僕はゼッタイユルサナイ

kozzy

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暗躍する者

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「それで…どうされたのですかイリス夫人」

実にこう…不思議な感じだ。

アシルが縁で出会った同じ魂を持つ者。と言うか、正確には同じ魂を持っていた者の連れ合いである彼女は、立派に亡き夫の意思を受け継いでいる。
僕が捨てた瓦礫あしるを拾ってオブジェに再利用する彼女と、まさかこうして日々つながりを深めていくことになるとは…

「お時間を無駄に取らせるつもりはございませんの。単刀直入に申しましょう」

これは貴族の儀礼的な会話は省きましょう、という意味だ。

「実は少々困ったことがございまして…」

気丈なイリス夫人にしては珍しく歯切れの悪い物言い。猛女と名高い彼女であっても対応に困る事態と言うわけか…

「遠慮なくどうぞ。あなたはともに切磋琢磨すべき好敵手。敵ではありませんから」
「嬉しいことを…。ではお言葉に甘えて。実はわたくしの事業に横やりが入ってございますの」
「横やり…ですか?」
「契約間近だった取引がことごとく反故になりました。大した理由もなく」

彼女の商会は国外製品を扱う問屋だ。つまり小売りの取引先が必要になる。
取引先はどこでも良いわけではない。
信頼のおける、自商会の品位を損なわない、かつ金払いの良いそれでいて自商会に不利とならない相手…
となれば相当吟味して選んだはずだ。


何でも、販路の拡大は亡き夫の夢。
なのにこれはという店主へ接触しようとするたび、必ずどこからか競合が現れ横からかっさらって行くのだとか。

「ほかに資金の貸し渋りなどもございますわ」

これは経営に困った借財などという話ではない。
事業とはある程度手持ちの資金を維持したまま、貸付を受け事業を広げていくものである。

当然そこには利息が発生する。
だからこそ、普通であれば彼女の商会のように経営の上手くいっている店であれば、向こうから「ぜひ借りて下さい!」と頭を下げて日参してもおかしくないものだが…陰謀の臭いがする。

「ははぁん、さては例の男爵、ミレイユのパトロンですね?」
「恐らくは」
「なるほど、ここで仕掛けてきましたか」

ミレイユに頼まれたのか、それとも野心的な男爵本人の思惑なのか。

「いづれにしても厄介な事ですわ。契約は完了間近でしたの。それを見越してかなりの品を集めておりましたのに…正直困っておりますの」

「化粧品やスパイスの類いでよければうちで引き取りましょう」

「それはありがたいのですがそうではなく…、取引先は自力でなんとかしましょう。ですからなんとかアランブールのご威光でこの暴挙を止めさせていただきたいのですわ」
「うーん…」
「妨害工作には複数の貴族が関わっておりますの。その中には高位の貴族もいらっしゃいます。わたくしだけではとても…」

その金貸し、バーリーは男爵位、そしてイリス夫人も、ついでにアシルも生家は男爵位だ。力で押し返すのは難しいか…

あっ!

「なるほど。それらはミレイユが篭絡した紳士たちですね」

ミレイユの色仕掛けに乗った時点で紳士というのも甚だ疑問だが。

「いいでしょう」

ほっと息を吐くイリス夫人。商会主は全使用人の生活を握る。これが今回きりのことならまだしも、今後も続くとなれば生きた心地がしなかっただろう。

「ベルナール様。こちらが横槍を入れた貴族たちですわ」
「一覧…さすが仕事がお出来になる。あとはこちらでも少し調べてみましょう」

イリス夫人の退室を待って、僕はすぐさまディディエに指示を出した。

「これらの貴族家で聞き込みを頼むよ」
「急ぎか?」
「…そうだね。わりと」
「わかった」

慣れた遣り取り。
間者のような仕事をいつもディディエに任せるのは、彼はそのために常日頃から貴族街中の下位使用人と親交を深めているからだ。

下世話な情報は下に溜まると相場は決まっている。上位使用人はおいそれと情報を漏らしたりしない。
そしてディディエはなんだかんだ言ってまだ成年前。彼らは子供のディディエ相手に油断し口を滑らす。もっともそれはディディエが上手く誘導するのだが。

「さて、いったんそっちはおいといて…リオネル。あの草案をもう一度まとめ直してくれる?」
「まとめ直し…と言いますと?」
「王陛下の御前に入札資料として提出することになった。詳細に、かつ分かり易く、それでいて要点がぼやけないよう気を付けて。最終チェックは僕がする」

「王陛下に…これは手が震えますね」
「自信ない?」
「いいえ」

即答上等。これぞリオネルよ。



そして数日後。
ディディエの持ってきた報告は僕に更なる驚きをもたらした。

「これが聞き込んだ情報だ。まとめてある」
「ディディエ…、とてもきれいな字を書くようになったね。昔はあんなに汚かったのに…感動だよ…」ジィィン…
「う、うるさいな。早く読めって」

「どれ、何々…なるほど」

内容はほとんどが想像通り。彼らは皆男爵の別邸に出入りする貴族及びブルジョワジーで、取引を中止した店主とは、そのものずばりミレイユの客だ。
そして一方、厄介なのは高位貴族たち。彼らは総じて金貸しであるバーリー男爵の顧客である。

貴族とは見栄と矜持で出来ている。これは前世の武士にも通じることだが、一つ違うのは武士とは清貧もまた好まれるが、貴族とは富を大いに主張してこそ貴族であるということ。
故に高位貴族であっても借財を抱える者は意外と多い。

基金によって設立された公益の両替商バンクなどもあるにはあるが、担保のない者はバーリー男爵のように胡散臭い金貸しから借りることになる。
こういった金貸しはほとんど高利で、ニコニコと貸し付けておきながらいざ返せないとなると手の平を返す。
するとどうするか。もちろんどんな手を使ってでもとことんまで毟り取るのである。
だが一つだけ例外がある。

それは便利な駒になり得る人材のことだ。
有用な縁故があったり伝手があったり…そう言った人物には金貸し側から揉み手すり手で言われなくとも融通するのだ。

周辺の人々にとっては実に迷惑な話だが、こうして彼らは借財を返す代わりに自らの人脈を差し出し、気が付けばいつの間にか己の信用を台無しにするのだ。愚かな…

「なるほど。彼らを使ってバンクに圧力をかけたのか…」
「汚い奴らだぜ。あの女らしいっちゃらしいけどな」

僕もリオネルもハッキリとは告げていないのだが、ディディエは薄々ミレイユの役割に気付いている。本人が気にしていないのが幸いと言えば幸いだが、正直微妙なところだ。

「ん?ちょっと待て」

これは…

〝ノルマンディ侯爵、公共地区に大規模集会場を計画中。出資者、バーリー男爵とのこと”

はぁぁー?公共地区の競合相手ってまさか…

お前かよ!!!





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