転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

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気になるあいつ

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王家の別荘へオリーを迎えに行った俺は、何故かオリーでなく彼の新たに出来た友人を隣に乗せていた。
なんでもロジンのブローチをヒューの店まで取りに来るのだという。

彼、ポールは平民位の候補者。整った顔立ちをしているが…それだけでなく、何か秀でるものがあるのだろう。
涼やかな横顔。彼はオリーとの出会いを語っている。

「それで途方に暮れていたらオリヴィエ様が服を見立ててくださって…」
「オリーはそういう奴だ。あいつは困った人を放っておけないんだよ」
「その時にブローチをくださったんです。何も無いのはさみしいから…と」

あのブローチは決して友人へのギフトなどではなく、スターリング子爵領の明日を左右する貴重な販促品だ。
それを誰より分かっているオリー。それでもこうして手渡すさずには居られないのがオリーの良さだ。が、…それこそ彼が損な役回りにばかり身を置く理由だろう。


心優しき不器用なオリー。
だが、あいつがどれほどひたむきで誠実か、この僅かな時間の中で俺にはもう十分わかっている。

理不尽な言葉の暴力に一度は傷ついたオリー。その傷は決して無くならない。

だからこそあいつが、今世では心穏やかに過ごせるように、心安らかに生きられるように…俺が側に居て守ってやりたい。

今度こそ花を咲かせようと必死になって生きる、名もなき山野草。オリヴィエを。



「アンディさま?」
「あ、ああ。どうした?」

「こうして宿までブローチを取りに伺うなど…図々しいとお思いにはなりませんか?」

「君に手渡せないほうがオリーは気に病むさ」
「ふふ、彼のことをよくお分かりなのですね」
「まあな」

そんな話をしながら、俺は先ほどから気になっていたことを問いかける。

「なあポール。オリーを乗せた黒髪の貴公子…彼も参加者なのか?」
「え、ええ…」
「どうした?」
「いえ。一応参加者だとは聞いているのですけど…なにか違うんじゃないかって気がして。勘ですが」

聞けば彼はこの勘の良さで今までも様々な問題を回避してきたらしい。この選考会もその実績で選ばれたんじゃないかという話だ。

俺の考えでは…、彼は目が良いのだろう。視力ではなく周囲への観察力がだ。
その違和感を見逃さず洞察する。これは彼の処世術、ゲームなら斥候役ってとこか。


一見日本人にも見える、トラ之助と呼ばれた男。年若い少年だが、彼は明らかに高貴な雰囲気を纏っている。
彼のオリヴィエを見る眼が気になる…



複雑な感情のまま一時間も馬を歩かせただろうか、前門へと到着した俺たちは通行料を払い中に入る。

王都、つまり城の城下町は主となる都とその手前の街、副都に分かれている。
この前門をくぐったところにあるのが副都と呼ばれる庶民街だ。広い馬車道のあるこの辺りは活気の良い商業エリアだが、裏門に近づくほどその治安は悪化する。いわゆるスラムだ。

馬車道を突き当りまで行くともう一つの門。これを超えると主都となる。主都の手前にあるのが商業街、そしてその向こうにある真白に塗装した真鍮の門、門番の立つその門をくぐるとこれぞ真の王都、貴族街となる。


その前門へと一度にやって来た何台もの馬車。おかげで広場には馬車の行列が出来ている。

身動きの身軽なところがギグのメリットでもある。足腰を伸ばそうと車台を降りればポールもそれに続く。と、待ってましたとばかりに近づく不穏の影。お目当てはどうもこのポールらしい。

平民でありながら選考会の候補に選ばれる、整った容姿の彼。タチの悪いナンパだろうか?それにしてはガラが悪い…


オリーからこの世界の魔法と立場の力関係を聞くまでもなく、俺にはゲームで得た多少の知識がある。
もしこの世界で魔法を用いた争いに巻き込まれたら…一般人の俺ではひとたまりも無い。オリーが俺の単独行動を心配するのもそれが理由だろう。

だからこそ、そのための対策を俺は模索していた。俺に魔法の芽は無いが、代わりに進んだ知識という、限りなく魔法にも似た化学がある。

この世界にはすでにアルコール度の高い蒸留酒が存在する。アルコール度数は高ければ高いほど少量で酔えるし、長期保存が可能となる。
中にはアルコール度数95を超える酒も存在する。もちろん喉の焼けるようなその酒は普通に売られているものではないが…何故かヒューの店にはそれがあった。
どうやらこの世界における理(美)容院とは簡易の外科的町医者をも兼任しているらしい。

「皮膚を切ったり縫ったりするのは野蛮なんですって。上等な医者はそんなことしないのよ」

なるほど。美容師ほどハサミ扱いに慣れた者はいないだろう。そして95度のアルコール、それは消毒代りに使われる。

俺はそのアルコールを手の平サイズの小さな瓶に入れ胸元に持ち歩くことにした。笑えるほど単純な仕掛け。だが酒のこんな使い方など彼らは考えたこともないだろう。これは現世じゃエンタメだ。



幸い俺は学生時代剣道部に属していた。隙だらけの動きなど慣れてしまえば避けることは容易。火球はそこそこ厄介だが竹刀代わりの木棒は長さ一メートルを超える。間合いを詰めるのは一瞬でいい。

そこに割って入ったのはオリーだ。オリー…なんて馬鹿なことを。だが彼は奴らの魔力切れを狙っているのだろう。小さな火を必死に練って、奴らを煽り火球を繰り出させている。

オリーの魔法を馬鹿にする奴はオリーの魔法で倒してやろう、奴らの言葉を聞きながら俺はそんな考えが頭によぎった。

ぶっつけ本番。だが成果は上々。少しやり過ぎな気もしないではないが…、ここは力がものを言う世界。甘いことを言ってはこっちがやられる。

そこへ姿を現したのは参加者の一人である黒髪の少年。彼は護衛に指示を出し男どもを縛り上げていく。
ポールを選考会から脱落させようとした汚い陰謀。つまりその人物はポールに詳しく、かつ評価している人物と言うことだ。

「なるほど確かに。参加者の大半は平民位の彼のことなど歯牙にもかけていない。それが普通の反応だろう」
「こうして狙ったってことは、その人物はが有り得ると思ってるってことだ」
「君は明晰だな。それに腕もたつ。あれはどこの流派か…真剣での腕前を見たいものだ」

肩をすくめて返事をする。残念ながら真剣なんか美術館以外で見たことないんでね。

「君のような従者が居れば安心だ。どうかオリヴィエを頼む。彼をどんな危険からも守ってやってほしい」
「言われなくてもそうするが…」

ああやっぱり彼は…

「…」グッ…

オリーに視線を移す少年。凛とした彼のその視線は…どこまでも甘い…







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