断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
145 / 310

93 断罪への企み

アレイスターが爆弾を落としていったあの日の週末。ついに僕と宝石商で共同出資した、屋形船の出航式が行われた。

船便を含めた川の管理管轄はクーパー伯爵。アリソン君のお父さんだ。
王都に屋敷を持つ貴族はそれぞれが宮廷から割り当てられた何らかのお役目を持っている。自分で管理するもよし。バーナード伯爵のように、部下に当たる下の貴族に丸投げしても良し。
クーパー伯爵は前者だ。

乗員数は船員除き10名まで。乗合不可。貸し切り限定。利用者に貴族や富んだ商人を想定しているため、マスターベッドルームが三部屋個室化され、使用人用の部屋、テーブルの設置された食事室、ソファなどの設置されたリビングと仕切られているためこれが限界だったようだ。

そうそう。いまその屋形船にはプリチャード家が総出で見学に来ていた。案内人はクーパー伯。乗船した僕たちに細かく説明してくれているところだ。

先ず案内された機関室ではお父様とブラッドが興味深そうに話を聞いている。船と電車にはいつでも男のロマンが詰まっている。
僕のロマンはむしろ、船員のコスの方だ。制服…それはいつでも僕のロマンを掻き立てる。
因みにここの制服は、対貴族用にあつらえられた、真っ白に青いパイピングの詰襟ジャケット、同じく白に青線の入った筒状の帽子だ。実はこの制服、僕は製作段階で見本をワンセットいただいている。みんなにはナイショで…

そして次に客室部分へと案内される。

「おおっ!これは何と見事な!」
「ですが家具や調度品は全て軽量化されたものなのですね」

「これらは全て特別に作らせたものです。ソティリオ商会の手配した職人が粗末に見えぬよう意匠を凝らしております」

「些か寝室は狭いようだが…仕方あるまい」
「代わりに寝具は最高級品を使っております。シャノン様からの大きな援助がありましたので」

…僕のイメージしていた屋台船とはかなり趣が違うようだ…。目の前にはコンパクトにしたスイートルームがあらわれた…。

それにしても…、この川は流れをほとんど感じない穏やかな川だが、どうしても北へ向かうにつれ少しずつ流れが発生する。流れが急になり始めるより手前が終着、北の船着き場で、そこからエンブリーは馬車で一日かからないと聞いた。

五日間という僕の野望はエンジンの無い船ではさすがに無理だったが、荷の受け渡しが都度ある船便と違い、停留時間の短さで所要期間十日は七日ほどになる計算らしい。実はその検証を兼ねているのが今回の出航なのである。

予定としては次の船着き場まで記念ゲストの僕とお父様、そしてクーパー伯が乗船し、そこでクーパー伯を残して僕たちは下船する。入れ替わりにアレイスターがヘクターや従者とともに乗り込む予定なのだとか。

陸路だといくつもの山を越え時に迂回し、他領で泊まらせてもらい食料を補充し、さらに獣や盗賊を警戒しつつの…それはもう大変な、二か月もかかる北東部への道程を1週間に短縮してくれる、そんな真っすぐに伸びたセントローム川には感謝しかない。

「おやシャノン?その荷物は何だい?」

ギクッ!

「あ、え、っと、その…ア、アレイスター様にお渡しする荷物です」
「ではカイルに持たせなさい。鞄もなにやら膨らんでいるが…」
「馬車で食べるおやつとかです。気にしないでください」
「そうかね」

「シャノン様、シェイナが先ほどから抱っこをせがんでおりますわよ」

「じ、じゃあカイル。これよろしく。中身は見ないでね。絶対見ないで!絶対だよ!」
「かしこまりました」

「おいでシェイナ」
「バブー」

抱えてきた大きな荷物と入れ替えに抱っこされるシェイナは朝から妙にご機嫌だ。ご機嫌なのはいいことだ。因みに、益々足腰がしっかりしてきたアノンはブラッドに手を引かれて、さっきからよちよち自力で歩いている。

「さあ侯爵閣下。シャノン様。そろそろ出航いたします。他の方々は下船を」

と、ここでひとつだけ問題発生!

「まあシェイナ様…」

「バブゥ!」
「シェイナ、早く降りないと船の人に迷惑かけちゃうよ?」

「ブババブバブゥ!」
「うっ!」ギュゥゥゥ…

この力よ…
何が起きたかって、シェイナが何が何でも離れない!と、まるで強力マグネットのような、洗礼式の時と同じ状態になったのだ。

「いいよ。号泣準備に入ってるし…次の船着き場までこのまま連れていくね」
「良いのですか?」

「平気。まあ任せて」

優秀なシッター兼頼りになるお兄ちゃんである僕は、自信満々でナニーからおむつと、シェイナが握って離さない、最近シェイナがお気に入りの等身大人形を預かりそのままシェイナを抱っこしていくことにした。

こうして出発した船。この船は蒸気で外輪を回す自走船だ。海と違い波もなくこの辺りでは大した流れもない。それに川幅のある大きな河、と言っても対岸はかろうじて見えているので遭難はしない。
つまり、非常に安全の保障された平和な船旅である。

ソファではお父様がクーパー伯と呑気にお茶をすすっている。それを横目に僕は個室の一つに入りシェイナにお昼寝をさせていた。
次の船着き場に到着してからが勝負だ。そのためにも今ここでシェイナを寝かしつける必要がある。

「ほーらシェイナ。トントンだよ」

しばらく背中をトントンするとシェイナはすんなり眠りについた。そうこうするうちに船は王都を出てすぐの船着き場へと到着する。ここで乗り込んでくるのがアレイスターだ。

「アレイスター、ヘクターさん、こちらの部屋へどうぞ。」
「やあシャノン、ここまでの船旅はどうだった?」

「なかなかいい感じでした。カイル、お渡しする荷物を」
「はい。ここに」

「随分大きな荷物だね?これは何だい?」
「え…と、これアレイスターに。あっ!見るのはあとですよ。まだダメです。どうぞ船旅お楽しみに。じゃ後で」パタン

「後で…?」

さて、ち密な計算で動くべき僕に、一分一秒も余分な時間はない。

お父様たちに出迎えられたアレイスターを個室へ案内した後、僕はたらこキューピーにしてあったシェイナを急いで抱き上げ、下船したお父様が乗る馬車へと向かった。

うん?何故ぐるぐる巻きにしてあるかって?これは乳児が暴れたりしないように、という貴族の風習である。
自我のハッキリしているシェイナは普段これをものすごく嫌がるのだが…よく眠っているのだろう。ほとんど顔の見えない状態で微動だにしない。

「お父様ー!」

「なんだねシャノン。大声を出して」
「えっと、お父様たまにはシェイナを抱っこしたいって言ってたじゃありませんか。だからはい」
「う、うむ…だが」
「しぃ!今寝てるから起さないで!それよりニコールさんが心配してると思うんで早く出発してください」

僕とお父様は別々の馬車で帰ることになっている。何故なら、僕は寄り道があるからご一緒出来ないと事前にお伝えしてあるからだ。
そして次。僕は大慌てで自分の馬車に乗り込み…

「カイルごめんね。お父様が大事な話があるって言うから…一人で乗って行ってくれる?」
「旦那様が…。ええもちろんですとも」

乗った扉とは反対側の扉から降りると、こっそりカバンに詰め込んできた船員の服を上に羽織って白い帽子を頭にかぶる。
こういう衣装は一瞬で印象を変えられるのがいいところだ。

こうして僕は何食わぬ顔をして船の中へと戻っていった。二台の馬車は船が岸を離れるのを確認して動き出したが、まさか僕が乗っているとは思うまい。

「ふーやれやれ。あ、荷物」

さっきアレイスターに渡した荷物は僕の旅行用パッキングだ。
個室は三部屋。アレイスター、ヘクターさん、そしてクーパー伯。でも問題ない。僕は居間のソファでもかまわない。
そう思ってアレイスターの部屋に入るとそこには…

初めて見る困り顔のアレイスターと、そのアレイスターに抱きかかえられた…シェイナが居た。

「え…?」






感想 873

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(9/10受賞作発売中!)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。