断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
292 / 310

209 断罪の果てに 北部 ④

「良かった持ってて」
「それは…自分で縫ったのかい?」
「そう。わりと上手でしょ?」

ハウスの裏口に用意されていたのは脱出用の一頭の馬。いやー、マジビビったわ。これこそサプライズスターの真骨頂!共犯は修道院長だってさ。

そんな訳で僕とアレイスターは馬に乗って本当の二人きりになるべく馬を走らせたのだが…、実はプロムの夜、馬で屋敷まで送ってもらった僕は案の定その後クシャミが止まらなかった。そこで…と言う訳でもないけど、キルトを教えてもらった時に作成しておいたのだよ。何をって?お手製のマスクをね。

キルトは布地と布地の間に綿を挟む。三層構造の分厚いマスクはアレルギー対策にうってつけだ。…ちょっと暑苦しいのと息苦しいのが難だけど…でも緊急時にはそれくらい仕方ない。
因みにお父様にあげたコースターは、その時の失敗さ…副産物だ。

「風邪の予防にもいいですよ。アレイスターのも今度作ってあげますね。冬用に」
「ふむ…。領内に広めるのもいいかもしれない。防寒にもなりそうだ」

こうして何故かシャノンマスクが北部のお土産として定着していったのはちょっとしたオマケの話。

「アレイスター、この広場は?」

到着したのはだだっ広い広場。その広場を起点に左右へ道が延びている。

「ここが副王都の中心地になる。いいかい、ルッソから延びる街道とエンブリーから延びる街道、その二つがここで交わり、ここは交易の要となりどこよりも栄える予定だ。そしてね、ここの名は王都の下町に倣って『セントシャノン広場』という」

「えっ?じ、じゃあ!」
「そうだ。ここは君のための広場だ。ここにはいくつもの屋台を並べよう。好きなだけ買い物を楽しむがいい」
「わぁ!アレイスター大好き!もしかして海の幸なんかも…?」
「乾物の屋台だが」

ぱぁぁぁぁ

「ふふ、楽しみかい?」
「すっごく!」

買い物好きのセレブ…みたいなイメージを持たれているのは些か不本意だがこれは…素直に嬉しい!

「まったく君という人は…プリチャード家に生まれながらどうしてこれほど質素なのだろうね。乾物の屋台ごときでこれほど喜ぶとは…」
「……」

質素…だと?…いつも爆買いしてるでしょうが!大人買いとか!このうえなく豪勢でしょうが!どこに目ぇつけてんの!

…ちょっと興奮してしまった(脳内で)…おやあれは?

「ねえアレイスター、あそこに人だかりが。見に行こう!」
「ああシャノン、あれは炭酸泉だ」
「炭酸泉?」

そこにあるのは石で囲った小さな水溜。サイズで言ったら子供用ビニールプールくらいの。そこには一本のパイプが立てられ、パイプからは水が流れている。

アレイスターが言うには、この北部にはところどころ炭酸水の湧く泉があるらしい。
その炭酸泉には、血行を良くしたり胃腸の調子を整える、といった付加効果があるらしく、みんな薬代わりに泉の水を汲みに来るのだとか。

「私もここへ来てから知ったのだけれどね」
「じゃあ他にもあるの?」
「最北にある国境山脈のふもとには何か所もある。私が見たのはここよりも大きな泉だ。あたたかい炭酸泉が噴き出ていたよ」

大きな泉…炭酸の…あたたかい…それってつまり…温泉?

小さな湯舟で一人ずつ入浴する習慣のルテティアでは、湧き出る炭酸泉を発見しても、大勢で裸の付き合い、的な発想にはそもそもならなかったのだろう。だが僕は前世日本人だ。

免疫に難を抱えた入院直前の僕は、その時すでにありとあらゆるアレルギーを発症していた。かきむしった真っ赤な肌を見て、両親は休みのたびに温泉や温泉っぽい施設に連れて行ってくれた。何が言いたいかというと…

僕は温泉が大好きだと言うこと!

「…行ってみたいな…」チラ
「流石に今日は無理だ」
「ねぇアレイスター…」チラ
「いやしかし…」
「……」チラ

「ふー、ではあそこに連れていこう」
「あそこ?」
「一度訪れたかった場所だ。そこにも泉があると聞いている」

いやっふぅ!

ぽっくりぽっくり一時間、休憩しながら六キロくらい進んだかな?到着したのは学校のビオトープみたいな場所。
大中小の雑草に隠れながら、そこには小さな泉があった。いや泉には違いないけど…これじゃ入れない…ガックシ…

「ところでここは?」
「幼い頃母から聞いた場所だ、一度来てみたかったのだよ」
「ヘイザール様に?」
「生家なのだといっていたが…」
「でも何もありませんよ?」
「朽ちてしまったのだろう…」
「ホントだ。ボロボロの古木が落ちてる…」

十になるかならないかで両親を亡くしたヘイザール様は、生きるために自ら女子修道院へ入ったのだとか。そして数年後、一人でも生きていける年齢になると自由を求め還俗してたった一人で王都を目指したのだ。

うーん…、王城でも薄々気が付いていたけど…、その逞しい生き方にはどことなく似たスピリッツを感じる…

「シャノン、君はどことなく母に似ている」
「…そうですか?」

わお、いきなりのマザコン宣言。えー…勘弁してよ。マザコンはコンラッドだけで十分なんだけど…

「苦難であろうが幸福であろうが、母も君も自分が自分であることを決して見失わない。シャノン、君は恥じらい深く時に思慮深く、ルテティア貴族の品位を体現したような人だ。だが私の前では時に大胆でそしてひどく我儘で…私はそれが嬉しくて仕方がない」

前半部分は誰の話か分からなかったが…それはさておき今度はドM宣言?大丈夫?

「私を奮い立たせる銀の光、それが君だ。生涯離さない。覚悟はいいね」

真っ直ぐに僕を見つめるアレイスターの瞳に思わず居住まいを正す。
アレイスターのほんのり緑がかったグレーの瞳には僕だけが映ってて…この瞳を独り占めするのはなんだかとても気分が良いように思えた。
だって…
『白銀』の固定カプとか関係ない。ここはゲームの世界だけど、そこに生きる僕はいつだって僕でしか無くて。
アレイスターの中に居るシャノンは出会った一番最初から、シャノンじゃなくていつでもただの僕だったから。

だから…

「そんなこと言っちゃっていいの?僕はけっこうしつこいよ?」
「そう願いたい」

時刻は日暮れ。西の空では夕日が傾き、僕とアレイスターの影はどこまでも伸びる。
ゆっくり近づき重なり合った、一つの長い影が…



で終わると思うじゃん?
甘いね。甘すぎるよ。…想像が。


すっかり暗くなった頃のんきに屋敷へ戻った僕とアレイスターが、阿修羅みたいになったヘクターにどれ程叱られたか…

アレイスターは慣れっこみたいだったけど僕は若干ビビり倒して…、…それからしばらくの間、僕がヘクターにヘコヘコしまくったのは言うまでもない…






感想 873

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(9/10受賞作発売中!)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!