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ロイド
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「この刺繍は…オレンジの薔薇ですね?」
「あの、…ハンカチ…、気に入ってくれたと聞いたので。この刺繍は隊長だけの特別ですよ?では先に行きますね。ゆっくりしていってください」
カランカラン…
「行ったか…」
「…ヘクター先輩…」
「いいから涙を拭け」
隊長…。私にそのような名誉ある称号をお与え下さるなんて…。感極まるあまり、人前でみっともない姿をさらしてしまったが…これは不可抗力ではないだろうか。
貸しきりのカフェに何故彼がいるのか…、それは彼が店員に化け、初めから店内にいたからだ。
彼だけではない、給仕の彼も、カウンターにいる売り子の彼女も、みなアレイスター殿下の配した者だ。
流石に高貴な彼を従者も外に待機させた状態で店内に一人きりなど…出来ようはずもない。
それにしても、まさかシャノン様がコンラッドを気にかけるとは思いもよらなかった。
シシュンキ…確かにコンラッドは母である王妃殿下に対しどこか他人行儀だ。だがそれは王家における親子の関わり方ゆえそういうものだろうと思っていた。
だが彼は…、王妃アドリアナ様が幼いシャノン様の手をとり連れ立って、普段自ら足を踏み入れない養育部屋へやって来た時、それとハッキリわかる形で顔色を変えたのだ…。
思えばあれが二人の仲を決定付けた。
愚かだった私はコンラッドの意に沿うよう、不快感をあらわにする彼にことさら同調して見せたし、その後ブラッドが加わった事で、シャノン様が何も言わないのをいいことにその愚行はひどくなった。
今考えれば…彼はシャノン様に嫉妬をしてあたっていたのだ。
子供じみた稚拙な行い。…辛く苦しい毎日…か。当然だ。今でも思い出すたび自分自身が許せない!なのに…そのコンラッドを自らお引き受けになるとは…。なんと寛大で慈愛に満ちた、そして強いお方なのだろう。
思案顔のヘクター先輩が私に問いかける。
「アーロンの出自を調べろ、か。あの方はアーロンをどうされるおつもりだ」
「悪いようにはなさらないさ。何しろあの方は本物だ。だからこそ騙る者をそのままにはしておけないのだろう」
だが…、アーロンは権力を欲している訳ではないのだ…。だから皆疑わない。
「庇う訳ではないが、アーロンは自ら神子と名乗ったことはない。ただ…彼の語る言葉があまりにも伝承の文言に合致したため陛下が信じ込んでしまわれただけだ」
多分それだけではない…。アーロンの言葉には意思がある。相手を自分に傾倒させようとする、強い意志の力が…。
「…セナブムとの大きな争いの最中に現れた博愛と解放を説く者…。だがそれを言ったらシャノン様の方がよほど博愛に満ちている。見るがいい。あの花々に溢れた慈愛の街シャロームを」
「それは私も感じている。北部の修道院からどれほどの感謝が届けられているか…。そして予言の力。誰も知らない『聖なる力』とはその予言を指すのではないか?どう思うロイド」
「まさしく…。プリチャード侯、そしてブラッドも同じ考えを持ち始めたようだ」
「だが、意外にもアレイスターには他の考えがあるようだ…」
「シャノン様が神子でないなどということがあるものか!」
「違う。シャノン様の神性を疑っている訳ではない。だが出現するものはもう一つあるだろう」
「もう一つ…?」
『人と人が相容れぬ大きな争いと混沌の中、国を平定に導くは聖なる力を司るものなり。神子は神託と共に出現し解放を以て人々に力を与える。迷える魂は救済され、万人への愛と共に国は栄華を極めるだろう』
出現するもの…、それは…『神託』
「あの、…ハンカチ…、気に入ってくれたと聞いたので。この刺繍は隊長だけの特別ですよ?では先に行きますね。ゆっくりしていってください」
カランカラン…
「行ったか…」
「…ヘクター先輩…」
「いいから涙を拭け」
隊長…。私にそのような名誉ある称号をお与え下さるなんて…。感極まるあまり、人前でみっともない姿をさらしてしまったが…これは不可抗力ではないだろうか。
貸しきりのカフェに何故彼がいるのか…、それは彼が店員に化け、初めから店内にいたからだ。
彼だけではない、給仕の彼も、カウンターにいる売り子の彼女も、みなアレイスター殿下の配した者だ。
流石に高貴な彼を従者も外に待機させた状態で店内に一人きりなど…出来ようはずもない。
それにしても、まさかシャノン様がコンラッドを気にかけるとは思いもよらなかった。
シシュンキ…確かにコンラッドは母である王妃殿下に対しどこか他人行儀だ。だがそれは王家における親子の関わり方ゆえそういうものだろうと思っていた。
だが彼は…、王妃アドリアナ様が幼いシャノン様の手をとり連れ立って、普段自ら足を踏み入れない養育部屋へやって来た時、それとハッキリわかる形で顔色を変えたのだ…。
思えばあれが二人の仲を決定付けた。
愚かだった私はコンラッドの意に沿うよう、不快感をあらわにする彼にことさら同調して見せたし、その後ブラッドが加わった事で、シャノン様が何も言わないのをいいことにその愚行はひどくなった。
今考えれば…彼はシャノン様に嫉妬をしてあたっていたのだ。
子供じみた稚拙な行い。…辛く苦しい毎日…か。当然だ。今でも思い出すたび自分自身が許せない!なのに…そのコンラッドを自らお引き受けになるとは…。なんと寛大で慈愛に満ちた、そして強いお方なのだろう。
思案顔のヘクター先輩が私に問いかける。
「アーロンの出自を調べろ、か。あの方はアーロンをどうされるおつもりだ」
「悪いようにはなさらないさ。何しろあの方は本物だ。だからこそ騙る者をそのままにはしておけないのだろう」
だが…、アーロンは権力を欲している訳ではないのだ…。だから皆疑わない。
「庇う訳ではないが、アーロンは自ら神子と名乗ったことはない。ただ…彼の語る言葉があまりにも伝承の文言に合致したため陛下が信じ込んでしまわれただけだ」
多分それだけではない…。アーロンの言葉には意思がある。相手を自分に傾倒させようとする、強い意志の力が…。
「…セナブムとの大きな争いの最中に現れた博愛と解放を説く者…。だがそれを言ったらシャノン様の方がよほど博愛に満ちている。見るがいい。あの花々に溢れた慈愛の街シャロームを」
「それは私も感じている。北部の修道院からどれほどの感謝が届けられているか…。そして予言の力。誰も知らない『聖なる力』とはその予言を指すのではないか?どう思うロイド」
「まさしく…。プリチャード侯、そしてブラッドも同じ考えを持ち始めたようだ」
「だが、意外にもアレイスターには他の考えがあるようだ…」
「シャノン様が神子でないなどということがあるものか!」
「違う。シャノン様の神性を疑っている訳ではない。だが出現するものはもう一つあるだろう」
「もう一つ…?」
『人と人が相容れぬ大きな争いと混沌の中、国を平定に導くは聖なる力を司るものなり。神子は神託と共に出現し解放を以て人々に力を与える。迷える魂は救済され、万人への愛と共に国は栄華を極めるだろう』
出現するもの…、それは…『神託』
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