僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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意趣返し

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一か月とちょっとぶりに戻ったアランブールの王都邸では、執事のシメオンが申し訳なさそうな顔で僕を待っていた。

「申し訳ございませぬベルナール様。少々目を離した隙に納戸からいくつかの美術品が消失してございます」
「憲兵には?」
「いえ…」

つまり犯人はアシルか。

セドリックにはある程度までの投資金は融通するよう伝えてある。おかげでアシルは高利の金貸しには手をださなくなっている。
わざわざ美術品を売り払ったと言う事は…使い道はミレイユの贅沢品に違いない。

「流出先は?」
「口にするのも憚られる卑しい異国の美術商にございます」

なるほど。一応足がつかないよう知恵を絞ったのか。

あれは一応僕の父親である。何かあればアシルの醜聞は僕の不名誉になる。
そして僕の不名誉はおじいさまの不名誉。だからシメオンはアシルを見逃したうえで、こうして僕に報告をあげているのだろう。

「やれやれ。消えた品目は分かってるね?」
「もちろんでございます」
「じゃあ必要なものは買い戻して」
「かしこまりました」

護るべきは伯爵家の名誉。アシルの借財を支払い続けたジーンはこんな気持ちだったのか…。うーん、敵は自陣にあり!

「シメオン、素性の知れない古美術商と繋がられても迷惑だ。いっそアランブールご用達の美術商を僕の差し金と分からないようアシルのもとに差し向けて」
「かしこまりました」

この場合売るにせよ買うにせよ監視下で泳がせた方がいいだろう。

僕は今、全力でアシルを僕に依存させていた。

何故ならいずれ来たるその時、財も、信用も、人脈も、ジーンに寄生して手に入れたものはアシルのもとに何一つとして残らないように…

…そう。ミレイユすらね。



さて。所変わってここはいつもの自室。三階にある僕の聖域だ。

「ふー、帰る早々疲れたよ。ただでさえ窮屈な馬車で疲れてるのに」

「一番若くて小柄なあなたが何を仰るんですか」
「そうだぜ、座席で横になって寝てたじゃないか」

「そうだっけ?過去のことは忘れたな。そんなことよりさぁ…」

帰路の道中、ディディエは離れから本館に居室を移したいと願いでていた。
従者とは本来主人の側近くに部屋を持ち、何があっても即時対応するものである。
だからこそリオネルの部屋は扉一枚隔てた続き間で、何かあってもベルを鳴らせば秒で駆けつける。
ディディエの部屋が離れなのはミレイユに息子だとバレないよう、警戒してのことだ。

「いいだろ?俺だってれっきとした従者なんだぜ。これだけたってもあの女は気付かないんだし大丈夫だって!部屋ならあるんだろ?」

「そりゃ山ほどあるけど…」

いきなり使命感に燃えるディディエ、なにが彼を駆り立てるのか…

「そばにいないと分が悪いだろ!」
「誰に対して?何の分が?」
「ふっ、色気づいているんですよ」

え…?何一つ答えになってないんだけど…

「ま、まあいいや…、本来そういうものだし」

今まではディディエが子供だからという理由でとおしてきたが、そろそろ本館の使用人たちから疑問が出る頃だろう。
だが、続き間の従者部屋は一つ…

「リオネル、向かい側に部屋用意してあげて」

「はー…、離れで大人しくしていればいいものを…」

「何か言った?」
「いえ別に。ディディエ、こっちだ」

「ちぇ!向かいかよ」
「悔しければ第一従者になるがいい」
「すぐに追い抜いてやる!」

喧嘩するほど仲がいい、ってね。

「なあなあ、夜遊びにいってもいいか?」
「いいけど…」

まだまだ子供だなあ。

そしてその日の晩、僕のベッドでうっかり眠ってしまったディディエだが、どう考えてもあれは狸寝入りだ。
主人である僕の寝具は最高級品。その寝心地たるや気持ちはわかるけど…
結局リオネルに蹴りだされていたのはご愛敬ってね。


その翌日、お土産を持って訪ねた離れまで、わざわざ陳情にやってきたのは古参のメイド数名である。

「ベルナール様!もう私たち我慢の限界です!あの女を何とかしてくださいませ!」

「何があったの?」

「ベルナール様が不在の間あの二人ときたら我が物顔で…」
「アシルさまはまだいいのですわ。あれでもベルナール様のお父上ですもの。ですがミランダ…様は違います。あの方は何を根拠にこの屋敷であのような振る舞いをなさるのでしょう」
「本物の貴婦人でもあるまいに…滑稽ですわ!」

なるほど。
普段は僕の存在が抑止力となりでかい顔出来ない夫婦が、僕の不在をいいことにやりたい放題だったと。

職場環境の改善を約束して彼女らを仕事に戻すが、ディディエも何かに気付いていたようだ。

「あー、俺も思った。なんかあの女妙にイライラしてないか?」
「ふん、どうせまたアシル様が浮気でもしたのでしょう」

「ふふん、それだけじゃないかもね」
「と言うと?」

ミレイユは僕の仕掛けた地味な妨害工作により、思い描いた社交界での立場が、思いのほかうまく作れない事に焦りと不安を感じているのだろう。
それが使用人への横暴な振る舞いにつながっているのだ。

「妨害って…何したんです?」
「えー?ティーパーティーで友達になった彼らに事実を説明しただけだよ」

アシルとミレイユはジーン亡きあと再婚している。そしてジーンは病死だ。
一見すると彼らの婚姻に醜聞の余地などあまりないと思われがちだが…

純粋な心を持つ純粋な少年たちは曇り無き瞳のまま僕にこう言った。

「お父上はベルナール様のためにご再婚なさったのですってね。お優しいことです」

そこで僕は同じく邪気のない清らかな心でこう答えた。

「そうですね。不慮の事態に備えてお母様の存命時からメイドと仲を深めておかれるとは…、さすがは僕のお父様、大した先見の明です。感心しました」

その後帰宅した彼らが両親に何をどう伝えたかは僕の預かりしらぬところである。

「ぷっ!いいなそれ!」
「なるほど。ご婦人方はすっかりご存知と言うわけですね」

不貞行為は婦人のもっとも嫌う行為だ。ミレイユの評価は地を這うようなものだろう。

…実のところ僕はミレイユと積極的に関わるつもりはない。あれはあくまでディディエのもの。
だが、薬を隠したミレイユにはバチが当たってしかるべきだ。。

どれほどがんばったところでミレイユの欲望が満たされることはない。

使用人たちから羨望の眼差しで崇められることも、貴婦人として華々しく社交界に出入りすることも…、最新のドレスや宝石などの贅沢ですらも。

ミレイユが知るアシルの豪遊はアシルに首ったけだったジーンあってのこと。今のアシルがミレイユにさせられる贅沢なんかたかが知れている。ミレイユは今頃さぞ当てが外れたと地団太を踏んでいる事だろう。

男にとって大事な宝を奪ったミレイユ。そんな女に女の大事な宝を手にする資格はない。

そう。愛する男すらね…




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