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船の行き先
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せっかくの海だと言うのに、思い出が潮干狩りだけではなんとも味気ない。
そこで僕は、せっかくだし船に乗って大海原の中でちっぽけな己を感じてみようかと思い付いた。
まあ…早い話が舟遊びだ。
用意した船は二隻。ひとつは僕たち、後続は護衛たち。
ゆらりユラユラ、長閑な午後。
小舟が波間をたゆたっているなか、僕たちは優雅に釣糸を垂れていた。
「やっぱり川とは違うね、流れがないからゆったりしてる」クイクイ「あ、きた」
船頭さん推薦の入れ食いスポット。今夜は刺身で一杯…ってね。子供も酒が飲めるのは今世の善き習慣である。僕的に。
「今日は天気が良いからそう思うんでさあ。波があっちゃそうは言ってられませんぜ」
「そうなの?」
クン「おっ!やっと俺にも食いついた。リオネルお前は?」
「うるさいな…いいから海に集中しろ!海上ではいつ何が起こるかわからないのだからな!」
またまたぁ~、リオネルムキになっちゃって、と言おうとしたまさにその時だ。
ポツリ…
「あ、雨だ」
サアアアア…
「ヤバい!言ってるそばから降ってきやがった!坊っちゃんがた、しっかり捕まっててくださいよ」
「傘は持ってるけど?」
ほら、日焼け厳禁の貴公子だからね、日傘持参だよ。
「そうじゃねえ、雨が降ると波が高く、うわっ!」
「ベル様!姿勢を低く!」
「え、なに?」
グラ
「うわぁ!」
「俺に捕まれベル様!」
「無、無理、ああぁ!」
ゴロゴロゴロ
ガシッ!
「た、助かったよリオネル…」
「だから座れと言ったでしょう」
仕方ないじゃん、海は初めてなんだから…
ところが海の猛威はこんなもんじゃなかった。
ザッバーン
「あぁー!」
「うっぷ!」
「大丈夫かベル様!リオネル!」
「問題ない、濡れただけだ」
いやそうだけど…ず、ずぶ濡れ…
あんな高波、傘ごときじゃ太刀打ち出来そうにない。
雨の海には危険がいっぱい…
僕に上着を羽織らせながらリオネルが叫ぶ。
「船頭!とりあえずそこの小島に船を着けなさい!」
「へ、へい!」
こうして有能なリオネルの機転により無人の島に上陸した僕たちだが、しばらく陸地で天候の回復を待つことになった。
「雲の切れ目が明るいんで、じき止みますぜ」
「そう?そうだといいけど…」
おや?
ふと横を見ればそこにはいつになく髪を乱したリオネルがいる。
よく見たら僕に上着を差し出した彼は、濡れたシャツが気持ち悪かったのだろう。胸ボタンを二つほどはだけていた。これは…
ふむ、なかなか…
何しろリオネルは大体いつも整っている。まさにこんな乱れた姿こそ僕の夢…って、ああー!
「ボタンとめなくていいのに…」
「邪な視線を感じまして」
くっ!なぜバレた!
仕方ない。とりあえず今日のところは珍しいオールバック姿を視界に納めて満足するか。
「けちくさい…僕の裸は見るくせに…」ブツブツ…
風呂と着替えのことね。
「なんだよ。ベル様は俺たちの身体が見たいのか?」
「ちょ!その言い方!」
誤解を招くでしょうが!誤解でもないけど!
「従者の成長を気にして何が悪い。僕にだって理想がある」
「へー。なら俺の身体見せてやろうか。けっこう鍛えてんだぜ、これでも」
ふむ…
確かに最近のディディエは声も変わりつつあり成長期に入っている。まるで若竹のようだ。
そうか…鍛えているのか…
「どれ…」
「馬鹿言ってないで行きますよ、ほら」
リオネル…冗談の通じない奴。冗談でもないけど。
漁師が立ちよった際の休憩場だろうか、島には四阿のような場所があり、僕たちはそこで休憩することにした。
「雨あがってきたな」
「どうします?海岸に戻りますか?」
「うーん…、それよりお腹空いちゃったよ。お弁当食べちゃわない?」
その時だ!さらなる大惨事が僕たちを襲ったのは!
「ああー!バスケットの中身が!」
「はあ?」
「馬鹿ディディエ!何をやってる!」
「俺のせいかよ⁉」
海水にまみれて全滅…だと…?
「えー!僕は戸外での食事を楽しみにして朝を控えめにしてきたのにー!」
船酔いも怖かったし!
食べられない、となると俄然お腹が空くものである。僕のお腹は周囲に聞こえるほど大合唱を始めていた。
「我々が取りに戻りましょう」
そう言ってくれたのは護衛たち。
けどなぁ…そうすると軽く二時間は待たなきゃいけないし…
「それもいいけど…せっかく魚もあることだし食べちゃおう!」
こうして護衛は焚き火の準備をはじめ、僕たちはデザートとなる果物でもないか、と近辺を散策しはじめた。
そして体感数十分、僕の両手には野生のリンゴが握られている。
「リオネルー!何かあったー?」
「ええ。甘そうな果実が」
「食べられそうー?」
「いえ、まだ少しばかり青い果実ですね」
「そうなのー?残念」
あの辺りはさっき僕も見たけど…あったっけ?そんな果実…
「ま、まぁいいや…ディディエはー?」
「あるようなないような…」
「なにそれ」
「甘そうだけど…毒も感じる」
「えー?そうなのー?止めときなよー」
その辺りもさっき見たけど、あったかな?そんな果実…
ってことは、結局僕の野リンゴだけか…
どいつもこいつも使えないな!
そこで僕は、せっかくだし船に乗って大海原の中でちっぽけな己を感じてみようかと思い付いた。
まあ…早い話が舟遊びだ。
用意した船は二隻。ひとつは僕たち、後続は護衛たち。
ゆらりユラユラ、長閑な午後。
小舟が波間をたゆたっているなか、僕たちは優雅に釣糸を垂れていた。
「やっぱり川とは違うね、流れがないからゆったりしてる」クイクイ「あ、きた」
船頭さん推薦の入れ食いスポット。今夜は刺身で一杯…ってね。子供も酒が飲めるのは今世の善き習慣である。僕的に。
「今日は天気が良いからそう思うんでさあ。波があっちゃそうは言ってられませんぜ」
「そうなの?」
クン「おっ!やっと俺にも食いついた。リオネルお前は?」
「うるさいな…いいから海に集中しろ!海上ではいつ何が起こるかわからないのだからな!」
またまたぁ~、リオネルムキになっちゃって、と言おうとしたまさにその時だ。
ポツリ…
「あ、雨だ」
サアアアア…
「ヤバい!言ってるそばから降ってきやがった!坊っちゃんがた、しっかり捕まっててくださいよ」
「傘は持ってるけど?」
ほら、日焼け厳禁の貴公子だからね、日傘持参だよ。
「そうじゃねえ、雨が降ると波が高く、うわっ!」
「ベル様!姿勢を低く!」
「え、なに?」
グラ
「うわぁ!」
「俺に捕まれベル様!」
「無、無理、ああぁ!」
ゴロゴロゴロ
ガシッ!
「た、助かったよリオネル…」
「だから座れと言ったでしょう」
仕方ないじゃん、海は初めてなんだから…
ところが海の猛威はこんなもんじゃなかった。
ザッバーン
「あぁー!」
「うっぷ!」
「大丈夫かベル様!リオネル!」
「問題ない、濡れただけだ」
いやそうだけど…ず、ずぶ濡れ…
あんな高波、傘ごときじゃ太刀打ち出来そうにない。
雨の海には危険がいっぱい…
僕に上着を羽織らせながらリオネルが叫ぶ。
「船頭!とりあえずそこの小島に船を着けなさい!」
「へ、へい!」
こうして有能なリオネルの機転により無人の島に上陸した僕たちだが、しばらく陸地で天候の回復を待つことになった。
「雲の切れ目が明るいんで、じき止みますぜ」
「そう?そうだといいけど…」
おや?
ふと横を見ればそこにはいつになく髪を乱したリオネルがいる。
よく見たら僕に上着を差し出した彼は、濡れたシャツが気持ち悪かったのだろう。胸ボタンを二つほどはだけていた。これは…
ふむ、なかなか…
何しろリオネルは大体いつも整っている。まさにこんな乱れた姿こそ僕の夢…って、ああー!
「ボタンとめなくていいのに…」
「邪な視線を感じまして」
くっ!なぜバレた!
仕方ない。とりあえず今日のところは珍しいオールバック姿を視界に納めて満足するか。
「けちくさい…僕の裸は見るくせに…」ブツブツ…
風呂と着替えのことね。
「なんだよ。ベル様は俺たちの身体が見たいのか?」
「ちょ!その言い方!」
誤解を招くでしょうが!誤解でもないけど!
「従者の成長を気にして何が悪い。僕にだって理想がある」
「へー。なら俺の身体見せてやろうか。けっこう鍛えてんだぜ、これでも」
ふむ…
確かに最近のディディエは声も変わりつつあり成長期に入っている。まるで若竹のようだ。
そうか…鍛えているのか…
「どれ…」
「馬鹿言ってないで行きますよ、ほら」
リオネル…冗談の通じない奴。冗談でもないけど。
漁師が立ちよった際の休憩場だろうか、島には四阿のような場所があり、僕たちはそこで休憩することにした。
「雨あがってきたな」
「どうします?海岸に戻りますか?」
「うーん…、それよりお腹空いちゃったよ。お弁当食べちゃわない?」
その時だ!さらなる大惨事が僕たちを襲ったのは!
「ああー!バスケットの中身が!」
「はあ?」
「馬鹿ディディエ!何をやってる!」
「俺のせいかよ⁉」
海水にまみれて全滅…だと…?
「えー!僕は戸外での食事を楽しみにして朝を控えめにしてきたのにー!」
船酔いも怖かったし!
食べられない、となると俄然お腹が空くものである。僕のお腹は周囲に聞こえるほど大合唱を始めていた。
「我々が取りに戻りましょう」
そう言ってくれたのは護衛たち。
けどなぁ…そうすると軽く二時間は待たなきゃいけないし…
「それもいいけど…せっかく魚もあることだし食べちゃおう!」
こうして護衛は焚き火の準備をはじめ、僕たちはデザートとなる果物でもないか、と近辺を散策しはじめた。
そして体感数十分、僕の両手には野生のリンゴが握られている。
「リオネルー!何かあったー?」
「ええ。甘そうな果実が」
「食べられそうー?」
「いえ、まだ少しばかり青い果実ですね」
「そうなのー?残念」
あの辺りはさっき僕も見たけど…あったっけ?そんな果実…
「ま、まぁいいや…ディディエはー?」
「あるようなないような…」
「なにそれ」
「甘そうだけど…毒も感じる」
「えー?そうなのー?止めときなよー」
その辺りもさっき見たけど、あったかな?そんな果実…
ってことは、結局僕の野リンゴだけか…
どいつもこいつも使えないな!
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