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欲しい…!
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「ルーブロア侯爵!なんとかなりませんか!」
「ベルナール殿の頼みゆえ掛け合ってみたのだが…なかなか良い返事がもらえぬのだよ」
百貨の店建設予定地、その取得は難航を極めていた。
なにしろあそこは公共地区。公けの事業、とまではいかなくとも、かなりの公共性があり(あ、この場合、貴族においてって意味ね)、かつ王家の許可がおりなければ、いくらお金を積んでも土地を売ってすらもらえないのだ…
うぐ…フィリップの父親、ルーブロア侯爵の弟さんが宮廷の官吏だというから軽く取り成しをお願いしたのだが…
やはり凡庸な下っぱ官吏では難しかったか。
「仕方がない。自分で話します。財務の責任者に面会の約束だけお願い出来ませんか?」
「せめてそれくらいは何とかしよう」
最初からそうすれば良かったよ!成年前の子供には無理だとか皆が言うから!あー騙された!
公共地区の土地は半分国の、半分教会の持ち物である。
だがここ公共地区における国の土地とは王家の私有地ではない。
これらは寄進された土地だったり、持ち主が亡くなり受け継ぐ者が不在で接収されたものだったりするのだが、今回の場合は前者と後者の中間に近い。
僕が狙うあの一帯だが、持ち主であった老侯爵は、もともとは乱雑だったあの周辺を国の政策として整えるにあたり、宮廷からの打診を受け非常に安価で国に譲ったと言う。
社交クラブでの聞き込みによれば、なんでも老侯爵は後継である息子夫婦と非常に折り合いが悪いらしい。
「街並みの整備ねぇ…なら交渉次第でいくらでも高値で売れたろうに…」
「なんでも「この国の発展のため」と仰っていたそうですよ」
「いやはや。崇高な行いでございますなぁ」
いや、多分息子夫婦への嫌がらせだ。
老当主は今も現役で領地を守り、王都の広大な土地を手にしそびれた嫡男夫婦は、現在竹地区にある屋敷で暮らしている。
その後ディディエに調べさせたところ、そいつは優秀な長男が平民女性と駆け落ちし、そこで急遽後継に祭り上げられたボンクラ次男らしく、散財家の妻と夜会から夜会を渡り歩いているらしい。
「なるほど…アシル様の同類か」
「よくいるバカ息子だな」
「ふむ…」
あそこは上物の無い更地だ。今でこそ宮廷の管理により庭園風に整えられているが、もとはただの荒れ地だったという話だ。
「当時の老侯爵はこう思ったんじゃないかな?」
愚かな息子に分け与えても金に困れば売ってしまうかもしれない、いや間違いなくいつか売るだろう。それも素性の知れぬ何某かに。
「…って」
「それならいっそ国に貢献した方がマシと考えた訳か…」
「だからって投げ売りかよ!」
「わしの目の黒いうちは好きにさせん!ってことだね」
お金の問題じゃないんだよねぇ…
ま、所有権が国に移っている以上どうせ関係ないけどね。
そしてやってきた約束の日。本日のお付き添いは忠実な従者でなく地位ある大人のルーブロア侯爵である。
ここコーニンレイク国とは王政の国である。王は臣下たちを手足として使い、上がってきた情報を精査し最終的な決定だけをする。この辺りは秋島津の殿と何ら変わらない。
その中において財務省とはこの国において最も重要な機関である。主たる役割は税収や商業、産業の管理。公共事業もここに含まれる。
本来公共事業とは馬車道の整備、王都の美観整備、最近だと下水の管理、災害時の対応などがあげられるが、実は景気対策なんかもあったりする。
あ、因みに病院や学校などはこの国だと教会の範疇である。補足まで。
何故王宮が渋っているか。それはこの事業がアランブール…というか、僕個人の私欲だと見なされているからだ。
見縊るな!商売たるもの利益を得るのは当たり前ではあるが、僕は高い社会意識を誰よりも持ち合わせている!
僕は初めて会う財務の副大臣補佐を相手に熱弁をふるった。これがいかにこの国にとって有益で、それがいかに高い公益性を持つのかを。
僕は前世において城の奥向きに品を卸す〝御用商人”の地位さえももぎ取った男だ。こんな若造(中年)には負けん!
「ですからね、これらの物産店舗を使い国の方々にある藩、いえ、領地の喧伝をすることが出来るのですよ。これは何も国内ばかりでなく、近隣諸国への良いお披露目にもなります」
「それはそうだが…」
この広い国において、他国からの来客来賓はよほどの伝手でもない限り、王都と王都の近辺ぐらいしか訪れることはない。それがこの百貨店で遥か遠方の領についてまで知らしめることが出来れば、それはどれほど後の交易に有効となるか!
「それから上階。僕はここで様々な展示や新進芸術家の個展を開きたいと考えています」
「展示?個展?」
「ええ」
パスカルがそうだったように、世の中には埋もれた技術、埋もれた芸術家がまだまだ多くいるはずだ。
この展示会はその彼らや彼らの技術紹介を通じ、新たなる顧客や取引先を開拓し獲得するための大きな機会となるだろう。そしてそれはいずれ回りまわって国力となる!
そして個展は埋もれた芸術家に認知の機会を与え、文化芸術のさらなる新興へとつながっていく。
「百貨の店が文化を牽引する場、情報の発信地であると認知が進めば、さらに様々な新しいものが、それこそ近隣の諸国からも向こうから「ここで扱ってくれ!」と集まってくることでしょう。これは外交において有利な一手となります。これが公益事業でなくて何だと言うんですか!」
「うーむ…これは私の範疇を超える。しばし待ちたまえ」
そして副大臣補佐と一緒にやってきたのは…わーお、財務大臣その人である。
「もう一度聞かせてもらおう」
すると全てを聞き終えた大臣は「少し待ちたまえ」と部屋を出て行き、戻ってきたときにはさらに一人の老紳士を伴っていた。
「初めからお願いしようか」
くっ!
だが夢をかなえるためなら何度だって話そうじゃないか。この喉が枯れるまで!
そうして話を全て聞き終えた時…
「よろしい。二週間後の〇日までに王へお見せする計画書と希望入札価格を提出しなさい。その結果はさらに一週後だ」
「おぉ…、あ、ありがとうございます!」
口ぶりから、あの土地にはすでに手を挙げている者が幾人かいると見える。だが宮廷がこうして即決しなかったのは実に幸運だ。
こうして入札に食い込めたなら勝機はある!
僕は誰にも負けない計画書を作成するため大急ぎで屋敷に戻った。が…
「イリス夫人…」
「待たせていただいたわベルナール様。どうかお知恵をお貸しくださるかしら」
そこにはリオネル相手に暇をつぶす未亡人が居た。
「ベルナール殿の頼みゆえ掛け合ってみたのだが…なかなか良い返事がもらえぬのだよ」
百貨の店建設予定地、その取得は難航を極めていた。
なにしろあそこは公共地区。公けの事業、とまではいかなくとも、かなりの公共性があり(あ、この場合、貴族においてって意味ね)、かつ王家の許可がおりなければ、いくらお金を積んでも土地を売ってすらもらえないのだ…
うぐ…フィリップの父親、ルーブロア侯爵の弟さんが宮廷の官吏だというから軽く取り成しをお願いしたのだが…
やはり凡庸な下っぱ官吏では難しかったか。
「仕方がない。自分で話します。財務の責任者に面会の約束だけお願い出来ませんか?」
「せめてそれくらいは何とかしよう」
最初からそうすれば良かったよ!成年前の子供には無理だとか皆が言うから!あー騙された!
公共地区の土地は半分国の、半分教会の持ち物である。
だがここ公共地区における国の土地とは王家の私有地ではない。
これらは寄進された土地だったり、持ち主が亡くなり受け継ぐ者が不在で接収されたものだったりするのだが、今回の場合は前者と後者の中間に近い。
僕が狙うあの一帯だが、持ち主であった老侯爵は、もともとは乱雑だったあの周辺を国の政策として整えるにあたり、宮廷からの打診を受け非常に安価で国に譲ったと言う。
社交クラブでの聞き込みによれば、なんでも老侯爵は後継である息子夫婦と非常に折り合いが悪いらしい。
「街並みの整備ねぇ…なら交渉次第でいくらでも高値で売れたろうに…」
「なんでも「この国の発展のため」と仰っていたそうですよ」
「いやはや。崇高な行いでございますなぁ」
いや、多分息子夫婦への嫌がらせだ。
老当主は今も現役で領地を守り、王都の広大な土地を手にしそびれた嫡男夫婦は、現在竹地区にある屋敷で暮らしている。
その後ディディエに調べさせたところ、そいつは優秀な長男が平民女性と駆け落ちし、そこで急遽後継に祭り上げられたボンクラ次男らしく、散財家の妻と夜会から夜会を渡り歩いているらしい。
「なるほど…アシル様の同類か」
「よくいるバカ息子だな」
「ふむ…」
あそこは上物の無い更地だ。今でこそ宮廷の管理により庭園風に整えられているが、もとはただの荒れ地だったという話だ。
「当時の老侯爵はこう思ったんじゃないかな?」
愚かな息子に分け与えても金に困れば売ってしまうかもしれない、いや間違いなくいつか売るだろう。それも素性の知れぬ何某かに。
「…って」
「それならいっそ国に貢献した方がマシと考えた訳か…」
「だからって投げ売りかよ!」
「わしの目の黒いうちは好きにさせん!ってことだね」
お金の問題じゃないんだよねぇ…
ま、所有権が国に移っている以上どうせ関係ないけどね。
そしてやってきた約束の日。本日のお付き添いは忠実な従者でなく地位ある大人のルーブロア侯爵である。
ここコーニンレイク国とは王政の国である。王は臣下たちを手足として使い、上がってきた情報を精査し最終的な決定だけをする。この辺りは秋島津の殿と何ら変わらない。
その中において財務省とはこの国において最も重要な機関である。主たる役割は税収や商業、産業の管理。公共事業もここに含まれる。
本来公共事業とは馬車道の整備、王都の美観整備、最近だと下水の管理、災害時の対応などがあげられるが、実は景気対策なんかもあったりする。
あ、因みに病院や学校などはこの国だと教会の範疇である。補足まで。
何故王宮が渋っているか。それはこの事業がアランブール…というか、僕個人の私欲だと見なされているからだ。
見縊るな!商売たるもの利益を得るのは当たり前ではあるが、僕は高い社会意識を誰よりも持ち合わせている!
僕は初めて会う財務の副大臣補佐を相手に熱弁をふるった。これがいかにこの国にとって有益で、それがいかに高い公益性を持つのかを。
僕は前世において城の奥向きに品を卸す〝御用商人”の地位さえももぎ取った男だ。こんな若造(中年)には負けん!
「ですからね、これらの物産店舗を使い国の方々にある藩、いえ、領地の喧伝をすることが出来るのですよ。これは何も国内ばかりでなく、近隣諸国への良いお披露目にもなります」
「それはそうだが…」
この広い国において、他国からの来客来賓はよほどの伝手でもない限り、王都と王都の近辺ぐらいしか訪れることはない。それがこの百貨店で遥か遠方の領についてまで知らしめることが出来れば、それはどれほど後の交易に有効となるか!
「それから上階。僕はここで様々な展示や新進芸術家の個展を開きたいと考えています」
「展示?個展?」
「ええ」
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この展示会はその彼らや彼らの技術紹介を通じ、新たなる顧客や取引先を開拓し獲得するための大きな機会となるだろう。そしてそれはいずれ回りまわって国力となる!
そして個展は埋もれた芸術家に認知の機会を与え、文化芸術のさらなる新興へとつながっていく。
「百貨の店が文化を牽引する場、情報の発信地であると認知が進めば、さらに様々な新しいものが、それこそ近隣の諸国からも向こうから「ここで扱ってくれ!」と集まってくることでしょう。これは外交において有利な一手となります。これが公益事業でなくて何だと言うんですか!」
「うーむ…これは私の範疇を超える。しばし待ちたまえ」
そして副大臣補佐と一緒にやってきたのは…わーお、財務大臣その人である。
「もう一度聞かせてもらおう」
すると全てを聞き終えた大臣は「少し待ちたまえ」と部屋を出て行き、戻ってきたときにはさらに一人の老紳士を伴っていた。
「初めからお願いしようか」
くっ!
だが夢をかなえるためなら何度だって話そうじゃないか。この喉が枯れるまで!
そうして話を全て聞き終えた時…
「よろしい。二週間後の〇日までに王へお見せする計画書と希望入札価格を提出しなさい。その結果はさらに一週後だ」
「おぉ…、あ、ありがとうございます!」
口ぶりから、あの土地にはすでに手を挙げている者が幾人かいると見える。だが宮廷がこうして即決しなかったのは実に幸運だ。
こうして入札に食い込めたなら勝機はある!
僕は誰にも負けない計画書を作成するため大急ぎで屋敷に戻った。が…
「イリス夫人…」
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