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計画の進展
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海水は蒸発しないよう、厳重に蓋をして、アランブール王都邸へとすでに運ばれている。
手紙には塩分を分離し苦味のある水分を取り出すよう、事細かに指示を書いておいたが、セドリックのことだ。きっと首尾よくやることだろう。
ブルジョア層に向けたエメラルドの廉価品、そしてリオネルに任せている他国から取り寄せたスパイス、全て見込みはブルジョア以上だ。
いずれは紳士向けに何某かの逸品も扱うつもりでいるし、ドレス類にも手を伸ばしたいと考えている。
加えて貴婦人に向けて化粧品となれば、狙いは絞られてくる。
権威に拘る彼らは庶民と同じ店で買い物などすまい。店とは需要に合わせ区別はあって然るべきだ。
この百貨店はいずれ、今はそれぞれバラの店で売られている金持ちの衣食住、その全てに関わる品を贅を凝らした巨大な店舗にて一括で扱い、ここでなら揃わない物はないと思わせながら社交界の流行りを先導する文化の灯台となるのだから!
思う存分黄金を落とすがいい!
だがそれはそれとして、庶民をないがしろにするつもりはない。
物を買うのは心の御褒美、娯楽でもあるのだ。
と言うことでいずれ庶民には庶民向けの店をひとつ。明け六つから夜四つまで。開いてて良かった。そう思われる便利な店を…
だがまずは豆腐だ。
売りっぱなし…などという片手落ちな真似など僕はしない。目新しい食材を売るには、それの使い方までをも広める必要がある。
豆腐を使った簡単な献立もいくつか考案してもらわなくてはならない。豆腐はそのままだと淡白な食材だ。醤油と味噌が無い以上すまし汁も田楽も不可能!くぅぅっ!
だが似て非なるものくらいは作れるはずだ。作ってみせる!
そうだ!チーズをクリーム状にして味噌の代わりに乗せて焼くのはどうだろう?
ゴクリ…うん、あの塩味は味噌に近しいのじゃないか?
あれはどうだ!イワシの塩漬けとオイル漬け。
ゴクリ…うん、味の濃いあれらなら冷奴に乗せても美味しそうだ。
待て待て、農村の貧家はどうする?
…問題ない。塩豆腐を売ればいいじゃないか。あれは一晩おけばまるでチーズのように味わえる優れものだ。
塩は命に必要な調味料。貧家であっても必ず買い入れている。
大豆からなる豆腐であればニシンの塩漬けよりも単価を抑えられる気がするが…うむ、リオネルに原価計算をさせるとするか。
だが塩豆腐はニシンの塩漬けほど日持ちはすまい…。そうか!凍み豆腐!保存食と言ったら凍み豆腐じゃないか!
よし。道筋は見えた。
となるとまずは屋台か…?
いや、ここは棒手振りだ。この国では行商と言おうか。
天秤棒で品をかついで、直接声をかけながら売る、あれなら調理の方法も口頭で教えられる。
なんなら町内中集めて実演してもいい。
実演…
「リオネル、最近スパイスの売上推移はどうなってる?」
「一定の基準で維持していますよ」
ふむ…つまり伸びてはいないということか。
「なんです?」
「いや別に」
リオネルを責めるつもりはない。彼はまだ修行中の手代なのだ。
そもそも現状ではアランブール界隈の美食家貴族に卸していると言う限られた販売。
そこからもっと卸先を増やすには買い手側の貧乏舌をまず先に肥やす必要がある。
「ディディエ。王都に戻ったら僕は大晩餐会を開く。良い機会だからシメオンについて勉強させてもらいなさい」
「わ、わかった」
「リオネル、そこで振舞う献立には各種スパイスを使うように」
「なるほど。これは晩餐会と銘打った試食会なのですね」
「さすがだリオネル、ご名答。シェフと相談して品数多めに」
「畏まりました」
「ところでリオネル」
「なんでしょう」
「椅子になるようにとは言ったけど…椅子に座ったリオネルの膝に座るのはなんか違う気がするんだけど…これ合ってる?」
「合ってますよ。男爵家の椅子は座面が硬いから代わりになるようにと仰ったではありませんか。何か問題が?」
「いや…」
背後のリオネルは先ほどからずっと僕の髪を優しく掬っている。これはいったい…
「せめてお腹に回した腕どかしてくれない?」
「なりません。落ちては危険ですからね」
「…」
この高さでぇ?椅子だよぉ?
ええい!これじゃまるで「よっ、ご両人!」じゃないか!
「何かがおかしい…」
「おかしくありません」キッパリ
「いやいやいや、男爵家の使用人たちだって怪訝に思うって!」
自分で言い付けといてなんだけど!
「心配いりません、彼らは微笑ましく見ていますから」
「え?微笑ま、え?」
「「母に先立たれ父親が放逐されたベルナール様は家族の愛に飢えていらっしゃるのね」だとさ」
「ディディエ、それホント?」
「本当だ」
「えぇー…」
蛇足だが、これ以降二人は王都の屋敷でもやたらと僕を膝に座らせるようになるのだが、どうやら僕は二人の忠誠心を随分見縊っていたようだ。
が、違和感は大いにあるが今後も甘んじるつもりでいる。
衆道、それは千里の道も一歩から…
手紙には塩分を分離し苦味のある水分を取り出すよう、事細かに指示を書いておいたが、セドリックのことだ。きっと首尾よくやることだろう。
ブルジョア層に向けたエメラルドの廉価品、そしてリオネルに任せている他国から取り寄せたスパイス、全て見込みはブルジョア以上だ。
いずれは紳士向けに何某かの逸品も扱うつもりでいるし、ドレス類にも手を伸ばしたいと考えている。
加えて貴婦人に向けて化粧品となれば、狙いは絞られてくる。
権威に拘る彼らは庶民と同じ店で買い物などすまい。店とは需要に合わせ区別はあって然るべきだ。
この百貨店はいずれ、今はそれぞれバラの店で売られている金持ちの衣食住、その全てに関わる品を贅を凝らした巨大な店舗にて一括で扱い、ここでなら揃わない物はないと思わせながら社交界の流行りを先導する文化の灯台となるのだから!
思う存分黄金を落とすがいい!
だがそれはそれとして、庶民をないがしろにするつもりはない。
物を買うのは心の御褒美、娯楽でもあるのだ。
と言うことでいずれ庶民には庶民向けの店をひとつ。明け六つから夜四つまで。開いてて良かった。そう思われる便利な店を…
だがまずは豆腐だ。
売りっぱなし…などという片手落ちな真似など僕はしない。目新しい食材を売るには、それの使い方までをも広める必要がある。
豆腐を使った簡単な献立もいくつか考案してもらわなくてはならない。豆腐はそのままだと淡白な食材だ。醤油と味噌が無い以上すまし汁も田楽も不可能!くぅぅっ!
だが似て非なるものくらいは作れるはずだ。作ってみせる!
そうだ!チーズをクリーム状にして味噌の代わりに乗せて焼くのはどうだろう?
ゴクリ…うん、あの塩味は味噌に近しいのじゃないか?
あれはどうだ!イワシの塩漬けとオイル漬け。
ゴクリ…うん、味の濃いあれらなら冷奴に乗せても美味しそうだ。
待て待て、農村の貧家はどうする?
…問題ない。塩豆腐を売ればいいじゃないか。あれは一晩おけばまるでチーズのように味わえる優れものだ。
塩は命に必要な調味料。貧家であっても必ず買い入れている。
大豆からなる豆腐であればニシンの塩漬けよりも単価を抑えられる気がするが…うむ、リオネルに原価計算をさせるとするか。
だが塩豆腐はニシンの塩漬けほど日持ちはすまい…。そうか!凍み豆腐!保存食と言ったら凍み豆腐じゃないか!
よし。道筋は見えた。
となるとまずは屋台か…?
いや、ここは棒手振りだ。この国では行商と言おうか。
天秤棒で品をかついで、直接声をかけながら売る、あれなら調理の方法も口頭で教えられる。
なんなら町内中集めて実演してもいい。
実演…
「リオネル、最近スパイスの売上推移はどうなってる?」
「一定の基準で維持していますよ」
ふむ…つまり伸びてはいないということか。
「なんです?」
「いや別に」
リオネルを責めるつもりはない。彼はまだ修行中の手代なのだ。
そもそも現状ではアランブール界隈の美食家貴族に卸していると言う限られた販売。
そこからもっと卸先を増やすには買い手側の貧乏舌をまず先に肥やす必要がある。
「ディディエ。王都に戻ったら僕は大晩餐会を開く。良い機会だからシメオンについて勉強させてもらいなさい」
「わ、わかった」
「リオネル、そこで振舞う献立には各種スパイスを使うように」
「なるほど。これは晩餐会と銘打った試食会なのですね」
「さすがだリオネル、ご名答。シェフと相談して品数多めに」
「畏まりました」
「ところでリオネル」
「なんでしょう」
「椅子になるようにとは言ったけど…椅子に座ったリオネルの膝に座るのはなんか違う気がするんだけど…これ合ってる?」
「合ってますよ。男爵家の椅子は座面が硬いから代わりになるようにと仰ったではありませんか。何か問題が?」
「いや…」
背後のリオネルは先ほどからずっと僕の髪を優しく掬っている。これはいったい…
「せめてお腹に回した腕どかしてくれない?」
「なりません。落ちては危険ですからね」
「…」
この高さでぇ?椅子だよぉ?
ええい!これじゃまるで「よっ、ご両人!」じゃないか!
「何かがおかしい…」
「おかしくありません」キッパリ
「いやいやいや、男爵家の使用人たちだって怪訝に思うって!」
自分で言い付けといてなんだけど!
「心配いりません、彼らは微笑ましく見ていますから」
「え?微笑ま、え?」
「「母に先立たれ父親が放逐されたベルナール様は家族の愛に飢えていらっしゃるのね」だとさ」
「ディディエ、それホント?」
「本当だ」
「えぇー…」
蛇足だが、これ以降二人は王都の屋敷でもやたらと僕を膝に座らせるようになるのだが、どうやら僕は二人の忠誠心を随分見縊っていたようだ。
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