イケメン大好きドルオタは異世界でも推し活する

新生活順応編

前向きな解決策

「ど、どうされました旦那様！」

大きな音を立てて閉められた扉の前に呆然と立ち尽くす私にトマスが駆け寄ってくる。

「まさかあれほど言いましたのに無体な真似を？」
「いや、そうではない…そうではないのだトマス。もっと悪い…」


トマスを伴い書斎へ向かうと私はたった今起きた出来事を寸分のもれなく話して聞かせた。



「うかつでございましたね旦那様。殿下の後継に代わりに子を連れてくるなどと元老院以外の貴族たちに知られるわけにはいきますまい。当然陛下はそのあたりの事はうまくごまかしておいででしょう」

「考えてみればまったくその通りだトマスよ、だがしかしまさかあれほどアデルが取り乱すとは…貴族家に生まれたからには子を他家に出したり、養子をもらったりなど当たり前として育っておると思ったが…」

「養子とはまた事情が違いますし、また伝わり方の問題もございますでしょう。きちんとした手順を踏まえて自らそうされるのと、何も知らされずいきなり既定として聞くのとでは受ける印象も違います。旦那様には少々人の心の機微というものへの配慮が必要でございますな」

「返す言葉がみつからぬよ…そうだ、思えば私は、誰かの心を慮るということをしたことがない…する必要を感じたことさえなかった…」

「人からむけられる悪意を当たり前と思っておられましたからね。他人が抱く感情を歯牙にもかけておりませんでしたな」

「だが、私の言葉がアデルを悲しませた………自分が許せそうにないっ…くそっ！」

どうすればいいのかわからぬ。今さら出来ぬといったところで別の誰かをあてがわれるか、叛意ありとして粛清の対象とされるか…。いずれにしてもろくなことにはなるまい。





なんの結論もだせぬまま朝をむかえた私はトマスに寝室の様子を見に行かせた。
アデルは昨夜眠っただろうか。泣いてはいないだろうか。悲しみにくれてはいまいか。



ガチャリ…

静かに書斎の扉が開く。トマスではない、この開け方は…
トマスに付き添われ、幾分落ち着いたアデルが私の前に進み出る。


「グラナダ様、昨日はごめんなさい。ちゃんと話も聞かないで…その…僕…ちゃんと赤ちゃん作ります。」
「アデル！そのような！。無理をするな」

「うぅん、ちゃんと一晩中考えて…自分で決めました。」
「アデル様…大丈夫でございますか？こちらにお掛けを」

トマスが椅子を勧めるがアデルは座らない。

「だって、だって、そうしないと別の人がお嫁さんになっちゃう…ぅぅ…そんなの嫌だ……」
「アデル…」

「だってこれは人助けなんだって思って。皇太子さま…みんなに噂されて針のむしろなんでしょ？…跡継ぎ、んと、次の王位継承者がいないときっとみんなに責められる。そうでしょ？だから、だから…それなら…」
「アデルッ！もうよい」

悲しみをこらえ無理やり笑顔をつくるアデルが愛おしくて愛おしくてたまらない。


「僕が何とかして、魔法で赤ちゃんつくれるようにします‼」




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「アデル…それはつまり…どういうことだ？」

グラナダ様がきょとん顔で僕に向き合う。何それかわいい。

「殿下にちゃんと跡継ぎが出来ればいいんでしょう？」
「そ、それは…、いや、だが、兄ドノヴァンの要望はどうする？」

「問題は殿下に子が出来ないことで、それさえ解決できれば無理やり他人グラナダ様の子を後継にしなくちゃいけない理由がないと思うんだけど」
「それはそうだが…」

「王様の話は、どうせならって言う話でしょ？なんで最優先事項みたいになってるの？おかしくない？それ、おかしいよ」
「っ！…だが兄は…私の力をあきらめはすまい…」

グラナダ様がここまで言うんだから、きっと王様は相当な我儘なんだろう…むむ…めんどくさいがスルーは出来そうにない…


「赤ちゃんのことは僕がちゃんと考えるから王様の事は2人で考えよう？ねっ、一緒に考えたらきっと大丈夫だよ」
「皆で、でございますよアデル様。私も微力ながら共に模索いたしましょう」

そうか…そうだよ。大勢で考えたほうが良いに決まってる。僕はよく友達から〝思考が斜め上”って言われてたけど、それでもみんなでワイワイしてると思いもよらないアイデア閃いたりするよね。

「トマスさん…あ、ありがとう…グラナダ様、一緒に、一緒に考えるって言って！僕二人の赤ちゃん誰にも渡したくない！」

「わかった、アデル。お前がこれほどの覚悟を決めてくれたのだ、私もこの先起こるであろう波乱から決して逃げはせぬ。一筋縄ではいかぬであろうが…そばにいてくれるか？」

僕は返事の代わりに力いっぱいグラナダ様を抱きしめた。
そうだ、それよりも、大事な事を伝えておかないと…


「あの、グラナダ様。このことが片付くまで、僕、じゅ、じゅ、じゅせいこうい、しませんからね。」


あっ、グラナダ様が崩れ落ちた…