転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

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ニ次審査通過

夜が明け、鳥の声と共に目覚めた僕たちは、屋敷へ戻るために初夏の若葉輝く山道を下っていた。
腕にはカゴ。自生のベリーやアンズなんかがいっぱいに詰められている。

「ベリーはジャムに、アンズはお酒に漬け込もうかな」
「へー、美味そうだ」
「美味しいよ。でも三か月待ってね」

たわいもない会話。僕はこんなひと時が大好きだ。


「そう言えばアンディ…あれどうやったの?火炎放射…」

アンディは僕に心配されるまでもなく、魔法が使えないことのハンディをどう補おうかと考えていたらしい。

「揉め事が起きた場合だけじゃない。魔法が使えない、それだけで見下されるのは真っ平ごめんだ」

身分の差異はこの世界に居る以上仕方がないけど、魔法の有無なんかで優劣を決められたくはないらしい。アンディのこういうところ男らしいんだよね…

「でもあの火炎放射は火が無くちゃ意味ないでしょ?」

意味ありげにチラ見するアンディ。その顔は悪戯そうに笑っている。

「いいか、見てろ」

パチっという音とともに発火したアンディの指先…

「え?ど、どうやったの!」
「転生者のお前なら馴染みのある仕掛けだけどな…」

転生者の僕ならわかる仕掛け…つまり前世にあるもの…あっ!

「何握ってるの!」

「ライターだ」
「ライター…え!? ええ?それだけ?」

それだけ…と言ってはみたが、この世界には未だマッチもライターも存在しない。
というか、そもそも生活魔法に〝ファイアー”がある時点で、きっとそれらの開発は今後も進まないだろう。

「ライター…」
「実は昔ライターの自作キットで組み立てたことがあったんだよ」
「パーツは?」
「作った」

アンディの通っていた中学では美術で彫金の授業があったんだとか。その応用で自作用パーツを作ったらしい。アンディは単純な作りだって笑うけど…すごすぎ…

「部屋でそんなことやってたんだ…」
「手の平サイズだ。上手く隠せば見えないだろ」
「さっきどうやったの?」
「こう上下を挟み込んでだな…」

ジッ

やすりの摩擦音。親指と人差し指で作った輪からは火が出ているように見える。何も知らなきゃ〝ファイアー”を使ったように見えるだろう。

片手でライターをつけたり消したりする手のしぐさがまさに大人の男って感じ。

お布施の額で得られる魔法力は変動する。
下の上くらいのお布施をした僕は、弱いながらもクリーン・ウォーター・ファイヤーが使えるけど、中の上くらいのお布施をしているお父様はこれに簡単なヒールも使えたりする。
逆に下の下ランクのお布施しか出来なかった人は一種しか持たない人も多い。家に居るサムとアンナの夫婦も、サムはファイヤーのみ、アンナはウォーターのみしか使えない。

けど、これで僕が抱く不安は一つなくなった。その事実にほっと息を吐く。
頭が良いってこういうことを言うんだろうな…問題を把握し対策を練って実行する。

そのとき僕は彼がここに居る幸運を全身で噛みしめていた。





「おかえりなさいオリヴィエ様」

屋敷に到着すれば、満面の笑みで出迎えるフレッド。これは一体…

「おめでとうございます!教会より通達が届いてますよ!」

「ウソ!!!」
「やったなオリヴィエ。思った通りだ!」

絶対落ちたと思ったのに!
王家の選考基準が本気でわからない…

「三次からは新聞に顔写真が載るらしい。知名度アップだな」
「やめてよ」
「いいやオリー。この知名度はただの知名度じゃない。王家に選ばれし四十名、お前はその一人で、これはある種の〝信用”だ。簡単に得られるものじゃない」
「大袈裟じゃない?」
「いいや。これで交渉がしやすくなる」

ゴクリ…つまり僕が頑張った分だけスターリングの株があがるってことか…

「あ…じゃあ長期留守になるなら色々手配しとかなくっちゃ。苗とか肥料とか。休耕地の天地返しもしなくちゃいけないし…」オロオロ

次の審査は一ヶ月滞在しての審査。農村での段取りだけでも済ませておく必要がある。

「一か月か…じゃあ俺は王都まで送ったら一旦戻るとするか」
「送ってくれるの?」
「迎えにも行く。当たり前だろ」

えへへ、特別扱い…役得だよね。

「でも領が留守になるよ?いいの?」
「あのなあ…ここには領主…子爵が居るだろう?」

そうでした。頼りなさ過ぎてつい存在を忘れがちだけど、領にはお父様がいる。

「道中すべきことは色々ある。伯爵様とアポ取って販路の拡大をお願いしたりとかな」

お父様が内側で守ってアンディがフットワーク軽く営業に出る、案外この組み合わせは悪くないのかもしれない…

「じゃあオリー、次の段階だな」
「次の段階…」

「二次関門で俺たちは『拡散の手段』を手に入れた。次は何だと思う?」
「?」

さっぱりわからない…

「次の三次でお前がするべきことは『戦略の起点』を確立することだ」
「??」

ますますわからない…

「一回売って終わりじゃ意味ないだろ?」

そうだ!これを何度も何個も購入したいと思わせるためにロジンには意味を持たせたんじゃないか!

「オリー、今度はこのブローチが持つ効果をPRして信じさせなくちゃならない」
「ハードル高いね…そんなこと僕に出来るかな」

「大したこと言わなくていいさ」

アンディが言うには僕の自信の無さこそがPRになるんだとか。
僕があの審査を「場違いだな…」と感じるように、そんなことは周囲もきっと感じているだろう。そこで僕はロジンブローチを手に「幸運のロジン。これのおかげかも」と一言いうだけでいいのだと。

「そ、そんなので?」
「眉唾でもなんでもいいんだよ。人は分かってても正念場では何かに縋りたくなるもんだ。オリーは受験前に合格グッズとか買わなかったか?」
「買った…」

うカールとかキットカットとか…あー…、そういうことか。
落ちたからってクレームはつけないけど、受かればご利益に感謝する。縁起物にかける期待なんてそんなもんか…


「何種か持ってけ。一つは前回と同じ『幸運のクローバー』。もう一つは『栄光のローリエ』、最後は『永遠の愛を誓うカスミソウ』…でどうだ」

「良いと思う」
「いいか、とにかくお前はロジンを持って第三次を通過した。それは事実だ。他にも誰か居れば言うこと無いがな」

きっといるに違いない。ロジンをお渡ししたのは主に高位の令嬢が多い。二次から三次は二十人の落選者。きっと下位から多く落ちるだろうから。

「ロジンを身につけた人物が二次を通過し三次進出が決まった。その事実があれば噂の拡散には十分だ」


これが情報操作か…ああ怖い。



    
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