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決断の時編
お母様は見た ①
わたくしはこの緑豊かなカマーフィールドの伯爵夫人、デラと申します。
旦那様の名はヨシュア。朴訥で勤勉な、領民思いのとても誠実なわたくしの愛するお方です。
カマーフィールドは領民も少ない小さな領ながら、家系には代々高い魔力をもつ人材が生まれております。
おかげと言ってはなんですが、宮廷では大変に重宝され、時に報奨を賜ることもありました。
ですが、たいていの場合その報奨は名誉的な物であり実利はございませんでした。
気がつけば賜った位はいつの間にか伯爵位となり、領地の規模に似合わぬ、高すぎる爵位をなんとか維持しておりました次第です。
そのうえ陛下のご意向により、伯爵位如きにはもったいなくも、山側とはいえ王都にほど近い場所に領地を頂き……
おかげで昔も今も王都から体よく使われると言う、なんとも歯がゆい思いをわたくしは日々噛みしめておりました。
領の規模と伯爵位、釣り合いのとれぬ税を課せられ、長年我が家は貧困にあえいで参りました。
それでも領民に重税は課さぬと言う旦那様をわたくしは誇りに思っておりますよ。ええ本当ですとも。
ですが我が子に貴族として満足な生活を与えてやれぬことに忸怩たる思いも、…もちろんありました。
我が家の3人の息子たちは皆、旦那様に似て一様に優しく愛情深く育っております。
末の息子アデルは見た者すべてが妖精と称えるほど可憐な容姿を持っております。
訳あって内向的に育ちましたが、その心根はとても優しく、そしてまぁ、婚姻を機にお転婆にはなりましたが、やはり慈愛に満ちた性質をもっております。
次男のワイアットはこれもまた穏やかな美しい顔立ちをしております。見た目に違わず穏やかで優しい気性ですが、実は兄弟の中で一番負けず嫌いなのがこのワイアットです。
こうと決めたらどんな無茶をしてでも決して自分を曲げない、そんなところが心配ではあるのですが、聡いこの子は何事もそつなくやるでしょう。
そう、王妃としての立場でさえも。
そして…問題はよりにもよって長男のトールキンです。
…まったくあの子は…このカマーフィールドの嫡男としての自覚があるのかないのか…
後継問題を考えると頭が痛むわね…
容姿は旦那様に似て背が高く顔立ちも涼やかに整った美青年だと思うのだけれど、こほん…
中身といったらこれがまた実に野暮で無粋な男になってしまったわ。
実直で真面目なのは良い事だけれど、浮いた話一つないのでは先行き不安というもの。
辛うじて貴族学校へは行かせたものの、節約のため1年でも早く卒業を!と勉強に明け暮れ飛び級で修了し、その後はさっさと田舎に引きこもり遊びも知らず、満足に社交もしないでここまで来てしまったトールキン。
…あぁ…どこで間違えたのか。
まぁ、トールキンの気持ちもわからないではないのよ。
社交界では田舎貴族、貧乏貴族と馬鹿にされ続け、いくつか申し込んだ縁談もなんだかんだと理由をつけて断られるのが常。
そうたとえ下位貴族であってもよ。
王都に屋敷を構えるならば…とか、領地を次男に譲り官吏に就くなら…とか条件を連ねてね。
この貧しいカマーフィールドで共に暮らすことを望む者は誰も居ない。
けれどあの子はこの美しい自然に囲まれたカマーフィールドの地を愛しているのですもの。
だからといっていつまでも悠長なことは言っていられないわ。
子を生す可能性のあったワイアットが王妃となってしまった以上、もうトールキンには自力でなんとかしてもらうしかないのですもの。
そうでなければアデルと辺境伯様に無茶なお願いをしなければいけなくなるわ。
そんな思いを抱えながら過ごしていたある日の事。
わたくしはトールキンの自室にいるローランを見かけたの。
ローランは先の王位の乱で、このカマーフィールドで役人の不正を暴くため辺境伯様がお貸しくださった討伐隊員の一人。
まだ二十二と歳も若く、「俺はまだまだひよっこですから」って朗らかに笑う気立てのいい青年よ。
良く気も利いて働き者で、なによりこのカマーフィールドを好きだと言ってくれる可愛い子。
自分の息子たちとは違う素朴な愛嬌に、ついつい構ってしまうのはご仕方ない事でしょう?
そんなローランがここで何を…?
トールキンの上着をブラシで掃い丁寧にクローゼットへ仕舞っていくローラン。
それだけならなんてことのない光景なのだけれど…
うっとりと、そう、うっとりとトールキンのジャケットに顔をうずめるローラン。
なんてこと!ローランはトールキンに恋慕の念を抱いていたの?
まぁ!まぁ!どうしましょう!
旦那様の名はヨシュア。朴訥で勤勉な、領民思いのとても誠実なわたくしの愛するお方です。
カマーフィールドは領民も少ない小さな領ながら、家系には代々高い魔力をもつ人材が生まれております。
おかげと言ってはなんですが、宮廷では大変に重宝され、時に報奨を賜ることもありました。
ですが、たいていの場合その報奨は名誉的な物であり実利はございませんでした。
気がつけば賜った位はいつの間にか伯爵位となり、領地の規模に似合わぬ、高すぎる爵位をなんとか維持しておりました次第です。
そのうえ陛下のご意向により、伯爵位如きにはもったいなくも、山側とはいえ王都にほど近い場所に領地を頂き……
おかげで昔も今も王都から体よく使われると言う、なんとも歯がゆい思いをわたくしは日々噛みしめておりました。
領の規模と伯爵位、釣り合いのとれぬ税を課せられ、長年我が家は貧困にあえいで参りました。
それでも領民に重税は課さぬと言う旦那様をわたくしは誇りに思っておりますよ。ええ本当ですとも。
ですが我が子に貴族として満足な生活を与えてやれぬことに忸怩たる思いも、…もちろんありました。
我が家の3人の息子たちは皆、旦那様に似て一様に優しく愛情深く育っております。
末の息子アデルは見た者すべてが妖精と称えるほど可憐な容姿を持っております。
訳あって内向的に育ちましたが、その心根はとても優しく、そしてまぁ、婚姻を機にお転婆にはなりましたが、やはり慈愛に満ちた性質をもっております。
次男のワイアットはこれもまた穏やかな美しい顔立ちをしております。見た目に違わず穏やかで優しい気性ですが、実は兄弟の中で一番負けず嫌いなのがこのワイアットです。
こうと決めたらどんな無茶をしてでも決して自分を曲げない、そんなところが心配ではあるのですが、聡いこの子は何事もそつなくやるでしょう。
そう、王妃としての立場でさえも。
そして…問題はよりにもよって長男のトールキンです。
…まったくあの子は…このカマーフィールドの嫡男としての自覚があるのかないのか…
後継問題を考えると頭が痛むわね…
容姿は旦那様に似て背が高く顔立ちも涼やかに整った美青年だと思うのだけれど、こほん…
中身といったらこれがまた実に野暮で無粋な男になってしまったわ。
実直で真面目なのは良い事だけれど、浮いた話一つないのでは先行き不安というもの。
辛うじて貴族学校へは行かせたものの、節約のため1年でも早く卒業を!と勉強に明け暮れ飛び級で修了し、その後はさっさと田舎に引きこもり遊びも知らず、満足に社交もしないでここまで来てしまったトールキン。
…あぁ…どこで間違えたのか。
まぁ、トールキンの気持ちもわからないではないのよ。
社交界では田舎貴族、貧乏貴族と馬鹿にされ続け、いくつか申し込んだ縁談もなんだかんだと理由をつけて断られるのが常。
そうたとえ下位貴族であってもよ。
王都に屋敷を構えるならば…とか、領地を次男に譲り官吏に就くなら…とか条件を連ねてね。
この貧しいカマーフィールドで共に暮らすことを望む者は誰も居ない。
けれどあの子はこの美しい自然に囲まれたカマーフィールドの地を愛しているのですもの。
だからといっていつまでも悠長なことは言っていられないわ。
子を生す可能性のあったワイアットが王妃となってしまった以上、もうトールキンには自力でなんとかしてもらうしかないのですもの。
そうでなければアデルと辺境伯様に無茶なお願いをしなければいけなくなるわ。
そんな思いを抱えながら過ごしていたある日の事。
わたくしはトールキンの自室にいるローランを見かけたの。
ローランは先の王位の乱で、このカマーフィールドで役人の不正を暴くため辺境伯様がお貸しくださった討伐隊員の一人。
まだ二十二と歳も若く、「俺はまだまだひよっこですから」って朗らかに笑う気立てのいい青年よ。
良く気も利いて働き者で、なによりこのカマーフィールドを好きだと言ってくれる可愛い子。
自分の息子たちとは違う素朴な愛嬌に、ついつい構ってしまうのはご仕方ない事でしょう?
そんなローランがここで何を…?
トールキンの上着をブラシで掃い丁寧にクローゼットへ仕舞っていくローラン。
それだけならなんてことのない光景なのだけれど…
うっとりと、そう、うっとりとトールキンのジャケットに顔をうずめるローラン。
なんてこと!ローランはトールキンに恋慕の念を抱いていたの?
まぁ!まぁ!どうしましょう!
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