断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
28 / 310

18 断罪へ至る日常 

しおりを挟む
今僕はシャノン専用個室にて取り巻きたちと昼食中だ。

午前一講義、午後一講義の間にあるランチタイムは二時間半というゆったり仕様。食事プラス食後のお茶プラス午後の準備のためにこうなっている。貴族は食事を10分で掻っ込んだりしないのだ…。

記念すべき初めての高校生活一日目。秋期初日から普通に授業の有る学院で午前の講義を無難にこなした僕は、終了の合図とともに楽しみにしていた人生初の学食に足を向けていた。

常時開放のカフェテリアには大勢の学生がいる。初・体・験…

「おい、あれ…」
「嘘だろう…、なんでシャノン様が…」

僕の姿に騒めく学食内。良いじゃん来たって。なんならこれは今日のメインイベント。そのためにお弁当も持って来なかったんだから。

「あの、すみません」
「へっ?お、俺、いえ、私ですか?」
「僕、学食って初めてで…その、オ」

「いけませんシャノン様!」
「いやオーd」
「カフェテリアで何をなさっておいでですか?」
「だから注m」
「アーロンなど放っておくのが一番です!さあこちらへ!」
「あ、ちょ」

どこで注文するのかな?とウロウロしていたところ、何かを誤解したであろう三人の取り巻きに、シャノン専用のサロンへと引っ張って来られたのが只今の僕である。

どうやら王族には専用の個室があるらしい。なにそのセレブな語感。
今現在学院で学ぶ王族はコンラッドとアレイスターなのだが、何故かコンラッドの婚約者であるシャノンにもフライングで個室が与えられている。
ノベル内で大きな役割をもつ『サロン』それがこの個室のことか…

継ぎはぎの情報を総合すると、なんでもコンラッドが「陛下の命」を盾に、個室にアーロンを招き入れていると知った王妃が、シャノンの立場を慮って学長に用意させたのだとか。王妃…グッジョブ!

学食は残念だったが、これからいくらでも機会はあるだろう。
それよりサロンはノベルでも頻繁に出てきた舞台。ここにアーロンをお茶に誘って恥をかかせたり、ここにアーロンを勉強会の名目で呼びつけ教科書をビリビリに破いたり…。その舞台となる記念すべき場所。僕は不思議な感動に浸っていた。

そして分かったことだが、僕の昼食は常に取り巻きの誰かが用意してくれているらしい。あー、だからお弁当はいらないって言った僕に、シェフがあっさり頷いたのか。

学院内に従者は伴えない。代りにサロン専用メイドが一人付く。そのメイドさんがキレイにテーブルの上を整える。

そして黙食…、それが本日の僕にとっての、もっとも正しい昼食の作法である。

どうやらシャノンは元々無口な性質らしい。僕が身バレ警戒で黙っていても、周りは特に気にしないでおしゃべりに花を咲かせている。そのおかげでこうして空気のように聞き役に徹しているのだが…オタクの特技、人間観察。これはこれで情報収集にはいいかもしれない。
おかげで脳内の人物相関図に新たなる情報が書き込まれていく。
どの辺がコンラッド支持層でどの辺がシャノン支持層で、…そしてここにもアレイスター派閥は出てこない…

「それにしても先ほどの授業…、レイトン教授もすっかり舌を巻いておりましたね。素晴らしいですシャノン様」
「それより午前中は少し落ち着かないご様子でしたが…、ようやく調子を取り戻されましたか?」
「サロンに来られてからは何だか嬉しそうですね」

おっといけない。顔に出てたか…。問いかけてきたのはアリソン君。チキンのパイ詰めを持って来てくれたご令息だ。

「こうしてここでランチを出来る喜びに浸っていまして…。アリソン様のお弁当はどれもこれも美味しくて…ほっぺが落ちそうです」

やばっ、顔がにやける…

「そ、そのようにおっしゃっていただけるとは…当家のシェフも喜ぶでしょう…」
「シャノン様…、なんだか雰囲気が変わられましたわね。近寄り難さが無くなったというか…」
「先ほどからどこか楽しそうで…良いことでもありましたか?」
「リアム様!」
「あ…、し、失礼しました、こんな時に」

「いいえ。何も問題ないです」

「シャノン様…」

そう。何も問題は無い。思いのほか全てが順調に進んでいる。

取り巻きたちとの交流もこうして無事果たせたし、授業の内容も問題なく理解できた。
なんかチラチラそこら中から見られるのがうっとおしいっちゃうっとおしいけど、教授回診で研修医の大群に囲まれることの多かった僕は、ジロジロ見られるのにも、ヒソヒソ何か(病状とか?)言われるのにも慣れている。

むしろ初日だと言うのに、文学の授業に中世ファンタジーの登竜門、バッタもんの騎士物語『オーサー王伝説』が出てきたもんだから、思わず僕なりの解釈を1時間ものあいだ熱く語ってしまったのは少しやりすぎたと反省している。

でもそれも含めて何一つ問題は無い。

僕のシャノンとしての学院ライフは薔薇色の予感!




しおりを挟む
感想 871

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

処理中です...