僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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逆襲のミレイユ…

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久々の王都は相変わらず埃っぽい。海岸沿いの避暑地とは大きな違いだ。
秘書から戻った僕はその日、お土産を持ってシーモア君の屋敷を訪ねていた。

「わあ!こんな見事なメノウの原石…いいのですか?」

「遠慮なくどうぞ。フランにはこっちね。加工したブローチ」
「なんて素敵な品でしょう。ありがとうございます」

相変らずの二人。石への情熱にあふれるある種純粋な主人と、それを優しく見守るおっとりとした従者。理想的な静の主従よ。

最近どうも主人を主人と思わない節が随所に見受けられるリオネル、そして主人を友人か何かと勘違いしているディディエには爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ。ホントに。

さて、僕は手に入れた白砂により新たに作成しつつある庭、枯山水をシーモアに自慢していた。
どうも華美を好むこの国の貴族にあの良さは伝わりにくいらしく、時折やってくる社交クラブ(年かさの当主ばかりね)の仲間には地味に不評だ。

が!石を愛するシーモア君ならきっとこの侘び寂が理解できるだろう。

「海岸でかなりいい岩を手に入れてね。ぜひ見に来てほしいな」
「ロックガーデンともまた違うのですね?平な岩はお持ちになりましたか?なんだか楽しみです!」

高揚した声。やはりな。いやー、侘び寂仲間よ。

「ところでベルナール様…」
「フラン、どうかした?」

彼は常に微笑みを絶やさない温和な少年なのだが、その彼にしては思案気な声。

「これをお耳に入れていいものかどうか…」
「え?なに?気になるなぁ…言ってみてよ」

不調法はしていないはずだが…

「…実は放逐されたお父上に関わることのことなのです…」
「…父が何か?」

放逐されたとは言え、アシルは同じ貴族街に住んで、あまつさえ(下位の)社交クラブにも出入りしている。
なので嫌でも話は聞こえてくるし、おおよその動向は把握しているつもりだ。

はて?おかしな動きなどあっただろうか?奴は未亡人に首根っこを掴まれながらも、なんとか目を盗んでご婦人に愛想を振りまく、相変わらずの軽薄さではあるが…ただそれだけだ。

「その…お父上の二度目の夫人であられたあの女性なのですが…」
「二度目…、ああ!ミレイユ夫人のことですね?」

貴族街を出て庶民街に戻ったミレイユのことは追っていないが…、少なくともあの長屋および周辺、庶民街の下町辺りに姿は見えていない。てっきり自尊心を傷つけられて王都を出たかと思ったのだが…

「あの方ですが…新進のバーリー男爵に囲われているようですよ」
「囲われ…つまり貴族街に居ると言う事ですか?」
「ええ。バーリー男爵の別邸におられます」

直後は一旦庶民街に戻っていたはずだ。となると…歓楽街あたりでパトロンを見つけて出戻ったのか?しぶといな…

「どんな方ですか、そのバーリー男爵とは」

それに答えたのはフランではなくちょうど部屋に入って来たアルデンヌ伯爵邸の執事だ。

聞けばその男は元々商業街で金融業を営んでいた年の頃五十ほどの中年で、高額な納税というお布施により、最近男爵位を賜ったのだとか。

「決して品が良いとは言えぬ男でございますよ」
「ふむ…」

これはこの国の悪しき方策だと思うのだが、国は国庫を増やすために、金持ち相手に男爵位をたたき売りしているのだ。
が、僕は正直これを悪手だと思っている。そんな爵位に権威など大してありはしないし、崇高な精神を持たない爵位持ちが増えれば社交界の品格は低下する…

やれやれ、高位の社交界にまで影響が及ばなければいいが…


「あの…これは父様から聞いた話なのですが…」
「お父上から?」
「ええ。彼女はバーリー男爵のもとで文化や芸術と言った貴婦人教育をお受けになられているようです」
「貴婦人教育?」
「父様のご友人が芸術の講師を頼まれたとか。他にも文学や音楽に長けたご友人にも声がかかったようです」

ミレイユには途方もなく強い自己顕示欲がある。僕の裏工作によりアランブールの屋敷で手に入れられなかった憧れの暮らし、上流階級としての生活や人々の称賛。それらを叶えてくれるのがそのバーリー男爵ってことか。

「相変わらずだなあの女…」
「アシル…いや、未亡人を見返したいんだろう」

小さく聞こえた二人のつぶやき。本当にね、めげない女だよ。その根性だけは称賛に値するね。

「彼女はその…」

チラリと視線を送った先は主人であるシーモア君だ。ああなるほど。あの純粋無垢な主人に聞かせたくない話か。
けどそれはこちらも同じこと。僕はディディエにシーモア君を部屋から連れ出すよう合図を出した。

僕、フラン君、リオネルの三人だけになった室内で、困った表情のままフラン君は戸惑いながらも口を開いた。

「言いにくい話?僕は平気だよ」
「え、ええ…」
「一時とは言えアランブール伯爵家に居た女性だ。何かあっては困るからね。聞かせてくれる?」

一つ深呼吸。それほど言いにくい内容なのか。

「あの方、男爵の別邸で、その、男爵がお連れになったご来客に…、あの…」

あ、そっち。

「あー、大体わかった。もういいよそれ以上言わなくて。口が穢れる」

つまりミレイユはその客人とベッドを共にしているのだろう。
図式は分かった。男爵はミレイユの夢をかなええる代わりに、貴族かブルジョワか…恐らく利用価値の高い男をバーリー男爵一派に取り込めと命じているのだ。
色仕掛けはミレイユのもっとも得意とするところ。なるほど。天性を生業にしたってわけか。

「まるで娼婦だな。さすがにこればかりは聞かせられませんね…」

これはディディエのことだろう。さすがに産みの母のそんなふしだらな生活はねぇ…

「ありがとうフラン、よく聞かせてくれたね」
「いえ、父様がベルナール様のお耳に入れておくように、と」
「成年前の僕に?」
「ベルナール様であれば大丈夫だから、と」

彼の父、マルク子爵は社交クラブにおける僕の様子をよくご存じのようだ。
ともかくそういう事なら用心するに越した事は無い。

「リオネル。帰りに寄り道しようか」
「どこへですか?」

「未亡人邸、イリス夫人の所へ」





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