転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

文字の大きさ
41 / 84

第三次関門へ出発

しおりを挟む
三次審査までの一か月はあわただしく過ぎて行く。

一か月を要する長期審査。帰宅するのは八月になる。
八月は農家にとっても最も忙しいシーズン。

猛暑と呼ばれた前世日本の暑さほどでなくとも、炎天下での作業は体力を奪っていくし、雨の具合によっては水やリにも相当の注意を払わなければならない。

作物が青々と実るということは虫も発生するということであり、適切な害虫駆除に村総出での収穫作業。その合間を縫って、来季に向け現休作地の土を改善していかなければならなかったりもする…

今までになくやることがいっぱいだ。でも初めての充実感。


この世界で荘園をもつ貴族とは学院で運営の基礎を学んで、それ以外の大部分を親から伝授されていくものだ。
そこにはその土地ごとの気候や風土があったりするし、その領ならではの秘訣や秘策があったりするからだ。
先代が急逝したお父様の場合、そこがすっぽり抜けてしまったのだからさぞかし運営は大変だったことだろう。

因みにアンディからは以前こんな見解を聞かされている。

「執事は巧妙に子爵領の財を着服し移動させてた、そんな気がする」

これは先代と一緒に土砂に巻き込まれた古くから仕える執事ではなく、その後新たに雇い入れた新しい執事のことだ。
時系列としては、お父様の結婚、お母様のご懐妊(僕ね)、土砂崩れ、葬儀と共に大慌てで執事の募集、僕の誕生、といった流れだ。つまり僕は直近まで居た執事しか面識はない。

新しい…とはいえ、僕が成人してしばらくまで…十六年間一緒に居たのにそんなことって…考えたくもないけど…

「えぇ⁉ ま、まさか!」
「まさか…そう思うか?普通執事ってのは辞めるにしても紹介状を貰うもんだろう?何故ここの執事はある日いきなり逃げた?そりゃ後ろ暗いことがあるからだ」

そう言われたらそうかも知れない…祖父存命中は、豊かでなくともここまで困窮することなく維持できていたんだから。

「子爵に追い打ちかけるのもなんだし俺からは言わないがな」

アンディは、「もしそうなら執事は財政の傾きを雇い主にバレないようギリギリまで隠していただろう…だから子爵の運営が全て悪かったわけではない」と言ってくれたがこれは慰めになるんだろうか?


そのお父様は僕の農業知識を知って相当驚かれていた。
そして領民たちは胡乱気ながらも若輩者である僕の指示通り動いてくれている。
これは、どれほど貧しくても領民に対して非道じゃなかったお父様の功績も、すこーしだけあると思っている。




さて、刻一刻と三次審査の時は近づいてくる。

「僕の準備は順調だよ。アンディは?」
「俺か?まあまあだな。スターリング子爵にシーモア伯爵への紹介状を書いてもらった。無事面会出来るといいんだが…」

シーモア伯爵とはスターリング子爵位の上司にあたるお方で、それほど大きな力を持つ伯爵領ではないが、実に健全かつ堅い領運営をなさっている。
お父様が散々借財を申し入れたのがこの伯爵だ。我が家の美術品を売るのにも手をお貸しくださっているし、そろそろ現状に呆れ見捨てられていてもおかしくない。
ましてやアンディはいくら聡明でも平民位。お会い下さるだろうか…

お父様からの紹介状以外にアンディが揃えたのは、ロジン産業の計画拡大概要書、現時点での受注貴族名一覧、伯爵様への借財返済計画書、あとは…僕の載った号外…(これね、各領、それぞれの教会を起点に配布されているんだよ)

「号外まで持っていくの?恥ずかしいよ…」
「言ったろ。これはわかりやすい信用だ。お前を疑うことは王家の眼を疑うも同じなんだからな」

まあ…確かに?
その僕自身には、何故殿下方が僕を残したのか疑問でしょうがないのだが…消去法かな?取り立てて良い点も無いけど落とすほどの悪い点も無かった、みたいな?

「このシーモア伯爵を抱き込めるかどうかで今後の展望が大きく変わってくる。何とか攻略したい」
「復路で僕がなんとかアポイントとるよ。往路で面会出来るようにすればいい?」
「頼むオリー。この号外はそのために持っていくようなものだ。必ず執事に渡すんだぞ」
「あ…うん」

僕の信用ってその号外?…これ喜ぶところ?



そうしてある暑い夏の日、ついにその日を迎え、僕とアンディは各々色んな思惑と緊張の中、王都に向かってギグに乗りこんだ。
ギグを操作する僕の横で、アンディはしきりに先日届いた手紙のことを気にしている。

「なあオリー。友だちから手紙が来たって言ったよな?」
「そうなの。彼も受かったって!また一緒に過ごせるんだよ。嬉しいな」

「それは…あれか?あの黒髪の…」
「違うよ。虎之助さまとは住所交換してないもの」

っていってもスターリング子爵領、領主館で届いちゃうんだけどね。

「そうか…。じゃあロジンを渡した例の彼か?」
「ううん。違う友だち。ヒューさんの店に来るはずだから紹介するね」

手紙の主はデイビッド。ツンツンしてた第一印象と違い意外にも彼はなつっこい。多分人見知りをツンで誤魔化すタイプなんだろう。あの三日間で僕たちはすっかり打ち解けていた。

「はは、お前たちライバルじゃないのか」
「それとこれとは別。僕たちは同じ目標に向かって精進する仲間だよ」
「選ばれるのは三人なのに?」
「誰が受かっても恨みっこ無し。そう話してる」

そもそも僕の目標はそこじゃないし。
折り返し送った「僕も受かったよ」の手紙。今頃デイビッドは手にしているだろうか。

「へぇ?ならあのポールも受かってるといいな」
ヒクッ「そ、そうだね…」

アンディってば…、ポールのこと意識してるのかな…やだなあ…

ポールは他薦で参加している人だ。村の期待に応えるためにも精一杯取り組む、とは言っていたが、結果に執着が無いのは僕と同じ。

…それって…彼に好きな人が出来たら選考会より優先順位は高くなるってことだよね…

ポールのアンディへの感情がただの憧れであるように、それでアンディがポールを好きにならないように、そう願ってしまう僕はきっと領の財政以上に心が貧しているのだろう…

ああ…自己嫌悪…





しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていた矢先、森の中で王都の魔法使いが襲われているのを見つけてしまう。 *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

難攻不落の異名を持つ乙女ゲーム攻略対象騎士が選んだのは、モブ医者転生者の俺でした。

一火
BL
――聖具は汝に託された。覚醒せよ、選ばれし者 その言葉と共に、俺の前世の記憶が蘇る。 あれ……これもしかして「転生したら乙女ゲームの中でした」ってやつじゃないか? よりにもよって、モブの町医者に。 「早く治癒魔法を施してくれ」 目の前にいるのは……「ゲームのバグ」とまで呼ばれた、攻略不可能の聖騎士イーサン!? 町医者に転生したものの、魔法の使いをすっかり忘れてしまった俺。 何故か隣にあった現代日本の医療器具を「これだ」と手に取る。 「すみません、今日は魔法が売り切れの為、物理で処置しますねー」 「……は!?」 何を隠そう、俺は前世でも医者だったんだ。物理治療なら任せてくれ。 これが後に、一世一代の大恋愛をする2人の出会いだった。 ひょんな事から、身体を重ねることになったイーサンとアオ。 イーサンにはヒロインと愛する結末があると分かっていながらもアオは、与えられる快楽と彼の人柄に惹かれていく。 「イーサンは僕のものなんだ。モブは在るべき姿に戻れよ」 そして現れる、ゲームの主人公。 ――……どうして主人公が男なんだ? 女子高生のはずだろう。 ゲーム内に存在し得ないものが次々と現れる謎現象、そして事件。この世界は、本当にあの乙女ゲームの世界なのだろうか? ……謎が謎を呼ぶ、物語の結末は。 ――「義務で抱くのは、もう止めてくれ……」 ――結局俺は……どう足掻いてもモブでしかない。 2人の愛は、どうなってしまうのか。 これは不器用な初恋同士と、彼らの愉快な仲間たちが織り成す、いちばん純粋な恋の物語。

処理中です...