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男爵と文通 ⑥
僕のオアシス、ジェロームへ
僕の送ったコナーさんは無事到着しましたか?
彼は頭の良い人です。家令でも執事でも秘書でも、好きなように呼んでください。お給料は僕が払うので心配いらないですよ。これは出世払いにします。でも出どころが同じなら関係ないですね。ただの妄言です。気にしないでください。
そうそう、彼は地学の専門家なので山のことを何でも相談したらいいと思います。
エンブリーに行った宝石商は琥珀を高値で買ってくれましたか?値切ったりしてたら教えてくださいね。僕が叱ってやります。心配いりません、僕は太客です。
そういえば彼ははまだ戻っていません。やはり片道2か月は長すぎます。
コナーさんは船便の船員室に乗って行くと言っていました。僕もいざとなったらそうしようと思います。でもすごく臭くて狭いらしいですが僕は平気です。ジェロームは平気ですか?
夏休みにはいってすぐ弟と妹の洗礼式がありました。
弟はプリチャードの跡取りなので親戚の人がいっぱい取り囲んでチヤホヤしていました。でもえこひいきはされる方も居心地がわるいものです。
僕には跡取りだけ特別扱いする意味がわかりません。兄弟仲にヒビが入るのであーゆーのは良くないと思います。兄弟みんなで仲良く協力して跡を継げばいいのにって、そう思います。
追伸
僕は色々頑張りすぎて疲れています。黒髪のジェロームに会いたいです。
シャノン・プリチャードより
いつになく覇気のない手紙…。シャノン様が疲弊しておられる…。
それは恐らく、漏れ聞こえてくる北部の問題と無関係ではないのだろう。
この地は北部に近い。同じく辺境の何もない土地だが、厳寒の冬を持つあの地は、この東部よりも更に暮らしにくい地域である。
その北部において、第二王子派閥が王への直訴を計画している…。そしてそれにシャノン様が関わられているというのが水面下でささやかれる話だ。
たしかに王の掲げる国土拡大政策は、西側領主にとっては更なる繁栄を意味するだろうが、この北東部には何の旨味もない。実際、私の抱えた借財の一部も、悪天候による不作時に、セナブム出兵への徴収が重なったためだ。
であれば北東部の領主が政策の中止、または北東部の徴収軽減を求めるのも無理ないことだろう。
だが王が絶対の力を持つこのルテティアで直訴など果たしてうまくいくのか…
私は自身すらシャノン様の計らいによって建て直したばかりのこの領で、少しばかりおこがましいが、それでも何かの力になれないか、それを考えていた。
シャノン様の寄越してくださった宝石商が、この片田舎に住む私でさえ名前を知る、王都で一番大きな宝石商、ソティリオ商会であったことに驚愕したが、この商会は王家にも出入りする大商会だ。王族に連なるシャノン様であればさもありなんというところか。
その商会主はわざわざ自ら、二か月の道中をかけてまで出向いて下さったのだ。それくらいあの琥珀は見事だったと、そう言われて。
番頭を引き連れた彼は、採掘と王都への運搬を円滑にするため、ここに拠点を置いて下さるという。これは人の流入を生み、更なるエンブリーの発展につながるだろう。
だがそれらすべてを私が担うには、若輩のこの身にはあまりにも荷が重い、そう思い始めた時に到着したのがシャノン様の派遣して下さったコナーだ。
彼は屋敷と財を管理する家令として派遣されたが、そもそもは地学、生物科学の講師なのだという。つまり琥珀に関するさまざまな難題が彼によって解決するということだ。
なんという慧眼…。
コナーは私の告げるエンブリーの状況、琥珀の採掘に関し、それとわかるほど目を輝かせた。
彼の飾らない率直な物言いは、社交界に不慣れな私にはとても分かりやすく付き合いやすい。
私たちは主従でありながらも気の置けない友人となった。
そのコナーは、シャノン様に一目会いたいという、私のささやかな願望を後押ししてくれている。船便を勧めてくれたのもその一つだ。往復20日間、王都での滞在含め、ひと月半くらいであれば、その間に全て整えておく、任せておけと胸を叩いてくれた彼には感謝しかない。
シャノン・プリチャード様
王都から遠く離れた何も無い田舎エンブリーにおいて、最大の悩みであった人材の問題にご配慮いただき私がどれほど助かったことか。
彼、コナーは融通の利かぬ堅物ですがそれだけに信頼のおける男です。幾度となく屋敷の主人を怒らせたと聞きましたが、私はそんな彼の謹厳実直さを好ましいと思います。
おまけに彼は本当に良い情報を運んでくれました。
私も船員室がどうであろうと気にはしません。領民に乞われ時に農地にまみれることもある田舎暮らしの私です。汚れや臭いなど洗えばとれる、それだけのことでしかありません。
プリチャード邸お抱えの宝石商はなんと、番頭を一人連れてやってきました。琥珀採掘のために拠点を置いて下さるということで、それは私の抱える様々な問題を一気に解決へと導くことでしょう。
シャノン様、あなたの与えて下さった一つ一つの慈しみが実を結び、このエンブリーを贅沢に、とまでは言えませんが十分な手をかけ、人々が笑って暮らせる温かな領へとようやく導けそうです。そして私のどうしても叶えたいささやかな夢が夢でなくなる日も近づいています。
後継者次第で土地の行く末は変わり、それは関わる人々にも影響します。それゆえ周囲も持て囃してしまうのでしょう。なかにはそれを錯覚して誤った方向に向かう嫡子もいます。真っ白な幼子がどのように育つか、それらは全て導き手の責任です。
統治者は重責を背負います。それを支える兄弟もまた陰の統治者であると、私は思います。
追伸
何も持たぬ私ですが、どうにかしてその疲れた心をお慰めしたい。そう考える毎日です。
ジェローム・エンブリー
僕の送ったコナーさんは無事到着しましたか?
彼は頭の良い人です。家令でも執事でも秘書でも、好きなように呼んでください。お給料は僕が払うので心配いらないですよ。これは出世払いにします。でも出どころが同じなら関係ないですね。ただの妄言です。気にしないでください。
そうそう、彼は地学の専門家なので山のことを何でも相談したらいいと思います。
エンブリーに行った宝石商は琥珀を高値で買ってくれましたか?値切ったりしてたら教えてくださいね。僕が叱ってやります。心配いりません、僕は太客です。
そういえば彼ははまだ戻っていません。やはり片道2か月は長すぎます。
コナーさんは船便の船員室に乗って行くと言っていました。僕もいざとなったらそうしようと思います。でもすごく臭くて狭いらしいですが僕は平気です。ジェロームは平気ですか?
夏休みにはいってすぐ弟と妹の洗礼式がありました。
弟はプリチャードの跡取りなので親戚の人がいっぱい取り囲んでチヤホヤしていました。でもえこひいきはされる方も居心地がわるいものです。
僕には跡取りだけ特別扱いする意味がわかりません。兄弟仲にヒビが入るのであーゆーのは良くないと思います。兄弟みんなで仲良く協力して跡を継げばいいのにって、そう思います。
追伸
僕は色々頑張りすぎて疲れています。黒髪のジェロームに会いたいです。
シャノン・プリチャードより
いつになく覇気のない手紙…。シャノン様が疲弊しておられる…。
それは恐らく、漏れ聞こえてくる北部の問題と無関係ではないのだろう。
この地は北部に近い。同じく辺境の何もない土地だが、厳寒の冬を持つあの地は、この東部よりも更に暮らしにくい地域である。
その北部において、第二王子派閥が王への直訴を計画している…。そしてそれにシャノン様が関わられているというのが水面下でささやかれる話だ。
たしかに王の掲げる国土拡大政策は、西側領主にとっては更なる繁栄を意味するだろうが、この北東部には何の旨味もない。実際、私の抱えた借財の一部も、悪天候による不作時に、セナブム出兵への徴収が重なったためだ。
であれば北東部の領主が政策の中止、または北東部の徴収軽減を求めるのも無理ないことだろう。
だが王が絶対の力を持つこのルテティアで直訴など果たしてうまくいくのか…
私は自身すらシャノン様の計らいによって建て直したばかりのこの領で、少しばかりおこがましいが、それでも何かの力になれないか、それを考えていた。
シャノン様の寄越してくださった宝石商が、この片田舎に住む私でさえ名前を知る、王都で一番大きな宝石商、ソティリオ商会であったことに驚愕したが、この商会は王家にも出入りする大商会だ。王族に連なるシャノン様であればさもありなんというところか。
その商会主はわざわざ自ら、二か月の道中をかけてまで出向いて下さったのだ。それくらいあの琥珀は見事だったと、そう言われて。
番頭を引き連れた彼は、採掘と王都への運搬を円滑にするため、ここに拠点を置いて下さるという。これは人の流入を生み、更なるエンブリーの発展につながるだろう。
だがそれらすべてを私が担うには、若輩のこの身にはあまりにも荷が重い、そう思い始めた時に到着したのがシャノン様の派遣して下さったコナーだ。
彼は屋敷と財を管理する家令として派遣されたが、そもそもは地学、生物科学の講師なのだという。つまり琥珀に関するさまざまな難題が彼によって解決するということだ。
なんという慧眼…。
コナーは私の告げるエンブリーの状況、琥珀の採掘に関し、それとわかるほど目を輝かせた。
彼の飾らない率直な物言いは、社交界に不慣れな私にはとても分かりやすく付き合いやすい。
私たちは主従でありながらも気の置けない友人となった。
そのコナーは、シャノン様に一目会いたいという、私のささやかな願望を後押ししてくれている。船便を勧めてくれたのもその一つだ。往復20日間、王都での滞在含め、ひと月半くらいであれば、その間に全て整えておく、任せておけと胸を叩いてくれた彼には感謝しかない。
シャノン・プリチャード様
王都から遠く離れた何も無い田舎エンブリーにおいて、最大の悩みであった人材の問題にご配慮いただき私がどれほど助かったことか。
彼、コナーは融通の利かぬ堅物ですがそれだけに信頼のおける男です。幾度となく屋敷の主人を怒らせたと聞きましたが、私はそんな彼の謹厳実直さを好ましいと思います。
おまけに彼は本当に良い情報を運んでくれました。
私も船員室がどうであろうと気にはしません。領民に乞われ時に農地にまみれることもある田舎暮らしの私です。汚れや臭いなど洗えばとれる、それだけのことでしかありません。
プリチャード邸お抱えの宝石商はなんと、番頭を一人連れてやってきました。琥珀採掘のために拠点を置いて下さるということで、それは私の抱える様々な問題を一気に解決へと導くことでしょう。
シャノン様、あなたの与えて下さった一つ一つの慈しみが実を結び、このエンブリーを贅沢に、とまでは言えませんが十分な手をかけ、人々が笑って暮らせる温かな領へとようやく導けそうです。そして私のどうしても叶えたいささやかな夢が夢でなくなる日も近づいています。
後継者次第で土地の行く末は変わり、それは関わる人々にも影響します。それゆえ周囲も持て囃してしまうのでしょう。なかにはそれを錯覚して誤った方向に向かう嫡子もいます。真っ白な幼子がどのように育つか、それらは全て導き手の責任です。
統治者は重責を背負います。それを支える兄弟もまた陰の統治者であると、私は思います。
追伸
何も持たぬ私ですが、どうにかしてその疲れた心をお慰めしたい。そう考える毎日です。
ジェローム・エンブリー
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