僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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虎視眈々

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コーニンレイクの国、南西部にはどこまでも続く青い広大な海がある。

今回来たのは例の投資で借財を肩代わりしてあげた、ある男爵の領である。
僕は彼と「海産物を向こう十年市場しじょうの三割引きでアランブールに卸す」という代替取引を交わしている。

リオネルの計算によれば五年ほどで貸付金の回収は出来るだろうと言うことなので、その後五年分が全て利子というわけだ。
だが僕が直接出ていれば向こう十五年程度の契約は出来ただろうに、リオネルもまだまだ若輩者である。

「まあこれも経験…次は精進するように」
「しつこいですねベル様。今回屋敷の件をまとめたではありませんか」

これは何かというと、例の〝古城貸し出し”に倣い、リオネルは僕の避暑に際し男爵と話しをつけ、一か月屋敷を丸ごと借り受けたのだ。(おっと、食材その他は持ち込みだよ!)

その間男爵夫妻は王都にもつタウンハウスに滞在することになるが、僕は上位貴族。粋な男だ。なんだかんだ言って謝礼は十分お支払いするつもりでいる。

「男爵夫妻が居ちゃだめだったのか?」
「これは避暑だからね。やれ晩餐会だ茶会だって開かれたら面倒でしょ。静かに身内だけが良いよ」

「私とディディエと…ベル様ですね」
「…三人だけか…」

顔を見合わせる二人の従者。

「それもそうだな」ニッカリ
「ええ。身内だけで十分です」ニコリ

「でしょ?」

こうして僕たちは一路、海のあるモース男爵領へと向かったのだ。




さて翌日。
若衆たちのふんどし姿を想像した僕の期待はあっさり裏切られた。

「何?このごわごわの上下…」
「水中用のスーツですが何か?」

「水中スーツ…」

以前の水着より露出少ないでしょうが!

海が無く、泳ぐという概念の無い王都とアランブール領しか知らない僕は今の今まで知らなかったのだが、どうもこの国には裸で海や川に入る、という習慣があまりないようだ。
以前アランブールの川で着用した、あの下履きみたいな水着も膝まであるズドンとしたものだったし。

「あんな紐みたいな下履き穿けるもんか!」
「どうもここ最近どこからか不躾な視線を感じることが多く…自己防衛です」

「ええい却下だ!せめて以前の水着に戻して!」

「分りました。そうします」サッ
「しょうがないな」サッ

「ぐ…」

用意周到…主人を手玉に取るとは許すまじ!

「さあさあ行きますよ。海には満ち引きがあるのですから早く行かなければ」
「ほら。砂掘りするんだろ」

シブシブ「…」

いいや、滞在は一か月。機会はまだある!あきらめるものか!


海に到着したリオネルは同行した使用人に言いつけ、僕のもう一つの目的、『枯山水』に良さげな白砂と形のいい岩を、王都邸に運ばせるよう手配している。

そんなリオネルを横目にディディエはせっせと海岸を掘っていた。

必要なのはホタテやハマグリといった二枚貝だ。出来たら牡蠣も欲しいが…
あれは真珠が採れることから採取には領主の許可が必要となっている。
あーあ、残念。まあ常時三割安く手に入るからいいんだけど。

「研究用だから形は何でもいい。とにかく量が欲しい」
「わかった」

使用人たちも動員しそれなりに数を手に入れた頃、お日様は頭上で燦々と輝き肌には汗が滲んでいる。そろそろ休憩が必要だ。

ここで僕は…例の計画に向けて少しばかり準備をすることにした。

なんの計画でなんの準備かって?
それはもちろん衆道の計画であり、二人に確固たる主従関係を認識させる準備だ。

「ところであー、ディディエ君」
「な、なんだよ…」
「砂浜は熱い。灼熱だ。いくらラグを敷いたとて…直に座っては僕のお尻が火傷すると思わないかね」

「ベル様なに言って…、ああ、そう言うことか。いいですよ。どうぞお座りくださいご主人様、ほら来いよ」

うしししし、計画通り、と、思ったのだが何かが違う。

「ねえディディエ、この座りかたってこれで合ってる?」
「合ってるよ」

胡座をかいたディディエの上に鎮座する僕。

武家の家臣とは戸外において主君に身体を椅子として差し出すと聞いている。それが忠義の証なのだと。

僕も実際は見たことないが、その際は胡座や立膝に腰かけるのだと、あの日話を聞いたお侍はそう言っていた。なのになんだろう…
間違ってはいないはずだが…

うーん、これじゃ長屋の父ちゃんと小僧だ。

あっ!しまった…、ディディエは元長屋住まいだった!

う、ううむ…、ディディエだからこうなるのか?仕方がない。今度リオネルでやってみるか。
気を取り直して…

「ねえディディエ、これ見て」
「うん?なんだこれ」ノシ

「今後展開を予定してる鈴鳴ベルナル百貨店の構想だよ」

因みに鈴鳴すずなりとは前世で僕が構えていた店の屋号だ。参考までに。

「ベルナール百貨店…へー、何でも売るんだな」
「そうだよ。国中からそれぞれの領の特産品を集めてね」
「責任者はリオネルか…」
「それが家令ばんとうの仕事だからね」
「で、屋敷が俺なんだな?」
「そうだよ。執事にょうぼうね」

家令と執事、大切な僕の両腕だ。

「けどまだまだ修行が足りないねぇ」

主に言葉使いがね。

「それよりディディエ、肩にあご乗せすぎ」
「いいだろ別に。そんなに重いか?」
「そうでもないけど…」

顔が近いんだってば。

ミレイユが不在となったことで、今まで目元にかかっていた前髪を少し短くしたディディエ。

長いまつげだな…

ふっ、このまつ毛が涙の雫で濡れるとき、その時こそ僕たちは篤い絆で結ばれた真の主従になるのだ!

「ベル様は軽いな。羽根みたいだ」
「羽根…」

ディディエの言葉に現実を思い出す…僕は華奢なのだ。
ばかめ!今に見てろ!すぐにディディエなんか追い越してやる!

もっとも僕は前世も献立には気を付けブクブクと肥えないようにしていたが。

だってねえ…

前世の商売敵であった越後屋。あの肥え太った越後屋の主は実に見苦しかった…
だから僕はああはなるまいと豆腐を…おや?豆腐…豆腐か…

ここは海。海には海水がある。
そして豆腐作りに必要なにがりは海水から作られる。

狩猟の禁止された庶民にとって肉は贅沢品だ。せいぜい加工肉を安息日や当別な日の祝いに口にするだけ。
だが僕は気付いていた。

江戸万戸の農民は小柄ながらもムキムキしていた。が、ここコーニンレイクの農奴は江戸万戸の農民より大柄なくせにいかにも貧相だ。
これは肉を食べないからだろう。

ならば江戸万戸の庶民が肉を食べたかと言えば、江戸万戸でも庶民は肉など口にしない。せいぜい魚と…そう!代わりに食べていたのが…この豆腐だ。

畑の肉と言われる大豆。
それを日常的に食すことで彼らは健康な身体を維持したのだ。

ふむ…豆腐なら原価は抑えられる。庶民にも優しい値つけが可能だろう。


そうだ!豆腐だ!

肉を食えない庶民に豆腐を広めよう!





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