断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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アレイスターとコンラッド

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あれだけのことが起きたというのに、プリチャード侯を筆頭に皆が日を改めてと言うのも聞かず、シャノンは王宮へ向かう馬車の中に居た。

「本当に大丈夫なのか、シャノン。疲れてはいないか」
「ええ。むしろ何かこう…アドレナリンが分泌されてより元気になってます!今なら何でも出来そうです!」

何となくだが覚えがある。人は限界を超えると妙に気の冴える瞬間がある。今のシャノンはまさしくその状態なのだろう。

前の馬車にはコンラッドとアーロンが従者と共に、この馬車には私とシャノン、ブラッドが居る。
ブラッド、そしてロイドは私の気持ちなどとうに気付いているだろう。だが彼らは何も言わない。ただ黙って見守るだけだ。シャノンにとっての最善を。

だがシャノンの考えは凡庸な人間には及ばないほど深い。『神託』の慈愛は相手が誰であれ差し出されるものらしい。

「よくあれだけ色々ありながらアーロンを許せるものだ。感心するよ…」

「許したって言うか…」

シャノンの隣でブラッドが大きく頷く。自分もまた兄に許されたのだと話す彼に、シャノンは何故か遠い目をしながら「仕方ないですよ、僕はリカバリーディスクみたいなものですから」そう呟いたが、その意味は私にもブラッドにも理解することは出来なかった。


宮殿に到着しシャノンとコンラッドは王妃の部屋へと直行するが、もちろんそれは事前に通達済みだ。
アーロンを控えの間へ残し、今頃シャノンはアドリアナ様を説得しているのだろうか。
そして私はアーロンを気遣うブラッドと共に、控えの間でシャノンの話が終わるのを待っている。面会の二番手として。

フレッチャーが私の動きに気付いていた。
さすがは王の歓心を得て成り上がったフレッチャー家だ。何事においても目端が利き、尚且つ抜かりがない。
その彼が王に何の報告もしていないとは考えられない。であるならばアドリアナ様の耳にも入っていると考えるのが妥当だ。
あの方が何故何のそぶりもお見せにならなかったのかは分からない。が、あの方は大仰に騒ぎ立てたりしない。機を見て一気に畳みかけるのだ。見過ごせば良くない結果を生む。

私は今日一日のシャノンとアーロンの姿に、アドリアナ様と率直に対話することを決意していた。



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この国の未成年貴族の中でも最高位と言えるシャノン。その連れ去りという前代未聞の事件はこうして人知れず葬られた。

だがこの事件をきっかけに私の中に一つの覚悟が芽生える。

明らかになったアーロンの抱えた心の闇。想像をはるかに超えたシャノンの度量、そして今まで隠されて来たアレイスターの能力。
その全てを目の当たりにして、私はを受け入れるべき時が来たと悟ったのだ。

あの夏の日を起点にして全ては変わった。
シャノンが変わり、ロイドが変わり、ブラッドが変わり、そして私たちの関係も大きく変わった。
そして今日、ついにアーロンまでもが闇を晴らし己を変えた。

変われていないのは私だけだ…

その理由は分っている。それは私が次期王太子という立場に固執したためだ。
思えば私は次期王太子に相応しくあろうと、そのために長い間無理をしていた気がする。

次期王太子となる私がまるで市井の子供のように母を恋しんではならないと思った。抱きしめて欲しいとか、共に過ごしたいとか、そんな幼い願望を口にして、次期王太子に相応しくないと思われるのは嫌だったのだ。

本当は勉学など好きではなかった。だが王宮での自主学習と違い、学院の試験は順位が張り出される。次期王太子に不適格との烙印を恐れ私は必死になって勉学に励んだ。だが私が最も好きなのは剣を持ち馬を駆ることだ。

王太子になる身なればこそ要望は叶えられると思った。だが王太子になる身だからこそ何一つ自由には決められなかった。
冷静になればなるほど王太子になるためにはシャノンを失えないと思い知った。だからこそ契約婚が最善だと考えたのだし、一度はアーロンを諦めようとさえしたのだ。

今さらながらにシャノンの言葉を噛みしめる。
どうして母にアレイスターの置かれた状況を進言しなかったか、それは近しい場所に並んで比較されるのが嫌だったからだ。

だが本当に私は王太子、国王になることを望んだのだろうか?
私は…私はただ…剣を持ち馬を駆り、領土を増やす父のようになりたかっただけだ。
正妃アドリアナの子、第一王子、私を次期王太子に結び付けるのはそれだけだ。

シャノンはこうも言った。「この国で一番恵まれた立場にいながら何がわかるのか」と。
だが身分など関係ないと思う気持ちは意地や反発などではない。現実を知らぬ甘いと言えば甘い考えなのだろう。だが私はいつも思っていた。
王城ここは火の灯らぬ酷く冷たい場所だと。

所詮、無理に無理を重ねた王太子など、国を導く次代の王に相応しいわけがないのだ。
不安定な土台に立った偽りだらけの王子。その私が導く先に果たしてシャノンの言う゛良い国”はあるだろうか…。

神の神判は物事の真偽を見極める。ならば見破られてしまうだろう。虚飾に満ちた出来損ないの王太子など…






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