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旅行の準備
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更に月日は流れ、もう半年ほどで僕は七歳になる。
そしてこの七歳の誕生日からは大々的にパーティを開催するんだとか。
貴族の親子とは子供と大人の区別がはっきりしている。おぼろげな記憶ではあるが、それは前世の親子に比べても非常に顕著だ。
よちよち歩きの幼児など『人間未満の存在』として大して尊重されないのがこの社会だ。
僕は伯爵家の後継者であり、人一倍しっかり者の口達者だったことから、離れを貸し出したのを機会に、慣例よりも早くに本館へ戻り大人たちと生活を共にしていた。
だが本来なら七歳ぐらいまでは養育棟であったり、同一屋敷内でも厳密に居住エリアを区別したりと、大人たちとは完全に分かれて生活するのが当たり前だ。
その『人間未満』が『小さな人間』へと昇格するのがこの七歳という節目である。
物事の分別が徐々にではあるが付き始め、まともな会話とマナーが可能となり、体力が伴い病気をしにくくなる、それがこの年頃前後なのだ。
高位の大貴族であれば後継者には傅役、チューターなどをあてがい屋敷内で貴族教育を行っていくものだが、下位貴族の息子などは七歳ごろから上位の貴族家や騎士団などへ奉公に出ることもある。
この辺りは前世的にもなんとなくわかり味が深い。
とまあ、次期当主のそんな記念すべき年齢を祝う宴とは当然盛大なものになる。
そしてこれは王都ではなくおじいさまの居る領地で開かれるのだ。
「ここで二人に残念な報告があります」
「なんでしょうベル様」
「なんかあったのか?」
ここは三階にある僕の私室。
僕の部屋は僕のお達しにより女人禁制の聖域となっている。
とっくに僕は乳母離れしているし、二人の従者に頼めば身の回りの不便はない。つまりメイドは必要ない。
この部屋に清掃以外で入れるのは従者の二人とセドリックに大先生、執事のシメオン、あと余分だがアシルである。
と言ってもアシルがわざわざ三階にまで上がってくることはほとんどない。用があれば食事かティータイムで話せば済む話だ。だからほんとに聖域なんだよね。
「近々開かれる僕の誕生日パーティーですが、アシルの同行が決定しました」
「まあ…父親ですしね」
「…あの女は?」
ディディエのこのあの女呼びよ。
「彼女はアシルの妻であって僕とは何ひとつ関係ありません。おじいさまからは呼ばれてないです」
「ならいい」
「ちっともよくないよ。アシルなんかついてきたら楽しい気分が台無し。それにアシルは例のあの馬鹿な投資話を近隣領の息子たちに勧めるかもしれない。そんなことになったらおじいさまにご迷惑がかかる。リオネル、何とかならないかな」
「そうですね…、では一服盛りましょうか?」
サラっと言ったな…
「盛るって…」
「大したものじゃありませんよ。せいぜい出発の朝腹を下すような…。父の試薬があるのでちょうどいい」
確かにそれは手っ取り早く確実だが…
うーん、実直な大先生、堅物なセドリックがそれを良しとするとはとても思えない。
「個人的には賛成だけどバレたら面倒だから却下」
「そうですか…」
いや、ガッカリされても…
「こえーよリオネル。わかった。俺が何とかする」
「どうする気?」
「父さんが言ってたけどあの女は自分を棚に上げてひどいヤキモチ焼きだとか」
「ほほう。それで?」
「アシルがアランブールで浮気しようとしてるって思わせれば勝手にあの女が引き留めるさ」
「確かに!」
ということで、ここはメイドたちの出番だ。
三階が聖域である以上、細かなやり取りをメイドと交わすのは二人の従者だ。
特に下っ端のディディエには彼女らとの接点が多い。
彼はそれはさりげなくメイドたちの前で呟いた。
「ベル様が言うには領地の女使用人は美人ばかりらしいな」
「なによディーン!あたしたちが美人じゃないって言いたいわけ?」
「違うって!ただベル様がアシル様のことを心配してらしたから…、「おじいさまの屋敷で失礼が無きゃいいけど」って」
「ああ!そうよね…」
「あのアシル様だものね…」
アシルの女癖の悪さを知らない者などこの屋敷に存在しない。
特にミレイユは自分自身が一番よくわかっているだろう。
娯楽に飢えた彼女らはどんな話題であろうと必ず食いつく。本日、この話がご飯のおかずとなるのは請け合いだ。
当然そこにはミレイユ付きのメイドたちもいる。
彼女らは心配と称しミレイユにそれを告げるだろう。なぜって?もちろん彼女の反応を伺い見るために。
もとメイド仲間であったミレイユ。
アシルの妻となったとたん、いきなり横柄になった彼女は元仲間たちから大変嫌われている。
もっとも彼女たちは訓練された伯爵邸の使用人、顔にも態度にも出したりしないけど…影ではねえ?推して知るべし。
そして一週間後。
朝食の席にいるのは顔にも腕にも引っ掻き傷をつくったアシルだ。
「おとうさま、どうしたんですかその傷」
「いや別に…」
「バラが咲き誇る花園にでもいたのではないかしら」ジロ
「…」タラリ
なるほど。すでに既成事実があったらしい。
となると、そこへ畳み掛けるかのようなアシルの単独行動を果たしてミレイユが許すだろうか?
「ところでベルナール、アランブールへの訪問だが…、子供のお前を一人で向かわせるのは忍びないが私はここへ残っても構わないだろうか」
「…いいですけど…近隣領の方々と知り合いになれるって喜んでらしたじゃないですか?どうしたんですか?」
「いやちょっとね…」
「では僕の不在時はセドリックに本館へ詰めてもらいます。何かあれば彼に仰ってくださいね」
「連れて行かないのか…」
「ええ。僕には頼りになる二人の従者が居ますし」
誰かさんを野放しには出来ないからね。
そしてこの七歳の誕生日からは大々的にパーティを開催するんだとか。
貴族の親子とは子供と大人の区別がはっきりしている。おぼろげな記憶ではあるが、それは前世の親子に比べても非常に顕著だ。
よちよち歩きの幼児など『人間未満の存在』として大して尊重されないのがこの社会だ。
僕は伯爵家の後継者であり、人一倍しっかり者の口達者だったことから、離れを貸し出したのを機会に、慣例よりも早くに本館へ戻り大人たちと生活を共にしていた。
だが本来なら七歳ぐらいまでは養育棟であったり、同一屋敷内でも厳密に居住エリアを区別したりと、大人たちとは完全に分かれて生活するのが当たり前だ。
その『人間未満』が『小さな人間』へと昇格するのがこの七歳という節目である。
物事の分別が徐々にではあるが付き始め、まともな会話とマナーが可能となり、体力が伴い病気をしにくくなる、それがこの年頃前後なのだ。
高位の大貴族であれば後継者には傅役、チューターなどをあてがい屋敷内で貴族教育を行っていくものだが、下位貴族の息子などは七歳ごろから上位の貴族家や騎士団などへ奉公に出ることもある。
この辺りは前世的にもなんとなくわかり味が深い。
とまあ、次期当主のそんな記念すべき年齢を祝う宴とは当然盛大なものになる。
そしてこれは王都ではなくおじいさまの居る領地で開かれるのだ。
「ここで二人に残念な報告があります」
「なんでしょうベル様」
「なんかあったのか?」
ここは三階にある僕の私室。
僕の部屋は僕のお達しにより女人禁制の聖域となっている。
とっくに僕は乳母離れしているし、二人の従者に頼めば身の回りの不便はない。つまりメイドは必要ない。
この部屋に清掃以外で入れるのは従者の二人とセドリックに大先生、執事のシメオン、あと余分だがアシルである。
と言ってもアシルがわざわざ三階にまで上がってくることはほとんどない。用があれば食事かティータイムで話せば済む話だ。だからほんとに聖域なんだよね。
「近々開かれる僕の誕生日パーティーですが、アシルの同行が決定しました」
「まあ…父親ですしね」
「…あの女は?」
ディディエのこのあの女呼びよ。
「彼女はアシルの妻であって僕とは何ひとつ関係ありません。おじいさまからは呼ばれてないです」
「ならいい」
「ちっともよくないよ。アシルなんかついてきたら楽しい気分が台無し。それにアシルは例のあの馬鹿な投資話を近隣領の息子たちに勧めるかもしれない。そんなことになったらおじいさまにご迷惑がかかる。リオネル、何とかならないかな」
「そうですね…、では一服盛りましょうか?」
サラっと言ったな…
「盛るって…」
「大したものじゃありませんよ。せいぜい出発の朝腹を下すような…。父の試薬があるのでちょうどいい」
確かにそれは手っ取り早く確実だが…
うーん、実直な大先生、堅物なセドリックがそれを良しとするとはとても思えない。
「個人的には賛成だけどバレたら面倒だから却下」
「そうですか…」
いや、ガッカリされても…
「こえーよリオネル。わかった。俺が何とかする」
「どうする気?」
「父さんが言ってたけどあの女は自分を棚に上げてひどいヤキモチ焼きだとか」
「ほほう。それで?」
「アシルがアランブールで浮気しようとしてるって思わせれば勝手にあの女が引き留めるさ」
「確かに!」
ということで、ここはメイドたちの出番だ。
三階が聖域である以上、細かなやり取りをメイドと交わすのは二人の従者だ。
特に下っ端のディディエには彼女らとの接点が多い。
彼はそれはさりげなくメイドたちの前で呟いた。
「ベル様が言うには領地の女使用人は美人ばかりらしいな」
「なによディーン!あたしたちが美人じゃないって言いたいわけ?」
「違うって!ただベル様がアシル様のことを心配してらしたから…、「おじいさまの屋敷で失礼が無きゃいいけど」って」
「ああ!そうよね…」
「あのアシル様だものね…」
アシルの女癖の悪さを知らない者などこの屋敷に存在しない。
特にミレイユは自分自身が一番よくわかっているだろう。
娯楽に飢えた彼女らはどんな話題であろうと必ず食いつく。本日、この話がご飯のおかずとなるのは請け合いだ。
当然そこにはミレイユ付きのメイドたちもいる。
彼女らは心配と称しミレイユにそれを告げるだろう。なぜって?もちろん彼女の反応を伺い見るために。
もとメイド仲間であったミレイユ。
アシルの妻となったとたん、いきなり横柄になった彼女は元仲間たちから大変嫌われている。
もっとも彼女たちは訓練された伯爵邸の使用人、顔にも態度にも出したりしないけど…影ではねえ?推して知るべし。
そして一週間後。
朝食の席にいるのは顔にも腕にも引っ掻き傷をつくったアシルだ。
「おとうさま、どうしたんですかその傷」
「いや別に…」
「バラが咲き誇る花園にでもいたのではないかしら」ジロ
「…」タラリ
なるほど。すでに既成事実があったらしい。
となると、そこへ畳み掛けるかのようなアシルの単独行動を果たしてミレイユが許すだろうか?
「ところでベルナール、アランブールへの訪問だが…、子供のお前を一人で向かわせるのは忍びないが私はここへ残っても構わないだろうか」
「…いいですけど…近隣領の方々と知り合いになれるって喜んでらしたじゃないですか?どうしたんですか?」
「いやちょっとね…」
「では僕の不在時はセドリックに本館へ詰めてもらいます。何かあれば彼に仰ってくださいね」
「連れて行かないのか…」
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誰かさんを野放しには出来ないからね。
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