断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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85 断罪を回避する者

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泣き疲れて子供のように眠ってしまったアーロンをコンラッドが隣室へと抱きかかえていく。それと入れ替わりに戻ってきたのが僕の隠れ推しカプ、アレイスター主従だ。
隣室とはいっても高ぶったアーロンの声は漏れ聞こえていたのだろう。彼は部屋に入ると「ご苦労様」と僕の頭をポンポンしたが、僕の方が年上(数か月)だって言うのに…それはどうだろう?

「それにしても兄さん、なんて無茶を!あの男が本気で向かって来たらどうするつもりだったんですか!」

うっ!
僕の手柄を奪ったブラッドだが、あまりの正論に返す言葉が見つからない。けど…、頭にきたんだからしょうがないでしょうーが!せめてこの手で物理的に仕返ししなくっちゃ気が済まなかったんだから!

「で、でも僕のおかげでアレイスターが…」モゴモゴ…

とは言え、語尾が怪しくなるのも無理は無いだろう。結果オーライとは一歩間違えたらアウトだったという意味である。

「ブラッド、そう言わないでやってくれ。助かったのは本当だ。だが剣を持つ相手に素手で向かうなど…考え無しにもほどがある。シャノン、二度としないでくれ」

「それ以前こんなこと二度とゴメンですけどね…」」
「当然だ。だが…」

だが何だろう?いつもはっきりした物言いのアレイスターが妙に歯切れの悪い…

「助けに来たつもりが助けられて…しまらないな」
「何だその事。でも馬上のアレイスターは王子様みたいでしたよ?」

そっか。アレイスターだってお年頃だもんね?人前ではカッコつけたいよね?うんうん、わかるよ。

「普段の私は王子様じゃないのかい?参ったな。君の印象をあげるにはどうすればいいのだろうね」

「んー?僕はこうやって二人で力を合わせるのも悪くないと思うけど?」ニコ
「二人で…、そうか…。ふふ、確かにそれもいい。いやそれこそが私の望む…」

「皆さま、プリチャード侯爵、フレッチャー侯爵、そして王城より王、そして王妃殿下の名代としてポーレット侯爵がお越しになりました。移動をお願いします」

副学長の言葉にアレイスターの言葉は途中で打ち切られた。


所変わってここは学院の議事室。扉を開けて正面には大きなコの字型の机がドーンと置かれている。
すでに着席しているのは、右手にお父様。左手にフレッチャー。正面に居るのが王宮で法官を務めるポーレット侯爵家のご当主である。そして学長は少し離れた位置に椅子を配置し座っている。
この場合学長は関係ない気もするのだが、アレイスター曰く、幸い未然に防げたことだし処分は内々で済ませる意向らしい。ほら、社交界においてこういう醜聞って被害者も同じように評判を落とすから…、不条理な。

まずは先行、フレッチャーから。

「何ゆえ私をこの様な場に呼び出されたか!全く以って不愉快だ!」
「厚顔無恥とはこのことだ!よく言えたものだ!フレッチャー侯、恥を知れ!」

「私が何をしたと言うつもりだ!いいがかりにも程がある!殿下はこれをお許しになるのか!」

「許すも何も、私自身が連れ去りの現場へ駆けつけたのだぞ!」

「あなたは当家のシャノンがどういう存在かお分かりでないのか!これは神への冒涜も同じ!」

「ええい!私は何も知らぬ!」

怒号が飛び交う中、尋問を終えた男がようやく議事室に連れて来られた。
男の名はバード男爵。元は南の領地を転々としながら生計を立てるフリーの傭兵。セナブムとの争いで何かの功績をあげ、フレッチャーの推薦で男爵位を手に入れたらしい。

それでフレッチャーの子飼いとして、様々な荒事を片付けていた、といったところか。フレッチャーが男に爵位を持たせたのも、貴族しか入れない場所に出入りさせるためだろう。今日みたいに。

「確かにその男は当家で面倒を見ている男爵であるが、それが何だと言いうのだね。バード卿の叙爵を後押ししたのはこの私だ。当座の面倒を見て何がおかしかろう?」

「バード卿はあなたの依頼でシャノンを狙った。ならばその責を負うのは候ではないか!」
「アレイスター殿下!私が何を依頼したとおっしゃるか!証拠があるなら出すがいい!」

自信満々のフレッチャー。きっと打ち合わせ済みなんだろう。捕まっても名前を出すな。そうしたら後で助けてやる、ご褒美付きで、とかなんとか。

「バード卿よ!私からそのような依頼があったか?」
「いいえ何ひとつ」

は、はぁぁ?

バンッ!「あなたは僕に「フレッチャー候はお怒りだ」って言ったじゃないですか!」
「捏造はやめてもらおう。アーロン憎しで彼の支援者、フレッチャー候にまで姑息な謀をするつもりか」

ムキィィィ!「僕とアーロンはとっくに和解済みだ!」

ついさっきだけど!

「フレッチャー候。アーロンに聞いたが候は彼に「神殿を建ててやるから神子となり社交界をものにしろ」と命じたようではないか。議員貴族たちとの個別面談、私や陛下への西側諸侯、特にあなた自身にとって都合の良い進言も全てあなたの指示だったと、彼はようやく話してくれた」

「アーロン殿は神子候補だけあって人の心を揺さぶる手管に長けておられる。その言葉を鵜呑みにされるとは…コンラッド殿下…社交界の評判通り篭絡されておるようですな。まだまだ精進が必要ですぞ」

「フレッチャー候!些か不敬であるぞ!」
「何を言うプリチャード侯!これは殿下を思えばこその進言であろうが!」

オオっと‼強気で出たな!

「確かに神子候補殿に多少の頼み事はしたが、それに何の問題があろうか。支援をするからには多少の利を期待するもの。そうではないかね?行き過ぎたというのであれば、今後自重しようではないか」

「フレッチャー候。バードは王族である私に剣を向けた。あなたのためにと言ってね。それほどあなたに恩義を感じているならば、あなたのためにはなんでもしよう」

「それこそが今回の肝であろう。恩に報いるあまりの勇み足。のうバード卿?そうだな?」
「そうです。フレッチャー候のお役に立ちたいばかりに先走りました。全ては私の一存でしたこと。フレッチャー候、申し訳ございません」

「アレイスター殿下に聞くが、殿下の命を狙うことが何故私の利になる。いいだろう。ここには王の名代としてポーレット候もいることだ。言いたいことがあるならここで表明してはいかがか」

そうだ!言ってやれ!と思ったのに…
グッと言葉に詰まるアレイスター。言えない事でもあるのか…。ならいい。こういう時こそ僕の出番でしょうが。言っておくが、断罪すら恐れぬ僕に怖いものなど無い!

「もういいですよフレッチャー候。あなたのような人が「はいそうです。私が黒幕です」なんて言うはずないと思ってますし。でも僕お抱えの宝石商、マーシャルさんには準貴族街から撤退してもらいます。どうやってって?ふっ!僕の、ゴホン、お父様の推薦で彼は近々男爵位を得ます」

そこっ!お父様っ!初耳…みたいな顔しない!

「あなたの子飼い、バード卿と同じように、マーシャルさんは僕のお抱えですから。なので彼の商会は貴族街に移転します。残念でしたね。準貴族街最大の納税者だったでしょうに」

「ぬぅ!」

『反省するまでお小遣い減額だからね!』これは子供の頃よく母親に言われた脅しの言葉だ。欲望の権化である僕にはそれがどれほど堪えたことか…
つまり…ガメツイ奴には一番効くお仕置きということ。こういう手合いに正攻法は効かないんだよ!アレイスター、一個覚えたね?








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