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95 断罪は川を流れる
翌日、寝ずに漕ぎ続けたであろう、猛スピードのカヤックみたいな人力の小舟がお父様からの手紙を届けてくれた。
その手紙には安心したという一文と共に…遠回りかつ丁寧な文章の中に滲み出る、どうにも隠しようのない怒りが感じられた。
……これは…、帰宅後僕は死ぬかもしれない。(精神的に)
「馬鹿だねシャノン。これは怒りではなく心配だ」
「それでも僕は死にます。多分」
「だが庇えないよ。流石の私にもね」
明日は明日の風が吹く。これは僕の大切にするもう一つの座右の銘だ。
明日という日が必ず平穏に訪れる保証はどこにも無い…それを誰より知っている僕は、いつかを心配して今日を躊躇うのはバカげている…と信じて疑わなかったわけだが、帰ったらほんの少しだけ慎重になってもいいかもしれない…
「それでも嬉しかった。君の気持ちが。そう話したらヘクターに叱られてしまったけれどね」
「ふーん」
何のことやら。
そんなこんなで、思いがけずのんびりとした船旅を楽しんでいるのだが…残念ながら季節は冬の初め。甲板に出ても気持ち良いを通り越して寒い。それでも雪じゃないだけまだましなんだとか。終着地点である北の船着き場辺りはすでに雪が降っているらしい。
あ、蛇足だが屋形内は蒸気を利用して暖房完備だ。
「ところでシャノン。君は帰りをどうするつもりだったんだい?」
「え?アレイスターは?」
「私はこのまま春まで滞在する予定だ」
「エンブリーに?そんなに長く?」
娯楽も社交もないエンブリーに?ああ、アレイスターはそういうの得意だった。僕もだけど。
「いや。北部にあるヘクターの父が治めるバーナード伯爵領に移動してだ。これでもやることが色々とあるのだよ」
なるほどそういう予定か。これは困った。アレイスターに便乗する気でいたから、単独で帰る場合のことは頭からすっかり抜け落ちていた…。
「君も来るかい?修道院にでも顔を出してやれば歓待されることは請け合いだ」
「え…、それはちょっと…」
何が悲しゅうて休みにお務めなんか…
「止めるんだアレイスター。冗談ですよシャノン様。船長には話をつけてあります。数日滞在した後、天候の良い日を選び船を出すのでそれに乗船してお帰り下さい。供に殿下が従者を一人お貸しくださいます」
「でも船便は冬季欠航だって…」
「出せないと言う訳では無いのですよ。ですが冬は船着き場から先の陸路も雪が積もりますしね。それほど需要が多くないので欠航、というのが実情です」
経費倒れというやつか…一個覚えた。それにしても、こうしてアレイスターの従者が一人づつ消えていく。三人いた従者が残り一人になるけど…もしかして最後には誰もいなくなるのだろうか?
え?誰のせいだって?さぁ?
「王家の威光はこういう時に使わねばね」
「助かります…」
「本当に何も考えていなかったのですね。豪快なお方だ。…ふっ」
わら…!鼻で笑った!くそぅ…アレイスターは側近の教育がなってないんじゃないか!
「ププ」
うっ!シェイナにも笑われた…、妹の躾が…以下同文。…あっ!シェイナは人のこと笑えないからね!
「それにしても、シャノン様はアレイスター殿下とおられるときは些か幼く見える。何故でしょうか。おっと、これは失礼」
「クーパー伯にはそう見えますか?うーん、僕も気を付けてはいるんですけど…ミツコの魂は百までって言いますしね。もうなおりません」
何て言うか…、初対面の印象が刷り込まれたというか…ずっとお手本にしてたから気持ちは師匠と弟子というか…
「それにアレイスターは王子様ですからね。僕が無理して偉ぶらなくてもいいから、逆に気が楽で」
「これは…」
「シャノン、いつもは無理をしている、君はそう言うのかい?」
「ええまあかなり」
シャノン降臨はなかなか愉快だが、どこまでいっても根が庶民。もっとテキトーで自堕落な生活がしたい…。切実に…
「思うんですけど無理は必ず破綻します。無理は良くないです」
これで良くなれば、その一心で吐き気を我慢し続けた新薬の臨床…、結果それは食欲不振につながり僕の体力を急激に低下させた。あれはラストスパートへの一因となった気がする…
「まさに国の現状ですな。搾取も過ぎれば反動がでる」
「クーパー伯、それは国土の拡大もだ」
「あー…」
しまった。アレイスターとクーパー伯は、目を離すとすぐに難しい話を始めるのが玉に瑕だ。そんな時僕はなるべく心を無にして時の流れるのを待つようにしているのだが、どうやら王様の話をしているっぽい。
「王様はそんなに国力を高めてどうするんですか?増えすぎても管理が大変だと思うんですけど」
アイテムの増えすぎたベッド周りはいくら整理整頓を心掛けてもごちゃごちゃしていた。ミニマリスト、それは永遠の憧れ。
「君の言う通りだ」
「人は欲深いものですな」
「やれやれ。極限まで高めていいのは魂のキラメキだけですよ」
別名『萌え』ともいう。
「その煌めきを富みの煌めきと混合する者はシャノン様が思うより多いのですよ」
あー…、いくらクリエイターがピュアな気持ちで作品を作り、オタクが情熱のまま推し活しても、その両者をつなぐ運営元が利益の追求に走るあまり道を誤る、などといったことはよくあることだ。
「そこに愛がないと人は離れていきますけどね」
作品へのリスペクトがない萌えの押しつけは簡単に見破られる。そしてそれこそがファン離れを引き起こす要因となる。これ真理。
「…君とコンラッドはそれに気づき、是正しようとした、そういうことだね」
コンラッド…?ああ。あの時なんか言ってたっけ?よく聞いてなかったけど。是正…?ゲームの修正のこと?
「その通りです」
「ではこの私は愛を以て北部を治めることが出来るだろうか」
うん?北部?
やけに真剣な口調だが、なんかこの間もそんなこと言ってたっけ。その質問は僕にヘクターとの仲をどう思うか…って聞いてるんだろうか?
ならば答えねばなるまい。見たままの正直な感想を。
「えっと…、現状ではお互いの立場があって、その、色々と難しいこともありそうですけど…」
主従だしね。
「でも、きっと互いを尊重し公平な、立場とか関係ない素晴らしい愛がいつか育める、そう思えます。その日が…待ちどおしいです」
この二人は立場的にはアレヘクだけど精神的にヘクアレという、リバ有り有りの大変美味しいBLを見せてくれるに違いない。早く一線超えないかな。おや?
アレイスターの頬が真っ赤じゃないか。空調効き過ぎなんじゃないの?外で涼んできたらいいのに。
「アレイスター暑いですか?良かったら上着脱がせてあげましょうか?」
「ゴホッ!」
うっわ!飲み物吹き出すとか…、汚いなぁ、王子の癖に。
「大丈夫だ…」
ボスッ!
う、ぐえ!シェイナ…そのみぞおちエルボーは…何故?
その手紙には安心したという一文と共に…遠回りかつ丁寧な文章の中に滲み出る、どうにも隠しようのない怒りが感じられた。
……これは…、帰宅後僕は死ぬかもしれない。(精神的に)
「馬鹿だねシャノン。これは怒りではなく心配だ」
「それでも僕は死にます。多分」
「だが庇えないよ。流石の私にもね」
明日は明日の風が吹く。これは僕の大切にするもう一つの座右の銘だ。
明日という日が必ず平穏に訪れる保証はどこにも無い…それを誰より知っている僕は、いつかを心配して今日を躊躇うのはバカげている…と信じて疑わなかったわけだが、帰ったらほんの少しだけ慎重になってもいいかもしれない…
「それでも嬉しかった。君の気持ちが。そう話したらヘクターに叱られてしまったけれどね」
「ふーん」
何のことやら。
そんなこんなで、思いがけずのんびりとした船旅を楽しんでいるのだが…残念ながら季節は冬の初め。甲板に出ても気持ち良いを通り越して寒い。それでも雪じゃないだけまだましなんだとか。終着地点である北の船着き場辺りはすでに雪が降っているらしい。
あ、蛇足だが屋形内は蒸気を利用して暖房完備だ。
「ところでシャノン。君は帰りをどうするつもりだったんだい?」
「え?アレイスターは?」
「私はこのまま春まで滞在する予定だ」
「エンブリーに?そんなに長く?」
娯楽も社交もないエンブリーに?ああ、アレイスターはそういうの得意だった。僕もだけど。
「いや。北部にあるヘクターの父が治めるバーナード伯爵領に移動してだ。これでもやることが色々とあるのだよ」
なるほどそういう予定か。これは困った。アレイスターに便乗する気でいたから、単独で帰る場合のことは頭からすっかり抜け落ちていた…。
「君も来るかい?修道院にでも顔を出してやれば歓待されることは請け合いだ」
「え…、それはちょっと…」
何が悲しゅうて休みにお務めなんか…
「止めるんだアレイスター。冗談ですよシャノン様。船長には話をつけてあります。数日滞在した後、天候の良い日を選び船を出すのでそれに乗船してお帰り下さい。供に殿下が従者を一人お貸しくださいます」
「でも船便は冬季欠航だって…」
「出せないと言う訳では無いのですよ。ですが冬は船着き場から先の陸路も雪が積もりますしね。それほど需要が多くないので欠航、というのが実情です」
経費倒れというやつか…一個覚えた。それにしても、こうしてアレイスターの従者が一人づつ消えていく。三人いた従者が残り一人になるけど…もしかして最後には誰もいなくなるのだろうか?
え?誰のせいだって?さぁ?
「王家の威光はこういう時に使わねばね」
「助かります…」
「本当に何も考えていなかったのですね。豪快なお方だ。…ふっ」
わら…!鼻で笑った!くそぅ…アレイスターは側近の教育がなってないんじゃないか!
「ププ」
うっ!シェイナにも笑われた…、妹の躾が…以下同文。…あっ!シェイナは人のこと笑えないからね!
「それにしても、シャノン様はアレイスター殿下とおられるときは些か幼く見える。何故でしょうか。おっと、これは失礼」
「クーパー伯にはそう見えますか?うーん、僕も気を付けてはいるんですけど…ミツコの魂は百までって言いますしね。もうなおりません」
何て言うか…、初対面の印象が刷り込まれたというか…ずっとお手本にしてたから気持ちは師匠と弟子というか…
「それにアレイスターは王子様ですからね。僕が無理して偉ぶらなくてもいいから、逆に気が楽で」
「これは…」
「シャノン、いつもは無理をしている、君はそう言うのかい?」
「ええまあかなり」
シャノン降臨はなかなか愉快だが、どこまでいっても根が庶民。もっとテキトーで自堕落な生活がしたい…。切実に…
「思うんですけど無理は必ず破綻します。無理は良くないです」
これで良くなれば、その一心で吐き気を我慢し続けた新薬の臨床…、結果それは食欲不振につながり僕の体力を急激に低下させた。あれはラストスパートへの一因となった気がする…
「まさに国の現状ですな。搾取も過ぎれば反動がでる」
「クーパー伯、それは国土の拡大もだ」
「あー…」
しまった。アレイスターとクーパー伯は、目を離すとすぐに難しい話を始めるのが玉に瑕だ。そんな時僕はなるべく心を無にして時の流れるのを待つようにしているのだが、どうやら王様の話をしているっぽい。
「王様はそんなに国力を高めてどうするんですか?増えすぎても管理が大変だと思うんですけど」
アイテムの増えすぎたベッド周りはいくら整理整頓を心掛けてもごちゃごちゃしていた。ミニマリスト、それは永遠の憧れ。
「君の言う通りだ」
「人は欲深いものですな」
「やれやれ。極限まで高めていいのは魂のキラメキだけですよ」
別名『萌え』ともいう。
「その煌めきを富みの煌めきと混合する者はシャノン様が思うより多いのですよ」
あー…、いくらクリエイターがピュアな気持ちで作品を作り、オタクが情熱のまま推し活しても、その両者をつなぐ運営元が利益の追求に走るあまり道を誤る、などといったことはよくあることだ。
「そこに愛がないと人は離れていきますけどね」
作品へのリスペクトがない萌えの押しつけは簡単に見破られる。そしてそれこそがファン離れを引き起こす要因となる。これ真理。
「…君とコンラッドはそれに気づき、是正しようとした、そういうことだね」
コンラッド…?ああ。あの時なんか言ってたっけ?よく聞いてなかったけど。是正…?ゲームの修正のこと?
「その通りです」
「ではこの私は愛を以て北部を治めることが出来るだろうか」
うん?北部?
やけに真剣な口調だが、なんかこの間もそんなこと言ってたっけ。その質問は僕にヘクターとの仲をどう思うか…って聞いてるんだろうか?
ならば答えねばなるまい。見たままの正直な感想を。
「えっと…、現状ではお互いの立場があって、その、色々と難しいこともありそうですけど…」
主従だしね。
「でも、きっと互いを尊重し公平な、立場とか関係ない素晴らしい愛がいつか育める、そう思えます。その日が…待ちどおしいです」
この二人は立場的にはアレヘクだけど精神的にヘクアレという、リバ有り有りの大変美味しいBLを見せてくれるに違いない。早く一線超えないかな。おや?
アレイスターの頬が真っ赤じゃないか。空調効き過ぎなんじゃないの?外で涼んできたらいいのに。
「アレイスター暑いですか?良かったら上着脱がせてあげましょうか?」
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