転生子息は選ばれたい お家のために頑張ります

kozzy

文字の大きさ
42 / 84

初めてのシーモア伯爵

しおりを挟む
ゴンゴン!

ギィィ…「どなたですかな?」

「あっ、あの!僕はスターリング子爵家のオリヴィエ、」

「主人からはスターリングは借財を返すまで通すなと申しつかっております」

し、瞬殺…
いいや!ここでめげてどうする!頑張るんだ僕!アンディの為に!

「いえ、会っていただきたいのは僕の秘書にです。伯爵様にはそのための約束をお願いに参りました。どうぞこれを…」

ドアノッカーの呼び出し音に姿を見せたのはまごうことなき執事。どこからどうみても有能そうないぶし銀の執事だ。
外の執事を知らない僕にはわからなかったが、なるほど。こうしてみると我が家に居たあの中年執事が、いかに世俗的だったかがわかるというもの。それでも当時は話しやすい執事さん…とか思ってたんだから僕もお父様も大概甘ちゃんである。

さて、貴族同士とは何事においても多くの儀礼を要するもの。儀礼の順守とは互いの身分証明といえるものだ。何故って?庶民はマナーなんか知らないからね。マナーに通じる、それが貴族の証と考えられている。

つまり面会一つとっても、いきなりやってきて「今から少しお時間いいですか?」などといった不躾はしない。

だからこそ僕は先触れの代わりに、こうして往路の途中、アンディに会ってもらえるようお願いにきたってわけ。冒頭で心折られたけど…

気を取り直して手渡したのはお父様からの紹介状。そこにはアンディがいかに有能な秘書であるかが、彼の指揮下で新たな産業を模索していることと共に綴られている。

伯爵は僕たちが前回ここで馬車を売りギグに買い替えたことをご存じのはずだ。
紹介状には、それもアンディの指示であり、それで得た資金を元手に今は領内を整備中だと記されている。

「少々お待ちを」

実のところ僕に伯爵との面識はない。反応が全く読めない…。模範的な田舎貴族だとお父様からは聞いているけれど、どんな方なんだろう…

「失礼しますオリヴィエ様。主人は何故自身が一介の平民位と会わねばならないのか、と仰せでございます」

ですよねー。

「仮に話を聞くでも、何故子爵は同席しないのかと、そう申しておりますな」

カサ…「これを伯爵様に」

「これは?」
「教会で配られた号外です」

やっぱりこれを最初に出すべきだったか…。僕はそれをみせながら申し訳無さそうに説明した。

本来であれば当主である父が同席するのは至極当然。だがアンディは厳密に言うと僕の秘書であり、決してお父様の使用人ではないということ。(これはアンディの去就に関して僕以外の誰も手を出せないよう、一番最初に決めたことだよ)
この産業計画も僕とアンディによって進められていることで、お父様はあまり深く関わっていないということ。

「なので本来であれば僕が同席するのが筋なのですが…僕は五日後からこの三次関門への参加が決まっており一か月ほど不在になります。ですが領のためには一分一秒でも無駄には出来ない。僕の審査終わりを待っているわけにはいかないのです」

「…ま、まさか…。少々お待ちを」

この「少々お待ちを」は先ほどとトーンが少し変化している。期待していいんだろうか…

ギィィィ…

「君がスターリング子爵の嫡男オリヴィエ君か!初めてお目にかかるね。立ち話も何だ。入りなさい!」

え?ええっー!ご当主のお出まし⁉ 目の前には執事を飛び越えてロマンスグレーのダンディが居る!
すごいな号外効果…。名前の羅列だった二次審査の号外では期待した割にお母様からおめでとうすらなかったのに…

通されたのは初めて入る大貴族の豪華なサロン。我が家のサロンと広さが違う…

スターリングの屋敷は二つの書斎、従者(侍女)部屋付き個室が三つと普通の個室が二つ、一階にホールから続く手狭なサロンとカジュアルなシッティングルームをもつ、小さいながらも田舎の子爵家なら十分と言える二階建てだ。

ここは地下付き三階建て物件(三階は屋根裏部屋ね)、外の窓から分析するに、ワンフロアーに六から八くらいの部屋があると予測される。それも一室一室が無駄に広くて天井が高い…

うんまあ…当然か。我が家と違って伯爵家では夜会やお茶会なども定期的に開かれるのだろうし…お母様が居た時ですらごくたまのお茶会しか催しの無かった我が家と比べること自体が馬鹿げてるな…


「いやはや驚いたよ。君が王家主催の選考会三次参加者とは」
「あの…伯爵領では号外は配られなかったのですか?」
「いや、号外なら手元にある。だが身近に合格者がいるなどと考えてもみなかったのでね。高位貴族しか確認していなかったのだよ」

号外の新聞は一面十名の計二枚、つまり四面仕様。そしてその掲載は「公平にあいうえお順です」などということはなく、ガッツリ序列順になっている。つまり最後の一面は伯爵的にほとんど見る価値無しだったってことか。

「スターリング子爵のご子息がこれほど可愛らしいとはね。殿下方の目に留まるのも無理はない」

うっ!…これはすべてヒューさんによるカットとアンディによるスタイリングのおかげ。言えない…本当は至って平凡です!だなんて…

「あの…すみません伯爵。僕ギリギリの日程で領を出てきたのであまりゆっくりできないのですが」

外でアンディも待たせてるし…

「う、うむ。そうか…ゆっくり殿下方の話なども聞きたいと思ったのだがね」
「でしたら帰路にもう一度お寄りしましょう。それより伯爵…」

先ずは借りっぱなしでいるスターリングの非礼を詫びる。

「あれはお父様だけの責任ではありません、僕にも非はあります。伯爵に多大なご迷惑をおかけしてなんとお詫びすればよいか…」
「頭を上げなさいオリヴィエ君。成年になったばかりの君に責があるとは思わぬよ」
「伯爵…温かいお言葉痛み入ります」

「私は子爵に対しても気の毒に思っているのだ。だからこそここまで援助した。だがこれ以上はむしろ彼のためにならぬと、そう思いなおしてね」

「ごもっともです」

僕は改めて懇願した。
今考えているのは従来通りの収穫高をあてにした領運営ではなく、天候、天災に左右されない固定産業をスターリングに確立する事なのだと。

「その内容はご協力の確約無き今は言えません。ですがこれはスターリングに安定した収入、そして人の流入を生み出す画期的な策だと自負しています」

「ふむ…」

「アンディ、…これを考案した僕の秘書は類まれな切れ者です。僕は彼に全幅の信頼を置いています!どうか…どうか!彼の話を聞いてください!」

「君が彼を信頼しているのは理解した。だが相手はどうだね。後で足元をすくわれるなどと言う事は万に一つもあってはならないのだよ。それは領民をより苦境に立たせることだ」

アンディが僕をどう思っているか…
そんなの…頼りにならない部下か後輩、けどほっとけない、きっとその程度のことだ。でもアンディはスターリングを立て直すまでここに居てくれるってあの日約束してくれた。そして彼は決して約束を破らない。僕はアンディを信じてる。

「ブルーメンベルグの神に懸けて、僕たちの信頼関係は本物です」

「良いだろう。君がそこまで言うなら会ってみよう。外に居る彼のことだね?」
パァァ「はい」

「オリヴィエ君、来なさい」
「は、はい!」

やったよアンディ!ついにアポイントを手に入れた!




しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていた矢先、森の中で王都の魔法使いが襲われているのを見つけてしまう。 *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

処理中です...