転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

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不穏な帰路 ②

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そこに居るのはいかにもガラの悪い二人のゴロツキ。奴らはニヤニヤしながらポールを左右で挟み込んでいる。

「お前らなんの真似だ!」
「平民風情が身の程しらずにのこのこ出向くくらいだ!どれほど上玉か見てやろうってんだよ!」

…はっ!これ選考会のことを言ってる?じゃあこいつらはポールが誰か分かってるってことか!

ポールに近付く悪漢!

「イヤ!やめて!」
「おい!その汚い手を放せ!」

その腕を易々とねじあげるアンディ!

「何しやがる!」
「そいつを寄越しやがれ!」

「ポール!どこかに隠れてろ!」
「で、でも」
「行け!」
「は、はい!」

ああやっぱり…、彼はどんな時でも揺るがないヒーロー!けど魔法を持たないアンディに勝ち目は薄い!
ならアンディをサポートするのは僕の役目だ!

「気をつけてアンディ!あいつら後ろにダガーを隠し持ってる!」
「そうか…オリー!近寄るなよ!」
「けど!」
「いいからそこの天秤棒を投げろ!」

天秤棒⁉ これか!

「アンディ!」
「よし!」

アンディに投げたのは行商が肩に乗せる長い棒。彼はそれを掴むと、凶悪なダガーを取りだしニヤニヤと笑う男たちに正面から向き合った。

軽快な音をたてて刃先を躱すアンディ。あれは剣道!でもあの動き…、とても授業だけのものとは思えない!数度の攻防を経て、彼はゴロツキのダガーをついに弾き飛ばした!

す、すごい!すごすぎるよ!

「チッ!ならこれでどうだ!」

「うわ!」

あれはファイアーの攻撃型、ファイアボール!けど奴らの火球に威力はない。
魔法とは相応の努力によって向上するもの。ならず者が腕を研いたりするわけない!

だけどアンディは攻め込まない。火球を避けながら様子を伺っている。もしや魔法の打ち止め狙い?
アンディの顔に怯えは無い。きっとそうだ。だってこんな奴らが大層な魔法力を持ってるわけがない!考えなしに燃費の悪い攻撃魔法を放てば直にエンプティだ。
それなら…

「こっちだ!えい!」

飛んでいったのは線香花火みたいな火玉。ああ…必死に特訓したのに僕の魔法力じゃこれでもマックス…
でも時間稼ぎくらいなら僕だって…

「ワハハハハハ!なんだそのちんけな火力は!」

「う…だ、黙りなさい!僕はスターリング子爵家の嫡男!貴族位に向かってふ、ふふ、不敬ですよ!」

足の震えが止まらない。

「馬鹿にするな!えいっ!」

ヘロヘロヘロ…

「ハーッハハッハッハッ!本物を見せてやる!」
「わっ!」
「ほれほれどうだ!」
「危ない!」

それでも貴族の僕に本気でぶつける気はないらしい。ここまで馬鹿にしといて今更だと思うけど…

「お坊ちゃんよぉ、まだやる気か?」
「お遊びはここまでだ!」

うぅ、バカにされてる!

「オリーよくやった!ついでにもう一発だ!」

お役目完了。アンディの準備は整ったようだ。

「えいっ!」

ヘロヘロヘロ…

するとその時!僕のチョロ火がなんと!!!強力な火炎放射にーーー!なにこれウソでしょーーー!!!

「うわぁぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!」

「オリーの火球はこう使うんだよ!舐めるな!」

消火中のゴロツキにアンディの声は聞こえない。
ああアンディ…、もしかして僕のために?

「いいか!次はこんなもんじゃ済ませない!黒焦げになりたくなきゃ失せろ!」

「いいや。彼らは私が然るべき場へ連行しよう」

最後の決めセリフ!…と、そこへクールに登場したのは虎之助さまだ。

「手を貸せずすまない。だがアンディといったか、君の腕前ならば助太刀無用と思えたのでね」
「はは、大した評価だな」

そうだけどそれだけじゃない。虎之助さまは恐らくかなり高位のご令息。
庶民同士のこんな小競り合い、馬車から降りるなんてこと、本人が良くても従者と護衛が絶対許さないだろう。当然のことだ。

「この者どもは…様子を見るにどうもただのならず者ではなさそうだ」

虎之助さまは言う。
下位とは言え貴族位の僕を気にもとめない蛮行、この男たちの後ろにはそれなりに地位の高い貴族がついているに違いない、と。

「恐らく何者かによる仕込みだろう」
「参加者周辺だな」
「そうだ」

え…っ?

王家の選考会第二関門は選別の石によって不穏分子は除けられているはず。だからと言って参加者の関係者までが善良で道徳的とは限らない…ってことか。

目の前の男たちは虎之助さまの護衛により既に縛り上げられている。

「あなたはこいつらをどうするつもりです?」
「横槍が入らぬようこのまま先の別荘へ連れ戻ろう」
「コテージに?」
「王家の選考会に水をさす愚行…ならば王家によって裁かれるがよかろう」
「誰の差し金か口を割らせるんだな」
「そうだ。気の毒だがその者は脱落するであろう」

アンディは未だ震えの止まらない僕の代わりに虎之助さまと話している。
その時、つい…と惹かれるジャケットの裾。それは恐怖からか、どこか様子のおかしいポールだ。

可哀想に…あんな奴らに絡まれてはどれほど怖かっただろう。

「大丈夫ポール?」
「え、ええ、なんとか」

高位貴族の子女たちがあれほど集まったコテージでさえ、出過ぎることはなくとも堂々と過ごしていたポール。
彼には何故自分が王子に選ばれたのか、その礎となる確固たるものが何かあるのだろう。

王家の広報的アピールで選ばれた僕とは違う…

そんな彼をこんな卑怯な手で引きずり降ろそうとするなんて…許せない!

「あの…」
「何?」

僕の憤慨をよそに、どこか惚けたボールの表情。

「アンディ様は…」
「強いでしょ。頭も良いんだよ」

あんなに強いなんて知らなかった…カッコいい…

「従者兼秘書と仰いましたね」
「え?うん…」

なんだろう…なんか…いやな予感がする…

「では彼も貴族位なのでしょうか?」
「アンディは…その…、……貴族じゃない」

「貴族じゃない…」

ホッと息つくポール。その意味は?

「ですが勇敢で賢明で…素晴らしい人ですね」
「うん」
「お優しくて…」
「うん」
「お話上手で…頼りがいがあって」

「…僕もそう思う…」


ポールの頬が薔薇色に染まって見えるのは気のせいなんかじゃない…





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