼は今後も離れからの通いとなる。
これは万が一を警戒した予防策ね。

「ディディエ、熱は下がった?」
「まあ…」
「どうしたの?不安?」
「違う。違うけどただ…」
「言ってごらんよ」

日頃は憎まれ口の多い意地っ張りのディディエがみせる年相応な表情。これはこれでなかなか…

「バレたらマズいってのはわかってる。けど全然気付かれないのも…」
「ああ」

なるほど。そりゃ複雑だ。
どんな親でも親は親。父親を苦しめ裏切り続けた母、ミレイユを彼が憎んでいるのは本当だ。だけど心の奥底に残った一筋の思慕。それが彼を苦しめるのだろう。

「ディディエ、これなーんだ」
「なんだそれ」
「オルガ夫人がディディエにって。特製のスープだよ」
「俺のために…」

「それからこれを」
「リオネルこれは?」
「熱さましだ。父に教えてもらい私が処方した」
「…」

意外そうに眼を見開くディディエ。何だかんだでリオネルは面倒見がいい。

「…手のかかる弟だ」
「こんな兄貴もった覚えはないけどな」

ピン!

「いて」
「そういうこと言わないの。それからこれは僕から」
「バラ?」

ここへ来る道すがら手折ってきた一輪の薔薇。

「オレンジの薔薇には温かな絆っていう意味があるんだよ」

僕にとって父とは言ってもほとんど赤の他人に等しいアシルとはワケが違う。母の戻らぬあの狭く薄暗い長屋で幼い彼はどんな想いを噛みしめてきたのか。

その全て理解してはやれないけれど、せめて…

「いい。「血は水よりも濃い」なんて言葉もあるけど本当に人と人を結びつけるのは血じゃなく時間だ。共有し共感し互いを慈しんだ時間。ディディエがミレイユと過ごした四年、僕たちとここで過ごした一年、どっちが本物の絆かな」

「私はあんな薄情な女になど負けてはいなと自負しているけどね」
「…そうだな…」
「これほど繊細とはね。意外だったよ」
「うるせー!」



翌日にはすっかり熱の下がったディディエ。彼は残り数日、最終確認を怠らない。

身なりを整え…振る舞いを復習し…言葉づかいを自分自身に言い聞かせ…ようやく本館デビューの日がやってきた。

ディディエとミレイユは四歳の時から会っていない。
ディディエはあと数ヶ月で二桁となる。

幼児から少年へと変貌を遂げたディディエ。まして、ミレイユの知る庶民代表のクソガキなどここにはいない。いるのは、貴公子…とまではいかなくとも、一目でブルジョア階級と見てとれる少年だ。

「ディディエ、本館では君をディーンと呼ぶよ」
「おう」
「おうぅ?」
「……かしこまりました」
「リオネル」
「はい」
「全面的にフォローよろしく」
「お任せください」

ザッ!

「よし」

敵は本館にあり!









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