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186 断罪から始まる
禁断の庭、僕とシェイナの転機となった大窓の真下にある花壇。現在ここには花でなく常緑樹が植えられており万が一の落下に備えられている。(もうないって…)
樹と樹の間には双子のために二人掛けのブランコが設置してあり、そのブランコに腰掛けながら、僕とアレイスターは二人っきりで話し込んでいた。もちろんカイルと王子の護衛は忍者のように陰から見守っているのだが、そこはノーカンで。
「…ってことで…、ジェロームには正々堂々フラレました。けど僕からジェロームのプロポーズは依然有効です。僕はお父様からの風避けになるつもりですから」
「そうか…」
「それだけ!?」
「それだけ…とは?」
「もっとなんかこう…、ないんですか?」
ナデナデ…とかヨシヨシ…とか!今の僕に必要なのは、もっとダイレクトな慰め…だよ?
「私の進言通りじゃないか。以前そう話しただろう?」
「でも大好きだったんです…」ショボン…
「見ていれば分かる。だが君の彼を見る目は市井の若者がオペラ演者の姿絵を買い求めて相好をくずしているのと大差ない、そう見えた」
…人をゴリゴリのドルオタみたいに…、違うから。僕は二次オタだから。
「君は初めからシェイナ嬢の気持ちを応援していたじゃないか。何が問題なのだい?」
「問題は…ないです。ただジェロームもシェイナを…って言うのは考えてなかったから…あーもう!なんでもないです。幼児に恋愛で先越された…って、ちょっと大人の尊厳が凹んだだけです」
そうとも。僕は気付いていた…。同じ姿かたちでも、中にいる魂が違うだけで見た目の雰囲気が全然違うってことを。
あの日、涙で瞳を潤ませながら必死にウィジャ盤を動かすシェイナの姿は…切なげで儚げで…こう母性本能とか父性本能とか、いろんな感情が呼び起こされて…、基本攻めキャラを推す僕でさえ思わず宗旨替えしそうになったぐらいだ。おかしいな。同じ造作なのに。
「あーあ、あのフェロモンには敵いませんよ…」
「私の好きなのは妹の恋を応援できる強い君だ。それに…」
「…それに何ですか…」
「本当に失いたく無いものなら…例え相手が兄妹でも譲れない、そうじゃないか」
「……」
…そうなのかもしれないな…
「少なくとも私はそうだ」
「ふうん?…あっ」
ポポポポポ…も、もも、もー!だからハズイってば!
---------------------------------
「それより私のあげた指輪は?」
「持ってます。え…ええと…実は今もずっと。ほら…」
彼が首から下げるのは私が送ったグレーサファイヤの指輪だ。
彼がそれを首から下げていることを私は知っていた。あの貯水槽から彼を助け出した時、素肌にピッタリと張り付いたシャツの下に見つけたのは、私が贈った指輪だった。それを知っていて敢えて本人の口から言わせるのだから、私も子供じみた真似をする。
「肌身離さず…か。嬉しいよ」
「バ…っ!そ、そうじゃなくて…失くしちゃいけないし…誰かに見つかってもいけないし…それで…」
第一王子殿下の婚約者、次期王妃候補。その立場を手放してからも、彼はその想いをなかなか口にはしない。
それでも…彼のとる無意識の行動、その一つ一つが私を自惚れさせる。
「ねぇシャノン。トレヴァーにローザ嬢との縁を取り持つ意味はなんだい?」
「なんだい…って、別に何もないですけど…ただ危険を分散させようと…」
「ではアドリアナ様に王座が移るよう誘導したのは?」
「え…、だってそのほうが合理的だし、高貴な王家と言ったらシンボルはむしろ王妃様でしょ…」
「本当にそれだけかい?」
「え…?」
妃と王の決定的な立場の違い。それは政務に関与しない、王家内の取り決めに関する決裁権である。
いくら王を政務から引き離そうと、王が王である限り王家の長であることに変わりはない。故に王家内部のあらゆることが、王の決裁により執り行われる。
妃が王にいくら進言したところで最終決は全て王の手に委ねられる。それ故王妃は先んじて周到に地固めをし、王を己が求める解へと導くのだ。
だからこそアドリアナ様が女王になる、その事実が持つ意味はとても大きい。
聡明なアドリアナ様であればおそらくシャノンの、そして悲劇の元凶ともなった〝政のために選ばれる正妃”、などといった歪な慣習は取りやめてしまわれるだろう。
であれば…、トレヴァーとローザ嬢を引き合わせたことにも意義が生まれるというものだ。
もしトレヴァーとローザ嬢に愛が生まれれば…今のアドリアナ様であればおそらく『神子の欠片を持つシェイナ』に固執せず、二人の気持ちを尊重し縁組をご許可くださるはずだ。
であれば、トレヴァーが入学を果たすのに合わせ、早ければ5年で婚約が実現する。
「いつもながら君の仕掛ける策には深遠な思惑が感じられる。負けてはいられないな」
「は、はぁぁぁ?か、考えすぎですって!偶然、というか何も考えて無かったですよ?」
「ふふ、そうだろうか。ああいや、そういうことにしておこう」
「しておこう…って、むしろビックリですよ!」
お妃教育の賜物だろうか。実にとぼけるのが上手いものだ。そしてとぼけるといえば…、まさしくシェイナ嬢の秘密についてだ。
「それよりシェイナ嬢が君の分身体だったことには私も流石に驚いた…」
「お父様にはナイショですよ。これ…自力で気付いちゃったジェロームしか知らないんですから」
「では君が自ら秘密を明かしたのは私だけなのだね」
「ええまぁ…、やめてくださいその顔…」
私がどんな顔をしていたというのだろうか。そのくせ自分の真っ赤な顔は隠そうともしないのだから質が悪い。
「ああそうそう、ところで君への贈り物だが…」
「あるんですか!? 」
「ルッソの村で手に入れたシッタカブッタとナンダカンダの布教の書だ」
「布教…あー、なんだそういう…」
「原典を読みたい、以前そう言っていただろう?さすがに原典ではないが、これは二人による尊い巡礼行記なのだよ」
「巡礼行記…、はっ!巡礼の!道中記!二人きりの!と、尊いですねそれは!ちょちょ、貸して下さい!んふー!」
おや?シャノンがこれほど喜ぶとは。
シッタカブッタに関心を示すことでルッソの民は総じて態度を軟化させる。故にこれは会話の糸口とするうちに私の使者が偶然手に入れた書なのだが…
本を手に紅潮した頬で無邪気に笑うシャノン…どうやら贈り物を受け取ったのは私だったようだ。
樹と樹の間には双子のために二人掛けのブランコが設置してあり、そのブランコに腰掛けながら、僕とアレイスターは二人っきりで話し込んでいた。もちろんカイルと王子の護衛は忍者のように陰から見守っているのだが、そこはノーカンで。
「…ってことで…、ジェロームには正々堂々フラレました。けど僕からジェロームのプロポーズは依然有効です。僕はお父様からの風避けになるつもりですから」
「そうか…」
「それだけ!?」
「それだけ…とは?」
「もっとなんかこう…、ないんですか?」
ナデナデ…とかヨシヨシ…とか!今の僕に必要なのは、もっとダイレクトな慰め…だよ?
「私の進言通りじゃないか。以前そう話しただろう?」
「でも大好きだったんです…」ショボン…
「見ていれば分かる。だが君の彼を見る目は市井の若者がオペラ演者の姿絵を買い求めて相好をくずしているのと大差ない、そう見えた」
…人をゴリゴリのドルオタみたいに…、違うから。僕は二次オタだから。
「君は初めからシェイナ嬢の気持ちを応援していたじゃないか。何が問題なのだい?」
「問題は…ないです。ただジェロームもシェイナを…って言うのは考えてなかったから…あーもう!なんでもないです。幼児に恋愛で先越された…って、ちょっと大人の尊厳が凹んだだけです」
そうとも。僕は気付いていた…。同じ姿かたちでも、中にいる魂が違うだけで見た目の雰囲気が全然違うってことを。
あの日、涙で瞳を潤ませながら必死にウィジャ盤を動かすシェイナの姿は…切なげで儚げで…こう母性本能とか父性本能とか、いろんな感情が呼び起こされて…、基本攻めキャラを推す僕でさえ思わず宗旨替えしそうになったぐらいだ。おかしいな。同じ造作なのに。
「あーあ、あのフェロモンには敵いませんよ…」
「私の好きなのは妹の恋を応援できる強い君だ。それに…」
「…それに何ですか…」
「本当に失いたく無いものなら…例え相手が兄妹でも譲れない、そうじゃないか」
「……」
…そうなのかもしれないな…
「少なくとも私はそうだ」
「ふうん?…あっ」
ポポポポポ…も、もも、もー!だからハズイってば!
---------------------------------
「それより私のあげた指輪は?」
「持ってます。え…ええと…実は今もずっと。ほら…」
彼が首から下げるのは私が送ったグレーサファイヤの指輪だ。
彼がそれを首から下げていることを私は知っていた。あの貯水槽から彼を助け出した時、素肌にピッタリと張り付いたシャツの下に見つけたのは、私が贈った指輪だった。それを知っていて敢えて本人の口から言わせるのだから、私も子供じみた真似をする。
「肌身離さず…か。嬉しいよ」
「バ…っ!そ、そうじゃなくて…失くしちゃいけないし…誰かに見つかってもいけないし…それで…」
第一王子殿下の婚約者、次期王妃候補。その立場を手放してからも、彼はその想いをなかなか口にはしない。
それでも…彼のとる無意識の行動、その一つ一つが私を自惚れさせる。
「ねぇシャノン。トレヴァーにローザ嬢との縁を取り持つ意味はなんだい?」
「なんだい…って、別に何もないですけど…ただ危険を分散させようと…」
「ではアドリアナ様に王座が移るよう誘導したのは?」
「え…、だってそのほうが合理的だし、高貴な王家と言ったらシンボルはむしろ王妃様でしょ…」
「本当にそれだけかい?」
「え…?」
妃と王の決定的な立場の違い。それは政務に関与しない、王家内の取り決めに関する決裁権である。
いくら王を政務から引き離そうと、王が王である限り王家の長であることに変わりはない。故に王家内部のあらゆることが、王の決裁により執り行われる。
妃が王にいくら進言したところで最終決は全て王の手に委ねられる。それ故王妃は先んじて周到に地固めをし、王を己が求める解へと導くのだ。
だからこそアドリアナ様が女王になる、その事実が持つ意味はとても大きい。
聡明なアドリアナ様であればおそらくシャノンの、そして悲劇の元凶ともなった〝政のために選ばれる正妃”、などといった歪な慣習は取りやめてしまわれるだろう。
であれば…、トレヴァーとローザ嬢を引き合わせたことにも意義が生まれるというものだ。
もしトレヴァーとローザ嬢に愛が生まれれば…今のアドリアナ様であればおそらく『神子の欠片を持つシェイナ』に固執せず、二人の気持ちを尊重し縁組をご許可くださるはずだ。
であれば、トレヴァーが入学を果たすのに合わせ、早ければ5年で婚約が実現する。
「いつもながら君の仕掛ける策には深遠な思惑が感じられる。負けてはいられないな」
「は、はぁぁぁ?か、考えすぎですって!偶然、というか何も考えて無かったですよ?」
「ふふ、そうだろうか。ああいや、そういうことにしておこう」
「しておこう…って、むしろビックリですよ!」
お妃教育の賜物だろうか。実にとぼけるのが上手いものだ。そしてとぼけるといえば…、まさしくシェイナ嬢の秘密についてだ。
「それよりシェイナ嬢が君の分身体だったことには私も流石に驚いた…」
「お父様にはナイショですよ。これ…自力で気付いちゃったジェロームしか知らないんですから」
「では君が自ら秘密を明かしたのは私だけなのだね」
「ええまぁ…、やめてくださいその顔…」
私がどんな顔をしていたというのだろうか。そのくせ自分の真っ赤な顔は隠そうともしないのだから質が悪い。
「ああそうそう、ところで君への贈り物だが…」
「あるんですか!? 」
「ルッソの村で手に入れたシッタカブッタとナンダカンダの布教の書だ」
「布教…あー、なんだそういう…」
「原典を読みたい、以前そう言っていただろう?さすがに原典ではないが、これは二人による尊い巡礼行記なのだよ」
「巡礼行記…、はっ!巡礼の!道中記!二人きりの!と、尊いですねそれは!ちょちょ、貸して下さい!んふー!」
おや?シャノンがこれほど喜ぶとは。
シッタカブッタに関心を示すことでルッソの民は総じて態度を軟化させる。故にこれは会話の糸口とするうちに私の使者が偶然手に入れた書なのだが…
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※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。