断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

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152 断罪と幸運

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その後プリチャード邸では、敵の目を欺くために警備の騎士が増員された。もちろん親類筋からお借りしての人員である。こんな時に見知らぬ人は雇えないよね…

けどシェイナは僕の心配を余所に蜂蜜が警告ならこれで十分だって言い残していった。

王があれほど神子に執着するのは伝承だからだけじゃなくて、ロアンの呪いを恐れているからじゃないか、って言うのがシェイナの意見だ。現に当時の王は戦場で命を落としているし…

王様にとって神子とは呪いから我が身を救う御守りのようなものなのかもしれない。。
それならコンラッドが神の使いになった今でも、神子の候補だったシェイナとアーロンに王様は保護を命じているはずだって。

ーコンラッドに何かあった時の為に予備は必要でしょー

…シビアな考え方だが、貴族家だって次男を予備とハッキリ言い切るんだからこんなものなのかもしれない。
とにかく、王の不興を買ってまで強引な手には出ないだろう、って。

けどそれは、あくまで僕たちが目立つ動きをしなければ…って話ね。
そんな訳でこうして暫しの平穏の中、僕は転生ラストの夏休みを迎えたのだった。




「シャノン様。今年の夏こそはご一緒しませんこと?わたくしの父が治めるチャムリー侯爵領へ涼みに参られてはいかがかしら」

「ではその足でどうぞハワード領へもお寄りください。父が喜びます」
「そこまで来て我が家にだけはこないなどと…領で待つ兄が泣きましょう」

「う~ん…シェイナも居ない事だし…」

嵐の前の静けさ。プロム前にはもうあまり遊べないかもしれないし…

「皆さんのお言葉に甘えちゃおうかな?」

こうして僕の初友人宅お泊りはチャムリー領から幕を開けた。

チャムリー侯爵領は大きな川と小さな川に挟まれた非常に気候の良い場所にある。涼むにはうってつけの場所だ。場所が場所だけに一つ一つの領はかなり小さめだが、緑と水に恵まれた好立地のため収穫高は多い。
王都からは非常に近いのだが、城郭をぐるりと迂回するため無駄に時間をとられるのだけが玉にキズだ。

同じトライアングルゾーンの中にはハワード伯爵領、クーパー伯爵領がある。つまりあの三人は幼馴染ということだね。

水辺に暮らし川の扱いに慣れているというのでクーパー伯は河川の管理、主に船の事業を受け持っているのだが、河川に関する防災や水門の管理を担っているのがリアム君の父、ハワード伯(カサンドラ様のファンね)だ。
そうそう。チャムリー侯爵は外務大臣だから出張が多い。なのでミーガン嬢のお兄さんは世襲前だがしっかり当主代理として手腕を振るっている。これ取り巻きマメ知識ね。

「チャムリー侯は今もお留守ですか?」
「そうですの。アドリアナ様の命で海洋国ルッソに出向いておりますわ」
「海洋国…、じゃあ多分アレイスター殿下に関わる仕事なんでしょうか?」
「気になりますの?」

「…いいえぇ~?全然ですけどぉ~?」

と、言ったような会話をしながら僕とミーガン嬢は二人で馬車に揺られている。

そして後ろの馬車にはアリソン君とリアム君が、密室で、密着して、二人きりの時間を大いに楽しんでいる。
え?誰が決めたかって?さぁ?なんの話かな?

何故ならば僕はミーガン嬢と二人きりが許される側だからだ。
むしろアリソン君と二人きりの方が許されない。かといって三人で一台に乗り込んだら狭いでしょ?ミーガン嬢だって寂しいし…。だから…これでいいのだ。

窓から爽やかな風を受ける馬車の旅。まずは王都から一番近いチャムリー領に到着した。

チャムリー領はトライアングル地帯の二分の一を拝領する侯爵家だ。
すぐ隣がアリソン君ちのクーパー領で、そこを挟んで一番向こうがハワード領。ミーガン嬢とリアム君の縁談を決めたのはチャムリー候自らだという。僕が思うに…娘と離れたくなかったんだねお父さん。ホンワカ…

「この辺りの川は水位も浅く小石ばかりで危険はほとんどございませんの。男性には釣りや遊泳を楽しまれる方もおりましてよ」

「私とアリソンも興じるつもりでいます。ご一緒にいかがですか」

「僕も泳いで良いんですか?」
「ま!シャノン様、昨年のことをお忘れですの?釣り遊びしかいけませんわ」

スイミングスクール仕込みの華麗なクロールをお見せしたかったのに…うーん残念。

ともあれ、王都でのあれやこれやを忘れゆったり過ごす事チャムリーでの日々。これぞ命の洗濯。そして三日目の朝、僕たちは待ちに待った川遊びへ出発した。

自然のまま温存された下流は河原が広く浅瀬の川との間に段差はあまりない。代わりに河原の向こうは堤防らしきものが作られている。
その堤防にはたくさんのツボ貝やキレイなガラスなんかが埋め込まれていて、まるで小学生の頃作った卒業記念壁画のようだ。

「ではシャノン様、わたくしどもの使用人が日除けを準備するまでお待ちくださいな」

「はーい、ところであれって…」

「ああ。あれはなんと申しましょうか…殻や尖ったガラス片で足を傷つけぬようこの辺りの民は昔から時折川底をさらうのですわ」
「それがいつの間にか子供たちの遊びになり、ああして拾ったものを思い思い土壁へ埋め込むようになったのですよ」

「見て来てもいいですか?」
「ええどうぞ。足元お気をつけあそばせ」

なんとなく郷愁にかられてしまった…。
ツボ貝を並べたお花だったりガラスで描いた鳥だったり、楽しそうな子供の姿が想像ついて微笑ましい。そういえば僕が砕いたタイルで描いたのは右隣の男子…とその親友だったっけ。懐かしい…

その時ふと目に付いたのは土中に埋め込まれた一枚の羽根。それも真っ黒な…、偽物だけど。

「服の飾りかなんかかな?ああ!隣がガラスの鳥だから尾羽にしたのか」

何かと黒に反応するのは僕のお茶目なところだ。

「シャノン様ー!準備が整いましたー!」
「はーい!今行きますー!」

水中に足先を浸けながら叫ぶのはリアム君。彼は少しばかり童心に返っているようだ。
微動だにせず魚がかかるのを待つのはアリソン君。彼は釣り人に向いたタイプだ。
そんな二人を川岸でスケッチするミーガン嬢。きっと子供の頃からこんな風に過ごしていたんだろうな…。その面子に混ざれた自分がちょっと嬉しい。

「アリソン危ない!」
「おっと!…ああいけない、水草に足をとられるところだった。助かったよリアム」

「……」

両腕をまわしてアリソン君の身体を支え転倒を阻止するリアム君。
現在二人は抱き合う形になっている。

推しカプの生抱擁…

これはこの二年精一杯頑張ってきた僕への、神様からの御褒美に違いない。ならラストスパート頑張れよ、の激励も欲しいところだ。

「リアムちょっと!手離し」
「うわあ!」

バッシャーーーン

「……」

結局滑ってアリソン君を巻き添えにして倒れこんだリアム君。現在リアム君は水中でアリソン君に押し倒される体勢になっている。

その時僕は思った。
神はいる…と。





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