92 / 310
アレイスターと荒ぶる猫
しおりを挟む
何の確証もない想像でしかないのだが…ほぼ相違ないのだろう。彼は先ほどから言葉を発しない。
「君はあの転落時どこにいた?ヘクターから聞いた。君は尊い世界、白く輝く光の向こう側に居たと」
「それはその…そうじゃないです…違います…」
言葉尻が消え入りそうだ。誤魔化しの言葉すらすでに浮かばぬらしい。
「プリチャード侯も王妃アドリアナ様の前で激しく主張していたよ。「光の向こう側から来た」「世界を守る」そう君自身が口にした。だから神子は君だとね」
「お父様がそんな事を…!ご、誤解です!」
まったく彼は…。
コンラッドとの関係悪化は彼を社交界から遠ざけた。ゆえに彼は社交界の動きに疎い。この週末にある王城への出仕は、アドリアナ様から言及を伴う事は間違いない。だからこそ私はその前に二人で話す機会を得たいと、アリソンにそう申し出たのだ。
…いや、それは詭弁だな…。そうだ。私はただ…、ただこうしてシャノンと二人の時を過ごしたかっただけだ。いそいそと焼き菓子まで用意して…どれほどヘクターに笑われたか。一回り小さなシャノンの手。握りしめた手を彼は振りほどかない。
だがそれはそれ。これはこれだ。
「シャノンは『神子』でなく、神子を制定する『神託』であり『聖なる力』なのだと、私は王妃アドリアナ様に進言しようと思う」
「何言ってるんですか!やめてください!じ、じゃあアレイスター様はシェイナを…」
「シャノンを司る神子もまたシャノンとは…。偶然にしては出来過ぎだ。なぜプリチャード夫人はそう名付けた?何か見えざる力に導かれた、そう思わないか」
大きく目を見開き小さく肩を震わすシャノン。泣くかと思い身構えたが、意外にも顔をあげた彼は子供のように唇を尖らせていた。おやこれは…
「も、もー!!!違うって言ってるじゃないですか!シェイナはまだ赤ちゃんですよ!シェイナに何が出来るって言うんです?」
必死に食い下がるシャノン。恐らく彼は、幼い妹にそのような重責を負わせたくはないのだろう。
「だからこそ君が代わりに動いているのだろう?それならば全てが腑に落ちる。何故『神託』を授ける者と授かる者が同一であるか…」
「う…うぅ…、もうっ!バカバカバカ!アレイスター様のケモオタ!分からんちん!」
私の胸を叩くシャノンは、猫のようなマスクのせいか、まるで子猫がじゃれているようだ。
もちろん非力なシャノンにいくら叩かれたところでどうということもないが…、婚約者でもない第二王子である私の胸を殴打するなど、これが二人きりで無ければ問題になるところだ。
が、こんな仕草がいかにも甘く感じるのだから…私も随分骨抜きにされたものだ。
「シャノン、ほら落ち着いて…」
「はーはーはー…、細マッチョめ…。シェイナを巻き込んだら絶対許さないから!僕が怒ったらどうなるか分かってますか?」
「ほう…?どうなる?」
「な、なんか大変なことに…ムキー!どうなっても知りませんからね!べーだ!」
おや。子供のように小さな舌を出すとは。彼の怒りはすっかり私への敬意を消し去ってしまったようだ。ではその可愛らしい舌に免じて。
「分かったシャノン。ではシェイナに関しては口を噤もう。だが君のことは…」
「言うんですか?王妃様に?あーそうですか。いいですよ。言ったらいいじゃないですか。えーえー、どうぞご勝手に。これくらいで…僕は負けませんよ!」ブツブツ…
いつまでも拗ねるシャノン。だがその声色には諦めが滲み始めている。
「すまないシャノン。だが…これも王の目を覚まさせるためだ。そしてコンラッドを救うためだ」
「コンラッド…はぁ~…全く!」
不仲と言いつつコンラッドを慮るシャノン。苦い思いが胸に灯るが、今は妬いてもどうにもならない。
それよりコンラッドが見ることの無いシャノンの姿を私だけが知る、その愉悦に浸るとしよう。
それにしても今日の演目が『アイーン』だったのは何の偶然か。
主要な演者は王子と婚約者、そして人質としてやってきた隣国の王女アイーン。
二国間の争いの中恋に落ちた王子は国か王女か、究極の選択を何度も強いられる。そして一度は、寛容な婚約者と国のために生きると決意するが…土壇場で王女アイーンを選び、そうして彼は…
彼らは…
「君はあの転落時どこにいた?ヘクターから聞いた。君は尊い世界、白く輝く光の向こう側に居たと」
「それはその…そうじゃないです…違います…」
言葉尻が消え入りそうだ。誤魔化しの言葉すらすでに浮かばぬらしい。
「プリチャード侯も王妃アドリアナ様の前で激しく主張していたよ。「光の向こう側から来た」「世界を守る」そう君自身が口にした。だから神子は君だとね」
「お父様がそんな事を…!ご、誤解です!」
まったく彼は…。
コンラッドとの関係悪化は彼を社交界から遠ざけた。ゆえに彼は社交界の動きに疎い。この週末にある王城への出仕は、アドリアナ様から言及を伴う事は間違いない。だからこそ私はその前に二人で話す機会を得たいと、アリソンにそう申し出たのだ。
…いや、それは詭弁だな…。そうだ。私はただ…、ただこうしてシャノンと二人の時を過ごしたかっただけだ。いそいそと焼き菓子まで用意して…どれほどヘクターに笑われたか。一回り小さなシャノンの手。握りしめた手を彼は振りほどかない。
だがそれはそれ。これはこれだ。
「シャノンは『神子』でなく、神子を制定する『神託』であり『聖なる力』なのだと、私は王妃アドリアナ様に進言しようと思う」
「何言ってるんですか!やめてください!じ、じゃあアレイスター様はシェイナを…」
「シャノンを司る神子もまたシャノンとは…。偶然にしては出来過ぎだ。なぜプリチャード夫人はそう名付けた?何か見えざる力に導かれた、そう思わないか」
大きく目を見開き小さく肩を震わすシャノン。泣くかと思い身構えたが、意外にも顔をあげた彼は子供のように唇を尖らせていた。おやこれは…
「も、もー!!!違うって言ってるじゃないですか!シェイナはまだ赤ちゃんですよ!シェイナに何が出来るって言うんです?」
必死に食い下がるシャノン。恐らく彼は、幼い妹にそのような重責を負わせたくはないのだろう。
「だからこそ君が代わりに動いているのだろう?それならば全てが腑に落ちる。何故『神託』を授ける者と授かる者が同一であるか…」
「う…うぅ…、もうっ!バカバカバカ!アレイスター様のケモオタ!分からんちん!」
私の胸を叩くシャノンは、猫のようなマスクのせいか、まるで子猫がじゃれているようだ。
もちろん非力なシャノンにいくら叩かれたところでどうということもないが…、婚約者でもない第二王子である私の胸を殴打するなど、これが二人きりで無ければ問題になるところだ。
が、こんな仕草がいかにも甘く感じるのだから…私も随分骨抜きにされたものだ。
「シャノン、ほら落ち着いて…」
「はーはーはー…、細マッチョめ…。シェイナを巻き込んだら絶対許さないから!僕が怒ったらどうなるか分かってますか?」
「ほう…?どうなる?」
「な、なんか大変なことに…ムキー!どうなっても知りませんからね!べーだ!」
おや。子供のように小さな舌を出すとは。彼の怒りはすっかり私への敬意を消し去ってしまったようだ。ではその可愛らしい舌に免じて。
「分かったシャノン。ではシェイナに関しては口を噤もう。だが君のことは…」
「言うんですか?王妃様に?あーそうですか。いいですよ。言ったらいいじゃないですか。えーえー、どうぞご勝手に。これくらいで…僕は負けませんよ!」ブツブツ…
いつまでも拗ねるシャノン。だがその声色には諦めが滲み始めている。
「すまないシャノン。だが…これも王の目を覚まさせるためだ。そしてコンラッドを救うためだ」
「コンラッド…はぁ~…全く!」
不仲と言いつつコンラッドを慮るシャノン。苦い思いが胸に灯るが、今は妬いてもどうにもならない。
それよりコンラッドが見ることの無いシャノンの姿を私だけが知る、その愉悦に浸るとしよう。
それにしても今日の演目が『アイーン』だったのは何の偶然か。
主要な演者は王子と婚約者、そして人質としてやってきた隣国の王女アイーン。
二国間の争いの中恋に落ちた王子は国か王女か、究極の選択を何度も強いられる。そして一度は、寛容な婚約者と国のために生きると決意するが…土壇場で王女アイーンを選び、そうして彼は…
彼らは…
3,250
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる