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アスタリア国の事情
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「ルイージ!ルイージはどこだ!王弟妃殿下に託されたのだ!何があろうとあの子だけは護らねば!」
「フラヴィオ殿下!こちらへ!お早く!」
多くの血の流れる争いの中、今まさに私は運命に突き動かされようとしていた…
私は南西にある小国アスタリアの王家に第六王位継承者として生まれし者、名をフラヴィオと言う。
この世界は果てしなく広大な三つの大陸から成されており、その最も大きな大陸の中に私の国は在る。
私の住むこのアスタリアは国土の四方をいくつもの山々に囲まれた小さな国だ。大国を真似た貴族社会を有しているが、文化文明の発展は大国の足元にも及ばない。
使い勝手の悪い国土と大軍での山越え、大した旨味もないと判断されたのだろう。幸か不幸か他国からさほどの関心をもたれぬまま、山々と言う天然要塞の中で、我が国は平和に胡坐をかいて暮らしていた。
そうしてこの国は過去から現在に至るまで、これといった他国の脅威も知らず、愚かな内紛を何度となく続けていたのだ。
王位を巡り繰り返される醜い争い。
その中において継承順位六位である私の立場はそんな争いとは無縁だとばかり思っていた。
アスタリア国の王位は直系男子を筆頭に継承順位が明確に決められている。
現王
↓
①長男
↓
②その息子
↓
③二男
↓
④その息子
↓
⑤王弟
↓
⑥その息子
といった具合だ。
今代の王は三人の王子に恵まれている。
第一王子ファブリチオ、第二王子カッシオ、二人は成人と共に妃を迎えており、その腕には直系男子となる幼い王子をそれぞれに抱いている。
そして…第三王子となるのがこの私だ。だが私の母は王が外遊中の戯れに手を付け孕ませた、取るに足りぬ男爵家の娘。正式に後宮へ迎えられこそしたが側妃である母の地位は低く、王の子でありながら私の継承順位も準じて低い。
昨年不慮の事故により王弟殿下が亡くなられたことで、王弟の嫡子であるルイージ王子の継承順位は五位に上がった。それにより私の順位も繰り上がり六位というのが今の私だ。
その事実に何の不満もない。争いごとに巻き込まれるのは本意ではない。むしろ胸をなでおろしてさえ居た。
私は臣下として王陛下、そして王太子殿下を支え、この国の安寧に尽力出来ればそれでいい、自然とそう考えていた。
だが問題は第一王子と第二王子の王位継承順位。
何故なら…第一王子ファブリチオは産後の肥立ちが悪く命を落とした前王妃の子であり、第二王子カッシオは後添えに入られた現王妃の子。
二人は厳密に長男二男と言うわけではないのだ。
そのお立場に違いはない。そのため二人は物心ついた時より取り巻く周囲を含め常に競いあっていた。
学業…剣技…馬術…どちらかが妃を娶ればもう一方も妃を迎え、片方が子を生せばもう片方も子を生す。
その状況にそれぞれを支持する貴族たちの反目も日増しに激化し、ピリピリとした空気が国中を包む中、よりにもよって現王が重い病に倒れてしまったのだ。
「せめて王がどちらを立太子させるかお早く明言なさってくださればこのようなことには…」
「宣言を後回しにされたのは父の失態。だが今更言っても詮無いことだ」
私の身の回りを世話するロデオ。彼は母の生家である男爵家に縁を持つ忠誠心篤き年かさの男である。
父は王太子を第一王子ファブリチオにと、内心そう望まれていた。だが現王妃ミランダ様が「我が息子カッシオを蔑ろになさるか!」とお怒りになるためそれを明言するのを避けておられた。
二年後に行われる在位三十周年を祝う式典の場にて王太子の選定をなされるはずだったのだが、この状況ではそれもどうなるか…
王家の先行きを案じる日々。
ファブリチオ派、カッシオ派、それぞれに思惑を抱え、今まさにその緊張が限界になろうという頃、ついに父である現王が最期の言葉すら発せぬまま逝去なされた…
「フラヴィオ様、王座をかけ王家が二つに割れますぞ!この流れはもはや止められますまい」
「私はどちらにつくことも出来ぬ!長兄ファブリチオは真面目な男だがあのままでは厳格すぎて圧政を敷きかねない。そして次兄カッシオは人好きこそすれど、どこか狡猾で冷酷だ。ああ…せめて人格者であられた王弟マリオ様がご存命であられたら…」
「それこそ今更でございましょう。中には王の死をカッシオ派による陰謀と見る向きもある…。フラヴィオ様、どうか今はご自分の身をご案じ下さい」
そうだ。私自身ももはや…嫌が応と渦中の中心に立つ一人なのだから…
「フラヴィオ殿下!こちらへ!お早く!」
多くの血の流れる争いの中、今まさに私は運命に突き動かされようとしていた…
私は南西にある小国アスタリアの王家に第六王位継承者として生まれし者、名をフラヴィオと言う。
この世界は果てしなく広大な三つの大陸から成されており、その最も大きな大陸の中に私の国は在る。
私の住むこのアスタリアは国土の四方をいくつもの山々に囲まれた小さな国だ。大国を真似た貴族社会を有しているが、文化文明の発展は大国の足元にも及ばない。
使い勝手の悪い国土と大軍での山越え、大した旨味もないと判断されたのだろう。幸か不幸か他国からさほどの関心をもたれぬまま、山々と言う天然要塞の中で、我が国は平和に胡坐をかいて暮らしていた。
そうしてこの国は過去から現在に至るまで、これといった他国の脅威も知らず、愚かな内紛を何度となく続けていたのだ。
王位を巡り繰り返される醜い争い。
その中において継承順位六位である私の立場はそんな争いとは無縁だとばかり思っていた。
アスタリア国の王位は直系男子を筆頭に継承順位が明確に決められている。
現王
↓
①長男
↓
②その息子
↓
③二男
↓
④その息子
↓
⑤王弟
↓
⑥その息子
といった具合だ。
今代の王は三人の王子に恵まれている。
第一王子ファブリチオ、第二王子カッシオ、二人は成人と共に妃を迎えており、その腕には直系男子となる幼い王子をそれぞれに抱いている。
そして…第三王子となるのがこの私だ。だが私の母は王が外遊中の戯れに手を付け孕ませた、取るに足りぬ男爵家の娘。正式に後宮へ迎えられこそしたが側妃である母の地位は低く、王の子でありながら私の継承順位も準じて低い。
昨年不慮の事故により王弟殿下が亡くなられたことで、王弟の嫡子であるルイージ王子の継承順位は五位に上がった。それにより私の順位も繰り上がり六位というのが今の私だ。
その事実に何の不満もない。争いごとに巻き込まれるのは本意ではない。むしろ胸をなでおろしてさえ居た。
私は臣下として王陛下、そして王太子殿下を支え、この国の安寧に尽力出来ればそれでいい、自然とそう考えていた。
だが問題は第一王子と第二王子の王位継承順位。
何故なら…第一王子ファブリチオは産後の肥立ちが悪く命を落とした前王妃の子であり、第二王子カッシオは後添えに入られた現王妃の子。
二人は厳密に長男二男と言うわけではないのだ。
そのお立場に違いはない。そのため二人は物心ついた時より取り巻く周囲を含め常に競いあっていた。
学業…剣技…馬術…どちらかが妃を娶ればもう一方も妃を迎え、片方が子を生せばもう片方も子を生す。
その状況にそれぞれを支持する貴族たちの反目も日増しに激化し、ピリピリとした空気が国中を包む中、よりにもよって現王が重い病に倒れてしまったのだ。
「せめて王がどちらを立太子させるかお早く明言なさってくださればこのようなことには…」
「宣言を後回しにされたのは父の失態。だが今更言っても詮無いことだ」
私の身の回りを世話するロデオ。彼は母の生家である男爵家に縁を持つ忠誠心篤き年かさの男である。
父は王太子を第一王子ファブリチオにと、内心そう望まれていた。だが現王妃ミランダ様が「我が息子カッシオを蔑ろになさるか!」とお怒りになるためそれを明言するのを避けておられた。
二年後に行われる在位三十周年を祝う式典の場にて王太子の選定をなされるはずだったのだが、この状況ではそれもどうなるか…
王家の先行きを案じる日々。
ファブリチオ派、カッシオ派、それぞれに思惑を抱え、今まさにその緊張が限界になろうという頃、ついに父である現王が最期の言葉すら発せぬまま逝去なされた…
「フラヴィオ様、王座をかけ王家が二つに割れますぞ!この流れはもはや止められますまい」
「私はどちらにつくことも出来ぬ!長兄ファブリチオは真面目な男だがあのままでは厳格すぎて圧政を敷きかねない。そして次兄カッシオは人好きこそすれど、どこか狡猾で冷酷だ。ああ…せめて人格者であられた王弟マリオ様がご存命であられたら…」
「それこそ今更でございましょう。中には王の死をカッシオ派による陰謀と見る向きもある…。フラヴィオ様、どうか今はご自分の身をご案じ下さい」
そうだ。私自身ももはや…嫌が応と渦中の中心に立つ一人なのだから…
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