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破滅の音
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日々紡がれる主従の絆。僕は充実した毎日を送っていた。
一足先に成人の儀を終えたリオネル。
学習熱心な彼はそれが仇となり眼鏡をかけ始めている。
その姿はまさに思い描いた通り!着々と知的な青年に仕上がりつつある。
ククク…あの顔が愉悦に歪むのか…
そして更に背を伸ばし幼さの抜けつつあるディディエ。
相変わらず所作が豪快なのは変わらないけど、だがそこがいい。
未完成が完成品という、なんとも理想的な若衆になっている。
ククク…イヤよイヤよも好きのうち…
日々是眼福…
アランブールのおじいさまは、僕が十六になったらまずは従属爵位である子爵位をお授け下さると言う事だ。
これは儀礼称号であり、僕がいずれアランブールを受け継ぐことは変わらない。
何が言いたいかというと、十六になれば僕はれっきとした主人になると言う事だ。今のような仮初の主人(真の雇用主はおじいさまだからね)じゃない、本物の主人に。
その時こそ満願成就!リオネルとディディエを寝所へと誘い、衆道の契りを結ぶ時だ!
「ククク…」
「ご機嫌ですねベル様」
「いやもう。何もかもが順調すぎて」
「奇遇ですね。私もですよ」
「偶然だな。俺もだぜ」
「ククク…」
「ふふふ…」
「ははは…」
笑いの絶えない穏やかな日々。
さて、そんな毎日をもうひとつ豊かにする刺激剤、それがアシルである。
「だからねベルナール、今年の夏だがたまには親子で避暑に出掛けないか。友人がとても良い場所にお誘い下さったのだよ」
「よい場所?」
「国境にあるハウルの古城だそうだ」
「ああ。知ってます」
なんでも、困窮したハウル伯爵領の当主は朽ちたその古城を安くない賃料で避暑地として貸出しているらしい。そして自らは夏の間を王都で過ごす。実に賢いやり方だ。
……ふっ。
なーんてね。これは偶然ハウル伯爵と知り合った、この僕が彼に授けた方策である。
「とても景色の良い所だとは聞いていますが…」
「お前は当主になる勉強をしているのだろう?私の友人には爵位を受け継いだ者も多い。勉強になるのではないかい」
実に馬鹿馬鹿しい。アシルの友人なんて例の頭の悪い投資がらみしかないじゃないか。
仇討ちを誓った五歳の冬。僕はアシルからアランブールの信用で得た人脈を根こそぎ奪ってやろうと考えていた。
だがしかし…
なんのことはない。僕が手を出すまでもなかった。と言うか、手を出す暇がなかった。
何故なら考えなしのアシルは誰彼構わず例の投資話を吹聴し誘っていたからだ。
思慮分別のある貴人たちがあんな胡散臭い話に飛び付くはずがない。
彼らは由緒正しい会員制の社交クラブで、上級の学びを経た見識の高い意見を交わしあい、投資と言えば利幅は少なくとも信用のおける株であったり、または社会貢献に繋がる形のものだ。
一攫千金、などといった品位の低い投資になど興味は示さない。そんな話に乗るのは同じ穴のムジナしかいない。
高貴な彼らは常にアシルを冷ややかな目で見つめていた。
そう、アシルは自ら信用を台無しにするよう振舞っていたため僕の仕掛けなど必要としなかったのだ。
更に愉快なのは、アシルは自分を相手にしない貴族たちを「頭の固い時代遅れの頑固者」と言い捨て、相手にされていないのではなく自分が相手にしていないのだと考えていたことだ。
おかげで彼は、比較的下位の若年層が集うクラブに入り浸り、おじいさまの人脈とは別の人脈を形成していた。
その裏で僕は、ご婦人相手の化粧品販売網や、偶然とはいえ開発してしまった精力剤の販売網を確立するため、七つを過ぎたあたりからリオネル親子を伴い、ちょいちょい由緒正しい社交クラブに出入りしていた。
はじめはアランブールの孫息子相手に、「おやおや社会勉強かい?」「幼いのに大したものだ」と微笑ましい目を向けていた彼らだが、僕の掲げる〝三方良し”の商売理念、もとい貴族理念、〝お家良し、領民良し、国良し”という、高い理念に基づく様々な形の実践的な提言を受けるにつけ、今では「アランブールの小さな生き字引」と一目置かれるまでになっている。(前出のハウル伯爵ともここで知り合ったんだよ)
よってアシルの評価はアランブールに針の穴ほどの影響も及ぼしていない。念のためお知らせしておこう。
本題に戻って、つまりその友人に会ったところで何の参考にもならない。
「お父さまだけで行って来たらいいじゃないですか。ミレイユ夫人を同伴して。ほら、ミレイユ夫人ってば相変わらず友人造りに苦戦してるみたいだし」
それでもニ、三人の、同じような境遇の夫人と知り合いになったミレイユ。が、類は友を呼ぶ。同じタイプの女性が三人も集まれば大概のことはろくなことにならないと相場は決まっている。
「ミレイユか…、私の友人は独身者が多いのだよ」
「でも古城だなんて喜びますよ」
「それはそうだが…」
僕はこの夏、領地に顔をだして稲作の進捗状況を確認したいと考えていた。そこから米ぬかの販売経路も確立しなければならない。
だが、昨年も一度領地へ出向いたのだが、やはり屋敷を留守にするたびメイドたちから苦情が殺到する。
こればかりはどうしたものかと考えていた僕にとって、アシルがミレイユを伴い屋敷を留守にするならまさに儲けもの。
「彼らは君と話したがっているのだよ。なんでも今までにない大きな投資話があるらしい。非常に有益な話だから是非君に直接と」
ああ…なるほど…
詐欺師たちはついに最後の大回収にでたらしい。
こういった投資話の仕組みとはこうだ。
出資者から集めた資金を配当金に充て、まるで儲けが出ているかのように見せかけ新たな出資者を募るが、こういうものは極めて一部の、上の人間しか利益を得ないと相場は決まっているものだ。
そろそろ配当が滞り始める頃だろう。そうすれば自ずと下の出資者たちは疑念を抱き始め、ニ、三年内に大騒動となる…
その投資会社はその前にドカンと金を集め、直前にとんずらを決め込むつもりなのだ。
僕と言う巾着袋を持つアシルはそいつらの上顧客。だがもっと巨額を引き出すために直接話をしたいと言いだしたわけか…
うん。話を聞くのも娯楽とは思ったが…却下だ。
「おとうさまが僕の代わりに話しを聞いて来てください。その代わり旅費とミレイユ夫人のお小遣いは僕が出します。そうだ!ミレイユ夫人のお友だちも招待なさっては?」
「ほう?友人もかい?」
「そうすればお父さまの面倒は軽減するでしょう?いかがですか?」
「いいのかい?ではお言葉に甘えよう」
「ええどうぞ」
いつも思うが、僕の言葉を疑ったことがないアシルはもしかして素直なのだろうか?
ああそうそう。
ここで補足だが、僕がアシルに貸し付けているそこそこ大きな額面は、全て僕の眼力で選んだ先物取引により得た余録の財。
ジーンの遺産は増えこそすれ一銭たりとも減らしてはいないことをお知らせしておこう。
一足先に成人の儀を終えたリオネル。
学習熱心な彼はそれが仇となり眼鏡をかけ始めている。
その姿はまさに思い描いた通り!着々と知的な青年に仕上がりつつある。
ククク…あの顔が愉悦に歪むのか…
そして更に背を伸ばし幼さの抜けつつあるディディエ。
相変わらず所作が豪快なのは変わらないけど、だがそこがいい。
未完成が完成品という、なんとも理想的な若衆になっている。
ククク…イヤよイヤよも好きのうち…
日々是眼福…
アランブールのおじいさまは、僕が十六になったらまずは従属爵位である子爵位をお授け下さると言う事だ。
これは儀礼称号であり、僕がいずれアランブールを受け継ぐことは変わらない。
何が言いたいかというと、十六になれば僕はれっきとした主人になると言う事だ。今のような仮初の主人(真の雇用主はおじいさまだからね)じゃない、本物の主人に。
その時こそ満願成就!リオネルとディディエを寝所へと誘い、衆道の契りを結ぶ時だ!
「ククク…」
「ご機嫌ですねベル様」
「いやもう。何もかもが順調すぎて」
「奇遇ですね。私もですよ」
「偶然だな。俺もだぜ」
「ククク…」
「ふふふ…」
「ははは…」
笑いの絶えない穏やかな日々。
さて、そんな毎日をもうひとつ豊かにする刺激剤、それがアシルである。
「だからねベルナール、今年の夏だがたまには親子で避暑に出掛けないか。友人がとても良い場所にお誘い下さったのだよ」
「よい場所?」
「国境にあるハウルの古城だそうだ」
「ああ。知ってます」
なんでも、困窮したハウル伯爵領の当主は朽ちたその古城を安くない賃料で避暑地として貸出しているらしい。そして自らは夏の間を王都で過ごす。実に賢いやり方だ。
……ふっ。
なーんてね。これは偶然ハウル伯爵と知り合った、この僕が彼に授けた方策である。
「とても景色の良い所だとは聞いていますが…」
「お前は当主になる勉強をしているのだろう?私の友人には爵位を受け継いだ者も多い。勉強になるのではないかい」
実に馬鹿馬鹿しい。アシルの友人なんて例の頭の悪い投資がらみしかないじゃないか。
仇討ちを誓った五歳の冬。僕はアシルからアランブールの信用で得た人脈を根こそぎ奪ってやろうと考えていた。
だがしかし…
なんのことはない。僕が手を出すまでもなかった。と言うか、手を出す暇がなかった。
何故なら考えなしのアシルは誰彼構わず例の投資話を吹聴し誘っていたからだ。
思慮分別のある貴人たちがあんな胡散臭い話に飛び付くはずがない。
彼らは由緒正しい会員制の社交クラブで、上級の学びを経た見識の高い意見を交わしあい、投資と言えば利幅は少なくとも信用のおける株であったり、または社会貢献に繋がる形のものだ。
一攫千金、などといった品位の低い投資になど興味は示さない。そんな話に乗るのは同じ穴のムジナしかいない。
高貴な彼らは常にアシルを冷ややかな目で見つめていた。
そう、アシルは自ら信用を台無しにするよう振舞っていたため僕の仕掛けなど必要としなかったのだ。
更に愉快なのは、アシルは自分を相手にしない貴族たちを「頭の固い時代遅れの頑固者」と言い捨て、相手にされていないのではなく自分が相手にしていないのだと考えていたことだ。
おかげで彼は、比較的下位の若年層が集うクラブに入り浸り、おじいさまの人脈とは別の人脈を形成していた。
その裏で僕は、ご婦人相手の化粧品販売網や、偶然とはいえ開発してしまった精力剤の販売網を確立するため、七つを過ぎたあたりからリオネル親子を伴い、ちょいちょい由緒正しい社交クラブに出入りしていた。
はじめはアランブールの孫息子相手に、「おやおや社会勉強かい?」「幼いのに大したものだ」と微笑ましい目を向けていた彼らだが、僕の掲げる〝三方良し”の商売理念、もとい貴族理念、〝お家良し、領民良し、国良し”という、高い理念に基づく様々な形の実践的な提言を受けるにつけ、今では「アランブールの小さな生き字引」と一目置かれるまでになっている。(前出のハウル伯爵ともここで知り合ったんだよ)
よってアシルの評価はアランブールに針の穴ほどの影響も及ぼしていない。念のためお知らせしておこう。
本題に戻って、つまりその友人に会ったところで何の参考にもならない。
「お父さまだけで行って来たらいいじゃないですか。ミレイユ夫人を同伴して。ほら、ミレイユ夫人ってば相変わらず友人造りに苦戦してるみたいだし」
それでもニ、三人の、同じような境遇の夫人と知り合いになったミレイユ。が、類は友を呼ぶ。同じタイプの女性が三人も集まれば大概のことはろくなことにならないと相場は決まっている。
「ミレイユか…、私の友人は独身者が多いのだよ」
「でも古城だなんて喜びますよ」
「それはそうだが…」
僕はこの夏、領地に顔をだして稲作の進捗状況を確認したいと考えていた。そこから米ぬかの販売経路も確立しなければならない。
だが、昨年も一度領地へ出向いたのだが、やはり屋敷を留守にするたびメイドたちから苦情が殺到する。
こればかりはどうしたものかと考えていた僕にとって、アシルがミレイユを伴い屋敷を留守にするならまさに儲けもの。
「彼らは君と話したがっているのだよ。なんでも今までにない大きな投資話があるらしい。非常に有益な話だから是非君に直接と」
ああ…なるほど…
詐欺師たちはついに最後の大回収にでたらしい。
こういった投資話の仕組みとはこうだ。
出資者から集めた資金を配当金に充て、まるで儲けが出ているかのように見せかけ新たな出資者を募るが、こういうものは極めて一部の、上の人間しか利益を得ないと相場は決まっているものだ。
そろそろ配当が滞り始める頃だろう。そうすれば自ずと下の出資者たちは疑念を抱き始め、ニ、三年内に大騒動となる…
その投資会社はその前にドカンと金を集め、直前にとんずらを決め込むつもりなのだ。
僕と言う巾着袋を持つアシルはそいつらの上顧客。だがもっと巨額を引き出すために直接話をしたいと言いだしたわけか…
うん。話を聞くのも娯楽とは思ったが…却下だ。
「おとうさまが僕の代わりに話しを聞いて来てください。その代わり旅費とミレイユ夫人のお小遣いは僕が出します。そうだ!ミレイユ夫人のお友だちも招待なさっては?」
「ほう?友人もかい?」
「そうすればお父さまの面倒は軽減するでしょう?いかがですか?」
「いいのかい?ではお言葉に甘えよう」
「ええどうぞ」
いつも思うが、僕の言葉を疑ったことがないアシルはもしかして素直なのだろうか?
ああそうそう。
ここで補足だが、僕がアシルに貸し付けているそこそこ大きな額面は、全て僕の眼力で選んだ先物取引により得た余録の財。
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