僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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お祭りのひととき

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その日、僕たちは海岸伝いに隣の領地を訪れていた。

お隣である子爵領はメノウの産出領として大変栄えていると聞く。
僕はそこでシーモア君、フラン君へのお土産に、加工前の原石を買っていこうと思ったのだ。

メノウ、それは宗教的な道具類などに使われることの多い、豪華な宝石とはまた違う意味でとても価値のある石だ。
この辺りは前世の用途とそれほど変わらない。
やはりあの神秘的な模様が人々にそう感じさせるのだろう。

そんな理由でもないだろうが、この領の海岸は遊山の客で随分賑わっている。長閑な砂浜である隣と大違いだ。
もっとも僕の避暑には隣の方が好ましいが。

しかし…

「屋台が多いな」
「なんでも本日は祭りの日だとか。興味がおありですか?」
「まあ…」

江戸万戸の、それは見事だった祭りを思い出す。

大きな山車には人が群がり、そして蕎麦、寿司、天ぷらなどの屋台が立ち並ぶ。
団子もあれば芋菓子の屋台なんかもあって…
お面や飾車、猿回しを目当てに親子が手を繋ぎやってくる。

家族のだんらん…なんとも暖かい光景…

ふむ、これを百貨の店に取り込めないだろうか?そう。景観を壊さないよう、店先でなく屋上などで…

うむ。一考の余地ありだな。

「リオネル。屋台について調べて来てくれる?僕とディディエはこの辺りフラフラしてるから」
「わかりました」


ディディエと二人、と言っても僕は偉い貴族だ。後ろには護衛を引き連れている。

「ベル様、手」
「ん」

それでも屋台街はすごい人出だ。飲まれないようディディエに手を引かれる。

しっとり汗…

ディディエは緊張しいなのか?人混みが怖いとか?

…可愛い所もあるな。仕方がない。ここは年長者の出番か。

僕はよりいっそうその手に力を込めた。

「うぉ!」
「離しちゃダメだよ」
「お、おう」

「どれみたい?」
「あ、ああ、あっち行こうぜ」
「あれ何?」
「大道芸だ。観に行こう」
「あ、ちょっと、引っ張らないで」

いつもより興奮したディディエはどこか子供に戻ったようだ。
もうじき十五だと言うのにしょうがな…いや、男とはいつまでたっても心は少年なのだろう。


大道芸の後、ふと目にとまったのは椅子に腰かけスケッチする絵描き。

「…あなたは何をしているの?」
「希望の絵をお描きしています。リクエストはございますか?貴族のお坊ちゃま」

なるほど。似顔絵かきか。もっとも描いているのは風景、動物、何でものようだけど。

「じゃあ一枚描いてもらおうか。ディディエも座って」
「お、俺も?」
「うん。ここへ来た記念に。一緒に描いてもらおうよ」

隣同士に座って筆の音と祭りのざわめきだけを聞く特別な時間。
ディディエは慣れないのかモゾモゾと落ち着かない。

と、そこへ戻ってきたのはリオネルだ。

「ただで話は聞けませんからね。屋台で色々と買い込んでしまいましたよ」
「ちょうどいいや。その焼き物ちょうだい。ディディエも食べなよ」
「あ、うん」

なにこの反応?

「それからリオネルもそこ座って。絵描きさん、一人追加で。僕の反対隣りにリオネルも描いてくれる?」

僕の言葉に何故か口を真一文字にするディディエ。何か気に入らない事でも…あ!

「ごめんごめん、もしかしてこっちの焼きホタテが欲しかった?」
「違うけど…」
「そっちのソーセージも美味しそうじゃん」
「そうだけど…」

ならなんだよ!

「いつまでも拗ねるなディディエ。それだから子供だと言うんだ」

思春期はかくも難しい…


なにはともあれ…
こうして僕たちは思う存分祭りを楽しんだのだった。


「いやー、それにしても屋台か…」
「どうかしましたかベル様」
「いや別に」

寿司…寿司が食べたい…

思い出してしまった魅惑の一品、それが寿司だ。

とは言え、この国の衛生観念で鮨は無謀…

いやだが酢を使ってるし…もしくは湯通しすれば…
漬けにすると言う手もあるな。しまった!醤油がない!

ああー!せっかくアランブールには白米があるというのになんてことだ!

こうなるとなにがなんでも寿司が食いたい…

いや待てよ…
この国には近隣国から伝わったという、『カルパチョ』と呼ばれる酢とオイルに浸した生肉があるじゃないか!
生肉があれでいけるなら切り身の魚もいけるだろ。

ふむ…

「リオネル、米は持ってきたよね?」
「ええ」

僕は自作することにした。

そして翌日。

「うぅ…痛い…」
「だからお止しなさいと言ったではありませんか」
「い、いけると思ったのに…」
「バカだな、ほら薬」
「ありがとう…」

「とにかく今日はゆっくり休んでなさい」

身体を張った新たなる挑戦は、僕の腹痛という惨めな結果によりあえなく玉砕した。



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