断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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男爵と文通 ②

エンブリー男爵様

僕からのスコップやシャベルは無事届きましたでしょうか。
そちらの生活はいかがですか?お変わりありませんか?

僕は貴族学院の新学期を迎え少しばかり忙しい日々を送っていました。
何しろ覚えることがいっぱいで…。侯爵子息って大変ですね。人物相関図がくちゃくちゃで気が狂いそうです。
エンブリーの田舎でだったらこんな面倒クサイこととはおさらば出来るんでしょうか。
特に深い意味はありませんが知っておきたいので教えてください。

そう言えばこの間、王宮にお邪魔して王妃様にお茶をご馳走になりました。
僕が思うにお茶なんてどう飲んだって味は変わらないし、お菓子なんて好きなのから食べればいいと思います。
デザートスタートの何が悪いんでしょう…僕には意味が分かりません。

そう言えば王妃との茶会には三人の王子様が同席しました。
小さなトレヴァー殿下は死んだ目をしてお菓子をむさぼっていました。王子教育が大変なんだなって思いました。
コンラッドは…省略して、アレイスター殿下に初めて会いました。これは初めてまともに話したという意味です。
彼はとても良い人でしたが髪色がグレーなのがいただけません。髪色はやっぱり黒じゃないと。
僕は黒髪至上主義です。ところでエンブリー男爵は何色ですか?
もしも…もしもの話ですが、僕が頼んだら黒に染めたり出来ますか?
ちょっと聞いてみただけです。これも深い意味はありません。

長々と書いてしまいましたがまたお手紙しますね。

追伸
温情…とか窮状…とか、何言ってるか分かりません。心遣いとは同封した切手のことですか?あれくらい当然です。お気になさらず。

シャノン・プリチャードより




王都から届けられた二通目の手紙。
それは他愛無い近況を伝えるずいぶんくだけた文面。

恐らくは、まだ若輩である私に合わせてくださったのだろう。
私は持病を抱えた父に代わり、少しばかり早い襲爵となった。
この国では健康不安を抱えた場合に限り生存中の継承が許されている。父は私にエンブリーを譲ると、遠く離れた暖かい南に小さな家を買い、母と共に転地保養なさっている。

気ままな独身貴族。それが私だ。だがその内情は楽観できるものではない。領地経営はいつも火の車だ…。

シャノン様からの手紙を受け取ったあの時、私はある近隣の領主から、返済の代わりに爵位を寄越せと迫られていた。子沢山の彼は息子に譲り渡す爵位を欲していたのだ。
爵位の譲渡は勝手にできるものではないが、男爵位に限り貴族議会の承認を得られれば可能となる。

シャノン様はそれをどこでお知りになられたのか。あの時私は万策尽きていた。全てを投げ出し身一つとなる覚悟を決めたまさにその頃だ。シャノン様があの切手を送って下さったのは…。
シャノン様のおかげで私は祖父の代より続く家門を、そして温かな領民たちを、当面とはいえ何とか守ることが出来た。あの領主は良い噂を聞かない男だ。であれば、その息子もまたしかりだろう。

それにしても、まさか本当にシャベルやスコップが送られてくるとは思ってもみなかったが…聡明なシャノン様が保管をお望みなのだ。きっとそこには何か深い意味があるに違いない。

噂など当てにならないものだ。『茨姫』などと呼ばれるシャノン様がこれほど可愛らしいお方だったとは…。
ふふ、社交やマナーに手を焼いていらっしゃるのか。だが彼の言う社交やマナーとは王族に嫁ぐ者としてのもの。そこには何か特別なしきたりがあるのだろう。

ああ…いつかお会い出来たら…
あの小さな背中は今はどうなっているのだろう…




シャノン・プリチャード様

気にするな、などとつれないお方だ。
あなたへの感謝は、どれほど言葉を尽くしても足りぬというのに。
シャノン様の、エンブリーを守れというお心に報いるためにも私は…よしましょう、無粋ですね、これ以上は。
あなたがそうまでおっしゃってくださるのだ。これ以上はもう何も言わないことにしましょう。

あなたもご存知なようここには大した社交などありません。借財を抱える貧しいこのエンブリーと交友を持つ当主などおりません。情けない話ですが。

王都でのマナーは確かに大変な事ばかりでしょう。それらも含め、多くのことを学ばれるために貴族学院があるのです。今は未熟でもよいのですよ。
実は私は学院へは通っていないのです。貧乏な田舎貴族ではよくあることです。
爵位継承の報告に王城へ出向いた際も、無作法な田舎貴族と随分物陰から笑われたものです。気に留めてもおりませんが。

あなたにお喜びいただけるなら髪色ぐらいいくらでも変えてみせましょう。
ですがなんと私の髪色は元々黒なのです。
些細なことですが、何も持たぬ私があなたの望みを一つ叶えられたこと、それが嬉しくてたまりません。

追伸

どうか私の事はジェロームとお呼びください。あなたの唇から奏でられる名前はどれほど甘く響くのだろうか、そんなことを考えています。

ジェローム・エンブリー



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